同期の御曹司様は浮気がお嫌い
7
「ごめん……がっつきすぎたね……」
「違うの……あの……ごめんなさい……」
思わず謝ってしまう。優磨くんにとても悪いことをしているような気持ちになる。
「最近やっぱりおかしいよね?」
「あのね……」
「波瑠……これどうしたの?」
「え?」
優磨くんは私の首にかかる髪を手で持ち上げた。
「あ!」
「これ何?」
優磨くんは目を見開いた。首の痣が見えてしまったのだろう。
「だめ!」
私は首に手を当て痣を隠して下を向く。優磨くんの顔がまともに見られない。
「どういうこと? それってさ……蚊に刺されたとかじゃないよね?」
困惑した声が私の胸に刺さるようだ。
「ねえ、それ俺がつけたものじゃないよ?」
「あの……これは……」
ピリリリリリリ
リビングに置いたカバンの中から着信音が聞こえる。下田くんかもしれない。
着信を切ろうと優磨くんから離れて足を踏み出すと、優磨くんの手が私の肩を掴んで体を壁に押し付けた。逃げられないように私の体の左右に手をつく。
「っ!」
普段の優磨くんからは考えられない行動に私の体は凍りついたように動かなくなる。
「行くな」
その怒りを含んだ低い声に息を呑んだ。
「説明して。その痣は何?」
「あ……」
冷たい目を向けられる。何度か怒ったところを見てきたけれど、今が一番怖い。
身動きが取れないでいるうちに着信音が途切れた。
「俺がいない間に何してたの?」
「し、仕事……今日出勤日だから……」
「じゃあこの付けられたばかりのキスマークは何?」
下田くんに付けられただなんて言ったら増々怒り狂うだろう。
「最近の波瑠は変なんだよ。いい加減その理由を説明して。どうしてスマホを気にするの? 誰と連絡とってるの?」
優磨くんに黙ったままでいられる段階じゃない。言わなければ。
「……っ」
それなのに言葉が出ない。優磨くんの目が今までにないほど怖くて、そんな目を向けられていることに怯える。吐き気を感じ始めた。
優磨くんは無言の私に苛立ちを募らせたようだ。
「何があったの? トイレにもお風呂にもスマホを持っていくし、ぼーっとしてる」
「実は私……」
ピリリリリリリ
またも着信音が響く。
今度は優磨くんが私から離れリビングに向かう。足音をドンドンと立て機嫌が悪いことがわかるように。
「どうして下田から電話がかかってくるの? もう別れてるんだよね?」
優磨くんは私のスマートフォンを顔の高さまで掲げて睨む。
「私下田くんに……」
話そうとすると優磨くんは手を上げて私を制するから何も言えなくなった。
優磨くんの指が画面をタップした。スピーカーになったのか着信音が大きくなる。もう一度画面をタップすると「おい、無視するなって」と下田くんの声が部屋に響いた。
「………」
優磨くんは無表情のまま何も言わずスマートフォンを見つめている。
「波瑠? おーい……」
下田くんは優磨くんが聞いているとも知らずにいつも通り呑気に私の名を呼ぶ。
「聞いてる? また昨日のわけわかんねー女が出たんじゃないだろうな? もう家に着いた? そばに優磨いる? なあ、俺とキスした後に優磨ともキスできんの? 首のが消えるまでヤれねーな」
鳥肌が立った。下田くんがそんなことを言ったら増々勘違いされる。
優磨くんは通話を切った。
「下田と別れてなかったんだ」
「別れたよ! でも……」
「俺に隠れて会ってたんでしょ?」
「理由があって……」
「下田とヤったんだね」
「違う!」
「嘘つかなくてもいいって。キスマークつけておいて説得力ないよ」
優磨くんは私に口を挟む隙を与えてくれない。
胸が苦しい。息がしづらい。
「波瑠」
冷たい声で名を呼ばれた。
「いつ下田とよりが戻ったの?」
「違う! 戻ってない!」
優磨くんは「嘘だ」と苦しそうに呟いた。
「まだ下田が好きなんだ? だからさっきも俺のキスを拒否したの?」
