同期の御曹司様は浮気がお嫌い
4
「優磨の意地悪!」
「子供みたいなワガママを言うなよ! 俺には俺の生活があるんだって!」
「何で急に入れてくれなくなったの? まさか女?」
「いいから帰れよ。今迎えが来るから」
「でも美麗疲れてるの! 優磨の家で休みたいのに……」
女性が立ち尽くす私に気付いたのか動きを止めた。女性の目線を追って優磨くんも私に気付いた。その顔は焦ったように目を見開いている。
「波瑠……」
「あの……」
まずいところに帰ってきてしまったのかもしれない。
私を見る女性は驚くほど美人だ。モデルのような高い身長と抜群のスタイルで、優磨くんの隣にいても自然だった。
「波瑠、中に入って!」
「え?」
「早く!」
優磨くんの顔はとても怖い。
「へー、やっぱり優磨の彼女なんじゃん」
「やめろって!」
女性の言葉に優磨くんは更に怒る。彼女なのかと言われて否定も肯定もしない優磨くんに私も困惑する。この女性はいったい誰なのだろう。
「君はハルって言うんだ」
女性は優磨くんの横を抜けて私の前に立った。近くで見るとあまりに綺麗な顔で思わず見とれてしまう。
「一緒に住んでるの?」
「あの……」
どう言ったらいいのだろう。この人と優磨くんの関係がわからないから迂闊なことは言えない。
「優磨ってこういう子がタイプだった? なんか地味だね」
この言葉に恥ずかしくて下を向く。目の前の美人に比べたら私なんて凡庸な顔だし、今は地味な色のスーツを着ていることが恥ずかしくなる。
「失礼なことを言うな!」
優磨くんは私と女性の間に入って睨みつける。
「もう用はないだろ。帰れ」
低い声に私の体は震える。優磨くんがこんなに怒るのは下田くんを責めたとき以来だ。
「ハルちゃんと住んでるなら優磨の部屋がどうなったのか知りたいよ。ピアスも見つけてくれたお礼をしたいし」
そうか、この人があのピアスの持ち主なんだ。じゃあきっと優磨くんの元カノで、あの部屋に入ったことがある人……。
「波瑠、早く入って」
優磨くんは私をマンションの中に促す。
「ねーハルちゃん、もう優磨とエッチした?」
一気に顔が赤くなった瞬間「美麗!!」と優磨くんが怒鳴る。
「黙れ!」
優磨くんの顔も真っ赤だ。美麗と呼ばれた女性は「ふーん……」と何かを理解したような顔をする。
マンションの前に一台の車が停まった。運転席から顔を出したのはこの間の運転手の泉さんだった。
「優磨さん、お待たせしました」
「なんだー、泉ちゃんが来たの?」
「ちゃん付けしないでください」
泉さんは美麗さんに淡々と返事をする。優磨くんは泉さんに困った顔を向けた。
「ちゃんと監視するよう父に言ってください」
「この人は監視を付けても無駄です。どうやっても脱走するんですよ」
泉さんは無表情で優磨くんに答えた。
「美麗は好きなときに行きたいところに行くの」
私には三人の会話が全く理解できない。けれど泉さんが「美麗さん、帰りますよ」と言うと、あれだけ騒いでいたのに美麗さんはあっさりと車に乗った。
「泉さん、波瑠のことは父にはまだ内緒でお願いします」
「私は構いませんが……」
「美麗は好きなときに好きなことを話すから」
後部座席で美麗さんはニコニコと言うけれど、優磨くんに「美麗」と低い声で呼ばれると黙ってしまう。
「じゃあねハルちゃん」
美麗さんが窓から手を振りながら車は行ってしまった。
「波瑠」
呆気にとられて固まる私は優磨くんに呼ばれて我に返る。
「失礼なことを言ってごめん」
「ああ……うん……」
さっきの美麗さんの発言のことだろうか。あんな美人にけなされてもその通りなので何も言い返せない。
「あの人がピアスの持ち主なんだね」
「うん」
「綺麗な人だね。優磨くんととってもお似合い」
「波瑠」
「やっぱり優磨くんは元カノのレベルも高いんだね」
「波瑠!」
強く名を呼ばれて優磨くんの顔を見た。
「元カノじゃないって!」
「でも部屋に入ったことあるんだよね」
あの部屋に女は入れたことないって嘘をついたほどの関係なんだ。
「あるよ。泊ったこともある」
「そうなんだ……」
それは聞きたくなかった。やっぱりそんな関係の女性なんだ。あの人と寝ていたベッドに私は毎晩寝ている……。
「波瑠、妬いてる?」
「え?」
「あいつが俺の元カノかもって嫉妬してる?」
「あの……」
嫉妬? このモヤモヤした気持ちは嫉妬なの?
