【コミカライズ配信中!】 婚約破棄後の悪役令嬢~ショックで前世の記憶を思い出したのでハッピーエンド目指します!~

弓削鈴音

34話:事後処理

「ユークライ第一王子殿下。魔法師団よりミーレア・レゾット、応援要請を受けて参上いたしました。人数は二十八名。行動を開始しても?」

「ご苦労、レゾット師団長。この二人から引き継いでくれ」

 会場へ戻って色々報告を聞いていたのも束の間、俺がユークライの名前を使って出していた応援要請に応えてやってきたレゾット師団長が、紺色の団服を見に纏い、二つの分隊を引き連れて到着した。

 俺は、隣にいるレーミルと視線を合わせる。
 俺とユークライが別室にいる間ここで中心となって指揮をとっていたらしいレーミルは、にこりと笑って俺に話すように促した。

 まぁ確かに面識がある俺が話した方が楽だろうと思いながら敬礼をする。

「では俺から報告を。非番ですがこの夜会に招待されてまして。今日は師団長も非番じゃなかったでしたっけ」

「本題に入れ、ヴィンセント。迅速な対応が求められる状況だろう、と言いたいところだが……」

 糸目のどこからこんな圧が出るんだろうと毎回思わされる眼光で辺りを見渡した師団長は、腕を組むと「ふむ」と納得したような声をあげる。

「周囲の索敵は終わって負傷者も無し、というわけか。伝令では、呪術による被害があると聞いていたが」

「あぁ、治療が終わった後なので」

「……は?どういうことだ」

「いえ、そのままです。会場には六名、後別室に一名負傷者がいて、今別室にいる負傷者の治療が行われている最中です」

「待て待て……」

 師団長は頭を押さえる。
 彼女の後ろにいる呪術師達も、どういうことだとヒソヒソ話し始めた。

「この会場に、お前以外の魔法師もいることは聞いているが、呪術に対応できるほどの者がいたか?」

「いえ、魔法師ではないので」

「は?では一体誰が?」

 一応、兄であるユークライに言っていいかを視線で許可を取る。
 無言で頷いたのを確認して、俺はその名前を言った。

「ラインハルト第二王子殿下が」

「…………第二王子殿下が?」

 信じられない、という様子の師団長に、心の中で同意する。

 俺だって、回復したことを泣きながら喜んでいる会場の人達をこの目で見なければ、なかなか信じられなかっただろう。

「その通り、第二王子殿下が治療を終わらせて下さっているので、呪術師隊の皆さんは負傷者に残留している魔力の調査を、魔法師隊の皆さんは襲撃者の痕跡を探してもらうのが良いんじゃないでしょうかね」

「……後でその事実確認はするとして、襲撃者の追跡は?」

「信頼できる魔法使いが今やってる最中で、まだ帰還していません」

「…………魔法師団の沽券に関わるぞ」

 はぁ、と深く溜め息をついたレゾット師団長は、ユークライの方を向くと険しい目つきのまま敬礼をする。

「ではこれより調査に当たらせて頂きます」

「あぁ、一つだけ。あなた達が来てくれただけでも、この場にいる者達は他には代え難い安心感を得ている。魔法師団の出動に、感謝する」

「いえ」

 それでは、ともう一度敬礼をして指示を飛ばし始める師団長達から離れて、少し休憩をしたいと言ったレーミルとも別れて、ユークライと二人ですっかり落ち着きを取り戻した会場を歩く。

