【コミカライズ配信中!】 婚約破棄後の悪役令嬢~ショックで前世の記憶を思い出したのでハッピーエンド目指します!~

弓削鈴音

38話:それぞれの夜

「……珍しいな、お前達二人で私を訪ねるとは」

 ウィンドール王国、王都の中心に座する王城の奥。
 白と銀で統一された、どこか荘厳な雰囲気のある私室を訪ねた二人の王子に、父である国王ハーマイルは、愛用の肘掛け椅子に体を預けたまま声をかけた。

「用件はなんだ。ユークライ、ラインハルト」

「こんばんは、父上。昨日の俺が主催した夜会についてです。どうして会場全体を危険に晒すようなご判断を?事前に我々に伝えて下さらなかったのはなぜです?」

 挨拶も早々に問いかけるユークライに、ハーマイルは自分が座るのと対面の椅子を指差す。

「長くなる。ひとまず座れ」

「……では、失礼します」

「……」

 並んで二人が腰掛けたところで、ハーマイルが口を開く。

「今回の相手は、苛烈でこそあれ慎重だ。あの場で何らかの証拠を掴むためには、彼らの警戒心を上げるわけにはいかなかった」

「……やはり、襲撃が起きることは予想してらっしゃったんですね」

「あぁ。だから、レーミル・リズヴェルトを使った。標的とされるであろう人物の中で最も自衛能力の低いアマリリス・クリストの警護をやらせた。ティアーラには、常にラインハルトかヴィンセント・クリストの近くにいるように伝えた。お前達は……」

 ハーマイルは一度言葉を切って、鋭い眼光を息子達に向ける。

「あの程度の刺客に屈するのであれば、それまでだと判断した」

 冷酷にもとれるその言葉に、しかしユークライは余裕そうな微笑みを崩さず、ラインハルトも表情を変えなかった。

「我が国の王は、どんな刃の前にも屈さず、どんな魔法の前にも膝をつかず、常に勝ち続け、強き姿を見せねばならない。それゆえの王太子選定制度だ」

 ウィンドール王国は、成り立ちからして強者を尊ぶ。

 北のヴァザック帝国からの侵攻から逃れるために、六つの氏族が中心となって建国されたウィンドール王国の頂点に立った初代国王は、風の精霊王の寵愛を受け愛し子となり、民を守るために自ら剣を持って立ち上がった。
 一騎当千の武人であり、かつ内政においても外交においても辣腕を発揮した文人としての為政者の資質もあった初代国王に倣い、ウィンドール王室は文武どちらにおいても秀でた者が王となる。

 王子として生を受けたユークライとラインハルトにとっても、それは至極当然の道理であり、だからこそ厳格な父王の言葉にも反論はなかった。

「……してお前達、何故ここに来た。あんなことは己でわかるだろう」

「詳細を尋ねに。昨晩帰城してからラインハルトと話していたのですが、今後の方針を考えるためにはまず父上にいくつかご確認をと」

「なんだ。言ってみろ」

「すまない兄さん、その前に一つだけ良いだろうか」

「……いいよ」

「ありがとう」

 突然口を挟んだラインハルトに、少し驚きながらユークライが話を譲る。
 兄に対して感謝の言葉を口にしたラインハルトの目には、どこか父親と似た鋭さがあった。

「父上」

「なんだ」

「例えば治癒術師を秘密裏に手配しておくなどの、襲撃者に気取られない対策ができたはずです。どうしてそれもなさらなかったのですか」

「言っただろう。そうであれば、それまでだと判断すると。死傷者がいかほど出るか、それをどれだけ減らせるかでも、お前達の王としての資質が判断できる。そのための試金石だ」

「父上。実際死者が出なかったとはいえ、さすがにそのようなお言葉は……」

「王とは綺麗なものではないぞ、ユークライ」

「織り込み済みの犠牲ということですか」

 ユークライの嗜めるような言葉を即座に切り捨てたハーマイルに、ラインハルトが静かな声で尋ねる。
 その問いかけに父親が頷いたのを見て、ラインハルトは「では」と続けた。

「あの会場にいた招待客の命を賭けて、父上は何を得られたのですか」

「お前達に今回の件を任せられるという確信と、有力な協力者だ」

「有力な協力者とは…?」

「ヴィンセント・クリスト、アマリリス・クリスト、そしてセルカ」

 二人目の名前にラインハルトが、三人目の名前にユークライが目を見開く。

「表向きには、今回のユークライの夜会の襲撃犯を捕らえるための臨時の捜査隊を設置する。お前達のどちらが責任者でも私としては構わない。あぁ、先に言っておく。資金に関しては自由だが、人員に関してはこちらから指定する」

