追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~
9話 宿屋の真実
急に恥ずかしくなったのか、妙によそよそしくなったアリスは俺から離れる。
「あー、なんだ……? 素材回収すっか……」
「は、はい……」
顔を真っ赤にしたまま、いそいそと周囲に散らばるミスリル片をマジックバッグへとしまっていくアリス。
普段のあざとさが全くない初々しい反応に、つい可愛いなんて思いかけた俺は慌てて頭を振る。
しかし、我ながらよく倒せたもんだ……。
改めて倒れているミスリルタートルを見て、なんだかとても感慨深くなった。
「ロードさん、きっとこの報告でソロでもA級認定してもらえますよ!」
「そうかぁ……?」
確かに『最強の矛』で目立った戦果のなかった俺は、パーティー単位ではA級認定こそ受けていたものの、個人では未だB級のまま。
今回のことで上がれなかったとしても、いつか本当にA級に認めてもらえる日が来たときには、少しは胸を張っても良いのかもしれないな。
俺だってあいつらに劣るばかりじゃない、ちゃんとやれるんだぞって。
二人分のマジックバッグを使いようやく全てをしまえた俺たちは、大きな達成感に包まれながらブレルへと戻った。
「なんだか様子が変ですね……??」
「やけに静まりかえってるな」
ギルドに入ると、いつもと違いなんだかピリピリとした雰囲気を感じ取った俺たち。
ミーナを見つけ声をかけると、事情を説明してもらった。
「ブレーンスケルトンが進化した可能性が高いだと……?!」
「はい……。街の人にはいつでも避難できるよう準備を進めてもらい、上級冒険者パーティーには国から派遣される騎士団が到着するまでの間、ブレルの防衛についてもらうことになります。ロードさんたちは2人組のパーティーなのでどうなるかわかりませんが、その可能性があることだけは留意しておいてください」
「わかった……」
衝撃的な内容に頭をトンカチでガツンと殴られた感じだが、いつまでも現実逃避してる訳にもいかねぇ。
ひとまずポーション類なんかを補給しておこうと雑貨屋に向かったところ、大量の冒険者が押し掛けていてとてもじゃないが買える雰囲気ではなかった。
「ふふ、良かったですね? 私という回復職がパーティーメンバーにいて」
「ああ、そうだな……。っと、そういやぁアリスはどこに泊まってんだ?」
「私は『天翔』の女子寮にいたので、今日から宿無しです。なので、ちょうど良いですしロードさんのところでお世話になろうかと」
「は……? 何がちょうど良いんだ……??」
「だって、いつブレーンスケルトンが進化した上位種が襲ってくるかわからない訳じゃないですか。それなら、いざというときにすぐに行動を共にできるよう、一緒にいるべきだと思いませんか?」
何かおかしなことを言ってますか? と言いたげにちょこんと首を傾げるアリス。
言ってることは最もなんだ。
最もなんだが、問題は俺が男でお前が女であることなんだよな。
「仕方ねぇ、とりあえずおっさんに空き部屋があるか確認に行くか」
「えー? 私は同じ部屋で構いませんよ? 床で寝させてもらえれば十分ですし。あ、一緒にベッドで寝るのも良いですね」
「何言ってんだお前は……。年頃の女子がそういうこと言うんじゃありません」
「意識しちゃいますか??」
うふふと笑うアリスに一発拳骨を落としたい気持ちを我慢しながら『竜の住処』へと戻った俺に突きつけられたのは、とても無情な宣告だった。
「あー? 空き部屋ぁ? ある訳ねーだろ。お前、何度言やーわかんだ? うちは宿屋じゃねぇ。うまい飯と酒を提供する、お食事処だって言ってんだろうが!!」
「嘘つけよ。なら俺が泊まってる部屋はなんだ!」
「本来ならオレの憩いの場だよっ!! テメェがどうしても泊まりてぇって聞かねぇから、泣く泣く貸してやってんだろうがッッ!!」
「なん……だとっ?!」
「あはは、お父さん無駄だよ。ロードは本気でうちのこと宿屋だと思ってるから。こいつが酒飲むとダメ人間になるの知ってるでしょ?」
呆れた様子のリーエンがおっさんを嗜めてるけど、俺は別にダメ人間にはならねぇからな?!
「つーかよぉ、今はほとんどの宿屋が満室だと思うぜ? 派遣されてくる騎士団にギルド宿舎を提供するとかで、宿舎に泊まってた冒険者たちが宿屋に流れ込んでるって話だからな。空いてたとしても、碌なとこじゃねぇぞ」
「まじか……。なぁリーエン、アリスを泊めてやってくれよ」
「嫌よ」
「なんでだよ?! 女同士だし良いじゃねーか!」
「あのねぇ。別にあたしもアリスが嫌いじゃないわ。良いお友達だと思ってるし、なんなら親友と呼べるまであるわよ」
「ならなんで……」
「さぁね。言いたくないことの1つや2つ、あんたにもあるでしょ? そう言うことよ」
フンっと鼻を鳴らすと、そっぽを向いて立ち去ってしまうリーエン。
なんだあいつ、急に機嫌悪くなりやがって……。
「ま、そう言うことだ。テメェに貸してやってる部屋は離れだし、別に女連れ込んでも文句言わねぇからよ。好きにしな」
そう言うや否や、おっさんも厨房に戻ってしまった。
「だそうですよ? まさかとは思いますが、私に外で寝ろなんて言いませんよね……?」
うるうるとした瞳で、まるで今にも捨てられそうな子犬みたいな表情を浮かべるアリス。
くそ、こいつは本当に……!!
「わかったよ! ただし、寝る部屋は別! 俺が決める細かいルールにも従ってもらうからな?!」
「わかりました!!」
こうして、なぜか俺とアリスは同じ屋根の下で暮らすことになった―――。
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