自衛官志望だったミリオタ高校生が、異世界の兵学校で首席を目指して見た件

高雄摩耶

第十七話 事件の行方①

古賀先輩が扉を開けると、そこにはなんと鏑木が立っていた。
    彼女は少しうつむき気味で口をつぐみ、泣き出しそうな表情にも見える。

「さあ、入ってください」

    ただでさえギュウギュウ詰なのにさらに人を呼び込むとは、古賀先輩も無理をする。
    案の定そのままでは入れないので智恵と松原でベットの上まで占領した。

「え、えーと。鏑木さん。どうしてここに」

    さすがに動揺しているのか宇垣の言葉はいつも以上に丁寧だ。
    しかし質問に答えたのは先輩の方だった。

「あなたたちに会いたいって言うから、連れてきたの」
「どうして」
「それは本人から」

    鏑木は一瞬ためらうような仕草をしたが、やがて弱々しい口調で話し始めた。

「・・・わ、私、その・・・もう、こんなこと、終わらせたいんです」

    俺たちはその「終わらせたい」というのが訓練への妨害だとすぐにわかった。
    が、宇垣はあえて理由を聞いた。

「鏑木さん。終わらせたいっていうのはどういうことなの?」
「その・・・い、今まで皆さんに変なことしてたのは、わ、私たちなんです。ごめんなさい!」

    鏑木はそういうと泣きそうな顔のまま勢いで頭を下げた。
    やはりそうかと思ったが、ここまで必死になるなどとは思っていなかった。

「頭をあげて、鏑木さん。あなたや滝島、常盤さんが関わってることは、私たちも知ってるわ」
「やっぱり・・・バレてました、よね」
「正直確信はなかったんだけど、滝島さんや常盤さんも一緒なのよね?」
「・・・はい」
「どうして、あんなことしたの?」

    宇垣はいつもの感じとは違い、まるで年下の妹に話しかけるような優しさが見て取れた。
    そして同時に、いつも以上に真剣になっていることも。

「私がこの学校に入った時から、滝島とは仲が良かったんです。それでいつしか、彼女といればすべてうまく行くって思い始めたんです」
「なるほど、それでいつも滝島にひっついてたのね」
「はい・・・」
「だからあの子の命令には従わざるおえなくなっていた。そういうことでしょう?」
「その、自分ではそんなつもりなかったんですけど。気づいたんです。私、いつのまにか彼女に服従する奴隷みたいになってるんじゃないかって」
「ま、そうでもなきゃあいつと一緒なんて無理よね」

    ウンウンと頷き一人で納得する。

「でも、私たちのところに来たってことは、悪いことをしていたって思ったからなんだよね」
「すみません皆さんに迷惑ばかりかけてしまって、本当に・・・」

    そういったのは智恵だ。珍しく空気を読んでいるのかえらく落ち着いている・・・と思ったが。

「まったくよー。機銃撃てなくなった時なんかどうしたらいいかわかんなくなっちゃったんだからぁ」

    やはりいつもの智恵だった。
    しかも俺に意味ありげなウインクまで来てきた。何か話せと言っているのか。

「えっと、鏑木さん。さっき自分は奴隷みたいだって言ってたよね?」
「・・・はい」
「今でもそう思うか?」
「・・・はい、私には、もうどうすることも・・・」
「ならどうして、俺たちのところに来れたの?」
「え?」

    鏑木にとって予想外だったのか、初めて泣きそうな顔から変化があった。

「だって、もし何にで従う奴隷なら、お前は滝島の束縛から逃れられない。どう思おうと滝島の言いなりのはず。だが、お前はここに来た。自分の意思でだ。てことは、もうお前はあいつの奴隷なんかじゃない。クラスのみんなの仲間なんだ」

    自分で言うのもなんだが、俺、結構いいこと言えるんじゃね?と、思ってしまった。
    そんな気持ちで言ったのだが、聞いた鏑木は泣き出してしまった。

「うぅ・・・」
「え、ああ!どうして・・・」
「あーあ、裕二君が泣かせちゃった」
「い、いや、俺はそんなつもりは。ご、ごめん。俺、何か気に触るようなことを言ったなら・・・」
「・・・ち、違う・・・んです」

