自衛官志望だったミリオタ高校生が、異世界の兵学校で首席を目指して見た件
第十五話 私たち、家族なんだよね?②
「それでね、佐藤のやつどうも私とウマが合わなくてさ。もう辞めにしたいって思ったよ」
「そんな事ないよ。庵と佐藤さんはいいコンビだと思うけどなぁ」
「いやいやそれはないよ。あいつときたら私のすること言うことなんでも文句つけてくるんだがら」
    東藤姉妹の末っ子、東藤貴美子は友人の小園庵の愚痴を聞きながら寮への道を歩いていた。貴美本人がどう思っているのかは知らないが、とても熱心に聞き入っている様子ではない。むしろ聞き流していると言ったほうがいい。まあ愚痴など聞いても仕方ないのだが。
「貴美は佐藤のことどう思ってるのよ」
「私は別にどうとは思ってないよ。言うなればまあ普通?」
    智恵に似たのかその辺りに関してはかなりマイペースらしい。
    寮の前まで来たところで二人は何かを見つけた。
「あ、鏑木先輩だ。何してるんだろう?」
「もう一人いるね」
    寮の前にいたのは三号生の鏑木だ。もう一人の三号生と何やら口論している。
    鏑木といえばあの問題児三人組の一人ではあるものの、三人の中では一番気弱でいつもおどおどしている印象を持つ。
    貴美と庵は口論する2人の横を通る。
「・・・は決定したのです」
「で、でも、今のままじゃ見つかっちゃいますって」
「なら見つからないように自分で・・・」
    横を通りながらチラッと顔を見る。
    話の相手はやはり知らない先輩だ。三号生であるには違いないが少なくとも航海科の人間ではない。
「何話してるんだろう。なんかすごく深刻なことみたい」
「うん、まあでも私たちがどうこうできるわけじゃないし・・・」
    彼女たちはそのまま寮に入った。
    そして、鏑木の相手の視線がずっと二人に向けられていたことに、気づくことはなかった。
「こら、寝るな!」
「うお!す、すまない・・・」
    木刀片手に怒鳴られて起きない奴はいない。
「もう11時過ぎだぞ・・・」
「ダメだ。智恵の出した問題を全て解き終わるまでは寝ることは許されない」
「どうかご勘弁をぉ・・・」
    石井がなぜ神無月片手に鬼軍曹とかしているのかといえば、俺が何か怒らずようなことをしたからではない。彼女はいわゆる深夜テンションという状態なのだ。
「頑張って裕二君」
    松原からの猛特訓の末、俺はなんとか試験に通るレベルになった・・・らしい。
    だがこれで満足するわけにはいかない。試験は実技だけではないのだ。
「ほら、あと少しだよ」
「いやまだ50問以上あるように見えるのだが」
    筆記試験の勉強は実技より長くやっているだけまだマシだと思っていた。しかし、智恵の「まだ足りない」という一言により、こうして俺深夜まで勉強しているわけだ。
「ほらほら、早く解かんか!」
「今解いてるよぉ・・・」
    石井はいつもはこんな性格じゃあないのに、夜になった途端これだ。
「ところで、宇垣はどうした?」
「直美ならさっき自分の部屋に入っていくのを見たよ」
「やっぱり少し言い過ぎたかな」
    自分としては何も宇垣が犯人などと思ったことは一度もない。決して同情などではなく、そもそも宇垣には犯行が不可能だ。もし、宇垣が犯人ならさすがに俺が気づく。
「直美なら大丈夫だよ。あの子ならちゃんと分かってくれる」
「だといいが」
「でも、そうなると保管庫の鍵はどうなるの?直美と寮監以外で開けられるとしたら」
「他にも鍵がある可能性は?」
「それは無いと思う。鍵の数は規則で決まってるし、もしあったとしても生徒が勝手に使えるようなものじゃないはず」
    今わかっていることはこれしか無い。もはや万事休すか。
「直美だったらこんな時どうするのかな」
「やっぱり、ウチらは直美がいてこそこれまでやってこれたみたいなものだから・・・」
「私が何よ?」
    突然声がしたと思うと。目の下に大きなクマを作った宇垣がいた。
「直美!まだ起きてたの?」
「寝ようにも眠れないのよ」
    不機嫌そうな口調で答えているのは眠れないイライラからくるものだけでは無いようだ。
「どうしてここに・・・」
「来ちゃ悪かった?ここは共有の場のはずだけど」
「た、たしかに」
 
    昼間のこともあるので、言葉遣いも自然と気を使ってしまう。