 立ち上がったハーマイルが、自身の机を開いてそこから一枚の紙を取り出す。

「ユークライと、お前の従者と護衛騎士。ラインハルトは、元従者を呼び戻せ。護衛騎士は明日中にここから一名以上任命するように。詳しくはレシアに聞け」

「はい」

 王国騎士団に所属する、騎士や見習いの名前の書かれた紙を受け取ったラインハルトが頷く。
 もう一度肘掛け椅子に腰を下ろしたハーマイルが、続けて名前を挙げていく。

「それに加えて、セルカと彼女の助手のエストレイ。そしてレーミル・リズヴェルト」

「セルカとお知り合いなのですか?」

「ドロッセルからの紹介だ」

 ハーマイルはユークライからの問いかけに即答する。

「以上の人員で捜査を進めるように」

「……こんな人数で?」

「本当に必要であれば手配するが、あまり大きく動かせることは期待するな。今はヴァザック帝国がきな臭い。再来週には私が国を空けることもあって、そちらに人員を割く必要がある」

「……なるほど。承知しました」

「聞きたいことは聞けたのか?」

 ハーマイルからの問いかけに、二人とも首肯する。
 そんな二人の目に、隠しながらも反抗心のような、不満と怒りのような色を見つけ、ハーマイルはかすかに笑いながら鼻を鳴らした。

「ふ。ではゆっくり休むと良い。私ももう休む」

「えぇ。お時間頂きありがとうございました。おやすみなさいませ、父上」

「おやすみなさいませ」

 挨拶の言葉を口にして、ユークライとラインハルトが立ち上がる。
 二人は一礼し、扉の前でも再び父親に礼をした。

「……風のご加護があらんことを」

 小さく告げられた、かつては戦場へ赴く戦士への激励だった言葉は、しとしとと降り続ける雨の音にかき消されて、去っていく二人の息子の耳には届かない。

 国王は深く息を吐いて、雨雲でどんよりと暗く、星の見えない夜空を見つめていた。








 机の上に置かれていたカードを一瞥して、セヌート・リュメリオンはその整った眉毛を顰めた。
 一つにまとめて下ろしている長い金髪が、彼が自分の主を振り返って揺れる。

「サーストン、これ何なの?」

「知らない。俺に聞くな」

 長椅子に寝そべっているサーストンに、セヌートは溜め息をついた。

「寝るならベッドに行きなよ。もう夜だし」

「うるさい」

「うるさいって……もう成人じゃないか。あまり子供っぽいことを言うものじゃないよ」

「俺と二つしか歳が変わらないのに大人ぶるな」

「はいはいごめんね」

 従者であり歳も近いセヌートは、本来ならサーストンの側に常にいて補佐をするはずだった。
 しかし二年先に魔法学校を卒業し、サーストンが主導している福祉事業が多忙でなかなか会う時間が取れなかった彼は、サーストンが父親であり国王でもあるハーマイルから謹慎を言い渡されてから初めて、主と会うことになった。

「……これを聞いたら怒るかもしれないけれど、謝罪の手紙はもう書いた?」

「謝罪なんてしない。何度言ったらわかるんだ」

「あなたのアマリリス嬢への行いは、今社交界で非難されている。早く正式に謝罪して、和解するべきだよ」

「俺は間違ったことはしていない。俺に相応しくないアマリリスを切って、俺の隣に立って欲しいララを選んだ。それだけだ」

 そう言いながら寝返りを打った自分の二つ下の主に、セヌートは再び溜め息をついた。

「……そんなで王太子になれると思ってる?」

「周りの顔色を伺うのが王って言いたいのか」

「少なくとも、僕の家は支援を切りかねないよ。というか、僕の存在がなかったからもうとっくに切ってる」

「リュメリオン辺境伯家が……は、何言ってるんだ。あそこの領地でやってる炊き出しも、王都で連名でやってる慈善活動もあるのに」

「あれらの活動は、あなたの理念に共感したからやっていたのももちろんあるけど、一種の政治的な広報活動の側面が強かった。今、旗印だったあなたが醜聞塗れになっているのに、続ける意味は僕の家にあるのかい?」

