《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
後日談 大火、燃え尽きて……1/3
「スッカリ遅くなっちまったな」
ケンはそう言って、あたりを見渡した。
日は沈みきってしまい、あたりは鬱蒼と木々がしげっている。
足場が悪くて、思わずよろめいた。
道は細く、すぐ隣は崖になっていた。
あやうく落ちるところだったな、と胸をナでおろした。
「あんたが、こんな山奥に深入りするからでしょうが。このバカ」
ケンのとなりでそう言ったのは、ニーナだ。
ケンは、都市シェークスで育った。ニーナはその幼馴染だった。
ニーナはブロンドの髪をツインテールにしていた。目は鋭く、鼻はとがっており、やや刺々しい印象を人にあたえる。が、その容貌には独特な魅力があった。
「バカって言うなよな。オレはいずれS級黒狩人になる男なんだから」
「よく言うわ。ようやっと先日、黒狩人になったばかりだって言うのに」
と、ニーナは呆れるように、華奢な肩をすくめてそう言った。
夜になったら現われるクロイと呼ばれるバケモノを倒すのが、黒狩人の仕事である。
都市の付近には、ガス灯が行き渡っている。おかげでクロイによる被害は大幅に減少した。
だが、こういった山奥や田舎には、まだ明かりの届かない場所があった。
こういう明かりのない場所で、災厄級と呼ばれる巨大なクロイが生まれることがある。
災厄級が生まれるのを防ぐためには、黒狩人が、ときおりガス灯のない暗がりに赴いて、クロイの討伐をおこなう必要があった。
「オレはいずれ、エイブラハングさまみたいな、伝説級と呼ばれる黒狩人になるんだ」
「ムリよ」
と、ニーナは切り捨てた。
「ひでぇ。やってみなくちゃわからないだろ」
「ゼッタイにムリよ。そもそも時代が違うんだから。エイブラハングさまは、この世界が闇に閉ざされていた時代から活躍してるのよ。今よりもっと過酷な時代で活躍してらしたんだから」
「だからこそ、憧れるんだろ」
「それにエイブラハングさまは、6大使徒のひとりでもあられるんだし」
6大使徒。
プロメテ、レイア、ディーネ、エイブラハング、ゲイル、メデュ――と呼ばれる6人のことをそう呼ぶ。
「6大使徒ってあれだろ? 炎の魔神に仕えていた、とかいう偉大なる6人」
「ええ」
「ホントウに魔神なんていたのかよ」
「私は見てないから知らないわよ。でも、お父さんもお母さんも、魔神さまは存在してたって言ってるわよ」
「そうだけどさぁ」
ケンも常日頃から、両親から《紅蓮教》について教えられているのだが、あまり信じてはいなかった。
《光神教》という宗教があって、そこの神さまと相討ちになり、魔神は消えたと伝えられていた。まあまあ、よく出来た話なんじゃないかな、とは思うけれど、実際にいたんだと言われても釈然としない。
神さまなんて、いるわけない、と思う。
この世界が闇に閉ざされていたというのも、
(どうせ、何かの作り話だろうさ)
と、疑わしく思っている。
「ケン。上!」
と、ニーナが急に鋭い声を発した。
頭上。
クロイが跳びかかってくるところだった。
ケンはすぐに銃口を向けた。閃光弾を射出した。光が拡散して、クロイをかき消した。
「ふぅ。危ねェ」
「さっさと駅に戻りましょう。あんまり遅くなったら、最終便の機関車に乗り遅れちゃうわよ」
「そうだな。いや、ちょっと待って」
「なによ」
「なんか、光が……」
木々の茂みの向こう、赤い光が漏れている。
「あら、ホントウね。誰かいるのかしら?」
「賊かもしれねェ」
「チョット様子を見てみる? 遭難者とかだったら、助けなくちゃいけないし」
「ああ。そうだな」
遭難者を助けたとなれば、黒狩人としての功績にもつながるだろうと期待した。
賊かもしれないので、低木の茂みに身をひそめて、その明かりが漏れている場所を偵察することにした。
「な……ッ」
