霧の中に悪魔がいる

full moon

ミコトバの乳(7)

 その時だった。

レストランの出入り口の扉が開いた。

「お届け物です。凄い濃霧ですねー」

配達員のような容姿の男性が入ってきた。

その扉の開閉で、沢山の濃霧が入り込む。

配達員は両手で観葉植物の育った鉢を持っている。

ギターの演奏は止まり、客の皆は配達員に視線を向けた。

「すみません。お届け物ですー」

配達員は再び厨房へ声をかけて、手元の伝票に目を通す。

配達員はふと店内をちらりと見た。

「え?」

配達員は店内に顔を向けて動作を止めた。

鋭い視線が配達員を刺す。

配達員は顔をそらす。

「人が集まっていましたし、何かあったんですかー?」

配達員は再び厨房へ声をかける。

「おい! 外はどうなっているんだ?」

老父は立ち上がり、配達員に怒鳴りつける。

「え? どうもこうも、凄い霧ですよ」

配達員は、きょとんとした表情で答える。

「そうじゃない! 悪魔だよ。町はどうなってるんだ」

老父は血相を変えて激しい口調で言う。

「この濃霧の中、運転してきたのかい?」

老婆は畳み掛けるように配達員をぎろっと見て言う。

「え? あ、伝票はここに置いておきますねー」

配達員は逃げるように店外へ出ようとする。

「外に出してはいけません!」

それを見た老婆は叫んだ。

老婆の言葉を聞いた老父は配達員に駆けつける。

そして、老父は配達員を掴みかかる。

老父は配達員を客の皆が集まる噴水へ連れてきた。

老父の隣に配達員は座る。

「外は危険だ。今や、外は悪魔の巣宮と地界は繋がった」

老婆は語る。

「そういう事だ。運転してきたから気付かなかったのかもしれないが、良かったな、ここまで無事で」

老父は、にこっとして言う。

配達員は一つ笑みを返す。

その笑みは引き攣っている。

「皆、よく聞くがよい。霧に触れたこいつは、じき、悪魔になる」

老婆は神妙な口調で言う。

それを聞いた老父は配達員から小さく距離を取る。

「おい、外に出すなって言ったのは婆さんだろ?」

老父は言う。

老父の額に冷や汗が見える。

「外に出してしまっては、ここに居る事が悪魔に、ばれてしまうではないか」

老婆は言う。

老父は言葉を詰まらせる。

「こいつを椅子に縛りつけよ。さもなくば、こいつに、皆、食い殺される」

コメント

コメントを書く

「ホラー」の人気作品

書籍化作品