「えっと、それじゃあ・・・」
「昼間は、その、怒鳴ったりしてわるかったわね」
「・・・え?」
    不機嫌な口調が一変して落ち着いた口調に戻ったかと思うといきなりこの一言。俺たちは一瞬の沈黙に包まれた。
「悪かったわよ、私が。さあ、わかったらこの話はおしまい」
「ちょ、ちょっと待ってよ。急にどうしたのさ、直美がそんなこと言うなんて今までなかったじゃないか」
    当然の反応だ。
    今まで宇垣がそんなことを言い出すなど無かったからだ。
「私がバカだったってだけよ。あなたたちが私を犯人だなんて思ってないことくらいすぐ気付くべきだったのよ」
「そんな!私たちが直美を不必要に疑ったのが悪いんだから・・・」
    再び沈黙が流れる。
    お互い悪気があったわけではない。そのことからなのか余計に喋りにくい。
    しかし、宇垣は本当に気にしていないようだ。
「今はこんなことやってる場合じゃないのよね。何としてでも事件を解決することが、私たちが優先すべきことなんだから」
「宇垣・・・」
「あんたも同じよ。私たちのことを家族って言ったのはあんたでしょ。家族は協力し合うもの、ならこんなくだらないことやめて、やるべき事をやるわよ」
「・・・ああ、そう、だな」
    宇垣の言葉には不思議と頼もしさを感じた。おれが初めて感じた、リーダーとしての言葉なのだろうか。
「てことは、直美と私たちはもう仲直りってことだよね?」
「まあ、そんなところね」
「よかったぁ〜」
    智恵から安堵の言葉が漏れる。よほど宇垣との関係を心配していた様子だ。
「なら早速、私も直美の手伝いを・・・」
「もう、智恵ったら。あなたが今やるべきことは、そこに座ってるアホの教育でしょ?」
「誰がアホやねん」
    なぜか関西弁で答えてしまった。
    しかし俺としても宇垣とのいざこざが無くなっただけでも、精神的にも楽になった気がする。
「まあ、勉強できないって言う事なら事実だけどねー」
「そうだけどさぁ・・・」
「なら、裕二君は今は勉強勉強!」
    智恵に急かされ、再び机に向き合おうとした時、後ろから聞き覚えのある声がした。
「お姉ちゃん。起きてたんだ」
「あれ?貴美しゃない。どうしたの?」
    智恵の妹、五号生の貴美だ。
    
「お姉ちゃんたちって。その、何か悪いことに巻き込まれてたり、するの?」
「えっ」
    唐突の質問に智恵も含めその場にいた全員が戸惑った。
「今日、寮の外で聞いたの。鏑木先輩が他の科の人と何か話してたのを」
「鏑木さんが?」
    貴美はそこで聞いた二人の会話のことを話した。内容は謎だがいい話ではなさそうだ。
「一体何者なんだ?鏑木と話していた相手って」
「さあ、せめてどこの科かわかればいいんだけれど。顔は見たの?」
「はい、一応」
「やっぱり、この事件はあの三人が関わってると考えられるわね」
「あの、事件て・・・」
    貴美がそう言うのも無理はない、航海科の上級生には事情を話しているが、貴美たちには話していないのだ。
「直美」
「まあ、貴美ちゃんには話してもいいかもね」
    宇垣はこれまでの経緯を全て話した。貴美はそんなことがあったのかと驚いた様子だ。
「そんなことが・・・」
「そう、だから私たちは今この事件を終わらせようとしているの」
「あの、私でよければお手伝いさせてください。宇垣先輩にはお姉ちゃんがお世話になっていますし」
「ありがとう。お姉ちゃんと違ってしっかりしてるわね」
「私だってしっかりしてるわよー」
「てことで智恵、もう夜も遅いから貴美ちゃんを送ってあげて」
    プーッと頬を膨らませて不満を見せる智恵だが、ここは姉らしくちゃんと五号生の寮まで送り届けた。
    五号生の寮と航海科の寮は比較的近いのでどうやら抜け出してきたようだ。
「鏑木と他科の人間が密会か。これは調査の必要があるわね」
「でも、どうするんだ?鏑木を尋問にでもかけるか?」
「そうね、それが手っ取り早いわね」
「いや、冗談だって」
    尋問はさておき、話していた相手の方も気になる。
「その相手が特定できれば・・・」
「それよ、その相手を特定するわ」
「どうやって・・・あっ」
    そんなこともわからないのかというような呆れた表情で宇垣が答えた。
