【コミカライズ】献身遊戯 ~エリートな彼とTLちっくな恋人ごっこ~
「俺はもう少し一緒にいたい」4
「清澄くんっ……嫌じゃないの?」
「うん」
こんなことをしてもらったのは初めてでどうしていいかわからない。
絶対に清澄くんはいい気分ではないと思う。
ああ、でも、気持ちよくてなにも考えられない……。
「あっ……待って、もうダメ……!」
気を抜いたところを攻められて、私は簡単にイッてしまった。
彼の頭はしばらくしてから離れ、濡れた唇を拭いながらフッと熱を感じる笑みを落とした。
彼とすると毎回こうなってしまうが、イくってこんなに簡単なことなのだろうか。
いまだに自分の体の変化に戸惑っている。
「かわいい。俺、愛莉の反応好き」
とろとろになった顔見て、彼は私の前髪をわけながらつぶやいた。
〝好き〟という言葉に胸が甘く疼いた。
優しく触れてもらえることも気持ちいいけど、清澄くんの恋人みたいな言葉が心地いい。
べつに私のことを好きだとは言ってないって、頭ではわかっているけど……好意がない相手にこんなことをできるのだろうかと期待してしまう。
TLを演じているはずが、私はいつしか、すべて清澄くんの本音だったらうれしいと願ってばかりだった。
この気持ちにもう名前はついている気がする。
「……清澄くん……」
彼のものにしてほしい。
身も心も繋がって、TLのふりではなくて、本当の恋人同士になれたら──。
「続きはまた今度にしよう」
「……え」
宣言とともに、彼は私のスカートを整えて立ち上がった。
私は呆気に取られ、ソファから体を起こす。
「どうして……?  清澄くんは?」
「一日歩いて疲れただろ。少し休んだ方がいい。シャワー浴びる?」
彼はシャワールームを指差した。
これは始まりのシャワーではなく、終了のシャワーだという口ぶりだ。
「清澄くんは……最後までしたくないの?」
「え?  まさか。もう少ししたら、もらうよ」
「もう少しっていつ?  今じゃダメなの?」
もしも私を焦らすという作戦ならもう成功しているから、もう全部奪ってほしい。
気持ちよくて満たされていたけど、清澄くんと繋がれないなら自分だけ満足しても今は足りない。
必死な私を前にして、彼は困った顔でつぶやいた。
「……うん。今はダメかな」
──どうして?
きちんと会話ができていない。
私の質問に答えてくれないし、肝心なことをはぐらかされている気がする。
私じゃダメってこと?
それならここまでするのは何故?
清澄くんの気持ちが全然わからない。
「愛莉、ほら」
服を整えた彼は、下着を拾って私に手渡しながら顔を覗き込んだ。
受け取ってクシャリと握る。
恥ずかしい。
私はこんなにさらけ出してしまったのに、清澄くんは私になにも見せてはくれない。
過去の恋愛を思い出した。
欲求を発散させようとする相手に、私は決して自分の本音を言わなかった。
そんな恋人とは信頼関係もなければ、愛情もない。
それでもすべてを隠していても、無理して欲求に応えることはできたのだ。
清澄くんがしてくれることも、そうだったら?
「……愛莉?」
耐えきれずに瞳がじわりと潤みだす。
だってそうだったらすごく寂しい。
「えっ、泣いてるのか?」
「ご、ごめん……清澄くんの気持ちがわからなくて……私じゃダメなのかなって……」
「いやその、違う、俺は……」
面倒な女になりたくなくて涙を止めようとするのに、どんどん溢れてくる。
彼はもう一度膝をついてソファにいる私と向き合ったが、そのときちょうど、〝ピンポン〟というチャイムの音が鳴った。
清澄くんは「え」とつぶやき、すぐに立ち上がって玄関を振り返る。
私は小さな声で彼に「お客さん?」と尋ねたが、返事をしない。
「ねぇ、清澄。いるんでしょ?  開けて」
「清くーん。電気ついてるの見たんだからね。居留守使ってもダメだよぉ」
ドアの外からふたりの女性の声が聞こえてきた。
誰?
声を聞いて私へ目を戻した清澄くんは真っ青で、なぜか私まで不安になる。
「ヤバい」
彼は小声でつぶやいたため、私も同じく小声で「誰なの?」と聞き返した。
いつもの余裕のある清澄くんとは違って様子がおかしい。
「ごめん愛莉、ちょっと隠れてくれ」
「え?」
「追い払ってくるから。ここに入ってて」
両手をとって立たされ、手首を引っ張られたかと思うと、あれよあれよという間に洗面所の扉の中へと押し込まれた。
理解が追い付かない間に続いてソファに置いてきたハンドバッグと玄関で脱いだ靴を持たされ、私の形跡はすべてこの洗面所内に押しやられる。
「清澄くん……」
「マジですぐ開けるから、ちょっとだけここに隠れてて」
スライド式の扉を閉められ、洗面所内は暗くなった。
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