《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
33-6.最終戦争 エイブラハング
メデュとその母は、砦の裏口から護衛を連れて出て行った。そのまま街道を通って、王都に戻るということだった。
オレはそれを裏口まで見送った後に、ふたたび稜堡に戻ることにした。
この戦いを、見ておきたいと思ったのだ。
この戦はおおきいだけではない。
みんな、それぞれの思いを賭けて戦っているのだ。
ディーネは、ここまで大きな戦が出来て満足だと言っていた。
レイアは《紅蓮教》は家族だと言った。そのために命を張れるとも言っていた。
ヴァルは、この戦で活躍して漢になりたいと言っていた。
カザハナとアルテミスは、ソマ帝国と戦えることを嬉しく思うと言っていた。
メデュとその母親は、主神ティリリウスを討って欲しいと言った。
そしてその渦巻く感情の中心にいるのは、自分なのだと思うと、急にこの場から逃げ出したくなるような思いにとらわれた。
それは常にオレのなかに付きまとう、「オレなんかが神で良いのだろうか」という感情から発せられるものだった。この場にいる人々のすべての責任を背負っているのだ。
強いて言うならば、その感情は「分不相応感」とでも言うべきか。お前は今日から神さまだと言われて、いったい誰が自信をもって首肯することが出来るというのか。
オレのこの「分不相応感」は決して、誰にも責められるものではないと思う。
「ふぅ」
と、一呼吸おくと、逃げ出したくなる感情も薄らいでいった。
戦気うずまく茫漠たる戦場へと、あらためて目を向けた。
いるのか?
《光神教》が主神――ティリリウス。
ヤツを倒せば終わりなのだから、見つけ出すことが出来れば、それで良いのだ。見つけてブッ飛ばせば、それでこの戦いは終わる。
今までの3大神のことからかんがみると、ティリリウスとやらも、下品なまでに白く輝いて、かなり目立つ風体のはずである。
どこにも見当たらない。
まだ呼び笛で召喚されていないのか、あるいは、アイギスフォンのように人の姿に変装しているのかもしれない。
ピー
不意に甲高い音が鳴りひびいた。怪物城が吹き鳴らす蒸気の音でも、オレのカラダから発せられる音でもなかった。
それもひとつではない。いくつもその音が重なって、戦場に響きわたった。
ポッ。戦場にてひとつの小さな光が灯った。それを端緒に、いくつもの白いキラメキが出現した。
「あれは……」
天使だ。
数えきれないほどの天使の軍勢だった。いまの甲高い音は、《聖白騎士団》が吹き鳴らした天使の呼び笛によるものだったらしい。
天使たちは翼をはためかせて、怪物城の周りを飛びまわっていた。白い光の球を、怪物城に撃ちつけていた。
それによって怪物城からは爆発が起こった。
聖火台を利用して心臓――火室に被害を受けたのかもしれない。怪物城はそのまま動かなくなった。
「……ッ」
オレは、熱が入って、知らず知らずのうちに 稜堡の縁から乗りださんばかりに前のめりになっていた。
「あまり前に出ると、落っこちてしまいますよ。魔神さま」
と、声をかけられて、はじめてオレは我に返った。
声をかけてきたのはディーネだった。
「どうしてここにいるんだ? 指揮は?」
「問題ありません。私は総指揮です。現場にはそれぞれ担当の隊長がおりますから」
「怪物城が、敵の真ん中に取り残されてしまった」
「ですが、想像以上の働きをしてくれました。攻城兵器をほぼすべて破壊してくれた。その上、敵の陣形を荒らしまわってくれました。見事です」 と、ディーネもまた敵陣にて取り残された怪物城から、視線を外すことなくそう言った。
「怪物城には、まだカザハナたちエルフが乗っているんだ。あのままだと天使の猛攻に遭う」
怪物城が動かなくなったのは、敵陣の真っただ中である。このままでは中に乗っているエルフたちが追い詰められることになる。
さらに悪いことが起こった。
「敵襲――ッ」
という声が、思いのほか近くからあがった。
召喚された天使が数人、砦にも攻撃を仕掛けてきているらしかった。目視できるだけでも3人はいる。
歩廊に配備されていた銃兵たちが攻撃に遭っていた。
天使の軍勢が現われたことによって、戦況がいっきに敵側へと傾いたかと思われた。
「気炎万丈を使おう」
