同期の御曹司様は浮気がお嫌い
6
美麗さんはスマートフォンを取るとどこかに電話をかけ始める。
「もしもしー」
数秒待つとスピーカーになった電話の向こうから優磨くんの声が聞こえた。
「何だよ……今仕事中なんだけど……」
「今美麗どこにいると思う? 優磨のマンションでーす!」
「は!?」
「今波瑠ちゃんとご飯食べてるのー」
「何!? 何かの冗談?」
「波瑠ちゃんが優磨のこと大好きだって」
「ちょっと美麗さん!」
「え、本当にうちにいるの? 今の波瑠の声?」
「ごめんね優磨くん、仕事中なのに……」
「いや、いいんだけど……姉さん今すぐ帰れ! 波瑠が汚される」
「何それ酷い! 帰らないもん! 今夜はお泊りするんだから」
「は? だめだって! マジでかえ……」
美麗さんは言葉の途中で通話を切った。
「優磨、今絶対ブチ切れてるよ。美麗の名前呼び捨てにしまくりだね」
ケラケラと笑う横で私もおかしくなって笑ってしまう。美麗さんに近づくなと言われているけれど、今とても楽しい。
城藤の人は私とは全然環境が違って戸惑う。でも私はもっと知りたい。
私よりも先に美麗さんが酔ってソファーで寝てしまった。体を揺すって声をかけても起きそうにないので毛布をかけた。
片づけをしてから先にお風呂に入ることにした。
バスルームから出るとリビングで美麗さんの声が聞こえる。起きて誰かと電話で話しているようだ。
「……だからーあなたは誰だって聞いてんのー!」
美麗さん完全に酔っているな。まともに会話できるのかな?
「はい? お金ってなーにー? 波瑠ちゃんに何させる気?」
不穏な話に嫌な予感がした。
「美麗さん?」
声をかけても美麗さんは電話に集中しているようで私への返事はない。
「あのさー、下田? あんたこそ何様?」
下田くんの名前に焦って服も着ないでリビングに行くと、美麗さんは何故か私のスマートフォンを耳に当て電話をしている。
「ちょっと美麗さん!!」
慌ててスマートフォンを奪うと「もしもし下田くん!?」と言うと既に通話は切れていた。
「んー……波瑠ちゃん……下田って誰?」
美麗さんはソファーに横になりながら目を擦る。
「あ……えっと……知り合いです」
「お金のことで電話してくる知り合いなの?」
「………」
どうしよう……うまい言い訳が思いつかない。
「美麗さんこそ、どうして私のスマホで電話してるんですか?」
「電話が鳴ったから美麗のだと思って出ちゃったのー。色が似てるし……ごめんねー……」
美麗さんはまだ意識が朦朧としていそうだ。
「あの……この電話は忘れてください……」
「うーん……」
美麗さんは再び寝てしまったようだ。
確かに私と美麗さんのスマートフォンは色が似ている。私は普段からロックをかけていないので酔った美麗さんが簡単にタップできてしまったのだろう。
油断していた。美麗さんとの時間が楽しくて下田くんのことを失念していた。このままでは優磨くんにバレてしまうのも時間の問題かもしれない。
翌朝、運転手さんが迎えに来たので帰っていく美麗さんを見送るとパン屋に出勤した。
夕方までの勤務を終えて、下田くんに呼び出されていつかと同じようにカラオケボックスに入り封筒を差し出した。
「これでもう連絡してこないでください」
「は? たったこれだけ?」
封筒の中の数万円を下田くんは馬鹿にしたようにひらひらと揺らす。
「言ったでしょ。私もお金ないの」
慶太さんの店で働き出して初めての給料を渡す苦渋の決断だ。
「優磨の口座から抜けって言っただろ」
「優磨くんを巻き込むつもりはない。そのお金でも十分でしょ」
「なら城藤不動産だっけ? 会社に御曹司の恋人は不倫女だってバラす」
下田くんは動揺する私の顔をニヤニヤと見つめる。
「優磨って愛されてるんだね。妬いちゃうよ」
嫌みのように囁く言葉に吐き気がする。
