《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

後日談 大火、燃え尽きて……1/3

「スッカリ遅くなっちまったな」


 ケンはそう言って、あたりを見渡した。


 日は沈みきってしまい、あたりは鬱蒼と木々がしげっている。


 足場が悪くて、思わずよろめいた。
 道は細く、すぐ隣は崖になっていた。
 あやうく落ちるところだったな、と胸をナでおろした。


「あんたが、こんな山奥に深入りするからでしょうが。このバカ」
 ケンのとなりでそう言ったのは、ニーナだ。


 ケンは、都市シェークスで育った。ニーナはその幼馴染だった。


 ニーナはブロンドの髪をツインテールにしていた。目は鋭く、鼻はとがっており、やや刺々しい印象を人にあたえる。が、その容貌には独特な魅力があった。


「バカって言うなよな。オレはいずれS級黒狩人になる男なんだから」


「よく言うわ。ようやっと先日、黒狩人になったばかりだって言うのに」
 と、ニーナは呆れるように、華奢な肩をすくめてそう言った。


 夜になったら現われるクロイと呼ばれるバケモノを倒すのが、黒狩人の仕事である。


 都市の付近には、ガス灯が行き渡っている。おかげでクロイによる被害は大幅に減少した。


 だが、こういった山奥や田舎には、まだ明かりの届かない場所があった。


 こういう明かりのない場所で、災厄級と呼ばれる巨大なクロイが生まれることがある。


 災厄級が生まれるのを防ぐためには、黒狩人が、ときおりガス灯のない暗がりに赴いて、クロイの討伐をおこなう必要があった。


「オレはいずれ、エイブラハングさまみたいな、伝説級と呼ばれる黒狩人になるんだ」


「ムリよ」
 と、ニーナは切り捨てた。


「ひでぇ。やってみなくちゃわからないだろ」


「ゼッタイにムリよ。そもそも時代が違うんだから。エイブラハングさまは、この世界が闇に閉ざされていた時代から活躍してるのよ。今よりもっと過酷な時代で活躍してらしたんだから」


「だからこそ、憧れるんだろ」


「それにエイブラハングさまは、6大使徒のひとりでもあられるんだし」


 6大使徒。
 プロメテ、レイア、ディーネ、エイブラハング、ゲイル、メデュ――と呼ばれる6人のことをそう呼ぶ。


「6大使徒ってあれだろ? 炎の魔神に仕えていた、とかいう偉大なる6人」


「ええ」


「ホントウに魔神なんていたのかよ」


「私は見てないから知らないわよ。でも、お父さんもお母さんも、魔神さまは存在してたって言ってるわよ」


「そうだけどさぁ」


 ケンも常日頃から、両親から《紅蓮教》について教えられているのだが、あまり信じてはいなかった。


《光神教》という宗教があって、そこの神さまと相討ちになり、魔神は消えたと伝えられていた。まあまあ、よく出来た話なんじゃないかな、とは思うけれど、実際にいたんだと言われても釈然としない。


 神さまなんて、いるわけない、と思う。


 この世界が闇に閉ざされていたというのも、
(どうせ、何かの作り話だろうさ)
 と、疑わしく思っている。


「ケン。上!」
 と、ニーナが急に鋭い声を発した。


 頭上。
 クロイが跳びかかってくるところだった。


 ケンはすぐに銃口を向けた。閃光弾を射出した。光が拡散して、クロイをかき消した。


「ふぅ。危ねェ」


「さっさと駅に戻りましょう。あんまり遅くなったら、最終便の機関車に乗り遅れちゃうわよ」


「そうだな。いや、ちょっと待って」


「なによ」


「なんか、光が……」


 木々の茂みの向こう、赤い光が漏れている。


「あら、ホントウね。誰かいるのかしら?」


「賊かもしれねェ」


「チョット様子を見てみる? 遭難者とかだったら、助けなくちゃいけないし」


「ああ。そうだな」


 遭難者を助けたとなれば、黒狩人としての功績にもつながるだろうと期待した。


 賊かもしれないので、低木の茂みに身をひそめて、その明かりが漏れている場所を偵察することにした。


「な……ッ」
 と、ケンは言葉をうしなった。


 森のなかには広間があった。教会と思われる建造物があった。


 その教会の前には十字架がかけられている。火あぶりにされている男の姿があった。火あぶりにされている男の周囲には、緋色の法衣を着た連中がいた。


『我は、魔神さまに選ばれし者。ホリトリニティである。改宗せよ。神を信じぬ者たちよ。あの偉大なるチカラを思いだし、その身に刻むが良い。無知なる者たちに、魔神さまの威光を知らしめよ』
 と、叫んでいる男の姿があった。


