追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~
25話 side最強の矛《ゲイボルグ》7
2層へと降りたマザマージ一行は、1層と同様の陣形で奥へと進んで行く。
この頃にはバセイとエレノアの緊張感もすっかり薄れ、自分たちの能力を存分に発揮し始めていた。
だが――。
「数10、ハイゴブリンウォーリアーと……これは、ハイゴブリンコマンダーもいるッス!」
「チッ、めんどくせぇな! エレノア、補助魔法だっ!」
「はいっ! 『筋力強化』、『防御力強化』、『俊敏性強化』――」
「グギャァァアアアアッッ!!」
エレノアが全ての補助魔法をかけ終わる前に、ハイゴブリンコマンダーが連れているウォーリアーたちに突っ込むよう指示。
勢いよくなだれ込んで来る9体のウォーリアーに、マザーマジは顔を顰める。
幼少から教会に属するものは特例で10歳で天授の儀を受けることができるのだが、13歳という若さから冒険者として実戦の中で技術を磨いてきたアリスとは違い、祈り手や回復師として勤めて来たエレノアは補助魔法の熟練が足りないため、基礎的な補助魔法を統合した『身体強化』を使うことはできない。
「間に合わねぇ! いくぞ、シルストナっ!」
「あ、ああっ!」
遅れて飛び出した二人は囲まれないように注意しつつ、迫るウォーリアーをねじ伏せようと剣を、拳を振るう。
ウォーリアーだけならこれでもなんとかなったのだろうが、今は統率者――コマンダーがいるのだ。
「グギャギャギャッ!!」
後方に居座るコマンダーは、すでに場を一望できる大岩の上へと移動していた。
その上で、ウォーリアーたちへと指示を飛ばす。
知能がそれほど高くないコマンダーの指示とはいえ、統率の取れていないマザーマジらには有効足りえたようだ。
全体的な質では圧倒的に勝るはずのマザーマジらが、徐々に追い込まれていく。
「ヒリテスっ!!」
「わかってるわ! 『火槍』!」
マザーマジの呼びかけに即座に応じたヒリテスは、コマンダー目掛けて火槍を発射。
当然、コマンダーはひょいっと簡単に躱して見せた。
距離がある程度離れている上に、注意を引いて不意を打つなどの駆け引きもないのだから、当然の結果と言える。
もちろん、ヒリテスたちが納得するかどうかは別の話なのだが。
「あいつ、ヒリテスの魔法を避けやがったぞ?!」
「一体このダンジョンはどうなってるんだよ?!」
動揺を見せたマザーマジとシルストナに、これ好機と殺到するウォーリアー。
見かねたスィエンまでもが飛び出し、加勢に入ったお陰で深手を負うことはなかったのだが――。
いくらハイゴブリンといえど、見るからに手薄な後方に気づかない訳もなく。
「グギャーッ!!」
コマンダーの叫び声が響くと同時、マザーマジたちを襲っていたウォーリアーのうち3匹がヒリテスたちの元へと襲い掛かった。
「こっちに来るわ! 一度戻って来て!」
火槍でけん制しつつ、三人に叫ぶヒリテス。
「なにっ?! 誰か戻れるか?!」
「あたいは無理だよっ! こいつら、しつこすぎるっ!」
「私も難しいですっ! 包囲網を抜け出そうとすると、途端に狙いが集中してきてっ!」
近接攻撃しかできないシルストナはヒット&アウェー戦法で翻弄され、スィエンは泳がされているものの囲いから抜け出すことは許されない。
マザマージは戻ろうと思えば戻れるのだが、度々攻撃を躱してくる目の前のウォーリアーにムキになっていて、仕留めるまで動くつもりはなかった。
痺れを切らしたバセイは、エレノアとアイコンタクトを取るとお互いに頷き合い、短剣を構えて駆けだす。
「ほら、こっちッスよ!」
「グギャ?!」
高い俊敏性を生かした動きで剣を躱しつつ、一体の懐へと潜り込むや否や太ももを切りつけ、即時離脱。
「『聖光弾』!」
そこへエレノアの魔法が直撃し、胸にぽっかりと穴が開いたウォーリアーは崩れ落ちた。
自分の魔法は一切当たらないのに、エレノアの魔法が当たったことに驚くヒリテスを他所に、二人は連携した動きで次々にウォーリアーを撃破。
フーーと大きく息を吐きだしたバセイは、意を決すると前方で戦う集団目がけて突っ込んだ。
「おい、何をしてる?!」
「大丈夫ッス!!」
驚くマザマージだが、覚悟を決めたバセイの足は止まらない。
迫る攻撃を致命傷だけ避けて躱しつつ集団を駆け抜けると、コマンダーへと狙いを定めた。
あっという間に肉薄するバセイに集中したコマンダーの指示が止まり、途端に動きが鈍るウォーリアーたち。
時間稼ぎに徹して注意を引き続けたバセイのお陰でウォーリアーを片づけることに成功した三人は、コマンダーを討つことにも成功。
なんとか窮地を脱することができたものの、無茶をしたバセイの身体は傷だらけだった。
「バセイくん、大丈夫っ?! 今回復するから!」
「へへへ、ありがとうッス……」
必死に回復するエレノアを見つめ、面白くない気持ちになるマザマージ。
ほどなくしてある程度回復したバセイは、勢いよく頭を下げた。
「勝手に行動してすみませんッス!」
「あ、ああ。通常よりちょっと厄介な相手だったようだからな、仕方ないだろ。良い働きだったと思うぜ」
バセイの手柄だとは認めたくないが、尽力してくれたのは誰の目から見ても明らかであり、エレノアの目を気にしたマザマージはなんとか大物ぶろうと笑って見せる。
ここでバセイの身を心配することを理由に引き返せば良かったのだが、エレノアの前でより恰好良いところを見せたい自分を抑えきれなかったマザマージは、あろうことか先へ進むことを決断。
2層を進む間は幸いなことに統率者がいる集団には遭遇せずに済み、自らの力を誇示しながら圧勝を量産することに成功。
だが、欲を出して3層へと降りたことが失敗だった。
再び統率者のいる集団に遭遇してしまい、追い込まれてしまった一行。
そんな中、バセイがエレノアをかばい深手を負ってしまったのだ。
エレノアの回復魔法と二人が持参していた回復薬のお陰でなんとか動けるところまでは回復したものの、エレノアの残魔力量が残り僅かとなってしまったばかりか、エレノアを当てにしていたマザマージらの回復薬は合わせてもたった数本という現実を突きつけられることに。
「マ、マザマージ様どうしましょうか?!」
スィエンの問いかけに、必死に思考を巡らせるマザマージ。
すでに自分たちの身体にもいくつもの傷ができていること、帰りのことを考えれば回復薬は温存したいこと。
これ以上ここで無理をして死者が出てしまった場合、それこそ『最強の矛』の名声は地に落ちること。
それ以上に、現状を打破できるだけの作戦が思いつかなかった。
先ほどのバセイのように、無理やり集団を抜けて統率者を狙うか……?
そう考えてみるも、あれはバセイの高い俊敏性と、決死の覚悟があってこそだとすぐに理解し、死と隣り合わせの特攻などできるはずもなく。
「……くそっ! 撤退するぞ!!」
苦渋の決断を下したマザマージら一行は、死に物狂いで出口目掛けて走り出したのだった―――。
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