「本当にもうこれで諦めて……連絡もしつこくて誤魔化すの無理」
「波瑠がポンッと百万くれれば連絡しないんだけど。まあ、毎日波瑠の声が聞けて嬉しいよ」
「このままじゃ優磨くんに知られて困らせちゃう……」
昨夜も美麗さんにバレそうで危なかったのだから。
「なら金を早く頼むよ。昔の波瑠は従順な良い子だったのにな。優磨がそう変えたの?」
「従順だったつもりはないよ」
「いや、波瑠は俺にいつも合わせてくれたじゃん」
下田くんはスッと立ち上がると私の隣に寄って座り直す。
「俺が望めばいつも一緒にいてくれたよね」
離れようとした瞬間に腕を掴まれた。
「ちょっと!」
怒鳴ろうと口を開くと下田くんに腕を引っ張られ強引に唇を奪われた。慌てて抵抗しても力では敵わずにソファーの背もたれに押さえつけられる。
「んー!!」
片手で胸を押し返すと名残惜しそうに唇が離れる。
「波瑠に手を出されたと知ったら優磨どんな顔するかな」
そう言うと首に強く吸いつかれた。
「痛い!! いやっ!!」
「まだ波瑠を愛してる。止まんない……」
怒りが全身を駆け巡り、手を振り払って下田くんの肩を思い切り押すとすぐに離れた。
「警察に通報するよ! 今のことも、私を脅したことも!」
精一杯下田くんを睨んだ。
「できるもんならしろよ」
「っ……」
「俺を訴えるのも自由だよ。でも波瑠は優磨に迷惑かけたくないんじゃない? 俺とキスしたって知られてもいいの? クソ真面目な優磨はいい気分にはならないと思うよ」
「………」
その通りな気がして何も言い返せない。
「嫌ならまた金をよろしく。百万には程遠いな。この分だと数年俺と会い続けなきゃいけないね」
下田くんは意地の悪い笑みを浮かべて腹立たしい。
私は震えながら無言でカラオケボックスを後にした。
もう私では手に負えない。潔く警察に相談するか、優磨くんにすべてを打ち明けるしかない。またしても迷惑をかけてしまう。今度こそ呆れられてしまうかもしれないけれど……。
マンションに戻るとすぐに顔を洗う。下田くんにキスされた唇を痺れるほど強くこすった。
鏡を見ると首に下田くんに付けられた赤い痣がはっきり見える。強く吸いつかれたせいだ。あれは確実に悪意を持っていた。お金で人はあそこまで変わってしまうのか。
「波瑠?」と廊下から優磨くんの声がした。
しまった……優磨くんが出張から帰ってくる時間になってしまったのか。まだご飯の準備を何もしていない。
「波瑠どこ? 洗面所にいるの?」
「今出る!」
暗い顔を無理矢理笑顔にしてドアを開けた。
「ただいま」
「おかえりなさい……」
「会いたかった」
優磨くんは私を抱きしめる。そうしてスリスリと頬を私の頭に擦りつける。まるで長期間会えていなかったかのような行動だ。
「姉さんが迷惑かけてごめんね」
「いいの、美麗さんとのご飯楽しかったよ。ごめんね、夕食は今用意するから」
「大丈夫。どこかに食べに行こうか?」
「うん……」
「その前に、会えて嬉しいから波瑠を堪能したい……」
耳元で囁かれ顔が赤くなる。私も、優磨くんが帰ってきてくれて嬉しい。
「あのね、優磨くんに大事な話があって……」
言わなければ。下田くんとの問題で頼るのは申し訳ないのだけれど。
優磨くんの唇が私の額に優しくキスをする。そのまま眉間に、瞼に、鼻にキスをする。
「もう、優磨くん聞いて……」
「ごめん、聞いてるよ」
優磨くんの唇が私の唇に近づく。キスをされると思った瞬間下田くんにされた強引なキスを思い出した。
今の私は汚れている。このままキスをしたら優磨くんまで汚れてしまう気がした。
「っ……」
つい顔を背けてしまった。
「波瑠?」
「あ……」
これではまるでキスを嫌がっているようだ。優磨くんが驚いたような悲しんでいるような複雑な顔をする。
