霧の中に悪魔がいる
ミコトバの乳(12)
客の皆の視線を感じる。
「教えてください」
私は言う。
配達員は客の皆が居る方向へ視線を向ける。
客の皆の視線が配達員に集中している。
「外はどうなっているのですか?」
私は訊ねる。
「見ての通り、濃い霧が出ているだけですよ」
配達員は答える。
「しかし、ニュースでも悪魔が町を破壊している報道がされていました」
「頭おかしいんじゃないですか? この店へ配達に町から出発した時も、いつも通りの町でしたよ」
配達員は答える。
けほけほと配達員は空咳する。
「濃霧は? 霧はこんなに続くのですか?」
私は続けて質問する。
「濃い霧が発生しやすい山なんですよ。ただ、今日の霧は珍しいですね。運転が出来なくなる程に濃い霧でした」
配達員は答える。
「悪魔を見た事は無いのですか?」
私は訊ねる。
配達員は大きく溜め息をつく。
「見た事ありませんよ。いや、あなた方が悪魔に見える」
配達員は答える。
「わかりました。一つお願いがあります。もし、外に出れるならばこのロープを解くので、人を呼んできて欲しい。誰でも構いません。大勢の人が来れば、悪魔が居ない事が証明出来るかもと思っています」
私は神妙な面持ちで言う。
「この霧だから、車を使うのは難しいかもしれないけど、やってみます」
配達員は小さく頷いて答える。
私は手足を固く縛られたロープを解いていく。
両手を縛っていたロープが解かれる。
配達員は、手首に食い込んだロープの跡をさすっている。
「おいおい、何しているんだ」
老父は大きな声で言う。
その声を聞きつけた老婆は、お手洗いから荒れた足取りで出てきた。
客の皆が私に視線を向ける。
「この者に助けをお願いします」
私は配達員の足を拘束しているロープを外しながら言う。
「ならぬ!」
老婆は恐ろしい剣幕で近づいてくる。
ロープが解かれる。
配達員は拘束から解放された。
私は配達員に一つ頷く。
その合図を受け取るように、配達員も一つ頷く。
配達員は、立ち上がる。
老父も近づいてくる。
「開けてはならぬ!」
老婆は怒鳴る。
「霧を中に入れるな!」
老父も怒鳴る。
その怒号から逃げるように、配達員は出入り口から外へ出た。
私は、小さく安堵する。
老婆と老父はその場に立ち止まり、何も話さない。
老婆は瞳を左右に大きく動かして、そわそわしているように見える。
老父はその場で腕を組んでいる。
老婆と老父は私の目の前に立ち塞がっている。
老婆と老父の攻撃的な圧力を感じ、動く事も出来ない。
妻と娘の元へ戻る事も出来ない。
早く、妻と娘の元へ戻りたい。
その時だった。
「うわっ! 誰だ、止めてくれ! 助けてくれー」
レストランの外から叫び声が聞こえた。
それは紛れも無く、配達員の声だった。
「くそっ! いっぱい居る。触れるな! 近づいてくるな」
配達員の声がレストランに反響した。
そして、それ以降、配達員の声を聞く事は無かった。
「教えてください」
私は言う。
配達員は客の皆が居る方向へ視線を向ける。
客の皆の視線が配達員に集中している。
「外はどうなっているのですか?」
私は訊ねる。
「見ての通り、濃い霧が出ているだけですよ」
配達員は答える。
「しかし、ニュースでも悪魔が町を破壊している報道がされていました」
「頭おかしいんじゃないですか? この店へ配達に町から出発した時も、いつも通りの町でしたよ」
配達員は答える。
けほけほと配達員は空咳する。
「濃霧は? 霧はこんなに続くのですか?」
私は続けて質問する。
「濃い霧が発生しやすい山なんですよ。ただ、今日の霧は珍しいですね。運転が出来なくなる程に濃い霧でした」
配達員は答える。
「悪魔を見た事は無いのですか?」
私は訊ねる。
配達員は大きく溜め息をつく。
「見た事ありませんよ。いや、あなた方が悪魔に見える」
配達員は答える。
「わかりました。一つお願いがあります。もし、外に出れるならばこのロープを解くので、人を呼んできて欲しい。誰でも構いません。大勢の人が来れば、悪魔が居ない事が証明出来るかもと思っています」
私は神妙な面持ちで言う。
「この霧だから、車を使うのは難しいかもしれないけど、やってみます」
配達員は小さく頷いて答える。
私は手足を固く縛られたロープを解いていく。
両手を縛っていたロープが解かれる。
配達員は、手首に食い込んだロープの跡をさすっている。
「おいおい、何しているんだ」
老父は大きな声で言う。
その声を聞きつけた老婆は、お手洗いから荒れた足取りで出てきた。
客の皆が私に視線を向ける。
「この者に助けをお願いします」
私は配達員の足を拘束しているロープを外しながら言う。
「ならぬ!」
老婆は恐ろしい剣幕で近づいてくる。
ロープが解かれる。
配達員は拘束から解放された。
私は配達員に一つ頷く。
その合図を受け取るように、配達員も一つ頷く。
配達員は、立ち上がる。
老父も近づいてくる。
「開けてはならぬ!」
老婆は怒鳴る。
「霧を中に入れるな!」
老父も怒鳴る。
その怒号から逃げるように、配達員は出入り口から外へ出た。
私は、小さく安堵する。
老婆と老父はその場に立ち止まり、何も話さない。
老婆は瞳を左右に大きく動かして、そわそわしているように見える。
老父はその場で腕を組んでいる。
老婆と老父は私の目の前に立ち塞がっている。
老婆と老父の攻撃的な圧力を感じ、動く事も出来ない。
妻と娘の元へ戻る事も出来ない。
早く、妻と娘の元へ戻りたい。
その時だった。
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レストランの外から叫び声が聞こえた。
それは紛れも無く、配達員の声だった。
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そして、それ以降、配達員の声を聞く事は無かった。
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