と、ケンは言葉をうしなった。
森のなかには広間があった。教会と思われる建造物があった。
その教会の前には十字架がかけられている。火あぶりにされている男の姿があった。火あぶりにされている男の周囲には、緋色の法衣を着た連中がいた。
『我は、魔神さまに選ばれし者。ホリトリニティである。改宗せよ。神を信じぬ者たちよ。あの偉大なるチカラを思いだし、その身に刻むが良い。無知なる者たちに、魔神さまの威光を知らしめよ』
と、叫んでいる男の姿があった。
その男の顔面は、ヤケドを負ったのは酷く焼けただれていた。
とても直視できる顔面ではない。
「なんだよ、あれ」
と、ケンは小声で疑問を口にした。
「聞いたことがあるわ。《紅蓮教》の過激派の連中よ。魔神のことを知らない、今の若い人たちをムリヤリ《紅蓮教》に引きいれたり、それを断る者を殺したりしてるらしいわ」
「カルト教団ってヤツか」
「まぁ、そうね。関わらないほうが良いわ」
「そうだな」
遭難者かと思って心配したのに、変なものを見てしまった。
火あぶりにされていた男は、死んでから燃やされたのだろうか? それとも生きたまま火あぶりにされたのだろうか? わからないし、べつにどっちでも良いことなのだが、ケンはそれが酷く気になった。
とても正気で見ていられる場面ではなかったので、すぐさま立ち去ろうと決めた。
パキッ
身を引いたケンは、木の枝を踏みつけてしまった。それが思いのほか大きな音をたてた。
「誰かいるぞ! 引っ立てろ!」
と、ホリトリニティと名乗っていた男の声がひびいた。
「ヤバ……」
「このバカ!」
「バカって言うなよ。仕方ないだろ。とにかく逃げたほうが良さそうだ」
足を車輪のように転がして、ケンは山を駆け下りた。
必死だった。
森を抜けると、すぐに駅のガス灯が見えてきた。
その明かりが見えただけで安心感があった。
プラットホームは石造りの台になっている。簡易的な木造の屋根があり、その下には古びたイスが設置されていた。
イスのすぐ近くには時刻表の看板が建てられており、ケンはその時刻表に寄りかかった。
「はぁ……はぁ……」
と、呼吸をととのえた。必死に走ってきたせいで、呼吸に血の味がまじっていた。
「ここまで逃げて来れば、大丈夫だろう」
ケンはニーナにそう言ったつもりだったのだが、返事がない。
「ニーナ?」
あたりを見渡してみるものの、ニーナの姿が見当たらない。
もしかして森のなかではぐれたのか、それならまだしも、あのカルト教団に捕まったのかもしれないと思うと、肝を死神につかまれたような心地だった。
のみならず――。
『こっちだ』
『駅のあたりに逃げ込んだはずだ』
と、まだカルト教団が追いかけて来ていた。
「チクショウ。なんなんだよ、いったい!」
クロイと戦うために蒸気銃と、閃光弾は持ってきている。しかし閃光弾を放ったところで、一時的な目くらましにしかなりそうにない。
はやく機関車が来ないものかと時刻表を見た。機関車が来れば、機関士たちに助けを求めることができる。
絶望的な気持ちになった。
もう最終便は行き過ぎていたのだ。
これでは逃げることも難しい。
(オレのせいだ)
と、自責の念に駆られた。
黒狩人として活躍しようと張り切って、山奥まで足を延ばしてしまったことが仇となった。
それに付き合ってくれたニーナも、カルト教団に囚われてしまった。
『いたぞッ』
『ひっ捕らえろ』
『魔神さまの威光を思い知らせてやれ』
と、カルト教団の声が追いかけてきた。
ケンの所在も、見つかってしまった。
一刻もはやく逃げなければならないと思うのだが、ニーナのこともある。ニーナが火あぶりにされている場面を想像すると、上手く足を動かすことが出来なかった。
その時。
コォーーーッ
と、汽笛をあげて走ってくる機関車があった。
もう最終便はとっくに過ぎているはずだった。
もしかして運行が遅れていたのだろうか?
