忘却不能な恋煩い
紗世の秘密(2)
美琴の様子を見ながら、紗世は話すなら今かもしれないと決意する。
「美琴ちゃん、今日は私もおしゃべりしてもいいかな」
美琴は目を見開き、口元には隠しきれない笑みが溢れる。
「紗世が自分から話してくれるなんて……うんうん、なんでも聞くよ!」
だから嫌だったんだけどなぁ……紗世は急に照れ臭くなったが、今日は話すと決めて来た。
「すみません! オススメのカクテルください!」
「あっ、私も」
カクテルが手元に置かれると、紗世は一口飲んでから話し始める。
「私ね、大学に入ってすぐね、好きな人が出来たの。だけどそれは絶対に叶わないもので、不毛な恋だっていうことはわかってた。それでも好きな気持ちは少しずつ大きくなって、二年くらい片思いしてたかなぁ」
過去のことを思い出すように、紗世は頬杖をついて目を閉じる。
「その人に恋人が出来たら諦めるって決めていたら、ついにその日が来て。失恋した日は悲しくて寂しくて一人でずっと泣いてた。そうしたらそこにある人が現れて慰めてくれたの。その人も不毛な恋をして苦しそうで、だからお互いを慰めるように一晩中抱き合ったの……」
今思い出してもうっとりするくらい、甘美な夜だった。
しかし美琴の表情は固まっていた。
「……知らなかった」
「誰にも言ってないもの」
「失恋してただなんて……何も知らなくてごめんね」
「ううん、違うの。私の中であの夜が特別で、秘密にしておきたかっただけ」
紗世はにっこり微笑む。
「その人との体の関係はその時だけだったんだけど、それからその人のことが気になって、自然と目で追ったりしちゃうの。だから就職先は同じところがいいなと思って追いかけちゃった」
そこまで話せば美琴にも誰のことかわかった。
「入社してすぐくらいだったかな、彼の不毛な恋も終わりを迎えかけて……」
紗世の表情が曇る。もしかしたら辛い時期だったのだろうか。
「私が彼を支えてあげたいって思ってね、それからずっと一緒に暮らしてる」
紗世の爆弾発言に美琴は開いた口が塞がらなかった。
「付き合うようになったのはニ年くらい前なんだけど」
「……紗世って秘密主義だよね」
「うーん……あまり自分の話が好きじゃないというか、聞いてる方が楽? みたいな」
「もちろん波斗先輩だよね……?」
「もちろん。彼ってかわいいし、しかも天然だし。もうツボに入っちゃって……。まぁ私のこのデレデレっぷりが津山さんにバレちゃったんだけど」
紗世のこんな話を聞いたのは初めてだった。いつもはポーカーフェイスの紗世が、こんなに幸せそうな顔をしている。美琴は友達の新たな一面を知って嬉しくなった。
しかしすぐに紗世は少し申し訳なさそうな表情になる。
「いろいろ言いづらいことが多くて、結果的に秘密にしてた感じになっちゃってごめんね。付き合ったタイミングで報告すれば良かったんだけど……」
「まぁ紗世らしいというか……。いきなり結婚とかだったらびっくりだったけど」
「うふふ。その時はちゃんと報告するから」
その時か。否定しないということは、そういう話も出ているのだろうか。
波斗先輩は大学時代もかなりモテていたが、紗世はそんな素振りを見せたことがなかったから、二人が付き合っていると聞いて少し意外だった。
あの頃は波斗先輩のモテっぷりを冷静に観察、分析しては、波斗先輩を困惑させるという不思議な掛け合いを見せていたが、よく考えたら二人とも雰囲気が似ていて、会話もいつも自然な流れだった。
それより二人とも美男美女だから、目の保養になる。
「あとは山脇さんときちんと別れられればスッキリするのにね。まぁ津山さんはいろいろ考えているみたいだし、美琴も一人で考え込まないで、いっぱい甘えていいと思うよ」
「そうだね……」
この問題を解決しないと前に進まないことはわかっているが、一人じゃないと思えるのは心強い。
ただ、尋人は今じゃないと言った。ならばいつになるのだろう。
なかなか進展しないな……。
「そういえば波くんが心配してたんだけど、波くんの高校の先輩ということは……」
美琴はあることを思い出す。つい話にのめり込みすぎてしまった。何故忘れていたのだろう。
「お兄ちゃんも同じ高校だ……」
「しかも健先輩、高校時代かなりヤンチャで生徒会に目をつけられてたらしいの。まぁ大丈夫だと思うけど、一応伝えた方がいいかなと思って」
「うん、ありがとう」
想定外の人物の登場に心が乱される。美琴の心に心配のタネが一つ生まれたことは確かだった。
「美琴ちゃん、今日は私もおしゃべりしてもいいかな」
美琴は目を見開き、口元には隠しきれない笑みが溢れる。
「紗世が自分から話してくれるなんて……うんうん、なんでも聞くよ!」
だから嫌だったんだけどなぁ……紗世は急に照れ臭くなったが、今日は話すと決めて来た。
「すみません! オススメのカクテルください!」
「あっ、私も」
カクテルが手元に置かれると、紗世は一口飲んでから話し始める。
「私ね、大学に入ってすぐね、好きな人が出来たの。だけどそれは絶対に叶わないもので、不毛な恋だっていうことはわかってた。それでも好きな気持ちは少しずつ大きくなって、二年くらい片思いしてたかなぁ」
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「その人に恋人が出来たら諦めるって決めていたら、ついにその日が来て。失恋した日は悲しくて寂しくて一人でずっと泣いてた。そうしたらそこにある人が現れて慰めてくれたの。その人も不毛な恋をして苦しそうで、だからお互いを慰めるように一晩中抱き合ったの……」
今思い出してもうっとりするくらい、甘美な夜だった。
しかし美琴の表情は固まっていた。
「……知らなかった」
「誰にも言ってないもの」
「失恋してただなんて……何も知らなくてごめんね」
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紗世はにっこり微笑む。
「その人との体の関係はその時だけだったんだけど、それからその人のことが気になって、自然と目で追ったりしちゃうの。だから就職先は同じところがいいなと思って追いかけちゃった」
そこまで話せば美琴にも誰のことかわかった。
「入社してすぐくらいだったかな、彼の不毛な恋も終わりを迎えかけて……」
紗世の表情が曇る。もしかしたら辛い時期だったのだろうか。
「私が彼を支えてあげたいって思ってね、それからずっと一緒に暮らしてる」
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「付き合うようになったのはニ年くらい前なんだけど」
「……紗世って秘密主義だよね」
「うーん……あまり自分の話が好きじゃないというか、聞いてる方が楽? みたいな」
「もちろん波斗先輩だよね……?」
「もちろん。彼ってかわいいし、しかも天然だし。もうツボに入っちゃって……。まぁ私のこのデレデレっぷりが津山さんにバレちゃったんだけど」
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しかしすぐに紗世は少し申し訳なさそうな表情になる。
「いろいろ言いづらいことが多くて、結果的に秘密にしてた感じになっちゃってごめんね。付き合ったタイミングで報告すれば良かったんだけど……」
「まぁ紗世らしいというか……。いきなり結婚とかだったらびっくりだったけど」
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その時か。否定しないということは、そういう話も出ているのだろうか。
波斗先輩は大学時代もかなりモテていたが、紗世はそんな素振りを見せたことがなかったから、二人が付き合っていると聞いて少し意外だった。
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