追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~
12話 安全第一だよ
メルシーが慎重に周囲の気配を探るも、これ以上の襲撃はないと判断したのだろう。
ゆっくりと頷いたのを確認し、俺はふーと息を吐きだした。
「いやー、疲れた疲れた。数多すぎだろ」
「疲れたじゃねぇ! なんだこの訳のわからん戦い方は!!」
「んん……?」
「アタシもびっくりよ。あれだけのスケルトンに囲まれれば、普通はどう脱出するかを考えるものでしょう?」
呆れたような口調のメルシーだが、その表情はとても明るい。
「いやー、だってなぁ? 上位種のスケルトンナイトとかに囲まれたってんならともかく、スケルトンに囲まれたくらいで逃げ出してたらS級ダンジョンなんて進めないだろ。まだなんの手がかりも掴んでないのに」
「まぁ確かにそうなんだけどよ……。それにしたってお前、笑うことしかできねぇスケルトンをぽんぽん投げてくんじゃねぇ! 夢に出て来そうなくらい気持ち悪かっただろーが!!」
「数が多かったし、あれなら仮に倒し損ねても窮地に追い込まれることがないだろ? 安全第一だよリュミナスくん!」
「るせっ!!」
君のためを思っての行動さ! って満面の笑みを向けてやったのに、あろうことか腹を殴られた。
この暴力女が、ベッドの上でヒィヒィ泣かせてやろうか。
「にしても、貴方は剣技もかなりのものね? スケルトンの攻撃を完全に見切った上で、瞬く間に走る剣閃は圧巻の一言だったわ。正直、なんで『最強の鉾』で斥候ポジションについていたのか理解できないの」
「って言ってもなぁ。俺には剣技に関するスキルもなければ、それを補うだけの膂力もないんだよ」
「あの腕なら、十分に前線で戦えるでしょうに……」
納得のいかない様子のメルシーに、どう説明したもんかと悩む俺。
さすがについ最近この域に達しましたなんて言ったら、質問攻めに合いそうでめんどくさいしなぁ。
「答えは単純です! 剣技も凄いロードさんですが、実は索敵能力もずば抜けているんです。なので、あのチームに不足していた斥候ポジションを担当してくれていたんです!」
「へぇ……? 近距離戦闘も本職並みにこなせる上に、さらには索敵までお手の物って訳か? それが事実なら、とんでもねぇな」
「にわかには信じがたいわね……。それほど優秀なら、もっと噂になっていそうなものだけど」
懐疑的な視線を向けてくる二人に、冷たい目で明後日の方向を見やるアリス。
「考えてもみてください。あのプライドの塊のような男が、自分の地位を脅かしかねないような情報を外に流すと思いますか?」
名前こそ出していないが、二人もすぐに誰のことを差しているのか理解したんだろう。
「あー、そう言われれば納得だわ。アイツはリーダーの器じゃねぇからな……」
「……はぁ。ほんと、どうしてアタシはあんなとこに入ろうと躍起になっていたのかしら……」
「入る前に気づけて良かったじゃねぇか。一度入ったが最後、飼い殺されてたと思うぜ?」
「確かにね。でも、そこまで理解していながらどうしてギルドは何も対策を取らないの? 弱者を使い潰すようなやり方は、ギルドにとっても不利益でしょう?」
メルシーからすれば心底不思議なのだろう。
不満が滲む声音で、リュミナスを見据えて直球をぶつけた。
「取らないんじゃねぇ、取れねぇんだよ。あんな連中でも、街への貢献度はトップ3に入るんだぜ? そんな連中をその程度のことでつついてみろ、周囲がこぞって擁護に回るだろうさ。だいたい、冒険者界隈なら珍しくもねぇ話だろ」
「それはそうかもしれないけれど……」
「どうしても気に食わねぇなら、冒険者として名を上げてギルドマスターにでもなって、自分の権限が及ぶ範囲をどうにかすれば良い。ま、でも覚えておくこった。クソみてぇな連中でも、犯罪に手を染めない限りは有用なんだ。あいつらの存在があったからこそ守られた村や町、命を救われた人間がいるんだぜ」
リュミナスの重みがある言葉に、口を噤むメルシー。
メルシーの言っていることも間違いではないが、リュミナスの言っていることも正しい。
魔物の脅威というのは常にあるものだからこそ、実力のある冒険者というのはとても貴重なのだ。
人間的には非常によろしくないやつでも、簡単に切り捨てることはできない。
上に立つ者として、その安易な決断がどれだけの被害を生み出しかねないか、十分に理解しているからこその判断なんだろう。
現に、あいつらだって人としては最低な行いをしているが、犯罪に加担している訳ではないのだ。
人間性に難ありというだけで取り締まっていては、それこそ大半以上が対象になってしまうしな。
「最低限の保証かもしれないが、そのためにクランやパーティーの脱退には個人の意思が尊重されるって取り決めがあるんだ。合わないならやめて他所に移ればいい。実力主義の冒険者にはもってこいのルールだろ?」
「……それもそうね。元より自分の腕だけを信じて冒険者を始めたんだもの、いまさら誰かに守ってもらおうと思うのがお門違いよね。ありがとう、目が覚めたわ」
俺の言葉に、自嘲気味に微笑むメルシー。
チッ、仕方ねぇ。
「ま、俺はメルシーの考えが嫌いじゃないぜ? リュミナスも口には出さないが、そう思ってるだろうよ。確かに俺たちは魔物の脅威を退けるために命をかけて働いちゃいるが、それは自分で選んだ道なんだ。それを理由に、威張り散らして弱者を見下すことが許される道理はねぇ。だから、自分の正しいと思ったものを大切にしながら、高みに上って見返してやりゃいいんだ。そうすりゃ、きっと後に続くやつも出て来るんじゃねぇか?」
「……フフ、そうね。アタシはアタシのやり方を貫き通せば良いだけのことよね」
「その意気だ。なに、ああいうやつらにはいずれ天罰が下るもんさ。それこそ、後悔しても遅いくらいの特大なやつがな」
「もし本当にそんなことが起これば、とてもスカッとしそうね。それまでに、代わりを担えるくらいに強くならなきゃ」
何かが吹っ切れたのか、良い笑顔を見せたメルシーはぐっと拳を握ると、強い決意を感じさせる光を瞳に宿らせた。
「……クク。意外と紳士なんだなぁ?」
「どうです、素晴らしい人格者でしょう?」
「ああ、そうかもしれねぇな。少なくとも、そこいらにいる有象無象の男よりかはよっぽど良い男なのは間違いねぇ」
「んな訳ねぇだろ。俺は俺のために行動してるだけだ!」
「フフ……。たとえどういう意図であれ、それでもアタシは嬉しかったわ。ありがとう、ロード」
「ケッ、感謝されるようなことじゃねぇ。ほら、そろそろ休憩は終わりでいいだろ?! 先に進もうぜ!!」
三人は顔を見合わせると、困ったものだとでも言いたげにクスクスと笑い声を漏らす。
くそ、柄にもねぇことするんじゃなかったぜ。
気恥ずかしさをさっさと忘れ去るべく、意識を切り替えると再び下層への道を進み始めた―――。
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