追放《クビ》から始まる吸血ライフ!~剣も支援も全てが中途半端なコウモリヤローとクビにされたが、実際は底の見えない神スキルだった件~
4話 side最強の矛《ゲイボルグ》2
ブレルS級ダンジョンはブレルから程近い場所にある、最高難度ダンジョンに指定されているもののうちの1つ。
現在調査が完了しているだけでも地下30層まであり、ギルドから『天翔』に依頼されたのは未踏破階層への到達、およびその調査だ。
ギルド幹部からの直接依頼ということもあり失敗が許されない中、『天翔』のクランマスターは満を持してクラン最強戦力を誇る『最強の矛』へレイド――複数のPTでダンジョンやボスの攻略を行うこと――のリーダーへと指名を決めたという経緯がある。
そのため、普段なら下見は子飼のスィエン率いるB級パーティーやロード一人に任せていたところを、マザマージ自らが行うことにしたのである。
とはいえ今日は下見なので地下5層までしか潜らないこと、感触を確かめつつ異常などがないかを確認するのが目的ということもあり、メルシー以外の三人はどこか気が抜けていて余裕そうな雰囲気を纏っていた。
メルシーは一抹の不安を覚えつつも、彼らの実力ゆえの自信だと受け取り、足を引っ張ることがないよう改めて入念に持ち物のチェックなどを行う。
「よし、準備は良いな? 先頭からメルシー、シルストナ、ヒリテス、俺の順番で行くぞ。今日はアリスがいないから、戦闘中は各自持参したポーションで対応。メルシーは慣れないパーティーで緊張しているかもしれないが、ここはS級ダンジョンだ。気を引き締めて、くれぐれも敵の見落としなどがないよう十二分に気をつけてくれ」
「ええ、わかったわ」
メルシーはマザマージの言葉を受け、いつもよりもさらに神経を研ぎ澄ませながら索敵しつつ進んでいく。
半径15m以内の魔物はおろか、天井から滴る水の1滴すらも知覚できている彼女は、超一流の斥候と言えるだけの実力があった。
マザマージたちが少しでもこのダンジョンの感触を掴みやすいよう、手ごろな魔物を見つけては上手く誘導して周囲を囲まれないよう注意しつつ戦闘を重ねることで、着実にダンジョンへと慣らしていく補佐を見事に果たしていく。
だが、そんなことを知る由もないマザマージたちは3層に到達した時点で不満を漏らした。
「なぁ、もう少し早く進めないか? これじゃあ日が暮れちまう」
「慎重なのは良いことだけど、必要以上にピリピリされるとこっちまで疲れるから困るわ」
「あたいもそろそろ焦ったくなってきたから、ささっと進んで早く帰ろうぜ」
目眩がしそうな気持ちをグッと堪え、声を絞り出すメルシー。
「えっと、ここのダンジョンには今日初めて潜るのよね?」
「そうだが?」
「なら、これでも速いくらいのペースよね? いくら『最強の矛』といえど、どんな魔物が出るかはある程度下調べできても、実際の地形や魔物のクセなんかは直接肌で感じないと分からないことも多いでしょう?」
「もちろんそれはそうだが、現に俺たちは一切苦戦することなく相手取れているだろ? つまり、なんら問題はないということだ」
マザマージらは、あくまで自分たちの実力ゆえだと思っている。
実際のところは、メルシーの類まれなセンスによる賜物であるのだが、そんなことは考えもしない。
彼女はマザマージらが戦いやすいであろうポジションや地形などを即座に把握した上で、索敵スキルにより得た情報から最も戦闘に適した地形を選択、そこで戦えるよう上手く敵をおびき寄せているのだが、彼らは彼女がそんな苦労をしているなどと夢にも思っていないのだ。
メルシーは反論しようかどうか迷ったが、事を荒立てて心象を悪くしようものなら、試験にどのような影響を及ぼすかわからないとひとまず彼らの言うことに従うことにした。
そうしてペースをあげた一行は、4層で思いもよらぬ事態に見舞われる。
「おかしいわ。魔物の数が多すぎる。もしかしたら、小規模な魔物の氾濫が起こっているかも知れない」
メルシーは真面目な表情でそう告げた。
魔物の氾濫。
ダンジョン内で時折起こる現象で、通常時よりもはるかに多い魔物で階層が溢れかえっている状態を指す。
どれだけ注意していても戦闘を避けられない状況が増えるため、度重なる戦闘での心身疲弊に加え、襲撃や挟撃といった不測の事態も起こりやすい。
万全の状態ならともかく、回復役が欠けている現状では撤退も視野に入れるべき状況だった。
「ならちょうど良いな。俺たちの真の実力を、その目で見てもらうとしよう」
メルシーの懸念などお構いなしなマザマージは、ニッと不適に笑うとメルシーが止める間も無く駆け出したシルストナに続いて奥へと走っていく。
「何を考えているの?!」
あまりにも考えなしの行動に、思わず追うべきか否か悩むメルシー。
「大丈夫よ。いつものことだから」
淡々と告げたヒリテスもまた、二人の後を追っていってしまった。
流石に一人で来た道を戻るのはリスクが高い上に、無事に地上に戻れたとしても万が一マザマージらに何かあったらと考えたメルシーは、仕方なく後に続く。
だが、追いついた先で見たものはその選択を後悔したくなるような光景だった。
「くそっ! なんだこいつら、戦いづれぇ!」
「ええい、大人しくあたいに殴られな!」
二人はすでに集団で襲い来るスケルトンたちに囲まれていて、まだ4層だと言うのに手も足も出ずに一方的に弄ばれている。
とてもじゃないが、これが巷で噂の『最強の矛』だとは思えなかった。
「マザマージ、シルストナは一度戻って! 体勢を立て直すわ!」
「んなこたぁ言われなくてもわかってるよ!」
「死角ばっかり狙ってきやがって、めんどくさいな!」
ヒリテスの声に反応はするものの、全く包囲網から抜け出せる気配のない二人。
メルシーが迫るスケルトンに応戦しつつ、どうこの状況を打破したものかと悩んでいると、凄まじい熱気を放つ火の槍が前方へと勢いよく飛んでいく。
ヒリテスはしたり顔を浮かべていたが、火槍はあっさりと躱されてしまい擦りもしなかった。
いくら威力が高かろうとも、当たらなければなんの意味も成さない。
「いつもなら当たるのに……! どうして避けるのよ?!」
キーと声を荒げて叫ぶヒリテスの姿に、このままでは全滅すると悟ったメルシー。
「ヒリテス、貴女はマザマージたちの奥にいるスケルトンに向かって火球を放って牽制して! 私は手前をなんとかするから!」
「私に命令しないで!!」
「いいから早く! マザマージたちが死んじゃうわよ?!」
マザマージたちの身体には所々に傷がつき始めていて、メルシーの言うように時間の問題なのはヒリテスの目から見てもすぐに理解できた。
「わかったわよ、やればいいんでしょっ!!」
メルシーはヒリテスが放つ火球に合わせてポーチから取り出したマジックスクロールを開くと、封じられていた氷壁の魔法を解放。
なんとかマザマージたちが抜け出る隙を確保して見せた。
「マザマージ、シルストナ早く!」
「あ、ああ!」
何が起きたか理解できていないマザマージらも、これがこの場を離脱する絶好のチャンスだと言うことだけは理解できたようで、慌てて包囲網を突破してメルシーらに合流。
一目散に地上へ向けて逃げ出すのだった―――。
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