何はともあれ、機関車が来たことによってカルト教団はその場から逃げて行った。
とりあえずは助かったのだ――と、ケンはその場にシリモチをついた。
ケンはそう言って、あたりを見渡した。
日は沈みきってしまい、あたりは鬱蒼と木々がしげっている。
足場が悪くて、思わずよろめいた。
道は細く、すぐ隣は崖になっていた。
あやうく落ちるところだったな、と胸をナでおろした。
「あんたが、こんな山奥に深入りするからでしょうが。このバカ」
ケンのとなりでそう言ったのは、ニーナだ。
ケンは、都市シェークスで育った。ニーナはその幼馴染だった。
ニーナはブロンドの髪をツインテールにしていた。目は鋭く、鼻はとがっており、やや刺々しい印象を人にあたえる。が、その容貌には独特な魅力があった。
「バカって言うなよな。オレはいずれS級黒狩人になる男なんだから」
「よく言うわ。ようやっと先日、黒狩人になったばかりだって言うのに」
と、ニーナは呆れるように、華奢な肩をすくめてそう言った。
夜になったら現われるクロイと呼ばれるバケモノを倒すのが、黒狩人の仕事である。
都市の付近には、ガス灯が行き渡っている。おかげでクロイによる被害は大幅に減少した。
だが、こういった山奥や田舎には、まだ明かりの届かない場所があった。
こういう明かりのない場所で、災厄級と呼ばれる巨大なクロイが生まれることがある。
災厄級が生まれるのを防ぐためには、黒狩人が、ときおりガス灯のない暗がりに赴いて、クロイの討伐をおこなう必要があった。
「オレはいずれ、エイブラハングさまみたいな、伝説級と呼ばれる黒狩人になるんだ」
「ムリよ」
と、ニーナは切り捨てた。
「ひでぇ。やってみなくちゃわからないだろ」
「ゼッタイにムリよ。そもそも時代が違うんだから。エイブラハングさまは、この世界が闇に閉ざされていた時代から活躍してるのよ。今よりもっと過酷な時代で活躍してらしたんだから」
「だからこそ、憧れるんだろ」
「それにエイブラハングさまは、6大使徒のひとりでもあられるんだし」
6大使徒。
プロメテ、レイア、ディーネ、エイブラハング、ゲイル、メデュ――と呼ばれる6人のことをそう呼ぶ。
「6大使徒ってあれだろ? 炎の魔神に仕えていた、とかいう偉大なる6人」
「ええ」
「ホントウに魔神なんていたのかよ」
「私は見てないから知らないわよ。でも、お父さんもお母さんも、魔神さまは存在してたって言ってるわよ」
「そうだけどさぁ」
ケンも常日頃から、両親から《紅蓮教》について教えられているのだが、あまり信じてはいなかった。
《光神教》という宗教があって、そこの神さまと相討ちになり、魔神は消えたと伝えられていた。まあまあ、よく出来た話なんじゃないかな、とは思うけれど、実際にいたんだと言われても釈然としない。
神さまなんて、いるわけない、と思う。
この世界が闇に閉ざされていたというのも、
(どうせ、何かの作り話だろうさ)
と、疑わしく思っている。
「ケン。上!」
と、ニーナが急に鋭い声を発した。
頭上。
クロイが跳びかかってくるところだった。
ケンはすぐに銃口を向けた。閃光弾を射出した。光が拡散して、クロイをかき消した。
「ふぅ。危ねェ」
「さっさと駅に戻りましょう。あんまり遅くなったら、最終便の機関車に乗り遅れちゃうわよ」
「そうだな。いや、ちょっと待って」
「なによ」
「なんか、光が……」
木々の茂みの向こう、赤い光が漏れている。
「あら、ホントウね。誰かいるのかしら?」
「賊かもしれねェ」
「チョット様子を見てみる? 遭難者とかだったら、助けなくちゃいけないし」
「ああ。そうだな」
遭難者を助けたとなれば、黒狩人としての功績にもつながるだろうと期待した。
賊かもしれないので、低木の茂みに身をひそめて、その明かりが漏れている場所を偵察することにした。
「な……ッ」
と、ケンは言葉をうしなった。
森のなかには広間があった。教会と思われる建造物があった。
