【コミカライズ】献身遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
「好きって言われると、我慢できない」2
足音が近づいてくる。
それは怒りが感じられ、どうにもできなくて冷たいバスルームの壁に背をつけて座り込み、顔を覆った。
洗面所の扉が開かれる音、そしてバスルームの押戸が乱暴に押される〝バリッ〟という音がすぐ近くで鳴った。
「……あーあ、やっぱりいた」
「えっろいパンツ落としてますよぉ、彼女さーん」
今まで扉を隔てていた彼女たちの声は間近で聞くと艶やかで、甘く、とても強く響いた。
私はなにも悪いことをしたつもりはないが、清澄くんのご家族と今ここで顔を合わせるにはあまりに恥ずかしい状況だった。
しかしずっと隠れているわけにもいかず、私はスカートを押さえながら立ち上がり、グシャグシャの顔で「すみません……」と頭を下げる。
顔を上げると、そこには直視するには眩しすぎる美女がふたり、厳しい表情で立っていた。
「あのねぇ、彼氏の姉が訪ねてきたのに隠れるなんて、失礼じゃない?」
こちらのお姉さんは、一寸の狂いもない黒のストレートヘアーに涼しげな目もと。
体にぴったりとしたマーメイドラインのスカートにライダースジャケットで、スレンダーなのにグラマラスな美女。
「清ちゃんのことエロく迫ればいける安い男って思ってる?  冗談じゃないんだけどぉ」
こちらはふわっとした甘めの美女で、綺麗に巻かれた茶髪は妖精さんのよう。
フレアスカートにオーバーサイズの白のニットで、顔を覗き込まれるといい匂いがした。
「やめろよ。彼女に突っかかるな。悪いのはいきなり来たお前らだろ」
清澄くんは彼女たちのうしろから出てきて、私の盾になってくれた。
支えて立たせてくれて、いつの間にかお姉さんから奪い取ったパンティをそっと手に持たせてくれる。
浮かれていて気づかなかったけれど、今見るとこの下着はたしかにエッチだ。
「で?  アンタたち今ヤッてたわけ?」
「清ちゃん本当に……?  こんな子で卒業しちゃったの……?  やだぁ」
こちらからは清澄くんの背中しか見えず、どんな顔をしているのかわからない。
ただ握りしめていた彼の手は震えており、私が小声で「清澄くん……」とつぶやいてもこちらを見ない。
しばらくしてやっと「おい」と口を開いた彼は、今まで聞いたことのない低い声で彼女たちにつぶやく。
「〝こんな子〟ってなんだ?」
その瞬間、お姉さんたちの顔は強張る。
「だ、だって……清澄が付き合う子はいつもろくでもないじゃない。漫画のヒロインみたいにいいこぶってて、裏では酷い性格の女ばっかり」
「そうだよぉ。清ちゃん選び方おかしいから心配なんだもん。……怒らないでよぉ」
彼女たちは顔を見合せ、萎縮した様子で弁解する。
さっきまでと形勢が逆転しているところを見ると、今の清澄くんは相当怖い顔をしているのだろう。
しかし私には、お姉さんたちの言っていることは嘘ではないんじゃないかと思えた。
不安げなその顔は、本当に清澄くんを心配しているものに見えたのだ。
「清澄くん……」
「俺の姉たちが嫌な思いさせてごめんな、愛莉」
振り返ってやっと私を見てくれた清澄くんは、優しく頭を撫でる。
肩を抱きながら、バスルームの扉を塞いでいるお姉さんたちを素通りし、私を柔らかいソファに座らせてくれた。
今しかないと思い、私はそそくさとパンツを履く。
ワインを飲んでいたときと同じように隣に座り、彼は前を向いたまま、背後にいるお姉さんたちに言い捨てる。
「帰れ。二度と来るな」
お姉さんたちは立ち尽くしたまま、返事をしなかった。
険悪な空気が流れている。
ここに来るまでは、振り回されてはいたけどお姉さんと和気あいあいとしていたのに、急に壊れてしまった。
私のせいなのかな。
背中に、お姉さんたちの言葉に詰まった姿を感じていた。
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