「にしても帰り遅いな」

 誰が、とは言わなかったが、明らかに焦燥を顔に浮かべるユークライを見れば通じたのだろう。

「応援は出したんだろ?」

「少し前にな」

「もっと早く出せなかったのか」

「この会場の安全確認が先だっただろ。それに、あいつは危なくなった時に自力で逃げられないわけじゃない。目の前で転移魔法を使われたことだってあっただろ?」

 少し苛立ちを滲ませる親友の心中を察して、セルカのことで茶化すか一瞬迷ったが、軽口を飲み込んで肩をポンと叩く。

「しっかりしろよ、第一王子。みんながお前を見てる。動揺を表に出したら広がんぞ」

「お前以外の前でこんな焦ったりはしないよ。……ラインハルトもまだ戻らないのか。魔法師団の誰かに補助をするように伝えた方が……」

「解呪中なら、変に集中切らせる方がよっぽど危険だ。もうしばらくかかるだろうよ。あんな呪い、初めて見た」

「……俺が一人で対処できてたら」

「そしたら騎士団も魔法師団も全員廃業だよ。とりあえず、反省は後回しで目の前のこと、だろ?」

「そうだな」

 息を吐いて次に顔を上げた時には、ユークライの顔に迷いは無くなっていて、指示を出しに歩き出す。
 それについていく護衛騎士のイレーヴの目礼に軽く頷いて、俺は会場の入り口の方へと歩き始めた。



 ダランは、ユークライを庇って傷を負った。

 その近くにいたわけじゃないし、俺自身襲撃者に狙われてティアーラ様を守る方に集中していたからはっきり見ていたわけじゃないが、気付いた時にはユークライも襲われていた。

 俺とティアーラ様への襲撃と同時に、アマリリスとラインハルト様に攻撃があったのはきちんと確認できていた。おそらくユークライ自身も、護衛騎士もそうだろう。だが、そのほんの瞬きの差の、人の意識が逸れているところで、ユークライに襲撃者が迫った。
 正直、俺でも近くにいて上手く対処にできていた自信はない。それくらいいやらしい瞬間の凶刃に唯一反応したのがダランだった。

 元々ラインハルト様の従者をしていたという話は聞いていたから、何かしら武芸に長けているのは想定していたが、実際は想定以上。
 招待客に囲まれていたせいで護衛から少し離されていたユークライは、ダランがいなかったら間違いなくあの呪術の餌食になっていた。

 それを身を挺して庇ったダランの功績は、武人としてだったら最高の誉れ。
 しかし彼は弟王子の元従者で、今はただの伯爵。ユークライが引け目を感じてしまうのも理解できる。

「……普通に心配だしな」

 かなりの深手なはずなのに、治療をしているラインハルト様を遠目に見ると、自分を別室に移動させて最後に治療させるように、しかもその時にはラインハルト様とアマリリスだけを部屋に残すようにまで言い残したダランは、これだけ聞くと大丈夫そうに思えるかもしれない。
 けれど、有り得ないくらい悪い顔色でおびただしい量の汗をかいていたし、それ以上に呪術による侵食がえげつないものだった。

 魔法師団の中には、呪術師隊と呼ばれる呪術を専門に取り扱う部隊があって、呪いに関わる案件は大体そこに回される。
 それでもこの仕事をしていれば、悪質な呪いに苦しめられている人を目の当たりにすることは何度かあったが、今回のダランへの呪いが断トツで強力だった。

 呪術は、対象者の魔力を喰らうことで効力を発揮する。
 その応急処置として、俺とユークライの二人がかりで魔力を送り続けることでダランへの侵食を食い止めてはいたが、それでも呪いの進行は早かった。

 ラインハルト様が間に合うのか、そもそもあの人にこんな呪いの治療ができるのかと思い、魔法師団に緊急の協力要請を出そうとした俺を止めたダランは、あえて言葉を選ばずに言えばイカれているとしか思えなかった。

『これが、僕達にとっての最善なんです』

 真っ青な顔でそう笑ったダランは、しばらくは意識を保っていたが、数分後には目を閉じていた。

 意識のないダランを前にして、何度も呪術師を早く寄越すように急かそうと思ったが、結局彼からの頼みを断ることができず、ラインハルト様が来るのを待つだけだった。



 そんなことを考えながら、会場中をぶらぶらと歩き回る。
 襲撃の起きたところには、印として魔法で円が描かれていた。魔法を発動させ続けるための触媒として使われているのがブローチなのが、緊急措置という感じがする。

 わずかに煤が残る床を見ながら、自分自身の左腕に触れる。
 呪いと共に放たれた炎での攻撃はかなり速く、微妙に服に引火してしまっていた。火傷こそしなかったものの、そのせいでティアーラ様を余計に怯えさせてしまったのは、魔法師としては失格かもしれない。

