《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
29-1.え? 今なんて?
ドスン……ドスン……。
怪物城はその足で大地を踏み鳴らして、前進して行く。
どう制御しているのかは定かではないが、艦橋で、エルフたちが舵を取ってくれている。
ちゃんと行きたい方向へと、進めることは出来るようだ。
オレはバルコニーのように前にせり出した場所にいるのだが、上を見あげると屋上にある艦橋を目視することが出来る。
エルフたちが忙しくなく行き交っているのが見て取れる。
名のとおり怪物だな、と思う。
ちょっと前までは、草木やらコケやらに覆われているので、外観がハッキリとはしなかった。
ただの山と見紛うぐらいだった。
今はその外観も整えられている。
城というよりかは、粗大ごみの山といった風体である。イスやら机と思わしきものが、あちこちにぶっ刺さっているのだ。
それで整えられているって言って良いのか怪しいが、それが本来の姿だって言うんなら、まぁ、整えられているってことになるんだろう。
怪物城と呼ばれるだけあり、いちおう城の輪郭も見て取れる。
たとえば城塔と思われるものが生えているし、壁面からも小塔がせり出している。城で言うところの、パルティザンにあたるのだろう。「ゴミをとりつけた城」というのが、イチバン的確な説明か……。
オマケに掃除きしれなかった木々が、方々から生えているものだから、余計に混沌としている。
オレが今、足場にしているバルコニーも非常に不安定で、怪物城が1歩前進するたびにドスドス揺れる。
「ヴオオォォォッ」
と、怪物城が、黒煙を吹き上げていた。
いちおう根本は石炭を燃やして動力にしている。そのため、ときおり大量の黒煙を吐きだす。
「おろっ……おろっ……」
と、揺れる動きに合わせて、いっしょに揺れるようにしてプロメテが近づいてきた。
「おいおい、大丈夫か。落っこちたりしないようにな」
と、揺れるプロメテを、オレは支えた。
超蒸気装甲をまとっているので、今のオレは人の輪郭を獲得している。
「そんなにドジなことしないのですよ」
と、プロメテは心外だというような顔をしていた。
「どうだかな。プロメテを見てると、なんというか……ヒヤヒヤさせられることが多い気もするがな」
バルコニーはいちおう欄干で囲まれているが、チョットした拍子に落っこちそうではある。
「いつも私のことを、そんなふうに見ていたのです?」
「いやまぁ、いつもってわけじゃないけど……」
危なっかしいのは、たしかだ。
「むう」
と、不服の意のつもりか、動物の鳴き声のような声を、プロメテは発していた。
「オレに何か用か? 用があるなら中に入るが」
ここは雨が降っている。ここじゃなくても、この世界はいつも雨が降っている。人の身には寒い。
「いえ。ここで大丈夫なのです」
「そうか。ならヘルムを開けておこう」
オレは超蒸気装甲のヘルムを開けることにした。ヘルムを開けると、内にたまっていた熱気が、白くけぶって外にあふれ出た。ケムリを吐きだしきると、プロメテがオレと向かい合うようにして座った。
プロメテが、手をかざす。
「ふぅ。温かいのです」
プロメテの手のひらが、オレの眼前でグーパーと開閉されていた。
白くてちっちゃな手だ。
「わざわざオレで暖を取らなくても、怪物城の中は温かいだろ。快癒したとはいえ、いちおう病み上がりなんだし、部屋の中にいたほうが良いんじゃないか」
怪物城のなかは、けっこう暖かい。
広間に設置されている聖火台のおかげだ。聖火台はこの怪物城の動力となっており、分厚い鋼鉄によって覆われている。その熱気は、怪物城の全体へと染み渡っていた。
オレたちはアルテミスの森で、エルフを助け出したあと、一度、都市シェークスに戻った。
エルフのたいはんは、都市シェークスで受け入れられることになった。
で――。
いまオレたちが、こうして怪物城に乗っているのは、ディーネから呼び出しがあったからだ。
ディーネからの使者によると、4つ目の聖火台の確保に成功したのだそうだ。
