同期の御曹司様は浮気がお嫌い

秋葉なな

溺愛御曹司は大胆な恋人がお好き

◇◇◇◇◇



優磨くんが家に来なくなった。
あれだけ毎日欠かさず来ていたのに、さすがに変わらない愛なんて証明する方法がなくて困っているのだろう。
来ないでと言ったのは私なのに、優磨くんに会えない日々が辛いと感じて自分が嫌になる。

ピリリリリリリリ

着信音にスマートフォンの画面を見ると、意外な人からの電話で目を見開いた。

「もしもし……」

「波瑠ちゃーん! 元気してたー?」

あまりにテンションの高い大声に思わずスマートフォンを耳から離してしまった。

「美麗さん……お久しぶりです……」

「今ね、波瑠ちゃんの部屋に向かってるの」

「え!?」

「もうすぐ着くから待っててねー」

「え? ちょっと! ダメです!」

拒否したのに通話は勝手に切れている。
この部屋を美麗さんにだって見られたくなくて慌ててマンションの外に出た。
するとちょうど駐車場に車が入ってきた。

「ね、すぐ着いたでしょ?」

後部座席の窓を開けて顔を出した美麗さんに「だから早いんですって……」と呆れた声を向けた。

「今日はどうされました?」

「波瑠ちゃん乗って。優磨が大変なの」

「え!? どうしたんですか?」

「行きながら話すから乗って」

美麗さんに促されるまま後部座席に乗ると、運転席には泉さんが座っている。

車が動き出すと美麗さんは「優磨が結婚するの」と言った。

「え!?」

「今チャペルにいるの。すぐに行けば間に合うかもしれない」

「間に合うって?」

「優磨の結婚式を止めるの」

「ええ!?」

「美麗は波瑠ちゃんと結婚してほしいの。他の女は認めない」

「でも……」

優磨くんが結婚するということは、相手はどこかのご令嬢だろう。一度断ったというお見合い写真の女性かもしれない。
親の決めた相手との結婚を私が止めるということ?

「美麗さん、優磨くんがその人を選んだのなら私には止められません」

「波瑠ちゃんはそれでいいの? 優磨が他の女と結婚して波瑠ちゃんは嫌じゃないの?」

「嫌に決まってます!」

「なら……」

「でも決めるのは優磨くんですから……」

私を愛してると言ったのに他の人と結婚してしまうのだ。私に会いに来ないのも他の人と結婚を決めたからなんだ。優磨くんと別れたばかりですぐに彼氏を作る私よりも、元々決まっていた人を選んだ、ただそれだけだ。

「優磨が望んでいなくても?」

「え?」

「優磨はお見合いも政略結婚もずっと嫌がってたの。波瑠ちゃんが大事だから。でもパパに無理矢理結婚式をさせられちゃう。それでもいい?」

「でも……私優磨くんに相応しくないんです……」

「それを決めるのは優磨なの!!」

美麗さんは突然大声を出した。

「優磨はパパに波瑠ちゃん以外を愛せないって言ったの! たとえ無理矢理結婚させられても後継者を作るつもりはないし、波瑠ちゃん以外の女とは寝ないって言ったんだよ!」

「うそ……」

「嘘じゃない! でも城藤は政略結婚が当たり前だから優磨が拒否してもダメなの! だから波瑠ちゃんが優磨を助けて!」

「え……え?」

「今からぶち壊しに行くの。結婚式に乗り込んで優磨を攫う」

開いた口が塞がらない。そんなことできるわけがない。

「無理です……城藤財閥の結婚式をぶち壊す? そんな恐ろしいことできません……」

「覚悟があればできる」

美麗さんは今まで見たことのない真剣な顔で私を見つめる。こんな時に限って泉さんは美麗さんを止めることなく静かに運転し続ける。

「波瑠ちゃんが優磨のことを愛してるなら助けてほしい」

「っ……」

できるだろうか。私に優磨くんを助けられる?

「波瑠ちゃんを愛してるのに、違う女と結婚しちゃう……美麗は優磨に幸せになってほしいのに、美麗には優磨を助ける力がないの」

美麗さんは切ない表情を見せる。それは優磨くんに似てとても美しかった。

優磨くんが結婚してしまったら、もう私に会ってはくれなくなる。触れてくれない。笑いかけてくれない。ずっと愛すると言ってくれたその証明はできないまま、結局は離れていく。

そんなの耐えられる気がしない。

「優磨くんを取り戻します……」

「ありがとう」

美麗さんの目から頬に涙が伝った。





「ここだよね泉ちゃん?」

「ちゃん付けしないでください。このチャペルに優磨さんはいます」

連れてこられたのはどこかのリゾート地だ。目の前には白っぽいレンガで作られたチャペルが建つ。花のアーチをくぐると目の前には花畑が広がり、噴水の水が数メートルの高さに吹き上がっている。

正面の扉を開けると広いホールのさらに奥に大きな木の扉がある。開けるのを躊躇うほど綺麗な装飾が施されている。

「まさに今この扉の向こうに優磨がいる」

美麗さんの声は何故か面白がっているようだ。

「波瑠ちゃん覚悟はいい?」

覚悟なんてない。この扉を開けたら大勢の参列者がいる。一番奥にはタキシードを着た優磨くんがいる。そしてその横にはウエディングドレスを着た花嫁がいるのだ。その人から優磨くんを奪う覚悟なんてできていない。

このまま扉を開けたらどうしたらいい? 優磨くんのところまで駆けて手を引いて逃げればいいのか。それとも「結婚しないで」と叫べばいいか。
奪ったらどうすればいい? 走って逃げてそのあとは? 優磨くんは城藤での信用を失うのではないだろうか。困らせることになるのでは。そもそも、優磨くんは私と一緒に逃げてくれるのだろうか。

怖くて堪らない。それでも、優磨くんが知らない人と結婚してしまうなんて絶対に嫌だ。

「レッツ! ぶち壊せ!」

美麗さんの声に私は豪華な装飾の扉を思いっきり押した。

キィィィ

扉が開くと明るい光がチャペルの中を照らしている。


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