《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

34-4.VSティリリウス②

 オレが殴り、ティリリウスが切り返してくる。闘争がつづいていた。


 オレのコブシは、確実にティリリウスに届いていた。


 しかし逆に、ティリリウスの剣がオレのカラダを切り裂いて、その魔力を削ぎ落しても行く。


「粘るな。邪神」
「そっちこそ」


 篠竹で突くような雨が、オレに降りかかってくる。オレのカラダからは闘気のように、湯気を放っていた。


 一方でティリリウスも酷く疲弊しているようだった。オレの炎を受けることによって、まとっていたマントが焦げ付いていた。


「貴様。そう言えば、各地の聖火台に火を灯しているそうだな」


「なんだ、こんなときに」


「3大神にはムリだったようだが、私がその気になれば、あんな火はかき消すことが出来る」


「てめェは、ここで死ぬから、それはムリな話だ」


 これまでオレとプロメテは、あの聖火台を目指して旅をつづけてきた。それを消すというのは、看過できることではなかった。


 あの聖火台の火があることによって、助かった人たちも多いはずなのだ。まるでそれに呼応するかのように、近くで呼称していた怪物城が、プスン、と黒煙を吐きだしていた。この怪物城の動力にも、聖火台が利用されている。


 ふん、とティリリウスは鼻であしらってつづけた。


「かつて神の怒りを買った、その聖火台にふたたび火を灯すとはな」


「こんなに暗い世界だからな。クロイ避けという意味でも、聖火台は必要だ。もっとも、あんたには人を思いやる心は持ち合わせていないようだが」


「これは天罰だ。天界から魔法を盗み出した人間への天罰だ」


「どうして魔法を盗まれたぐらいで、そんなに怒るのか、オレにはよくわかるぜ」


「なに?」


「怖いんだろう」


「怖いだと?」


「人間が信仰を捨てて、自立するのが怖いんだ。魔法があれば、信仰のチカラに頼ることもないからな。そうなれば、神は無力と化す」


 かつて、プロメテも似たような悩みを抱いたことがあった。タリスマンがあれば、大司教が必要とされなくなるのではないか、と。
 自分にとって代わるチカラが生まれることを、怖れたのだ。


 ホザケ、とティリリウスは一蹴して、話題を転じた。


「聖火台に話を戻すが、5つ目の聖火台がここにある」


 ティリリウスはそう言うと剣を鞘におさめた。そして右の手のひらに大きな器を召喚して見せた。


 それはたしかに今までオレが見てきた聖火台だった。いまはただの器であり、火は灯っていない。


「持ってきたのか」


「この聖火台を壊されたくなければ、そこを動くな」


「なに?」


「この聖火台が、たいせつなのだろう?」


「卑怯な」


 動くなよ、とティリリウスは念を押すと、左手に持っていた槍を、オレの胸部に突き入れてきた。


「くっ」


 べつに痛みはないけれど、その突きいれられた穂先から、チカラを吸われてゆくのがわかった。


 天を焼き、闇をナめるオレの炎が、すこしずつ弱まってゆく。存在が小さくなってゆく。


 はーはははっ、とティリリウスは笑った。


「愚かな神だ。たかがこの器1枚のために、その命を捨てると言うか」
 と、槍をさらに突き入れてきた。


「その聖火台は……彼女の夢だからな」


「ほお」


「その夢を壊すわけにはいかないんだよ。オレは、彼女の神だからな」


 プロメテは贖罪のためにここまで歩んできた。この旅の終着点が、そこにある。


 この旅がはじまったとき、プロメテは言った。オルフェスにある5つの聖火台。それに火を灯したいから、手を貸して欲しい――と。


 約束を、違えるわけには、いかない。


「きれいごとを言うではないか」


「たとえ、きれいごとでも、オレはそういう神でありたいね。聖火台を人質にとる神よりはマシだろう」


「たかが人間の女ひとりに、頭の上がらないなんて、神としての威厳があるとは思えんがな」


 人の腐肉の上に顕現する。それこそが神だッ――とティリリウスは吠えた。


 その声にあわせて、ティリリウスの背後にいたソマ帝国の軍勢が歓声をあげていた。


「そうなのかもしれないな」


 ティリリウスのように、人の命をなんとも思わない考え方こそ、人を凌駕する存在としては、ふさわしいのかもしれない。


 しかしそんな思想は、オレには出来そうになかった。もともと人間だったオレの性なのだろう。


「認めるか。貴様に神として立つ資格はありはしない。貴様ごときが神を語る資格はありはしない!」


 槍がさらに突きいれられた。
 オレの輪郭はすでに、ティリリウスよりもひとまわり小さくなっていた。


「オレはべつに、神じゃなくても良かったんだがな」


「なに?」


「けど、仕方ないだろ。オレなんかを神さまだって言って、頼ってくれる連中がいるんだから。期待に応えたかったのさ」


 転瞬――。


 巨大な火の球が、ティリリウス向かって放たれた。


 いったいどこから放たれたものか――。


 背後。振り返る。


 ファルスタッフ砦の稜堡バスティヨンにて立つ少女。白銀の髪を逆立ててその双眸は、鋭利なナイフのようにかがやいている。プロメテだ。タリスマンによる援護をくれたようだ。


 さすがは《紅蓮教》の大司教。そのタリスマンの炎は、あまりに大きいものだった。ティリリウスに隙が生じた。


 ひとりの少女が、神を揺らがせた。


 その間隙を見逃す手はない。オレは槍をさらに抉りこまれるのも構わずに、ティリリウスに抱きついた。


「なにをする!」


「これが最後のチャンスみたいだからな。このまま一緒に燃え尽きるか。神さまよ」


 最後のチカラを振り絞り、炎を猛らせた。オレのカラダが、ティリリウスの全身を包みこんで行く。


「よせッ。やめろッ」
 と、ティリリウスが何度もその剣を、オレに突きたててきた。チカラが失われて行くのがわかったが、ここで気を緩めるわけにはいかない。


 この神をいっしょに連れて行く。灰の向こう側へ。


 振り返る。


 稜堡バスティヨンにて、白銀の髪を振り乱して、何か叫んでいるプロメテの姿が見て取れた。


「君の神さまで良かったよ」


 狂い咲き、思いのたけ燃ゆる気炎万丈――。

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