タリスマンさえあれば、着火は可能だ。が、そこはプロメテとオレの使命を尊重してくれたようで、招かれることとなったのだ。
オレたちは怪物城に乗って、現場へ向かっている最中である。
「ここで魔神さまとお話したいのです。ふたりきりで」
「何か大事なことか?」
「はい」
と、プロメテが神妙な表情でうなずいた。
「ほかの人に聞かれたくないほどのことってわけか。心して聞くとしようか」
「実は魔神さまにお尋ねしたいというか、無知なわたしに教えていただきたいことがあるのです」
「オレの知ってることなら、教えるけど」
しかしプロメテが知らなくて、オレだけが知っていることなんて、あんまりないと思う。
なにせオレは召喚された身だ。この世界にまつわることならば、プロメテのことが詳しいはずだ。
「子供ってどうやって作るのですか?」
「ん? んんっ? 悪いが、聞き違えたかもしれん。なんて言った?」
「子供ってどうすれば授かることが出来るのか、教えていただきたいのです」
「……」
プロメテは照れる様子もなく、恥じらう様子もなかった。ホントウに真剣な様子でたずねているのである。
愕然。
しばらく言葉が出なかった。
しばしの時間を要して、ようやっとプロメテの言っている意味がわかった。が、それでもなおオレは返す言葉が思いつかなかった。
ガシャン……ガシャン……と怪物城が音を鳴らしている。
「魔神さま?」
愕然としているオレを心配したのか、プロメテはオレの顔色をうかがうように尋ねてきた。
「あ……ああ。うん、なんでそんなことを? もしかしてメデュあたりに妙なことでも吹き込まれたか?」
「いえ。アルテミスさまやメデュさんのことを見ていて、すこし考えていたのです」
「アルテミスとメデュに、何か共通点があったか?」
「アルテミスさまは神さまのひとりですし、メデュさんは半神なのです」
「そりゃそうだが。それで?」
どう子供を生む話につながるのか。オレは戦々恐々とした心持で尋ねた。いったいどんな発言が跳びだしてくるのか、わかったもんじゃない。
「アルテミスさまは、神さまですから、とても長生きです。きっと魔神さまもそうなるのだと思います」
「長生きなのか、オレは」
と、あらためて自分のカラダを見つめてみた。そんなに長生きするようなカラダには思えないが、これでもいちおう神だから、そうそう死ぬことはないのだろう。
「おそらく私が死んだ後も、数千年という歳月をかけて生きていくことになると思うのです」
「そんな先のことを考えたこともなかったな」
「ですから、私は魔神さまとはずっとお供できないのです。いずれ寿命が来てしまいますから。私の存在も、魔神さまの長い人生のなかでは、ほんのチッポケな思い出になってしまうのかもしれないのです」
「それはすこし寂しいな」
「どうにか出来ないかと思って、アルテミスさまと、エルフのカザハナさんに相談してみたのですよ」
「アルテミスはなんて言ってた?」
「だったら子供を生めば良いんじゃないか――と言われました。魔神さまとのあいだに子供をもうければ、私が死んだ後も、私の子どもが魔神さまの大司教としてお仕えすることになると思いますから」
そんな未来のことを、プロメテが思慮しているなんて意外だった。
「いや、でも、オレは子供を生めないと思うぞ」
そんなことはないのですよ――と、プロメテは頭をふって続けた。
「そのことをメデュさんにも相談してみたのです」
「ふむ」
メデュは男を揶揄するような癖があるため、何か変なことを吹きこんだんじゃないかと心配になる。
「メデュさんは、《光神教》の主神であるティリリウスと、人間とのあいだに出来た子供なのです。神と人とのあいだにも、子供をつくることは出来るのだと言っておられたのですよ」
「いや、まぁ、理屈としてはそうなのかもしれんが……このカラダではなぁ」
オレは火だ。
人に触れられるカラダではない。
「何がダメなのです? 私では魔神さまと子供を作れないのです? 愛が足りないということでしょうか?」
と、プロメテは問い詰めるように顔を近づけてきた。オレの光を受けて、プロメテの顔が赤らんでいた。
「いや……その……なんて言うか……。そう言うことは、メデュやアルテミスに尋ねるのが良いんじゃないかな?」
