《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

34-3.VSティリリウス①

 茫漠たる闇の広がる丘陵。


 白き巨神ティリリウスの前に、炎が木枯らしのように渦巻いた。その炎の木枯らしは、竜巻となって巨大な火柱をあげた。


 魔神アラストルであるこのオレの顕現である。


 ソマ帝国が国教《光神教》の主神ティリリウス。白き光を放ち、荘厳たる翼を悠々とひろげる巨神。


 対峙するは、セパタ王国が国教《紅蓮教》の主神アラストル。闇を蹴散らし、業火を放つ。


 ティリリウスの図体は山のように大きかったけれど、オレの体格も負けていなかった。これほどまで大きく膨らむほどに、《紅蓮教》の信徒が増えたのだ。


「貴様が、アラストルか。世を惑わす邪教の神よ」


 ティリリウスの声は、猛々しい男のように野太いくせに、音程そのものは女性のように高いものだった。
 まるで訓練された歌手のような声だった。


 男なのか、女なのかもハッキリとしない。あるいは性別なんて、ないのかもしれない。


「ああ」


「まさか魔術師ごときに召喚された、マガイモノの神が、ここまでチカラを持つとはな」


「マガイモノだと?」


「そうであろうが。貴様は魔術師によって、強制的に仕立て上げられた神に過ぎん。古くからこの世界を統治していた、私とは違う」


 このオレが、もともと人間で、異世界転生によって神になった――というイキサツを、ティリリウスは見透かしているのかもしれない。


「どうだろうな。あんたよりは、よっぽど神さまでいられたと思うがな」


「タワゴトを」


「しかしホンモノの神さまってのも、しょせんはそんなものか」


「なに?」


「話してみると、意外とでけぇ存在じゃないってことがわかるもんだ。しょせん神なんてものは、人さまのおかげで成り立っているもんだからな。たいした存在じゃない」


「邪神のくせに、大口を叩きよる」
 と、ティリリウスは肩をゆすって笑った。


「ずいぶんと好き勝手して生きてきたそうじゃないか。誰かが制裁をくわえてやらねェとな」


「それが貴様か」


「ああ」


「好き勝手にして何が悪い。生まれながらにして罪深き人間どもに、越えるべき試練をあたえてやるのも神のつとめ」


「いかにも神って感じの陳腐なセリフを吐きやがる。ヘドが出る」


「粋がるな邪神。貴様と私とでは年季が違う。神として生きてきた年季がな」


 ティリリウスはそう言うと、翼をはためかせた。突風がオレのカラダに吹き付けてきた。風を受けて、オレの前身がなびいた。


「やってみなくちゃ、わからねェだろう」


「ひとつ言っておく」
 と、ティリリウスは右手に持った剣を、オレに向けてきた。


「聞いてやる」


「神は、ふたりも必要ない」
 と、ティリリウスはそう断言した。
 その言葉を発すると同時に、風がピタリとおさまった。


「排他主義らしい物言いだ」


「神がふたりもいれば、人は迷ってしまう。標はひとつで良い」


 たしかゲイルもそんなことを言っていた。そしてゲイルはティリリウスよりも、オレこそが標にたる存在だと認めた。だからこそ寝返ったのだ。


 しかしオレは、ティリリウスやゲイルの考えとは別の考えを持っていた。


「わざわざ神が導いてやらなくても、人は自分で進む道を選ぶもんだ。信じたいヤツだけ信じれば良い。信じることも、人が自分で決めたことだ」


「思想が違えば、争いが生まれるものだ。ひとつにまとまる必要がある。だから私がいるのだ」


「よそを支配しているお前がよくそんなことを言える。チカラで征服すれば、争いは生まれないってか」


 ふん、とティリリウスは鼻息を荒げた。


「話してもムダか」


「オレもそう思っていたところだ」


 ティリリウスは剣を正眼に構えた。
 オレもそれに合わせてコブシを構えた。


 ティリリウスの背後にはソマ帝国の軍勢が。そしてオレの背後には、《紅蓮教》のみんながいる砦がある。


 紅の闘気と、白い覇気が衝突して、ぐるぐると渦巻いていた。



 先に動いたのは、ティリリウスだった。剣で斬りつけてきた。オレはそれを後ろに跳びずさってかわした。


 空ぶった剣からは、身に突き刺してくるような風が起こった。その風がオレのカラダを小刻みに震わせた。
 炎であるがゆえに、風を受けると、過剰にふるえるのだった。


 剣をふるったティリリウスに向かって、オレは殴りつけた。炎のコブシがティリリウスの腕によって受け止められた。


 ティリリウスの腕には、籠手のような装備がされていた。それがオレのコブシを受け止めたようだ。


 ティリリウスが押し返してくるのにたいして、オレもチカラを押し付けた。


 拮抗する。


 その均衡を破るようにして、ティリリウスが槍を突き出してきた。