 普段から小言を言うことはあったが、それとは違う本気の拒絶を感じて、サーストンはやっと身を起こす。
 そうして目が合ったセヌートの顔に呆れが浮かんでいることに、サーストンは遅れて気が付いた。

「実家から、今まで投資した分を回収してこいって言われてあなたの側に戻ったけれど……アマリリス嬢に謝罪をする気もなさそうだし、この状況の打開策を持ち合わせているわけでもない。もうここが潮時かな」

「待て、どういうことだ」

「車輪の外れた馬車には乗れない、ということだよ。……しばらく休職願いを出す。周りからは不忠義者と言われるのか、それとも賢者と言われるのか。まぁそれは僕の身の振り方次第になるだろうね。どちらの陣営に付くべきかな」

「待て、待てって言ってるだろ!」

 立ち上がったサーストンの叫び声に呼応するように、部屋の中の家具がカタカタと揺れ始める。

「癇癪を起こして魔力を暴走させる……こんな主、もっと早くに見限った方が、僕の人生豊かになったのかな」

「俺の話を聞け!」

「遠戚だし王子の従者だし安定かな、なんて楽観視が良くなったんだろうな。……魔法学校も後二年、一緒にいた方が良かったのかな。いやでも、それだと僕の監督責任が増えるだけか」

「おい、どこ行くんだ」

「どこって」

 扉に手をかけた従者に、サーストンが無意識の内に手を伸ばす。

「この部屋から出るんだよ。あなたの従者を辞めるんだから」

「本気、なのか…?」

「うん。社交界に出れない王子なんて王太子選定を勝ち抜けるはずないし、クリスト家の怒りを買ったあなたは臣下として政務に関わろうにもやりにくいに違いない。出世なんて夢のまた夢、その下につく僕はきっとずっとあなたの使いっ走り。そんな将来ごめんだから」

 軽やかに言葉を紡ぐセヌートは、「それに」と付け足す。

「自分の兄妹の命を狙うって陛下に疑われるような人についてたって、いいことなさそうだし」

「違う、あのカードは誤解だ!俺はやってない!」

「あなたがこの部屋から一歩も出てないことは知ってるし、時々訪れるのが全員魔法学校時代の友人だけだというのも知ってるから、僕はあなたはやってないと思うよ」

「じゃあ…!」

「それはきっと陛下も同じだ。それなのに実質的な軟禁宣言をされるなんて、あなたに価値と可能性を感じていないからじゃないかな」

 なっ、と絶句するサーストンに、セヌートが胸に手を当てて深くお辞儀をする。

「第三王子サーストン殿下。十一年間お世話になりました。息災で」

「おい……おい待て、セヌート、セヌート・リュメリオン!!」

 名前を呼んだ時にはもう遅く、扉はバタンと閉まって部屋にはサーストンが一人取り残される。

 しばらくは閉じた扉を見つめていた彼だったが、我に帰ると悪態をつきながら椅子を蹴り、本を投げ飛ばす。
 花瓶が落ちて割れるが、その音を聞いて駆け付ける使用人もいない。社交界への謹慎を言い渡されてから使用人の数も減らされていることに気付いてこそいたが、本当に誰も来ないことに彼はますます苛立ちを募らせる。

「くそ、くそ、くそっ…!!」

 部屋中を歩き回り、棚の上の物を薙ぎ払う。
 陶器で出来た置き物が割れても、金属の水差しに入っていた水がカーペットに染み込んでもお構いなしに、溜め込んだ鬱憤を晴らすように腕を振り続けた。

 机を投げ飛ばし、棚にぶつけると木がぐしゃりと潰れる。
 息を荒げながら、彼の視線はその弾みに床に落ちたカードに吸い寄せられた。

「……くそっ。なんで、父上は……」








「失礼します」

 団欒室の扉を叩いて開けると、死角からレオナールが飛び込んでくる。

「兄さん!やっと会えた!」

「うぉ、熱烈だなぁ、レオ。お前また身長伸びたか?いや、筋肉がついたのかな」

 いつの間にか身長が同じくらいになっていた弟に押し倒されそうになりそうになりながらもどうにか堪えて、筋肉のついた腕をぷにぷにと触った。

「あははっ、くすぐったいよ、兄さん」

「腕相撲したら負けそうだな……」

 レオナールがまだ赤ん坊なのに、俺の指をぎゅっと掴んで腫れさせた時のことを思い出す。
 あの頃からこいつは、魔力を使っての肉体強化を自然にやっていた。

 そういった生まれながらの才能もあって、体を動かすことが好きだったレオナールは、昔からよく俺に勝負を挑んできていた。
 俺自身、魔法を専門に扱う職業なこともあって、そこで得た技術を最大限活用してどうにか兄の威厳を保ってきたが、単純な力勝負ではもう勝てなさそうだ。