 調査のためにやってきた魔法師団の同僚に短く挨拶をしてから、今度は入り口の方へ向かう。

「お疲れ」

 扉のところまで着いて、警戒をしていた騎士に声をかける。

「はっ!お気遣い感謝致します!」

「おう。ずっと気張ってたら集中力も下がるだろうし、一瞬水でも飲んでこいよ」

「しかし……」

「お前の妹さん、目覚ましたみたいだぞ。声掛けに行ってやれ」

 俺の言葉に目を見開いた彼は、数秒迷った後、勢いよく頭を下げる。

「ありがとうございます、すぐに戻りますので!」

「大丈夫大丈夫、後は魔法師団がどうにかするから」

 誰か通りかかったら交代してもらおう、なんて気楽に考えながら、もう一度頭を下げて走り去って行く騎士に手を振る。

 知り合いでもない騎士の彼に妹がいることも、その妹が負傷者であることも、普段の俺だったら絶対に気付けなかった。
 アマリリスが渡してくれた、今日の参加者の情報をまとめた資料の中にたまたま彼と妹の名前があって、それがレーミルから聞いた負傷者の名前と合致したという偶然だ。

「……こういう気遣いができるなら、もうちょい覚えてもいいのかもな」

「何が?」

「うぉっ、びっくりした!」

 ポロッと漏れた独り言に返事があって思わず飛び上がると、目を丸くした顔をするセルカと視線がかち合う。

「セルカ!?お前いつ戻ってきたんだよ!?」

「ついさっき。声かけようと思ったらいきなり喋るから、びっくりしちゃった」

「いや俺の方がびっくりだよ。つか、かなりボロボロだな……」

 アマリリスが贈ったという薄い桃色のドレスは、かなり泥がついて、薄い生地で出来ている部分はところどころ破れている。
 しっかり整えていたのであろう髪型も崩れて、顔にもいくつか切り傷があった。

「とりあえず無事で良かった。一人で戻ってきたってことは、逃げられたのか?」

「あぁ、うん」

 わずかに悔しさを滲ませて、セルカはぐちゃぐちゃになった髪を解きながら喋る。

「結構いいとこまで追い詰めたんだけどね。詳しいことは、後でまとめて話すよ」

「必要なら早めにメモ取っとけよ。正確じゃない報告だと、うちの師団長にどやされるからな」

 俺の言葉に、セルカはニヤッと笑うとポケットから紙切れを取り出す。

「ご心配なく。人間の記憶の不確かさと曖昧さはよくわかってるから」

 おぉさすが研究者、とお世辞抜きで声が漏れる。

「優秀だな」

「ありがと。……あれ、アマリリスは?ラインハルトとダランも」

 会場を覗き込んだセルカがそう尋ねる。

「別室で、ラインハルト様がダランの治療に当たってる。リリィはその付き添い」

「そっか。ダランの怪我の様子は?」

「わからん。ラインハルト様に治療を引き継いで、後はずっとここにいた」

「なるほどね」

 近くから椅子を二つ持ってきたセルカは、片方に腰を下ろすと魔法で自分の傷の治療を始める。随分と慣れた手つきだ。

「光属性が使えんのか?」

「まさか。水で洗浄するくらいしか出来ないよ、ラインハルトじゃあるまいし」

「ラインハルト様が治療できること知ってるんだな」

「私も何度かお世話になってるからね」

 一応見張りなのに座るのはどういうものかとも思ったが、ちゃんと会場の外の廊下が見渡せる位置ならいいだろうと自分を納得させて俺も腰を下ろす。

「ラインハルト様は……いや、やめとく」

 本人のいないところで好き勝手言うのも良くないだろう。
 どうせ後で合流すれば全員で報告をすることになるだろうからその時に質問を回すことにして、今目の前にいるセルカの方を見る。