    両手で涙をぬぐいながらそう言った。

「じゃあどうして・・・」
「滝島の言葉じゃなく、自分の意思で行動できたことがうれいし。そういうことなんでしょう」
「・・・は、はい」

    それは俺ではなく古賀先輩の言葉だった。どうやら先輩は初めから分かっていたらしい。

「あなたは本心とてもやさいし子なんだと思う?    でもそれが行き過ぎたからこんなことになってしまった」
「はい・・・」
「やさしいのはとてもいいことよ。でも自分で自覚を持って行動しなきゃ。誰かのいいなりで動いていても、正しいことじゃなきゃ自分のためにもならないもの。今日、昼の時間にあなたたちとあった時から私は感じていたわ。あなたはもうやめたいって思ってるって」
「そ、そうなんですか・・・」

    そこまで見通しているとは、先輩恐るべし。

「たしかに、あの時私は気づいたのかもしれません。本音ではもう終わりにしたいって」

    完全にいいところを先輩に持っていかれてしまった。でもこれで、この事件もいよいよ終わりに近づいただろう。

「それで鏑木さん。昼の時たしか滝島さんが何か隠したように見えたんだけど。何だったの?」
「それは・・・」

    そこで鏑木が、隠した持っているのは拳銃だと分かると一同驚いた。どうせ大したものではないだろうと思っていたが、十分大したものだったからだ。

「どうして拳銃なんか。まさか誰かを・・・」
「いえ、違います!撃ち殺したりなんてしません!ただ、かすり傷程度だと」
「そう言っていたのね。で、誰を狙っていたの?
「それは・・・小畑さんです」
「え、俺?」

    思いもよらない答えだった。なにせ誰か一人を狙うとすれば寮長である宇垣を狙うはずだ。

「どうしてコイツなんか」
「コイツって・・・」
「でもたしかに、どうして直美じゃないのかな?」
「そこまでは知りません。私はただ、狙うのは小畑さんだとしか」

    理由は不明であれ、相手の目的がわかれば回避のしようはある。

「ありがとう。協力してくれて」
「あ、あの、私、どんな罰でも受けます。煮るなり焼くなり好きにしてください。でも、あの、わがまま言うつもりはないんですけど。滝島と常盤も、許してやってくれませんか!」
「鏑木さん・・・」

    再び頭を下げた。今度はより丁寧に。

「もちろん、あの子達がきちんとしてくれれば、許すわ」
「本当ですか!」
「もちろん。あなたも」
「え、でも・・・」
「あなたもこれで、やっと航海科三号生の仲間になれたのよ。あの二人も仲間にする。それを手伝うのが、あなたへの罰、の代わり」
「は、はい!もちろんやります!」

    再び目に涙を浮かべる。
    しかし彼女のその顔は、きた時とは違い、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「それで、一つ聞きたいことがあるんだけど・・・」
「はい」
「砲術科との関係はどうなっているの?」
「そこまでバレてましたか・・・」
「私たちの目はそう甘くはないわよ」

    宇垣が得意げになったということは、いつもの調子に戻ったようだ。

「砲術科に協力を・・・」
「いえ、もともと妨害するのを手伝って欲しいって砲術科の人が言ってきたんです。滝島は喜んで協力すると」
「なるほど、真の黒幕は砲術科ってことになるわね」

    少し考えると、宇垣は聞いた。

「もう一ついい?砲術科の人たちとは何か打ち合わせみたいなことはするのかしら?」
「はい、時々」
「次はいつか知ってる?」
「今日の夜九時から・・・」
「!?」

     慌てて時計を見ると六時を少し回ったところだ。あと三時間。

「これは好機よ」
「好機って、まさか直美!」
「ええ、この事件は今日、全て方がつくわ」

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