 その男の顔面は、ヤケドを負ったのは酷く焼けただれていた。
 とても直視できる顔面ではない。


「なんだよ、あれ」
 と、ケンは小声で疑問を口にした。


「聞いたことがあるわ。《紅蓮教》の過激派の連中よ。魔神のことを知らない、今の若い人たちをムリヤリ《紅蓮教》に引きいれたり、それを断る者を殺したりしてるらしいわ」


「カルト教団ってヤツか」


「まぁ、そうね。関わらないほうが良いわ」


「そうだな」


 遭難者かと思って心配したのに、変なものを見てしまった。


 火あぶりにされていた男は、死んでから燃やされたのだろうか? それとも生きたまま火あぶりにされたのだろうか? わからないし、べつにどっちでも良いことなのだが、ケンはそれが酷く気になった。


 とても正気で見ていられる場面ではなかったので、すぐさま立ち去ろうと決めた。


 パキッ


 身を引いたケンは、木の枝を踏みつけてしまった。それが思いのほか大きな音をたてた。


「誰かいるぞ! 引っ立てろ!」
 と、ホリトリニティと名乗っていた男の声がひびいた。


「ヤバ……」


「このバカ!」


「バカって言うなよ。仕方ないだろ。とにかく逃げたほうが良さそうだ」


 足を車輪のように転がして、ケンは山を駆け下りた。
 必死だった。


 森を抜けると、すぐに駅のガス灯が見えてきた。
 その明かりが見えただけで安心感があった。


 プラットホームは石造りの台になっている。簡易的な木造の屋根があり、その下には古びたイスが設置されていた。
 イスのすぐ近くには時刻表の看板が建てられており、ケンはその時刻表に寄りかかった。


「はぁ……はぁ……」
 と、呼吸をととのえた。必死に走ってきたせいで、呼吸に血の味がまじっていた。


「ここまで逃げて来れば、大丈夫だろう」


 ケンはニーナにそう言ったつもりだったのだが、返事がない。


「ニーナ?」
 あたりを見渡してみるものの、ニーナの姿が見当たらない。


 もしかして森のなかではぐれたのか、それならまだしも、あのカルト教団に捕まったのかもしれないと思うと、肝を死神につかまれたような心地だった。


 のみならず――。


『こっちだ』
『駅のあたりに逃げ込んだはずだ』
 と、まだカルト教団が追いかけて来ていた。


「チクショウ。なんなんだよ、いったい!」


 クロイと戦うために蒸気銃と、閃光弾は持ってきている。しかし閃光弾を放ったところで、一時的な目くらましにしかなりそうにない。


 はやく機関車が来ないものかと時刻表を見た。機関車が来れば、機関士たちに助けを求めることができる。


 絶望的な気持ちになった。
 もう最終便は行き過ぎていたのだ。


 これでは逃げることも難しい。


(オレのせいだ)
 と、自責の念に駆られた。


 黒狩人として活躍しようと張り切って、山奥まで足を延ばしてしまったことが仇となった。


 それに付き合ってくれたニーナも、カルト教団に囚われてしまった。


『いたぞッ』
『ひっ捕らえろ』
『魔神さまの威光を思い知らせてやれ』
 と、カルト教団の声が追いかけてきた。


 ケンの所在も、見つかってしまった。



 一刻もはやく逃げなければならないと思うのだが、ニーナのこともある。ニーナが火あぶりにされている場面を想像すると、上手く足を動かすことが出来なかった。


 その時。


 コォーーーッ
 と、汽笛をあげて走ってくる機関車があった。


 もう最終便はとっくに過ぎているはずだった。


 もしかして運行が遅れていたのだろうか?


 何はともあれ、機関車が来たことによってカルト教団はその場から逃げて行った。


 とりあえずは助かったのだ――と、ケンはその場にシリモチをついた。

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