霧の中に悪魔がいる

full moon

夜の息づかい(14)

 もう間もなく、日付が変わろうとしていた。

皆は疲れ果て、目が、うつろになっている。

私もその一人だ。

悪魔は人の姿のまま、死んでいた。

妻は娘と体を寄せて眠っている。

老婆も頭をこくりこくりとして、まどろみにいる。

田堂の親子もまどろみに入り、いつ寝ても良いだろう。

皆が、まどろみにある状態を見て、私は不思議な安心感を覚えた。

何だろうか。

私は気が付いた。

悪魔に恐れているのではなく、人に恐れていた。

助かりたいと願う思いが交錯している。

しかし、寝ている時だけは、人は同じ様子になる。

そう考えているうちに、私の視界も、まどろみに溺れていった。

 目を開くと、私は、厨房に居た。

「お父さん、助けて」

厨房にあるシャッターの向こう側から娘の声がする。

私は、シャッターを開けようと試みるがびくともしない。

「今開けるからな、待っていろ」

私は屈んで、腰に力を入れ、全力でシャッターを持ち上げる。

少しずつ開いていく。

半分程、シャッターが持ち上がると上体を上げて上へ押し上げる。

シャッターが開いた。

このシャッターは納品された食材の搬入場所だと思っていた。

しかし、シャッターの向こう側には、施設が続いていた。

薄暗い廊下。

湿気が充満した、むさ苦しい空間。

時折、天井から結露が滴る。

その廊下は真っ直ぐに続き、窓は一つも無い。

廊下の左右には、鉄格子で仕切られた部屋が連なっている。

私は廊下へと足を踏み入れた。

ゆっくり歩いていく。

まるで、牢獄を見ているかのようだった。

鉄格子の中に目を凝らす。

床に、注射器が転がっている。

奥の鉄格子の中を見る。

何も無い。

更に奥の鉄格子の中を見た。

何も無い。

いや、視界に何か映った。

部屋の片隅に固まっている何やら動物が居た。

目を凝らす。

そこには、幼い子供が数人見えた。

身を寄せ合っている。

視線を子供達の足元に向けると、その子供達の下にも子供達が居た。

部屋の床には、体を密着させている子供達が大勢居る。

糸を通す隙間も無い程に密着し、まるで子供達の絨毯だった。

見渡すも、そこに娘は居ない。

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