オレならば天使を追い払うことが出来る。
「いえ。心配は無用ですよ。どうやら間に合ったようです」
と、ディーネはオレを制するように、手のひらを突き出した。
「間に合った?」
ディーネは、すぅ、と息を吸い込むと、胴間声を発した。
「蒸気兵装部隊展開! ただちに天使たちを迎撃せよッ!」
それは女性から発せられたとは思えないほどたくましい声音だった。近くにいたオレの超蒸気装甲がぶるぶると震えたほどだ。
ディーネの命令を受けて、中庭にあった小屋が爆散した。その小屋から跳びだしてくる部隊の姿があった。
その姿を見てオレは驚きを禁じ得なかった。
その部隊は全部で5人――否5機だったのだが、その5機とも、超蒸気装甲をまとうオレとソックリの姿をしていたのだ。
「あれは……?」
「見ての通り、量産型の超蒸気装甲ですよ。ギリギリまで調整していたのですがね」
リトル・ボーイといったことこです、と冗談らしきことを言った。
「量産型だと?」
「魔神さまのタリスマンと、石炭と水のチカラを利用した蒸気機関です。さすがに、魔神さまほどの馬力を出すことは出来ませんし、中に入る人物の耐火性にも問題がありますが、それでも人間以上の馬力を出すことは出来ます」
「まさか量産型にまで手を出していたとはな」
「ドワーフの英雄と呼ばれた男が活躍するには、充分な装甲になっているはずですよ」
「ドワーフの英雄だと?」
量産型の5機は城壁を蹴りあげると、一っ跳びで歩廊にまで上ってきた。そして手にしていた大槌で、天使のひとりを叩き潰したのであった。
同じ超蒸気装甲とはいえ、量産型のほうは顔が隠れていなかった。ヘルムから覗くその顔を垣間見ることが出来た。
頭部には立派な角が生えていた。大槌を振り上げて天使を叩き潰したそのドワーフは、ヴァルの父親、イ・ヴェンドであった。
「ドワーフたちも参戦してくれてるのか」
「ドワーフたちにも、里を救った恩を売っていますからね。それにドワーフたちは、もう立派な紅蓮教徒です」
ほか2人の天使たちも、イ・ヴェンド率いる蒸気兵装部隊によって、アッという間に鎮圧されることになった。
砦のほうは、それで良いかもしれないが、怪物城がまだ攻撃に遭っている。セッカクの量産型だが、この砦の守備に必要だろう。
「エルフたちの救出は、私にお任せください」
そう言って、稜堡に駆けあがってきたのは、エイブラハングだった。
「エイブラハングか。そろそろ来るだろうと思っていたよ」
と、オレは言った。
「さすがは魔神さま。私の考えなどお見通しというわけですね」
見通していたわけではない。オレにとって身近な人たちとは話したが、エイブラハングとはまだ話していなかった。なので、そろそろ来るかもしれないという無根の予感があったのだ。
「行くのか?」
「今、エルフたちを救えるのは、私しかおりません。私の槍は、天使すら貫きます」
エイブラハングが尋常ではない槍使いであることは、オレも承知している。神の子とあだ名されるほどである。
この戦場においても、一騎当千の活躍をすることだろう。
「いつもの槍ではないんだな」
《輝光石》を塗りこんだ槍ではなかった。おそらく鉄製と思われる穂先の槍である。
「今回は相手がクロイではないので」
「そうか」
「《紅蓮騎士団》を率いて、エルフ救出の大役をぜひこの私にやらせていただきたいのです。魔神さま」
敵の攻城兵器のひとつが、火柱をあげていた。火矢の炎が燃え移ったようだ。兵器の周りにいた帝国兵たちが逃げ惑っていた。
この雨のなか燃え上がる火柱は、まるで魔神の舌のように赤く、闇をナめまわすかのように揺らめいていた。
「暗闇はもう平気か?」
「はい」
「無事に戻って来いよ」
「御意」
と、オレの前に、エイブラハングはかしずいた。
みんな戦いに行ったのだ。いまさらエイブラハングを止めようとは思わなかった。
文字通りの、総力戦なのである。
エイブラハングは、レイアとともに鍛え上げてきた《紅蓮騎士団》を率いて、砦を出て行った。
《紅蓮騎士団》は騎馬に乗っていた。雨でぬかるんだ大地を踏み蹴散らして、足音勇ましく騎馬が走る。
その先頭では、まるでオレに合図を送るかのように、エイブラハングは紅色の旗を振っていた。
オレはそれを稜堡の上で見守っていた。
エイブラハング率いる《紅蓮騎士団》は、鋭角の楔形陣形をとった。まるで槍の穂先のような鋭い陣形である。