「いいから座りなさい、ヴィンス。レオも」

「「はーい」」

 二人で揃って返事をして、俺は定位置である一人掛けのソファに座る。
 今日は魔法師団の仕事自体は早上がりだったが、その後に昨晩の夜会への襲撃のことで色々話を聞かれたり意見を求められたりして、結局帰ってきたのは夕飯の時間だった。

「リリィはまだ?」

「えぇ。あまり体調が優れないみたい」

 どうやら昨日の疲労が肉体的にも精神的にも来ていたらしく、朝食を食べて魔法師団の聞き取りにも対応したらしいが、その後に疲れが一気に溢れて自室で休んでいるらしい。

「まぁ、あいつ自身も襲われてたしな。呪いの解呪を初めて見たわけだし」

 むしろ、あんな状況でケロッとしていたユークライやラインハルト様、ダラン、セルカの方がよっぽど異常だ。全員荒事には慣れていないはずなのに。

「本当ならあの子もいた方が良いけれど……事が事だから、私達で決めてしまいましょう」

「そうだな。……ではこれより家族会議を始める」

 父上が口を開く。

「今日の議題は、我々クリスト家が何者かに命を狙われていることについてだ」

「あなた達も知っている通り、昨晩ヴィンスとリリィが、第一王子殿下主催の夜会にて、正体不明の襲撃者に襲われ、無事撃退。先日はリリィとルゥが乗っていた馬車が狙われて、転覆事故が起きたわ」

「これ以外にも、私が乗る馬車に細工が施されていたり、レオナールが魔法学校に登校する最中に事故に巻き込まれたりすることが何度かあった」

「初耳ですよ、父上。レオも」

「私に悪意を持つ者が、何らかの形で危害を加えてこようとするのは今に始まったことではない。レオナールについても同様だ」

「木材が落ちてくるとか、落とし穴があるとか、なんかそういう程度だから気にしてなかったんだ。全部適当に対処してたら、いつの間にか無くなってたし」

 見た目によらず、力でゴリ押しする脳筋なところが少しあるレオナールには、確かに事故に見せかけた程度では全く効かないだろう。
 木材を素手で跳ね飛ばし、落とし穴を駆け上がる弟の姿がありありと想像できる。

「私の馬車の細工は、王城でされたものだった」

「えっ、本当ですか?」

「私が王城で執務をしている間しか細工する時間がない。毎回乗る前に確認させているから確実だ」

「……それは困りますね」

 父上と、俺にとっても王城は、ほぼ毎日通っている仕事場だ。
 そして王城は、王という名前がついている通り王室の住居としての側面ももちろんあるが、国の心臓部として様々な機関が集中している場所でもある。
 そのため、警備は厳重でこそあるが、多数の人が出入りするのも事実。

 色々な組織や貴族の異なる思惑が入り混じる場所だから、そう簡単に警備を見直せと言ってすぐに改善できるわけではないのが難点だ。

「恐らく王城内に、敵の侵入を手引きしている者がいる。……本来なら、陛下とも連携しながらすぐに突き止めて縛り上げるところだが、なにぶん再来週に控えた陛下の国外訪問のこともあって、そうもいかない」

 外務大臣である父上は、確かに忙しいはずだ。
 そういえば、俺の周りでも誰を選抜するかなんて話があったが、あの話はその訪問団についていく護衛として誰が行くかという話だったんだろう。

「陛下から早期解決は望めないと言われているため、安全のためにフローレスとシルヴァンには早めに領地に戻ってもらう」

「えぇ。そうしましょう」

「わかりました」

 母上とシルヴァンが頷く横で、はいはーいとレオナールが手を上げる。

「父上、俺はどうします?」

「お前に関してはどちらでも構わない。魔法学校の警備は厳重だし、お前自身も最低限自衛ができる。どうしたい?」

「うーん……」

 抱きかかえていたクッションに顎を乗せてレオナールが唸る。

「好きにしていいわよ。学校側には事情を説明したら、多分ここを離れている間の課題をもらえるだろうから。帰ってきた時に確認のための試験があるくらいのはずよ」

 貴族の生徒が大半を占める魔法学校には、貴族の事情に配慮した仕組みがたくさん存在する。
 実家の領地が離れたところにある生徒が長期の休暇がとりやすくなっているのもその一つだ。
 貴族はなんだかんだ面倒で、事ある毎に領地に帰らなきゃいけなかったりする。今回のように、暗殺されるかもしれないからと休みを取ることは稀だが、今までに一切前例がない話でもない。