「私が好きなのは優磨くんだから! 嘘なんかじゃない!」
裏切るわけがない。不貞行為が嫌いな優磨くんが傷つくことをしたりしない。
「ちがうの……説明するから……聞いて……」
涙がポロポロと零れ落ちる。
「俺のいない間にいつも下田と会ってたの? 波瑠に夢中な俺を二人でバカにしてた?」
「ちがっ……聞い、てっ」
息ができない。言わなきゃいけないのに。ちゃんと優磨くんに助けを求めたい。
「ごめ……ごめんなさいっ……」
不安にさせてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。
「波瑠はいつも俺に謝る……そんなに悪いと思うことをしてるの?」
「っ……はっ……」
苦しい。過呼吸で言葉が出ない。
違う、と首を左右に振る。声が出ないから必死で訴える。
そうじゃない。優磨くんの嫌がることなんて絶対にしない。
「それなのにいつまでも俺の部屋にいて……結局波瑠も他の女と一緒……俺の金目当てで利用するんだ……」
めまいがするほど首を振る。
足に力が入らなくなり床に座り込んだ。
「好きじゃないなら俺のそばに居ないでいいから」
「っ……はぁっ……」
必死で息をする。どうか声が出てと願う。
「付き合ってた子に二股かけられてたのは初めてじゃないし……俺には金以外の価値はないって知ってるから」
「そんなっ……こと……」
「でも……波瑠だけは真っ白で……純粋なまま……俺の全部を愛してくれると思ったのに……」
急に優磨くんが玄関に向かってしまう。咄嗟に動けず、少し遅れて立ち上がると優磨くんを追う。
「っ……」
苦しい。足がもつれる。うまく歩けない。
「まっ……待って!!」
叫んだ先にはもう優磨くんはいなかった。カチャリと玄関のドアが閉まり、私は壁に寄りかかる。
「はぁ……うっ……」
必死に息をする。早く呼吸を整えて誤解を解かないと。優磨くんは今傷ついている。本当のことを言うんだ。
足に力を込めて部屋を飛び出した。
マンションの下には優磨くんの姿はなくて、駐車スペースに行くと車がなかった。
彼は私の前からいなくなってしまった。
一晩たっても優磨くんは帰ってこなかった。
何度電話してみても出てくれないしLINEも既読にならない。
誤解を解く機会も与えられないまま、広すぎる部屋で優磨くんの帰りを待っている。
きっと今日も仕事に行っているはず。夜にはいつも通り帰ってきてくれるよね?
けれど日が落ちても夜中になっても優磨くんは帰ってこなかった。
着信音が聞こえると優磨くんかと思って急いでスマートフォンを手に取る。けれど『下田浩二』の文字を見てめまいがする。そのまま下田くんを着信拒否に設定する。アドレス帳から下田くんを完全に削除した。
それでも問題が解決したわけではない。LINEをブロックしてしまうと彼がどんな行動に出るかわからないからできない。
私には大きすぎるベッドに寂しく横になると涙が出てきた。優磨くんのぬくもりを求めるようにシーツを握る。
自分が今までどれだけ優磨くんに依存していたか思い知る。いなくなって初めて存在の大きさに気付く。
私たちはこのまま終わりなのだろうか。優磨くんと離れたら私はまたボロボロになる。
◇◇◇◇◇
『うまく言葉にできないのでLINEします。下田くんに不倫した過去をばらすと脅されてお金を要求されていました。だから優磨くんには言えませんでした。ごめんなさい。話がしたいので帰ってきてください』
言えなかった本当のことをLINEで伝えた。
こんなことを言いたくなかったけれど、私にとって一番堪えられないことは優磨くんを傷つけたことだ。
けれど数日たってもメッセージは既読にならず、電話に出てくれることもない。
優磨くんは今何を思っているのだろう。もう私の話を聞いてくれる気はないのだろうか。顔も見たくないから帰ってこないのだとしたら、私たちにはもう未来はない。