「貴美ちゃんよ。あの子はその相手の顔を見ているわ」
「そんな事ないよ。庵と佐藤さんはいいコンビだと思うけどなぁ」
「いやいやそれはないよ。あいつときたら私のすること言うことなんでも文句つけてくるんだがら」
    東藤姉妹の末っ子、東藤貴美子は友人の小園庵の愚痴を聞きながら寮への道を歩いていた。貴美本人がどう思っているのかは知らないが、とても熱心に聞き入っている様子ではない。むしろ聞き流していると言ったほうがいい。まあ愚痴など聞いても仕方ないのだが。
「貴美は佐藤のことどう思ってるのよ」
「私は別にどうとは思ってないよ。言うなればまあ普通?」
    智恵に似たのかその辺りに関してはかなりマイペースらしい。
    寮の前まで来たところで二人は何かを見つけた。
「あ、鏑木先輩だ。何してるんだろう?」
「もう一人いるね」
    寮の前にいたのは三号生の鏑木だ。もう一人の三号生と何やら口論している。
    鏑木といえばあの問題児三人組の一人ではあるものの、三人の中では一番気弱でいつもおどおどしている印象を持つ。
    貴美と庵は口論する2人の横を通る。
「・・・は決定したのです」
「で、でも、今のままじゃ見つかっちゃいますって」
「なら見つからないように自分で・・・」
    横を通りながらチラッと顔を見る。
    話の相手はやはり知らない先輩だ。三号生であるには違いないが少なくとも航海科の人間ではない。
「何話してるんだろう。なんかすごく深刻なことみたい」
「うん、まあでも私たちがどうこうできるわけじゃないし・・・」
    彼女たちはそのまま寮に入った。
    そして、鏑木の相手の視線がずっと二人に向けられていたことに、気づくことはなかった。
「こら、寝るな!」
「うお!す、すまない・・・」
    木刀片手に怒鳴られて起きない奴はいない。
「もう11時過ぎだぞ・・・」
「ダメだ。智恵の出した問題を全て解き終わるまでは寝ることは許されない」
「どうかご勘弁をぉ・・・」
    石井がなぜ神無月片手に鬼軍曹とかしているのかといえば、俺が何か怒らずようなことをしたからではない。彼女はいわゆる深夜テンションという状態なのだ。
「頑張って裕二君」
    松原からの猛特訓の末、俺はなんとか試験に通るレベルになった・・・らしい。
    だがこれで満足するわけにはいかない。試験は実技だけではないのだ。
「ほら、あと少しだよ」
「いやまだ50問以上あるように見えるのだが」
    筆記試験の勉強は実技より長くやっているだけまだマシだと思っていた。しかし、智恵の「まだ足りない」という一言により、こうして俺深夜まで勉強しているわけだ。
「ほらほら、早く解かんか!」
「今解いてるよぉ・・・」
    石井はいつもはこんな性格じゃあないのに、夜になった途端これだ。
「ところで、宇垣はどうした?」
「直美ならさっき自分の部屋に入っていくのを見たよ」
「やっぱり少し言い過ぎたかな」
    自分としては何も宇垣が犯人などと思ったことは一度もない。決して同情などではなく、そもそも宇垣には犯行が不可能だ。もし、宇垣が犯人ならさすがに俺が気づく。
「直美なら大丈夫だよ。あの子ならちゃんと分かってくれる」
「だといいが」
「でも、そうなると保管庫の鍵はどうなるの?直美と寮監以外で開けられるとしたら」
「他にも鍵がある可能性は?」
「それは無いと思う。鍵の数は規則で決まってるし、もしあったとしても生徒が勝手に使えるようなものじゃないはず」
    今わかっていることはこれしか無い。もはや万事休すか。
「直美だったらこんな時どうするのかな」
「やっぱり、ウチらは直美がいてこそこれまでやってこれたみたいなものだから・・・」
「私が何よ?」
    突然声がしたと思うと。目の下に大きなクマを作った宇垣がいた。
「直美!まだ起きてたの?」
「寝ようにも眠れないのよ」
    不機嫌そうな口調で答えているのは眠れないイライラからくるものだけでは無いようだ。
「どうしてここに・・・」
「来ちゃ悪かった?ここは共有の場のはずだけど」
「た、たしかに」
 
    昼間のこともあるので、言葉遣いも自然と気を使ってしまう。
「えっと、それじゃあ・・・」
「昼間は、その、怒鳴ったりしてわるかったわね」
「・・・え?」