「……ルゥ、そんな顔してどうしたの」

 黙って考え込んでいたレオナールが、末っ子のシルヴァンを見てそう尋ねる。
 言われてシルヴァンを見ると、なんだか申し訳なさそうな顔をして俯いていた。

「だって、僕のせいではないですか。僕がここにいれないから、母上はまだシーズンが始まったばかりなのに帰ることになって、母上と僕が帰るから、レオ兄様は自分が帰るかどうかで悩んでる……」

「そんなことないわよ、ルゥ。私があなたと一緒に帰るのは、色々な要素を鑑みた結果。シーズンが終わるまでにまだ戻ってこれるかもしれないし、すぐにここを出発するわけではないから、会わなくてはいけない人には会えるわ」

「……ですが」

「俺帰る!」

 話しながらますます視線を落としていたシルヴァンが、きっぱりとそう告げたレオナールの方をパッと見上げる。

「え、いいんですか、レオ兄様…?」

「母上もルゥも不安だろ?俺は騎士や魔法師の人達ほど強くはないけど、でも家族を守りたいって気持ちならすっごく強いから」

 レオナールがニカっと笑って、シルヴァンの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「帰り道、俺が二人を守る!兄さん、それまでにまた稽古つけてよ」

「おーそうだな。しばらく早く帰れそうだし。ついでにルゥも、俺達で稽古するよ」

「ぜひお願いします。……ありがとうございます、レオ兄様、ヴィンス兄様」

 そう言ってはにかんだシルヴァンも、それを見てさらにぐしゃぐしゃに撫でるレオナールも可愛くて、思わず頬が緩む。

 本当に可愛い弟達だ。身長が同じくらいになっても、たとえ抜かされたとしても、筋骨隆々になっても、目が潰れそうなくらいの美青年になったとしても。
 俺にとっては何にも代え難い大切な家族。
 そしてそれは、今ここにはアマリリスも。

「リリィはどうするんです?」

「陛下から、王都にアマリリスを残すように言われている」

「……それはまたどうして」

「あの方のお考えを理解することは到底できん。が……セルカ女史もいることだし、大丈夫だろう」

「短期ではあるけれど、リリィの専属の護衛としての契約を結んだの。しばらく別邸をこのまま使ってもらって、あの子の外出について行ってもらうことになっているわ」

 どうやら俺が知らない間に、クリスト家の警備はかなり厳重に強化されていたらしい。

 転移魔法が使えるセルカがいれば、万が一何か起きた時に脱出できるし、しかも彼女はアマリリスと歳が同じで仲が良くて、見た目も普通の女性だ。
 護衛として最適な人物に違いないし、それをいち早く見抜いて契約を結んだ母上はさすがだなと思う。

「では決定だな。フローレスとレオナール、シルヴァンの出発は、諸々の準備もあるだろうから二週間後。それまでは、ノートル家から人員を借り受けて警備を強化する。手配は?」

「もう終わっているわ」

「ありがとう。レオナールは明日、学校の教師に説明をしなさい。ひとまず、一ヶ月分の課題をもらうように。長引くようなら連絡を入れて、追加の課題を送ってもらう。説明のために俺からも一筆書いておく」

「了解です。ありがとうございます」

「フローレスが警備関係で忙しくなるから、荷造りはシルヴァンが主導するように」

「わかりました」

「私とヴィンセント、アマリリスがこの屋敷に残る。ヴィンセントは遠征などには極力参加しないように。少人数の任務も避けられるか?」

「師団長も先日の襲撃は知ってるんで、多分融通してくれますよ」

「よし。家族全員でまた無事に一緒に過ごせる日々が取り戻せるよう、私も可能な範囲で努力する。不安なことがあれば共有して、解決しよう。私達は家族だからな」

 父上の言葉に、全員が力強く頷く。

 まだ姿の見えない襲撃者に、俺達クリスト家は屈しないぞと、心の中で宣戦布告する。

 静かな雨の音が、まるでそんな風に決意をした俺を讃えてくれる拍手のように思えた、なんていうのは、ちょっと調子に乗りすぎたかもしれない。

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