「違うの……あの……ごめんなさい……」
思わず謝ってしまう。優磨くんにとても悪いことをしているような気持ちになる。
「最近やっぱりおかしいよね?」
「あのね……」
「波瑠……これどうしたの?」
「え?」
優磨くんは私の首にかかる髪を手で持ち上げた。
「あ!」
「これ何?」
優磨くんは目を見開いた。首の痣が見えてしまったのだろう。
「だめ!」
私は首に手を当て痣を隠して下を向く。優磨くんの顔がまともに見られない。
「どういうこと? それってさ……蚊に刺されたとかじゃないよね?」
困惑した声が私の胸に刺さるようだ。
「ねえ、それ俺がつけたものじゃないよ?」
「あの……これは……」
ピリリリリリリ
リビングに置いたカバンの中から着信音が聞こえる。下田くんかもしれない。
着信を切ろうと優磨くんから離れて足を踏み出すと、優磨くんの手が私の肩を掴んで体を壁に押し付けた。逃げられないように私の体の左右に手をつく。
「っ!」
普段の優磨くんからは考えられない行動に私の体は凍りついたように動かなくなる。
「行くな」
その怒りを含んだ低い声に息を呑んだ。
「説明して。その痣は何?」
「あ……」
冷たい目を向けられる。何度か怒ったところを見てきたけれど、今が一番怖い。
身動きが取れないでいるうちに着信音が途切れた。
「俺がいない間に何してたの?」
「し、仕事……今日出勤日だから……」
「じゃあこの付けられたばかりのキスマークは何?」
下田くんに付けられただなんて言ったら増々怒り狂うだろう。
「最近の波瑠は変なんだよ。いい加減その理由を説明して。どうしてスマホを気にするの? 誰と連絡とってるの?」
優磨くんに黙ったままでいられる段階じゃない。言わなければ。
「……っ」
それなのに言葉が出ない。優磨くんの目が今までにないほど怖くて、そんな目を向けられていることに怯える。吐き気を感じ始めた。
優磨くんは無言の私に苛立ちを募らせたようだ。
「何があったの? トイレにもお風呂にもスマホを持っていくし、ぼーっとしてる」
「実は私……」
ピリリリリリリ
またも着信音が響く。
今度は優磨くんが私から離れリビングに向かう。足音をドンドンと立て機嫌が悪いことがわかるように。
「どうして下田から電話がかかってくるの? もう別れてるんだよね?」
優磨くんは私のスマートフォンを顔の高さまで掲げて睨む。
「私下田くんに……」
話そうとすると優磨くんは手を上げて私を制するから何も言えなくなった。
優磨くんの指が画面をタップした。スピーカーになったのか着信音が大きくなる。もう一度画面をタップすると「おい、無視するなって」と下田くんの声が部屋に響いた。
「………」
優磨くんは無表情のまま何も言わずスマートフォンを見つめている。
「波瑠? おーい……」
下田くんは優磨くんが聞いているとも知らずにいつも通り呑気に私の名を呼ぶ。
「聞いてる? また昨日のわけわかんねー女が出たんじゃないだろうな? もう家に着いた? そばに優磨いる? なあ、俺とキスした後に優磨ともキスできんの? 首のが消えるまでヤれねーな」
鳥肌が立った。下田くんがそんなことを言ったら増々勘違いされる。
優磨くんは通話を切った。
「下田と別れてなかったんだ」
「別れたよ! でも……」
「俺に隠れて会ってたんでしょ?」
「理由があって……」
「下田とヤったんだね」
「違う!」
「嘘つかなくてもいいって。キスマークつけておいて説得力ないよ」
優磨くんは私に口を挟む隙を与えてくれない。
胸が苦しい。息がしづらい。
「波瑠」
冷たい声で名を呼ばれた。
「いつ下田とよりが戻ったの?」
「違う! 戻ってない!」
優磨くんは「嘘だ」と苦しそうに呟いた。
「まだ下田が好きなんだ? だからさっきも俺のキスを拒否したの?」
「私が好きなのは優磨くんだから! 嘘なんかじゃない!」