「もしもしー」
数秒待つとスピーカーになった電話の向こうから優磨くんの声が聞こえた。
「何だよ……今仕事中なんだけど……」
「今美麗どこにいると思う? 優磨のマンションでーす!」
「は!?」
「今波瑠ちゃんとご飯食べてるのー」
「何!? 何かの冗談?」
「波瑠ちゃんが優磨のこと大好きだって」
「ちょっと美麗さん!」
「え、本当にうちにいるの? 今の波瑠の声?」
「ごめんね優磨くん、仕事中なのに……」
「いや、いいんだけど……姉さん今すぐ帰れ! 波瑠が汚される」
「何それ酷い! 帰らないもん! 今夜はお泊りするんだから」
「は? だめだって! マジでかえ……」
美麗さんは言葉の途中で通話を切った。
「優磨、今絶対ブチ切れてるよ。美麗の名前呼び捨てにしまくりだね」
ケラケラと笑う横で私もおかしくなって笑ってしまう。美麗さんに近づくなと言われているけれど、今とても楽しい。
城藤の人は私とは全然環境が違って戸惑う。でも私はもっと知りたい。
私よりも先に美麗さんが酔ってソファーで寝てしまった。体を揺すって声をかけても起きそうにないので毛布をかけた。
片づけをしてから先にお風呂に入ることにした。
バスルームから出るとリビングで美麗さんの声が聞こえる。起きて誰かと電話で話しているようだ。
「……だからーあなたは誰だって聞いてんのー!」
美麗さん完全に酔っているな。まともに会話できるのかな?
「はい? お金ってなーにー? 波瑠ちゃんに何させる気?」
不穏な話に嫌な予感がした。
「美麗さん?」
声をかけても美麗さんは電話に集中しているようで私への返事はない。
「あのさー、下田? あんたこそ何様?」
下田くんの名前に焦って服も着ないでリビングに行くと、美麗さんは何故か私のスマートフォンを耳に当て電話をしている。
「ちょっと美麗さん!!」
慌ててスマートフォンを奪うと「もしもし下田くん!?」と言うと既に通話は切れていた。
「んー……波瑠ちゃん……下田って誰?」
美麗さんはソファーに横になりながら目を擦る。
「あ……えっと……知り合いです」
「お金のことで電話してくる知り合いなの?」
「………」
どうしよう……うまい言い訳が思いつかない。
「美麗さんこそ、どうして私のスマホで電話してるんですか?」
「電話が鳴ったから美麗のだと思って出ちゃったのー。色が似てるし……ごめんねー……」
美麗さんはまだ意識が朦朧としていそうだ。
「あの……この電話は忘れてください……」
「うーん……」
美麗さんは再び寝てしまったようだ。
確かに私と美麗さんのスマートフォンは色が似ている。私は普段からロックをかけていないので酔った美麗さんが簡単にタップできてしまったのだろう。
油断していた。美麗さんとの時間が楽しくて下田くんのことを失念していた。このままでは優磨くんにバレてしまうのも時間の問題かもしれない。
翌朝、運転手さんが迎えに来たので帰っていく美麗さんを見送るとパン屋に出勤した。
夕方までの勤務を終えて、下田くんに呼び出されていつかと同じようにカラオケボックスに入り封筒を差し出した。
「これでもう連絡してこないでください」
「は? たったこれだけ?」
封筒の中の数万円を下田くんは馬鹿にしたようにひらひらと揺らす。
「言ったでしょ。私もお金ないの」
慶太さんの店で働き出して初めての給料を渡す苦渋の決断だ。
「優磨の口座から抜けって言っただろ」
「優磨くんを巻き込むつもりはない。そのお金でも十分でしょ」
「なら城藤不動産だっけ? 会社に御曹司の恋人は不倫女だってバラす」
下田くんは動揺する私の顔をニヤニヤと見つめる。
「優磨って愛されてるんだね。妬いちゃうよ」
嫌みのように囁く言葉に吐き気がする。
「本当にもうこれで諦めて……連絡もしつこくて誤魔化すの無理」