非常に説明しにくい内容である。
どこまで言って良いのかもわからない。プロメテが、どこまで知ってるのかもわからない。
まさか、マッタクの無知というわけではないと思うが、照れる気配がないところを見ると、あまり良くわかっていないのかもしれない。
そもそも子供を作るなんて、プロメテにはまだ早すぎる気がする。
このオルフェスにおいての妊娠の適齢期がわからないので、早いと思うのはあくまでオレの判断基準だ。
「お2人に尋ねてみたのですが、そういう大切なことは、自分が子供をもうけたいと思ってる相手の人に尋ねなくちゃならない――とそう言われたのです。それで……」
「オレに相談しに来たってわけか」
「はい」
メデュもアルテミスも、説明にあぐねてオレに押し付けたに違いない。
どこまで説明すれば良いのか、悩みどころである。
「まぁ、とりあえず中に入ろう。プロメテは病み上がりだし、あんまり雨に降られるのも良くはないだろう」
とりあえずオレはその場を逃れるために、そう言ってヘルムを閉ざした。
怪物城はその足で大地を踏み鳴らして、前進して行く。
どう制御しているのかは定かではないが、艦橋で、エルフたちが舵を取ってくれている。
ちゃんと行きたい方向へと、進めることは出来るようだ。
オレはバルコニーのように前にせり出した場所にいるのだが、上を見あげると屋上にある艦橋を目視することが出来る。
エルフたちが忙しくなく行き交っているのが見て取れる。
名のとおり怪物だな、と思う。
ちょっと前までは、草木やらコケやらに覆われているので、外観がハッキリとはしなかった。
ただの山と見紛うぐらいだった。
今はその外観も整えられている。
城というよりかは、粗大ごみの山といった風体である。イスやら机と思わしきものが、あちこちにぶっ刺さっているのだ。
それで整えられているって言って良いのか怪しいが、それが本来の姿だって言うんなら、まぁ、整えられているってことになるんだろう。
怪物城と呼ばれるだけあり、いちおう城の輪郭も見て取れる。
たとえば城塔と思われるものが生えているし、壁面からも小塔がせり出している。城で言うところの、パルティザンにあたるのだろう。「ゴミをとりつけた城」というのが、イチバン的確な説明か……。
オマケに掃除きしれなかった木々が、方々から生えているものだから、余計に混沌としている。
オレが今、足場にしているバルコニーも非常に不安定で、怪物城が1歩前進するたびにドスドス揺れる。
「ヴオオォォォッ」
と、怪物城が、黒煙を吹き上げていた。
いちおう根本は石炭を燃やして動力にしている。そのため、ときおり大量の黒煙を吐きだす。
「おろっ……おろっ……」
と、揺れる動きに合わせて、いっしょに揺れるようにしてプロメテが近づいてきた。
「おいおい、大丈夫か。落っこちたりしないようにな」
と、揺れるプロメテを、オレは支えた。
超蒸気装甲をまとっているので、今のオレは人の輪郭を獲得している。
「そんなにドジなことしないのですよ」
と、プロメテは心外だというような顔をしていた。
「どうだかな。プロメテを見てると、なんというか……ヒヤヒヤさせられることが多い気もするがな」
バルコニーはいちおう欄干で囲まれているが、チョットした拍子に落っこちそうではある。
「いつも私のことを、そんなふうに見ていたのです?」
「いやまぁ、いつもってわけじゃないけど……」
危なっかしいのは、たしかだ。
「むう」
と、不服の意のつもりか、動物の鳴き声のような声を、プロメテは発していた。
「オレに何か用か? 用があるなら中に入るが」
ここは雨が降っている。ここじゃなくても、この世界はいつも雨が降っている。人の身には寒い。
「いえ。ここで大丈夫なのです」
「そうか。ならヘルムを開けておこう」
オレは超蒸気装甲のヘルムを開けることにした。ヘルムを開けると、内にたまっていた熱気が、白くけぶって外にあふれ出た。ケムリを吐きだしきると、プロメテがオレと向かい合うようにして座った。
プロメテが、手をかざす。
「ふぅ。温かいのです」
