《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

30-4.教会の密談

「さっきは声を荒げて悪かったな」
 と、オレはまず謝ることにした。


 自治都市ハムレットの教会に、オレは来ていた。


 まだ司祭がいないとは聞いていたが、思っていたよりも寂しい教会だった。
 懺悔室もなければ、タイマツやカンテラもなかった。そのため非常に暗かった。
 オレもふたたび装甲のなかに入ったため、その明かりを隠している。


 ディーネが持っていたタリスマンで、手元のカンテラに火を移した。オレとディーネのふたりを包み込むように、カンテラからは赤く光を発した。


 無人の教会には、祭壇に向かって長椅子が並べられている。そのひとつにディーネは腰かけていた。隣の席に、オレも腰かけていた。


「いえ。お気になさらず。魔神さまを怒らせるような提案をしたのは事実ですからね」


「プロメテとアイリの2人に、信徒を集めさせて、より多く集めれたほうを大司教にする――か」
 と、オレはルールを確認した。


「ええ」
 と、ディーネはうなずいた。


「どうしてそんなゲームを? オレの召喚主はプロメテだ。いまさら他の者に託すなんて、出来るはずがないだろう」


「ですが、アイリもまた魔術師です。アイリは魔神さまとのあいだに子供を授かっているのでしょう?」


「いや、それは……」


 ふふふ、とディーネは笑った。


「わかっています。おそらくはアイリの虚言でしょう」


「人が悪い。わかってたのか」


 見ず知らずの女性から、子供がいるとか言われて、オレは焦りに焦った。


 レイアはさておき、他の連中はアイリの言葉を信じている節があった。


 それがオレの焦燥を大きくしていたのだが、ディーネもわかってくれているのだと思うと、ずいぶんと気が楽になった。


「私を誰だと思っているんですか。私は他人のウソにそんなに簡単に騙されませんよ」


 そりゃそうだ。
 この智謀の者を、たばかることは至難の技だろう。
 オレだってディーネにウソを吐く自信はない。


「じゃあ、なんであんなゲームの提案を?」


 プロメテとアイリのふたりはすでに、この自治都市ハムレットのなかで布教活動をはじめている。


 これは2人の戦いなので、オレは直接は関与しないことになっている。


「あのアイリと名乗る少女が何者なのか、その魂胆はなんなのか、それを調べたかったのです」


「そういうことか」


「ゲイルの間諜部隊に調べさせましたが、この近くに魔術師がいたという証言は得られませんでした」


「アイリは、このあたりにいた訳じゃない……ってことか」


「魔術師は目立ちますからね。この辺りに住んでいたのならば、誰かが目撃しているはずです。かと言って、どこかから流れて来たにしても、なんの情報もないというのは妙ですが」


 ディーネは、誰かに盗み聞きでもされることを恐れているのか、ささやくような声量であった。まぁ、この教会には二人しかいないし、わざわざ大声でしゃべる必要もない。
 

「山賊に囚われてたとか言っていたが……」
 と、オレの声もディーネにつられて、囁くものとなっていた。


 どことなく密談めいた雰囲気となっていた。


「それも真実か怪しいところです。制圧した山賊どもの生き残りに尋ねてみましたが、魔術師を監禁していた覚えなんかない――ということでした」


 それは変だ。アイリは、山賊の砦に囚われていた。そこをオレたちが、助け出したのだ。


「山賊がウソを吐いてるのか?」


「そんなウソを吐く理由が、わかりません」


「じゃあいったい、アイリは何者なんだ?」


 どこから来たのかのかも不明。得体も知れない。しかも、オレの子を宿しているとか主張している。怪訝を通り越して、薄気味悪いものがある。


「それを調べたいのです」


「オレの子どもではないにしろ、子供はいる様子だったな。アルテミスも子供がいるみたいだと言っていたから」


「演技にしては、ずいぶんと手が込んでいる。おおかたソマ帝国が送り込んできた間諜といったところでしょうが」
 と、ディーネは思案気に首をひねっていた。


「間諜か……」
 と、オレは呟いた。


《紅蓮教》の実態を探ろうと、ソマ帝国の密偵が何度か送り込まれている。


 それらはすべてゲイルが見極めて追い返していた。さすがは間諜の扱いに慣れているだけあって、そういった影の仕事が得意なようだ。


「まぁ、今回のゲームのさいに、アイリも何かボロを出すかと思いますし、この自治都市ハムレットに信徒が増えてくれるのは、私にとっても好都合です」
 と、ディーネはほくそ笑んでいた。


「でも、もしプロメテが今回のゲームで負けたらどうする?」


「プロメテちゃんが、ですか?」
 と、ディーネは眉をひそめた。


「ああ」


「ずっと魔神さまとともに歩んできたプロメテちゃんが、あのどこから湧いて出てきたかもわからないアイリに負けると思いますか?」


「わからん」
 としか答えられなかった。


 プロメテのことを信じてないわけじゃない。
 プロメテがオレを思う気持ちはホンモノだ。それは重々承知している。


 しかしプロメテには、その悲劇的な生い立ちのせいかはわからないが、卑屈なところがあるし、あまり他人に積極的に話しかけるような度胸もありそうにない。


 信徒を集める、という点においては、プロメテはアイリに負けるような気もするのだ。


「気になるなら、コッソリ様子を見てみますか?」
 と、ディーネは立ち上がった。

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