「俺に女がいたら嫌? 波瑠はどう思ってる?」
「私は……優磨くんの恋愛の邪魔しちゃいけないから……元カノやこれからの彼女さんに悪いから早く出て行く……」
きっとさっきの元カノはいい気がしてないと思う。これ以上優磨くんの女性関係を知りたくない。傷つきたくない。
優磨くんが近づいて優しく私を抱きしめた。昨夜のことを思い出して緊張したけれど、もう抵抗しようとは思わなかった。
「まだ俺の気持ちに気づかないの?」
耳元でそう問いかけるから「不安になる」と素直に打ち明けた。
「もしもこの先優磨くんの気持ちが離れちゃったら、私今度こそ立ち直れない。だったら最初からお互い適度な距離でいた方がいいよ……」
「でも俺は嫌だよ」
強く抱きしめてくる。今までにないほど体が密着する。
「波瑠が好きだ。離れたりしない」
優磨くんが私の髪にキスをする。
「ずっと好きだったよ。初めて会った時からずっと」
「嘘だ……だって全然そんな態度じゃなかった」
一緒に企画を進めているときも飲み会でも、優磨くんはあまり自分のことを話さないし私にも深く関わってこようとしなかった。
「俺は自分が城藤の人間だって意識されたくなかった。金目当てで接するやつが多かったから。だからいつも人と距離を置くんだ」
確かに優磨くんは家の話をすることを嫌っていた。
「でも波瑠はそんなの関係ないって態度で、普通に話しかけてくれたでしょ。みんな俺にはどこか遠慮してるのに」
「だって……優磨くんは優磨くんだし」
ふっ、と優磨くんが笑う吐息が耳にかかる。
「それが俺にとっては大きいことなんだよ。波瑠は俺の特別だ」
私の頭に優磨くんの顔がくっつく。愛おしいとでも言うようにスリスリと押し付ける。
「下田と付き合ってるって知って、悔しいけど波瑠が幸せそうならよかったんだ。でも、この先俺が一番波瑠を大事にできるよ」
「私は優磨くんには釣り合わないよ……」
「俺はそうは思わない」
きっぱりと言い切る言葉に目頭が熱くなる。
「波瑠と居ると俺は強くなれるんだよ。波瑠のように綺麗な心でいなきゃって思うんだ」
「私、心が綺麗なんかじゃないよ……怒るし、嫉妬もする……優磨くんの元カノを見て苦しい……」
「嬉しい」
耳にキスをされた。心臓がぎゅっと締め付けられたように苦しい。
「手を出さないように必死なのに、波瑠があまりにも無防備に俺のそばにいるから……波瑠にとって俺は眼中にないのかと思ってた」
「だって……優磨くんに甘えちゃダメだから……私は意識しないようにしてた……」
「ならもう意識して。波瑠の全部を俺に向けて」
再び耳元で「好きだよ」と囁かれる。その甘い声にまるで体の感覚が耳だけにしかなくなってしまったように痺れてくる。
「俺がどれだけ待ったと思ってんの? 4年だよ? 4年間も波瑠だけが好きだった。今やっと腕の中にいるのに、手放すなんてできないよ」
髪に、こめかみに、耳に、キスの雨が降ってくる。
「あっ……ん……」
体に力が入らない。バッグを地面に落としてしまった。優磨くんに抱きしめられていてよかった。足の感覚がなくて今にも倒れそうだ。思わず優磨くんの服をぎゅっと握ってしまう。
「子供みたいなワガママを言うなよ! 俺には俺の生活があるんだって!」
「何で急に入れてくれなくなったの? まさか女?」
「いいから帰れよ。今迎えが来るから」
「でも美麗疲れてるの! 優磨の家で休みたいのに……」
女性が立ち尽くす私に気付いたのか動きを止めた。女性の目線を追って優磨くんも私に気付いた。その顔は焦ったように目を見開いている。
「波瑠……」
「あの……」
まずいところに帰ってきてしまったのかもしれない。
私を見る女性は驚くほど美人だ。モデルのような高い身長と抜群のスタイルで、優磨くんの隣にいても自然だった。