 あわや貫かれるかと思った。


 その突き出された槍を、身をよじって避けた。


 槍はオレをかすめて通過してゆく。オレはその通過した槍の柄を握った。かつてグングニエルと戦ったときの経験が生きていた。


 槍の柄を握ったまま、引き寄せた。ティリリウスのカラダが引き寄せられる。


 もう一度、コブシを叩きつけた。
 オレのコブシはティリリウスの顔面に入った。

 ドスン。火炎太鼓をたたきつけたような音とともに、ティリリウスは大きく後ろにのけぞった。


「うおおおおッ」
 という歓声がファルスタッフ砦のほうから沸き起こった。


 みんな見ているのだ。世界がこの2つの神の闘争を見守っているのだった。


「この私を殴りつけるとはな」
 と、ティリリウスはヘルムでおおわれた顔面を、なでていた。


 ヘルムをかぶっているため、あまりダメージは通らなかったのかもしれない。しかしそれでも、やれるぞ、という実感は得ていた。


「どんなもんかと思っていたが、意外とたいしたことないな。神さまってのも」


「なに?」


「しょせんは敵がいないから、粋がってただけか。邪教とバカにしてる敵の神に、殴られるとはな」


 今や《紅蓮教》の大きさは、《光神教》をおびやかす。勝てない相手ではない。オレは今まで3大神だって倒してきたのだ。


「口だけは達者なようだな。よくしゃべるのは自信のなさゆえか?」


「たしかにオレは自信がない。いつだって、自分がホントウに神たる存在で良いのか、自信はなかった」


「神のくせに、自信がないとはな」


「神だから、自信がないんだよ」


 地球の歴史において、神は人に多くの血を流させた。それだけ重い存在なのだ。


 はたしてオレにその価値があるのか。信仰の対象となる神だとは、トウテイ言い切ることは出来ない。その点は、ティリリウスの図太さを見習うべきなのかもしれない。


 しかしそんなオレでも今は、胸を張って言えることがある。


 オレは。
 プロメテの神にはなれた。


 オレの信徒でしあわせだったと言ってくれた。人ひとりに幸せだと言わせしめることが出来たのならば、それでもう満足だ。


 その自信が、かよわい灯火を、魔神の業火へと昇華させる。


 そしてプロメテの神であるオレがなすべきことは、目の前のおごり高ぶったティリリウスを殴り飛ばすことである。
 プロメテを迫害へと追い込んだ元凶を許すわけにはいかない。


 だから。
 ここは退けない。


「タワケが」


 ティリリウスの周囲には、光の球が浮かび上がった。
 聖白騎士団がよく使う信仰のチカラだ。


「……ッ」


 オレに向かって来るものだと思ったから、不意をつかれた。その光の球はオレを通過して、ファルスタッフ砦へと向かっていた。


 オレは手のひらで火球ファイアー・ボールとでも言うべき、炎の球体を生み出して、その光の球にブツけた。


 空中にて双方の球が衝突した。爆発が起こり、黒煙が空にひろがった。


「砦を狙うとは卑怯な」


「それが貴様の弱さだ」


「なに?」


「神のくせに、信徒を守ろうとする」


「てめェとは、徹底的にズレてるな。神だから信徒を守るんだろうが。だいたい信徒がいなけりゃ、神はチカラを発揮できない」


「人さまの靴をナめて生きていくのが神か? 貴様に神の資格はありはしない。人間を凌駕する圧倒的なチカラをもって、人をかしずかせてこその神だ」


 ティリリウスはそう言うと、近くにいたソマ帝国の兵隊をつかみあげた。


 何をするのかと思うと、その人たちをオレに向かって投げつけてきたのだった。オレの理解を越えた行動だった。


 オレのカラダで受け止めると、投げつけられた人を燃やすことになってしまう。


 敵だから、情けをかける必要はないのかもしれないが、そんな死に方はあまりに無惨である。


 迷ったあげくにオレは避けることにした。避けても結局は、投げられた人たちは砦の城壁に叩きつけられて、真っ赤な果実のように潰れていた。


「なんてことをしやがる」


「これが、神だ」
 と、ティリリウスはそう言い放った。


 雨脚が強くなっていた。風が吹き付け、雷が鳴っていた。ティリリウスが意図的にやっているのか、自然とそうなっているのかはわからないが、天候は嵐の様相をていしはじめていた。


「なるほど」


 ティリリウスの行為を見て実感させられた。これが神だと言うのならば、神さまなんて糞食らえだ。


 しかしだからと言って、戦意を失ったわけではない。


 オレとて、神なのだ。


 なんと言われようとも、オレは、ひとりの術師に召喚されたなのだ。それだけは、揺るがぬ事実である。

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