    不機嫌な口調が一変して落ち着いた口調に戻ったかと思うといきなりこの一言。俺たちは一瞬の沈黙に包まれた。
「悪かったわよ、私が。さあ、わかったらこの話はおしまい」
「ちょ、ちょっと待ってよ。急にどうしたのさ、直美がそんなこと言うなんて今までなかったじゃないか」
    当然の反応だ。
    今まで宇垣がそんなことを言い出すなど無かったからだ。
「私がバカだったってだけよ。あなたたちが私を犯人だなんて思ってないことくらいすぐ気付くべきだったのよ」
「そんな!私たちが直美を不必要に疑ったのが悪いんだから・・・」
    再び沈黙が流れる。
    お互い悪気があったわけではない。そのことからなのか余計に喋りにくい。
    しかし、宇垣は本当に気にしていないようだ。
「今はこんなことやってる場合じゃないのよね。何としてでも事件を解決することが、私たちが優先すべきことなんだから」
「宇垣・・・」
「あんたも同じよ。私たちのことを家族って言ったのはあんたでしょ。家族は協力し合うもの、ならこんなくだらないことやめて、やるべき事をやるわよ」
「・・・ああ、そう、だな」
    宇垣の言葉には不思議と頼もしさを感じた。おれが初めて感じた、リーダーとしての言葉なのだろうか。
「てことは、直美と私たちはもう仲直りってことだよね?」
「まあ、そんなところね」
「よかったぁ〜」
    智恵から安堵の言葉が漏れる。よほど宇垣との関係を心配していた様子だ。
「なら早速、私も直美の手伝いを・・・」
「もう、智恵ったら。あなたが今やるべきことは、そこに座ってるアホの教育でしょ?」
「誰がアホやねん」
    なぜか関西弁で答えてしまった。
    しかし俺としても宇垣とのいざこざが無くなっただけでも、精神的にも楽になった気がする。
「まあ、勉強できないって言う事なら事実だけどねー」
「そうだけどさぁ・・・」
「なら、裕二君は今は勉強勉強!」
    智恵に急かされ、再び机に向き合おうとした時、後ろから聞き覚えのある声がした。
「お姉ちゃん。起きてたんだ」
「あれ?貴美しゃない。どうしたの?」
    智恵の妹、五号生の貴美だ。
    
「お姉ちゃんたちって。その、何か悪いことに巻き込まれてたり、するの?」
「えっ」
    唐突の質問に智恵も含めその場にいた全員が戸惑った。
「今日、寮の外で聞いたの。鏑木先輩が他の科の人と何か話してたのを」
「鏑木さんが?」
    貴美はそこで聞いた二人の会話のことを話した。内容は謎だがいい話ではなさそうだ。
「一体何者なんだ?鏑木と話していた相手って」
「さあ、せめてどこの科かわかればいいんだけれど。顔は見たの?」
「はい、一応」
「やっぱり、この事件はあの三人が関わってると考えられるわね」
「あの、事件て・・・」
    貴美がそう言うのも無理はない、航海科の上級生には事情を話しているが、貴美たちには話していないのだ。
「直美」
「まあ、貴美ちゃんには話してもいいかもね」
    宇垣はこれまでの経緯を全て話した。貴美はそんなことがあったのかと驚いた様子だ。
「そんなことが・・・」
「そう、だから私たちは今この事件を終わらせようとしているの」
「あの、私でよければお手伝いさせてください。宇垣先輩にはお姉ちゃんがお世話になっていますし」
「ありがとう。お姉ちゃんと違ってしっかりしてるわね」
「私だってしっかりしてるわよー」
「てことで智恵、もう夜も遅いから貴美ちゃんを送ってあげて」
    プーッと頬を膨らませて不満を見せる智恵だが、ここは姉らしくちゃんと五号生の寮まで送り届けた。
    五号生の寮と航海科の寮は比較的近いのでどうやら抜け出してきたようだ。
「鏑木と他科の人間が密会か。これは調査の必要があるわね」
「でも、どうするんだ?鏑木を尋問にでもかけるか?」
「そうね、それが手っ取り早いわね」
「いや、冗談だって」
    尋問はさておき、話していた相手の方も気になる。
「その相手が特定できれば・・・」
「それよ、その相手を特定するわ」
「どうやって・・・あっ」
    そんなこともわからないのかというような呆れた表情で宇垣が答えた。
「貴美ちゃんよ。あの子はその相手の顔を見ているわ」
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