「波瑠、中に入って!」
「え?」
「早く!」
優磨くんの顔はとても怖い。
「へー、やっぱり優磨の彼女なんじゃん」
「やめろって!」
女性の言葉に優磨くんは更に怒る。彼女なのかと言われて否定も肯定もしない優磨くんに私も困惑する。この女性はいったい誰なのだろう。
「君はハルって言うんだ」
女性は優磨くんの横を抜けて私の前に立った。近くで見るとあまりに綺麗な顔で思わず見とれてしまう。
「一緒に住んでるの?」
「あの……」
どう言ったらいいのだろう。この人と優磨くんの関係がわからないから迂闊なことは言えない。
「優磨ってこういう子がタイプだった? なんか地味だね」
この言葉に恥ずかしくて下を向く。目の前の美人に比べたら私なんて凡庸な顔だし、今は地味な色のスーツを着ていることが恥ずかしくなる。
「失礼なことを言うな!」
優磨くんは私と女性の間に入って睨みつける。
「もう用はないだろ。帰れ」
低い声に私の体は震える。優磨くんがこんなに怒るのは下田くんを責めたとき以来だ。
「ハルちゃんと住んでるなら優磨の部屋がどうなったのか知りたいよ。ピアスも見つけてくれたお礼をしたいし」
そうか、この人があのピアスの持ち主なんだ。じゃあきっと優磨くんの元カノで、あの部屋に入ったことがある人……。
「波瑠、早く入って」
優磨くんは私をマンションの中に促す。
「ねーハルちゃん、もう優磨とエッチした?」
一気に顔が赤くなった瞬間「美麗!!」と優磨くんが怒鳴る。
「黙れ!」
優磨くんの顔も真っ赤だ。美麗と呼ばれた女性は「ふーん……」と何かを理解したような顔をする。
マンションの前に一台の車が停まった。運転席から顔を出したのはこの間の運転手の泉さんだった。
「優磨さん、お待たせしました」
「なんだー、泉ちゃんが来たの?」
「ちゃん付けしないでください」
泉さんは美麗さんに淡々と返事をする。優磨くんは泉さんに困った顔を向けた。
「ちゃんと監視するよう父に言ってください」
「この人は監視を付けても無駄です。どうやっても脱走するんですよ」
泉さんは無表情で優磨くんに答えた。
「美麗は好きなときに行きたいところに行くの」
私には三人の会話が全く理解できない。けれど泉さんが「美麗さん、帰りますよ」と言うと、あれだけ騒いでいたのに美麗さんはあっさりと車に乗った。
「泉さん、波瑠のことは父にはまだ内緒でお願いします」
「私は構いませんが……」
「美麗は好きなときに好きなことを話すから」
後部座席で美麗さんはニコニコと言うけれど、優磨くんに「美麗」と低い声で呼ばれると黙ってしまう。
「じゃあねハルちゃん」
美麗さんが窓から手を振りながら車は行ってしまった。
「波瑠」
呆気にとられて固まる私は優磨くんに呼ばれて我に返る。
「失礼なことを言ってごめん」
「ああ……うん……」
さっきの美麗さんの発言のことだろうか。あんな美人にけなされてもその通りなので何も言い返せない。
「あの人がピアスの持ち主なんだね」
「うん」
「綺麗な人だね。優磨くんととってもお似合い」
「波瑠」
「やっぱり優磨くんは元カノのレベルも高いんだね」
「波瑠!」
強く名を呼ばれて優磨くんの顔を見た。
「元カノじゃないって!」
「でも部屋に入ったことあるんだよね」
あの部屋に女は入れたことないって嘘をついたほどの関係なんだ。
「あるよ。泊ったこともある」
「そうなんだ……」
それは聞きたくなかった。やっぱりそんな関係の女性なんだ。あの人と寝ていたベッドに私は毎晩寝ている……。
「波瑠、妬いてる?」
「え?」
「あいつが俺の元カノかもって嫉妬してる?」
「あの……」
嫉妬? このモヤモヤした気持ちは嫉妬なの?