「波瑠がポンッと百万くれれば連絡しないんだけど。まあ、毎日波瑠の声が聞けて嬉しいよ」
「このままじゃ優磨くんに知られて困らせちゃう……」
昨夜も美麗さんにバレそうで危なかったのだから。
「なら金を早く頼むよ。昔の波瑠は従順な良い子だったのにな。優磨がそう変えたの?」
「従順だったつもりはないよ」
「いや、波瑠は俺にいつも合わせてくれたじゃん」
下田くんはスッと立ち上がると私の隣に寄って座り直す。
「俺が望めばいつも一緒にいてくれたよね」
離れようとした瞬間に腕を掴まれた。
「ちょっと!」
怒鳴ろうと口を開くと下田くんに腕を引っ張られ強引に唇を奪われた。慌てて抵抗しても力では敵わずにソファーの背もたれに押さえつけられる。
「んー!!」
片手で胸を押し返すと名残惜しそうに唇が離れる。
「波瑠に手を出されたと知ったら優磨どんな顔するかな」
そう言うと首に強く吸いつかれた。
「痛い!! いやっ!!」
「まだ波瑠を愛してる。止まんない……」
怒りが全身を駆け巡り、手を振り払って下田くんの肩を思い切り押すとすぐに離れた。
「警察に通報するよ! 今のことも、私を脅したことも!」
精一杯下田くんを睨んだ。
「できるもんならしろよ」
「っ……」
「俺を訴えるのも自由だよ。でも波瑠は優磨に迷惑かけたくないんじゃない? 俺とキスしたって知られてもいいの? クソ真面目な優磨はいい気分にはならないと思うよ」
「………」
その通りな気がして何も言い返せない。
「嫌ならまた金をよろしく。百万には程遠いな。この分だと数年俺と会い続けなきゃいけないね」
下田くんは意地の悪い笑みを浮かべて腹立たしい。
私は震えながら無言でカラオケボックスを後にした。
もう私では手に負えない。潔く警察に相談するか、優磨くんにすべてを打ち明けるしかない。またしても迷惑をかけてしまう。今度こそ呆れられてしまうかもしれないけれど……。
マンションに戻るとすぐに顔を洗う。下田くんにキスされた唇を痺れるほど強くこすった。
鏡を見ると首に下田くんに付けられた赤い痣がはっきり見える。強く吸いつかれたせいだ。あれは確実に悪意を持っていた。お金で人はあそこまで変わってしまうのか。
「波瑠?」と廊下から優磨くんの声がした。
しまった……優磨くんが出張から帰ってくる時間になってしまったのか。まだご飯の準備を何もしていない。
「波瑠どこ? 洗面所にいるの?」
「今出る!」
暗い顔を無理矢理笑顔にしてドアを開けた。
「ただいま」
「おかえりなさい……」
「会いたかった」
優磨くんは私を抱きしめる。そうしてスリスリと頬を私の頭に擦りつける。まるで長期間会えていなかったかのような行動だ。
「姉さんが迷惑かけてごめんね」
「いいの、美麗さんとのご飯楽しかったよ。ごめんね、夕食は今用意するから」
「大丈夫。どこかに食べに行こうか?」
「うん……」
「その前に、会えて嬉しいから波瑠を堪能したい……」
耳元で囁かれ顔が赤くなる。私も、優磨くんが帰ってきてくれて嬉しい。
「あのね、優磨くんに大事な話があって……」
言わなければ。下田くんとの問題で頼るのは申し訳ないのだけれど。
優磨くんの唇が私の額に優しくキスをする。そのまま眉間に、瞼に、鼻にキスをする。
「もう、優磨くん聞いて……」
「ごめん、聞いてるよ」
優磨くんの唇が私の唇に近づく。キスをされると思った瞬間下田くんにされた強引なキスを思い出した。
今の私は汚れている。このままキスをしたら優磨くんまで汚れてしまう気がした。
「っ……」
つい顔を背けてしまった。
「波瑠?」
「あ……」
これではまるでキスを嫌がっているようだ。優磨くんが驚いたような悲しんでいるような複雑な顔をする。
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