霧の中に悪魔がいる

full moon

人とは。悪魔とは。(7)

郷珠は、出入り口へ歩きながら、小さく息を吸う。

「悪魔に少しでも人の心が残っている事を願いたい」

郷珠は、歩きながら、言った。

その郷珠の背中は迷いが無く、声は道念を悟すように穏やかだった。

郷珠は、出入り口に着くと、扉を開けた。

たちまち、白い霧が店内に入り込む。

郷珠は、白杖とランタンを同じ手に持ち、もう片方の手で、灯油タンクを持ち上げた。

白杖を突きながら、外に出た。

霧の中で、郷珠の姿が朧げに見える。

扉は、開いたままになっている。

郷珠は、出入り口先で、静かにしゃがみ、座禅を組んだ。

今まで手放さなかった白杖を地面に置いた。

「悪魔よ。悪魔とは何か。無常なものに善悪をいだき、無我なものに我をいだくものを悪魔という」

その時だった。

郷珠は、灯油を自らの頭から、かけ始めた。

私は驚倒して、思わず、言葉を失う。

郷珠の体はぎとぎとした灯油まみれになる。

二つの灯油タンクをかけ終えた。

郷珠の着衣も灯油を染み込ませて、濡れた色になる。

座禅を組んだ足の重なった部分には、灯油が溜まる。

郷珠の周囲も、水溜りのように灯油が広がっている。

次の瞬間。

郷珠は、ランタンを頭上に持ち上げた。

そして、ランタンを頭に打ち付けた。

ランタンのケースが割れて、ランタンの灯火が郷珠に触れる。

「霧の中に悪魔がいる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ホラー」の人気作品

コメント

コメントを書く