そして帝国軍の横陣へと抉りこんだ。
オレはそれを裏口まで見送った後に、ふたたび稜堡に戻ることにした。
この戦いを、見ておきたいと思ったのだ。
この戦はおおきいだけではない。
みんな、それぞれの思いを賭けて戦っているのだ。
ディーネは、ここまで大きな戦が出来て満足だと言っていた。
レイアは《紅蓮教》は家族だと言った。そのために命を張れるとも言っていた。
ヴァルは、この戦で活躍して漢になりたいと言っていた。
カザハナとアルテミスは、ソマ帝国と戦えることを嬉しく思うと言っていた。
メデュとその母親は、主神ティリリウスを討って欲しいと言った。
そしてその渦巻く感情の中心にいるのは、自分なのだと思うと、急にこの場から逃げ出したくなるような思いにとらわれた。
それは常にオレのなかに付きまとう、「オレなんかが神で良いのだろうか」という感情から発せられるものだった。この場にいる人々のすべての責任を背負っているのだ。
強いて言うならば、その感情は「分不相応感」とでも言うべきか。お前は今日から神さまだと言われて、いったい誰が自信をもって首肯することが出来るというのか。
オレのこの「分不相応感」は決して、誰にも責められるものではないと思う。
「ふぅ」
と、一呼吸おくと、逃げ出したくなる感情も薄らいでいった。
戦気うずまく茫漠たる戦場へと、あらためて目を向けた。
いるのか?
《光神教》が主神――ティリリウス。
ヤツを倒せば終わりなのだから、見つけ出すことが出来れば、それで良いのだ。見つけてブッ飛ばせば、それでこの戦いは終わる。
今までの3大神のことからかんがみると、ティリリウスとやらも、下品なまでに白く輝いて、かなり目立つ風体のはずである。
どこにも見当たらない。
まだ呼び笛で召喚されていないのか、あるいは、アイギスフォンのように人の姿に変装しているのかもしれない。
ピー
不意に甲高い音が鳴りひびいた。怪物城が吹き鳴らす蒸気の音でも、オレのカラダから発せられる音でもなかった。
それもひとつではない。いくつもその音が重なって、戦場に響きわたった。
ポッ。戦場にてひとつの小さな光が灯った。それを端緒に、いくつもの白いキラメキが出現した。
「あれは……」
天使だ。
数えきれないほどの天使の軍勢だった。いまの甲高い音は、《聖白騎士団》が吹き鳴らした天使の呼び笛によるものだったらしい。
天使たちは翼をはためかせて、怪物城の周りを飛びまわっていた。白い光の球を、怪物城に撃ちつけていた。
それによって怪物城からは爆発が起こった。
聖火台を利用して心臓――火室に被害を受けたのかもしれない。怪物城はそのまま動かなくなった。
「……ッ」
オレは、熱が入って、知らず知らずのうちに 稜堡の縁から乗りださんばかりに前のめりになっていた。
「あまり前に出ると、落っこちてしまいますよ。魔神さま」
と、声をかけられて、はじめてオレは我に返った。
声をかけてきたのはディーネだった。
「どうしてここにいるんだ? 指揮は?」
「問題ありません。私は総指揮です。現場にはそれぞれ担当の隊長がおりますから」
「怪物城が、敵の真ん中に取り残されてしまった」
「ですが、想像以上の働きをしてくれました。攻城兵器をほぼすべて破壊してくれた。その上、敵の陣形を荒らしまわってくれました。見事です」 と、ディーネもまた敵陣にて取り残された怪物城から、視線を外すことなくそう言った。
「怪物城には、まだカザハナたちエルフが乗っているんだ。あのままだと天使の猛攻に遭う」
怪物城が動かなくなったのは、敵陣の真っただ中である。このままでは中に乗っているエルフたちが追い詰められることになる。
さらに悪いことが起こった。
「敵襲――ッ」
という声が、思いのほか近くからあがった。
召喚された天使が数人、砦にも攻撃を仕掛けてきているらしかった。目視できるだけでも3人はいる。
歩廊に配備されていた銃兵たちが攻撃に遭っていた。
天使の軍勢が現われたことによって、戦況がいっきに敵側へと傾いたかと思われた。
「気炎万丈を使おう」
オレならば天使を追い払うことが出来る。
「いえ。心配は無用ですよ。どうやら間に合ったようです」
と、ディーネはオレを制するように、手のひらを突き出した。
「間に合った?」
