霧の中に悪魔がいる

full moon

夜の息づかい(17)

画面が切り替わる。

廊下を歩く男性。

ランタンの明かりが漏れる牢屋に着いた。

その牢屋には、誰も居なかった。

ぐるる。

犬の威嚇する声が聞こえて、男性は左を見る。

そこには、大型犬が居た。

私は全力で廊下を走って逃げる。

あと少しでシャッターの所で、足を滑らせて転倒した。

その男性に犬は飛びかかり、男性の首に噛み付く。

それを見て、皆は大笑いしている。

「いやー!」

突然、田堂の母が叫んだ。

叫び声は悲鳴にも似ている。

田堂の母へ目線を向けた時、私の全身をふわっとした空気に包まれる。

その瞬間、視界はまた違った光景を映した。

眠っていたようだ。

私は上体を起こし、周囲を見た。

元の店内に戻っている。

「ねぇ、どうしたの? ねぇ!」

田堂の母が、息子の体を揺すっている。

息子は目が突出して、呼吸をしようにも何か詰まっていて出来ない。

顔は赤く、唇は青白い。

「早く、テープを剥がしてください!」

篠生は、田堂の母に言う。

「ならぬ! 声を上げれば、悪魔が集まる」

老婆は阻止しようとする。

田堂の母は混乱して呼吸が荒い。

「ぼ、僕だって。僕だって、医者なんだ!」

篠生はそう言って、田堂の息子へ駆け寄る。

篠生は田堂の息子の口を塞ぐテープを取った。

田堂の息子は、舌は垂れ下がり、よだれが流れる。

喉を詰まらせて、呼吸の循環が出来ていない。

「横に寝かせます」

篠生は言う。

「そう言って、あたしの息子を殺そうとしているのね! あたしの息子には一本も触れさせないわ」

田堂の母は篠生の前に立ちはだかる。

見る見るうちに、田堂の息子の状態が悪化していく。

遂には、田堂の息子の全身が、大きく痙攣を起こし始めた。

痙攣により、車椅子が大きく揺れ動く。

その揺れに車椅子の車輪が耐えている。

次の瞬間、田堂の息子の痙攣が、ぴたっと、止まった。

先程までの激しい動きが止まり、静けさが広がる。

静けさの中で、私の不穏な心音が体を揺らす。

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