霧の中に悪魔がいる

full moon

人とは。悪魔とは。(5)

右の壁際には、割れたウイスキーの瓶の破片が散らばり、ウイスキーで床が濡れている。

そのウイスキーは、誰かによって、壁へ投げ飛ばされたのだろう。

食器棚に並ぶ食器は、綺麗に重なり、汚れ一つ無い。

床は、一部分だけ、空き巣が入ったようになっているが、ごみ一つ落ちていない。

部屋の奥に、一つ、扉があった。

私は一歩ずつ、歩みを進めて、その扉に近づいた。

扉は、僅かに開いていた。

もしかしたら、空き巣の犯人が居るかもしれない。

いや、悪魔が入って、部屋を荒らしたのかもしれない。

私の頭は様々な想像をした。

どちらにしても、部屋は荒れていた。

危害を与えてくる悪い何かに違いない。

私は、息を呑み、その扉を開けた。

しかし、そこには、誰も居なかった。

小さな書斎が在った。

書斎は窓一つ無く、薄暗くて重苦しい。

書斎に踏み入れる。

書斎の机の上には、一枚の紙が置かれている。

その紙には、隙間を埋めるように文字が書き記してあった。

・朝七時に起床して、俺の飯を作る事。
・お前は俺の指示に従う事。
・俺が怒ったら、喜ぶ事。
・お前は至らないと自覚する事。
・俺がお前の為にしている事を常に自覚して、感謝する事。
・お前が駄目だから、俺が教えてあげている事を常に自覚して、感謝する事。
・俺からのメールは、すぐに返す事。
・食事の品は三つ以上。
・俺の欲を満たす事に喜びを感じる事。

まだまだ書かれている。

その常軌を逸した内容に、私の顔が引き攣る。

「ここはなんだ」

私は呟いた。

かさかさと息が漏れた声に、恐怖の色が混ざる。

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