その教会の前には十字架がかけられている。火あぶりにされている男の姿があった。火あぶりにされている男の周囲には、緋色の法衣を着た連中がいた。
『我は、魔神さまに選ばれし者。ホリトリニティである。改宗せよ。神を信じぬ者たちよ。あの偉大なるチカラを思いだし、その身に刻むが良い。無知なる者たちに、魔神さまの威光を知らしめよ』
と、叫んでいる男の姿があった。
その男の顔面は、ヤケドを負ったのは酷く焼けただれていた。
とても直視できる顔面ではない。
「なんだよ、あれ」
と、ケンは小声で疑問を口にした。
「聞いたことがあるわ。《紅蓮教》の過激派の連中よ。魔神のことを知らない、今の若い人たちをムリヤリ《紅蓮教》に引きいれたり、それを断る者を殺したりしてるらしいわ」
「カルト教団ってヤツか」
「まぁ、そうね。関わらないほうが良いわ」
「そうだな」
遭難者かと思って心配したのに、変なものを見てしまった。
火あぶりにされていた男は、死んでから燃やされたのだろうか? それとも生きたまま火あぶりにされたのだろうか? わからないし、べつにどっちでも良いことなのだが、ケンはそれが酷く気になった。
とても正気で見ていられる場面ではなかったので、すぐさま立ち去ろうと決めた。
パキッ
身を引いたケンは、木の枝を踏みつけてしまった。それが思いのほか大きな音をたてた。
「誰かいるぞ! 引っ立てろ!」
と、ホリトリニティと名乗っていた男の声がひびいた。
「ヤバ……」
「このバカ!」
「バカって言うなよ。仕方ないだろ。とにかく逃げたほうが良さそうだ」
足を車輪のように転がして、ケンは山を駆け下りた。
必死だった。
森を抜けると、すぐに駅のガス灯が見えてきた。
その明かりが見えただけで安心感があった。
プラットホームは石造りの台になっている。簡易的な木造の屋根があり、その下には古びたイスが設置されていた。
イスのすぐ近くには時刻表の看板が建てられており、ケンはその時刻表に寄りかかった。
「はぁ……はぁ……」
と、呼吸をととのえた。必死に走ってきたせいで、呼吸に血の味がまじっていた。
「ここまで逃げて来れば、大丈夫だろう」
ケンはニーナにそう言ったつもりだったのだが、返事がない。
「ニーナ?」
あたりを見渡してみるものの、ニーナの姿が見当たらない。
もしかして森のなかではぐれたのか、それならまだしも、あのカルト教団に捕まったのかもしれないと思うと、肝を死神につかまれたような心地だった。
のみならず――。
『こっちだ』
『駅のあたりに逃げ込んだはずだ』
と、まだカルト教団が追いかけて来ていた。
「チクショウ。なんなんだよ、いったい!」
クロイと戦うために蒸気銃と、閃光弾は持ってきている。しかし閃光弾を放ったところで、一時的な目くらましにしかなりそうにない。
はやく機関車が来ないものかと時刻表を見た。機関車が来れば、機関士たちに助けを求めることができる。
絶望的な気持ちになった。
もう最終便は行き過ぎていたのだ。
これでは逃げることも難しい。
(オレのせいだ)
と、自責の念に駆られた。
黒狩人として活躍しようと張り切って、山奥まで足を延ばしてしまったことが仇となった。
それに付き合ってくれたニーナも、カルト教団に囚われてしまった。
『いたぞッ』
『ひっ捕らえろ』
『魔神さまの威光を思い知らせてやれ』
と、カルト教団の声が追いかけてきた。
ケンの所在も、見つかってしまった。
一刻もはやく逃げなければならないと思うのだが、ニーナのこともある。ニーナが火あぶりにされている場面を想像すると、上手く足を動かすことが出来なかった。
その時。
コォーーーッ
と、汽笛をあげて走ってくる機関車があった。
もう最終便はとっくに過ぎているはずだった。
もしかして運行が遅れていたのだろうか?
何はともあれ、機関車が来たことによってカルト教団はその場から逃げて行った。
とりあえずは助かったのだ――と、ケンはその場にシリモチをついた。
コメント