霧の中に悪魔がいる
人とは。悪魔とは。(9)
倒れた拍子に座禅が崩れ、足が、だらんと伸びる。
郷珠は、仰向けのまま合掌を続けている。
足が動く。
右足首を左足の膝の上に乗せた。
おそらく、座禅を組もうとしたのだろう。
私は、その郷珠の焼身する姿に、これまで生きてきた中で何よりも恐怖を感じていた。
この壊れそうに動揺する思考。
脳が何かに例えようとするも、この光景に当てはまる言葉が出てこない。
名称の無い光景を脳はただ強い恐怖として捉える。
いや、恐怖を超えて、畏怖すら感じる。
郷珠のただじっと祈り続ける神妙な静寂した姿に、美しささえ感じる。
仏を目の当たりにしているかのようで、私は、はわはわと鳥肌が立つ。
灯油が広がるにしたがって、炎の燃える範囲も広がる。
火柱の高さが半分になった。
妻の目に、炎がぐらぐらと映っている。
魂が抜けたように茫然と座る妻は、ただ、その炎を見ていた。
郷珠は炎の中で真っ黒になり、焦げ朽ちた。
ふと気が付いた。
無意識のうちに、私は、朽ちた郷珠に深く頭を下げて、最敬礼していた。
郷珠を生贄にして、妻と逃げようとしていた。
その愚かな考えが、頭の中で私を責め、苛まれる。
老婆は、分厚い本を両手で広げているが、その両手はがたがと大きく震えている。
郷珠は、仰向けのまま合掌を続けている。
足が動く。
右足首を左足の膝の上に乗せた。
おそらく、座禅を組もうとしたのだろう。
私は、その郷珠の焼身する姿に、これまで生きてきた中で何よりも恐怖を感じていた。
この壊れそうに動揺する思考。
脳が何かに例えようとするも、この光景に当てはまる言葉が出てこない。
名称の無い光景を脳はただ強い恐怖として捉える。
いや、恐怖を超えて、畏怖すら感じる。
郷珠のただじっと祈り続ける神妙な静寂した姿に、美しささえ感じる。
仏を目の当たりにしているかのようで、私は、はわはわと鳥肌が立つ。
灯油が広がるにしたがって、炎の燃える範囲も広がる。
火柱の高さが半分になった。
妻の目に、炎がぐらぐらと映っている。
魂が抜けたように茫然と座る妻は、ただ、その炎を見ていた。
郷珠は炎の中で真っ黒になり、焦げ朽ちた。
ふと気が付いた。
無意識のうちに、私は、朽ちた郷珠に深く頭を下げて、最敬礼していた。
郷珠を生贄にして、妻と逃げようとしていた。
その愚かな考えが、頭の中で私を責め、苛まれる。
老婆は、分厚い本を両手で広げているが、その両手はがたがと大きく震えている。
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