ディーネは、すぅ、と息を吸い込むと、胴間声を発した。
「蒸気兵装部隊展開! ただちに天使たちを迎撃せよッ!」
それは女性から発せられたとは思えないほどたくましい声音だった。近くにいたオレの超蒸気装甲がぶるぶると震えたほどだ。
ディーネの命令を受けて、中庭にあった小屋が爆散した。その小屋から跳びだしてくる部隊の姿があった。
その姿を見てオレは驚きを禁じ得なかった。
その部隊は全部で5人――否5機だったのだが、その5機とも、超蒸気装甲をまとうオレとソックリの姿をしていたのだ。
「あれは……?」
「見ての通り、量産型の超蒸気装甲ですよ。ギリギリまで調整していたのですがね」
リトル・ボーイといったことこです、と冗談らしきことを言った。
「量産型だと?」
「魔神さまのタリスマンと、石炭と水のチカラを利用した蒸気機関です。さすがに、魔神さまほどの馬力を出すことは出来ませんし、中に入る人物の耐火性にも問題がありますが、それでも人間以上の馬力を出すことは出来ます」
「まさか量産型にまで手を出していたとはな」
「ドワーフの英雄と呼ばれた男が活躍するには、充分な装甲になっているはずですよ」
「ドワーフの英雄だと?」
量産型の5機は城壁を蹴りあげると、一っ跳びで歩廊にまで上ってきた。そして手にしていた大槌で、天使のひとりを叩き潰したのであった。
同じ超蒸気装甲とはいえ、量産型のほうは顔が隠れていなかった。ヘルムから覗くその顔を垣間見ることが出来た。
頭部には立派な角が生えていた。大槌を振り上げて天使を叩き潰したそのドワーフは、ヴァルの父親、イ・ヴェンドであった。
「ドワーフたちも参戦してくれてるのか」
「ドワーフたちにも、里を救った恩を売っていますからね。それにドワーフたちは、もう立派な紅蓮教徒です」
ほか2人の天使たちも、イ・ヴェンド率いる蒸気兵装部隊によって、アッという間に鎮圧されることになった。
砦のほうは、それで良いかもしれないが、怪物城がまだ攻撃に遭っている。セッカクの量産型だが、この砦の守備に必要だろう。
「エルフたちの救出は、私にお任せください」
そう言って、稜堡に駆けあがってきたのは、エイブラハングだった。
「エイブラハングか。そろそろ来るだろうと思っていたよ」
と、オレは言った。
「さすがは魔神さま。私の考えなどお見通しというわけですね」
見通していたわけではない。オレにとって身近な人たちとは話したが、エイブラハングとはまだ話していなかった。なので、そろそろ来るかもしれないという無根の予感があったのだ。
「行くのか?」
「今、エルフたちを救えるのは、私しかおりません。私の槍は、天使すら貫きます」
エイブラハングが尋常ではない槍使いであることは、オレも承知している。神の子とあだ名されるほどである。
この戦場においても、一騎当千の活躍をすることだろう。
「いつもの槍ではないんだな」
《輝光石》を塗りこんだ槍ではなかった。おそらく鉄製と思われる穂先の槍である。
「今回は相手がクロイではないので」
「そうか」
「《紅蓮騎士団》を率いて、エルフ救出の大役をぜひこの私にやらせていただきたいのです。魔神さま」
敵の攻城兵器のひとつが、火柱をあげていた。火矢の炎が燃え移ったようだ。兵器の周りにいた帝国兵たちが逃げ惑っていた。
この雨のなか燃え上がる火柱は、まるで魔神の舌のように赤く、闇をナめまわすかのように揺らめいていた。
「暗闇はもう平気か?」
「はい」
「無事に戻って来いよ」
「御意」
と、オレの前に、エイブラハングはかしずいた。
みんな戦いに行ったのだ。いまさらエイブラハングを止めようとは思わなかった。
文字通りの、総力戦なのである。
エイブラハングは、レイアとともに鍛え上げてきた《紅蓮騎士団》を率いて、砦を出て行った。
《紅蓮騎士団》は騎馬に乗っていた。雨でぬかるんだ大地を踏み蹴散らして、足音勇ましく騎馬が走る。
その先頭では、まるでオレに合図を送るかのように、エイブラハングは紅色の旗を振っていた。
オレはそれを稜堡の上で見守っていた。
エイブラハング率いる《紅蓮騎士団》は、鋭角の楔形陣形をとった。まるで槍の穂先のような鋭い陣形である。
そして帝国軍の横陣へと抉りこんだ。
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