「俺に女がいたら嫌? 波瑠はどう思ってる?」
「私は……優磨くんの恋愛の邪魔しちゃいけないから……元カノやこれからの彼女さんに悪いから早く出て行く……」
きっとさっきの元カノはいい気がしてないと思う。これ以上優磨くんの女性関係を知りたくない。傷つきたくない。
優磨くんが近づいて優しく私を抱きしめた。昨夜のことを思い出して緊張したけれど、もう抵抗しようとは思わなかった。
「まだ俺の気持ちに気づかないの?」
耳元でそう問いかけるから「不安になる」と素直に打ち明けた。
「もしもこの先優磨くんの気持ちが離れちゃったら、私今度こそ立ち直れない。だったら最初からお互い適度な距離でいた方がいいよ……」
「でも俺は嫌だよ」
強く抱きしめてくる。今までにないほど体が密着する。
「波瑠が好きだ。離れたりしない」
優磨くんが私の髪にキスをする。
「ずっと好きだったよ。初めて会った時からずっと」
「嘘だ……だって全然そんな態度じゃなかった」
一緒に企画を進めているときも飲み会でも、優磨くんはあまり自分のことを話さないし私にも深く関わってこようとしなかった。
「俺は自分が城藤の人間だって意識されたくなかった。金目当てで接するやつが多かったから。だからいつも人と距離を置くんだ」
確かに優磨くんは家の話をすることを嫌っていた。
「でも波瑠はそんなの関係ないって態度で、普通に話しかけてくれたでしょ。みんな俺にはどこか遠慮してるのに」
「だって……優磨くんは優磨くんだし」
ふっ、と優磨くんが笑う吐息が耳にかかる。
「それが俺にとっては大きいことなんだよ。波瑠は俺の特別だ」
私の頭に優磨くんの顔がくっつく。愛おしいとでも言うようにスリスリと押し付ける。
「下田と付き合ってるって知って、悔しいけど波瑠が幸せそうならよかったんだ。でも、この先俺が一番波瑠を大事にできるよ」
「私は優磨くんには釣り合わないよ……」
「俺はそうは思わない」
きっぱりと言い切る言葉に目頭が熱くなる。
「波瑠と居ると俺は強くなれるんだよ。波瑠のように綺麗な心でいなきゃって思うんだ」
「私、心が綺麗なんかじゃないよ……怒るし、嫉妬もする……優磨くんの元カノを見て苦しい……」
「嬉しい」
耳にキスをされた。心臓がぎゅっと締め付けられたように苦しい。
「手を出さないように必死なのに、波瑠があまりにも無防備に俺のそばにいるから……波瑠にとって俺は眼中にないのかと思ってた」
「だって……優磨くんに甘えちゃダメだから……私は意識しないようにしてた……」
「ならもう意識して。波瑠の全部を俺に向けて」
再び耳元で「好きだよ」と囁かれる。その甘い声にまるで体の感覚が耳だけにしかなくなってしまったように痺れてくる。
「俺がどれだけ待ったと思ってんの? 4年だよ? 4年間も波瑠だけが好きだった。今やっと腕の中にいるのに、手放すなんてできないよ」
髪に、こめかみに、耳に、キスの雨が降ってくる。
「あっ……ん……」
体に力が入らない。バッグを地面に落としてしまった。優磨くんに抱きしめられていてよかった。足の感覚がなくて今にも倒れそうだ。思わず優磨くんの服をぎゅっと握ってしまう。
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