「怪我はひどいのか?」

「擦り傷だけかな。基本、逃げる相手を追ってただけだったし」

 本人の言う通り、目立った出血はない。
 もし大怪我でもしていたらユークライが取り乱すだろうからあいつが来る前にこっそり治療をさせようと思ったが、その必要もなさそうだ。

「どこまで行ったんだ?」

「ここの敷地を出て森の方まで。そこで見失っちゃって、結構体力の限界来てたから少し休んで戻ってきたって感じ」

「相当速かったんだな、あの三人組」

 視界の端っこで捉えることしかできなかったが、俺とティアーラ様を襲ったやつ、アマリリスとラインハルト様を襲ったやつ、そしてユークライとダランを襲ったやつの合計三人が、会場から走り去り、それを追いかけるようにセルカが飛び出していた。

「……いや、一人だったよ」

 眉を顰められながら告げられたその言葉にどういうことか聞き返そうとする前に、後ろから声をかけられる。

「セルカ。戻ってたんだね」

 普段より声が若干高い親友に、お前は乙女かと心の中だけでツッコミを入れる。

「ユークライ殿下。すみません、すぐに報告に向かわず」

「気にしないで。怪我をしているみたいだけれど、治療師を呼んでこようか?」

「いえ、すぐに治るので。ありがとうございます」

 立ち上がろうとするセルカを押し留めて水を渡すユークライは、自分も椅子を引っ張ってくると、当然のように俺とセルカの間に座った。
 胡乱な目を向ける俺にも、ついでのようにコップを渡してくれる。

 乙女なんだか大胆なんだかよくわからないが、結局セルカとダンスができなかったのだからこれくらいはいじらないでおいてあげよう。今日のところは。

「ユークライ殿下は、怪我はないですか?」

「うん。ダランが庇ってくれたから」

「さすがダラン。運動神経いいですよね、彼」

「運動神経とかって次元じゃないと思うけどな。あんな傷負って、自分の足で別の部屋まで歩いて、しかも結構長いこと意識保って喋ってたぞ?」

「頑丈ですよね」

「騎士団でもそうそう見ない頑丈さだぞ、あれ」

「……あの主従は、色々尺度から外れてるんですよ」

 あぁ、とユークライと二人揃って納得の声を上げてしまう。
 確かに、あの主あってあの従者あり、という感じだ。

「そういえば、ユークライ殿下の従者はいないんですか?護衛の人しかいないみたいですけど」

「いるよ。ただ俺の場合、彼には色々仕事を頼んでいるから、こういう場にはあまり連れてこないんだ」

「なるほど。色々あるんですね」

 セルカが口を閉じると、ユークライも黙ってしまう。

 どういうことだと思ってユークライを見れば、愛想笑いを浮かべながら話題を探すように辺りを見渡し始める。

「……くっ、ふっ……んんっ、ごほっ」

 思わず笑ってしまいそうになって、水でむせたフリをして顔を背けて咳をする。

 どんな相手でもにこやかに会話を続けられるユークライが、まさか初恋の相手の前だとこんなポンコツになるなんて聞いてない。そしてそれがこんなにも面白いなんてことも聞いてない。

 この襲撃事件の調査がひと段落ついたら、その打ち上げも兼ねて飲みをするだろうから絶対のその時にからかってやろうと決意しながら、俺も会場の方に視線を向ける。

 そういえば会場の入り口でこんなたむろしていいのかと思うが、ちょうどレーミルとレゾット師団長がやってくるのが目に入った。
 二人がやってくると、一気に臨時の司令部のように様変わりする。

「ちょうどこちらに情報を持った方々が集まっているようですし、一度全員で情報共有をするのはいかがでしょう?」

 レーミルの提案に、ユークライがまったをかける。

「もう少しでラインハルトが戻ってくるはずだ。五分ほど待って、それでも来なければ始めよう。会場の人々を解放するかどうかも、早めに決めないといけないだろうから。レゾット師団長、リズヴェルト殿、それで構わないかな?」