裏切るわけがない。不貞行為が嫌いな優磨くんが傷つくことをしたりしない。
「ちがうの……説明するから……聞いて……」
涙がポロポロと零れ落ちる。
「俺のいない間にいつも下田と会ってたの? 波瑠に夢中な俺を二人でバカにしてた?」
「ちがっ……聞い、てっ」
息ができない。言わなきゃいけないのに。ちゃんと優磨くんに助けを求めたい。
「ごめ……ごめんなさいっ……」
不安にさせてごめんなさい。傷つけてごめんなさい。
「波瑠はいつも俺に謝る……そんなに悪いと思うことをしてるの?」
「っ……はっ……」
苦しい。過呼吸で言葉が出ない。
違う、と首を左右に振る。声が出ないから必死で訴える。
そうじゃない。優磨くんの嫌がることなんて絶対にしない。
「それなのにいつまでも俺の部屋にいて……結局波瑠も他の女と一緒……俺の金目当てで利用するんだ……」
めまいがするほど首を振る。
足に力が入らなくなり床に座り込んだ。
「好きじゃないなら俺のそばに居ないでいいから」
「っ……はぁっ……」
必死で息をする。どうか声が出てと願う。
「付き合ってた子に二股かけられてたのは初めてじゃないし……俺には金以外の価値はないって知ってるから」
「そんなっ……こと……」
「でも……波瑠だけは真っ白で……純粋なまま……俺の全部を愛してくれると思ったのに……」
急に優磨くんが玄関に向かってしまう。咄嗟に動けず、少し遅れて立ち上がると優磨くんを追う。
「っ……」
苦しい。足がもつれる。うまく歩けない。
「まっ……待って!!」
叫んだ先にはもう優磨くんはいなかった。カチャリと玄関のドアが閉まり、私は壁に寄りかかる。
「はぁ……うっ……」
必死に息をする。早く呼吸を整えて誤解を解かないと。優磨くんは今傷ついている。本当のことを言うんだ。
足に力を込めて部屋を飛び出した。
マンションの下には優磨くんの姿はなくて、駐車スペースに行くと車がなかった。
彼は私の前からいなくなってしまった。
一晩たっても優磨くんは帰ってこなかった。
何度電話してみても出てくれないしLINEも既読にならない。
誤解を解く機会も与えられないまま、広すぎる部屋で優磨くんの帰りを待っている。
きっと今日も仕事に行っているはず。夜にはいつも通り帰ってきてくれるよね?
けれど日が落ちても夜中になっても優磨くんは帰ってこなかった。
着信音が聞こえると優磨くんかと思って急いでスマートフォンを手に取る。けれど『下田浩二』の文字を見てめまいがする。そのまま下田くんを着信拒否に設定する。アドレス帳から下田くんを完全に削除した。
それでも問題が解決したわけではない。LINEをブロックしてしまうと彼がどんな行動に出るかわからないからできない。
私には大きすぎるベッドに寂しく横になると涙が出てきた。優磨くんのぬくもりを求めるようにシーツを握る。
自分が今までどれだけ優磨くんに依存していたか思い知る。いなくなって初めて存在の大きさに気付く。
私たちはこのまま終わりなのだろうか。優磨くんと離れたら私はまたボロボロになる。
◇◇◇◇◇
『うまく言葉にできないのでLINEします。下田くんに不倫した過去をばらすと脅されてお金を要求されていました。だから優磨くんには言えませんでした。ごめんなさい。話がしたいので帰ってきてください』
言えなかった本当のことをLINEで伝えた。
こんなことを言いたくなかったけれど、私にとって一番堪えられないことは優磨くんを傷つけたことだ。
けれど数日たってもメッセージは既読にならず、電話に出てくれることもない。
優磨くんは今何を思っているのだろう。もう私の話を聞いてくれる気はないのだろうか。顔も見たくないから帰ってこないのだとしたら、私たちにはもう未来はない。
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