「異論ございません」

「同じく、異論ございません」

「では一つよろしいでしょうか」

 さっきのポンコツからすっかり切り替えたユークライに続けて返事をしたと思えば、師団長が発言の許可を求める。

「構わないよ」

「感謝いたします。ではヴィンセント術師」

「は」

 ここで俺に話が回ってくるとは思っていなくて、突然名前を呼ばれたことに反射的に返事をする。

「彼女が君の言う、"信頼の置ける魔法使い"か?私には残念ながら、どこにでもいる普通の女性のようにしか見えないのだが」

 そう口にしながら、師団長がセルカに鋭い視線を向ける。

 職業として魔法を扱う魔法師とは違い、"魔法使い"という言葉が指すのは魔法が使える人全般だ。

「彼女に襲撃者の追跡という重要な任務を任せたお前の判断を、私とて疑いたくはない。誰もを納得させられる理由の説明ができるのだろうな、ヴィンセント術師?」

 基本的に魔法の腕前は年齢と共に熟達することもあって、師団長はまだ若いセルカに懐疑的な視線を向けた。
 セルカがどんどん物言いたげな表情になっていくのをチラ見しながら、俺はまぁまぁと尖った姿勢を隠そうともしない上司を宥める。

「こいつはセルカ。魔法の腕前は保証できます。ただの魔法使いじゃなくて、魔法研究者ですよ」

「こんなに若い女性なのに?所属は?魔法大学か、それとも個人のパトロンがいるのか?」

「師団長、こいつは協力者ですよ」

 なんだかこの光景には見覚えがあるなと思いながらユークライを見る。
 自分が好意を持っている相手に厳しくする師団長にてっきり嫌な顔をしているのかと思ったら、どっちかといえば自己嫌悪しているような表情だった。きっと同じ出来事を思い出しているんだろう。

「参加者は襲撃者の追跡に向かった君以外は全員、ずっとこの会場にいた。どうやって襲撃者が忍び込んで、かつここから逃げ出したのかを考える時、誰の監視もないところで襲撃者と接触のあった君を疑うのは、職務上必要なことなんだ」

「……」

「私の言いたいことが理解できたのなら、君の素性を明らかにしてくれ」

「……」

「黙ってないで何か言ったらどうだ?不必要な沈黙は、君を庇ったヴィンセント術師の顔にも泥を塗ることになるぞ」

 そういえば、と思い出す。

 初めてユークライと会った時、高圧的に権威を振りかざしてきたあいつに対し、セルカはしばらく黙り続けて、最終的には爆発していた。
 多分、というかほぼ確実に、セルカはこういう手合いが嫌いなんだろう。

「……はぁ。やめてくれ、そういう目で私を見るのは。私が君をいじめているみたいだろう?」

「……」

「ちょっと師団長五秒だけ俺らにくれませんかね?」

 真っ向から師団長を睨みつけるセルカに嫌な予感がして、二人の間を遮るように立ち上がった。
 するとセルカも立ち上がり、黙ったまま師団長を見下ろす。

「おいセルカ、この人は魔法師団のてっぺんだからあんまし反感買うとまずいっていうかなんていうか……」

 小声で囁くが、セルカは全く聞く耳を持たずに、口を開こうとも、目つきを和らげようともしない。

 そして困ったことに、師団長も椅子から立つと俺を挟んでセルカを睨む。

「なんだ、疑われたからと腹を立てたのか?本当に子供のようだな」

「ちょっと師団長!?」

「……はい?」

「セルカセルカ、落ち着け深呼吸してくれ」

 やっと言葉を発したと思えば、セルカは低い声で不機嫌さを隠そうともしない。

 レーミルはニコニコしているままだし、ユークライはしょうもない自己嫌悪で役に立ってくれそうにないし、ユークライの護衛騎士のイレーヴは俺と目が合うとすぐに逸らす。

 誰かこの状況をどうにかしてくれと、誰でもいいから今すぐに報告に来てくれと願っていたら、その願いが届いたかのように、若い男性の平坦な声が響いた。

「喧嘩でもしているのか?」

 この声に明らかに空気を読んでいない発言は、と思って振り向くと、そこには想定通りの人が、苦笑を漏らす銀髪の男女を横に連れて立っていた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品