プロメテの手のひらが、オレの眼前でグーパーと開閉されていた。
白くてちっちゃな手だ。
「わざわざオレで暖を取らなくても、怪物城の中は温かいだろ。快癒したとはいえ、いちおう病み上がりなんだし、部屋の中にいたほうが良いんじゃないか」
怪物城のなかは、けっこう暖かい。
広間に設置されている聖火台のおかげだ。聖火台はこの怪物城の動力となっており、分厚い鋼鉄によって覆われている。その熱気は、怪物城の全体へと染み渡っていた。
オレたちはアルテミスの森で、エルフを助け出したあと、一度、都市シェークスに戻った。
エルフのたいはんは、都市シェークスで受け入れられることになった。
で――。
いまオレたちが、こうして怪物城に乗っているのは、ディーネから呼び出しがあったからだ。
ディーネからの使者によると、4つ目の聖火台の確保に成功したのだそうだ。
タリスマンさえあれば、着火は可能だ。が、そこはプロメテとオレの使命を尊重してくれたようで、招かれることとなったのだ。
オレたちは怪物城に乗って、現場へ向かっている最中である。
「ここで魔神さまとお話したいのです。ふたりきりで」
「何か大事なことか?」
「はい」
と、プロメテが神妙な表情でうなずいた。
「ほかの人に聞かれたくないほどのことってわけか。心して聞くとしようか」
「実は魔神さまにお尋ねしたいというか、無知なわたしに教えていただきたいことがあるのです」
「オレの知ってることなら、教えるけど」
しかしプロメテが知らなくて、オレだけが知っていることなんて、あんまりないと思う。
なにせオレは召喚された身だ。この世界にまつわることならば、プロメテのことが詳しいはずだ。
「子供ってどうやって作るのですか?」
「ん? んんっ? 悪いが、聞き違えたかもしれん。なんて言った?」
「子供ってどうすれば授かることが出来るのか、教えていただきたいのです」
「……」
プロメテは照れる様子もなく、恥じらう様子もなかった。ホントウに真剣な様子でたずねているのである。
愕然。
しばらく言葉が出なかった。
しばしの時間を要して、ようやっとプロメテの言っている意味がわかった。が、それでもなおオレは返す言葉が思いつかなかった。
ガシャン……ガシャン……と怪物城が音を鳴らしている。
「魔神さま?」
愕然としているオレを心配したのか、プロメテはオレの顔色をうかがうように尋ねてきた。
「あ……ああ。うん、なんでそんなことを? もしかしてメデュあたりに妙なことでも吹き込まれたか?」
「いえ。アルテミスさまやメデュさんのことを見ていて、すこし考えていたのです」
「アルテミスとメデュに、何か共通点があったか?」
「アルテミスさまは神さまのひとりですし、メデュさんは半神なのです」
「そりゃそうだが。それで?」
どう子供を生む話につながるのか。オレは戦々恐々とした心持で尋ねた。いったいどんな発言が跳びだしてくるのか、わかったもんじゃない。
「アルテミスさまは、神さまですから、とても長生きです。きっと魔神さまもそうなるのだと思います」
「長生きなのか、オレは」
と、あらためて自分のカラダを見つめてみた。そんなに長生きするようなカラダには思えないが、これでもいちおう神だから、そうそう死ぬことはないのだろう。
「おそらく私が死んだ後も、数千年という歳月をかけて生きていくことになると思うのです」
「そんな先のことを考えたこともなかったな」
「ですから、私は魔神さまとはずっとお供できないのです。いずれ寿命が来てしまいますから。私の存在も、魔神さまの長い人生のなかでは、ほんのチッポケな思い出になってしまうのかもしれないのです」
「それはすこし寂しいな」
「どうにか出来ないかと思って、アルテミスさまと、エルフのカザハナさんに相談してみたのですよ」
「アルテミスはなんて言ってた?」
「だったら子供を生めば良いんじゃないか――と言われました。魔神さまとのあいだに子供をもうければ、私が死んだ後も、私の子どもが魔神さまの大司教としてお仕えすることになると思いますから」
そんな未来のことを、プロメテが思慮しているなんて意外だった。
「いや、でも、オレは子供を生めないと思うぞ」
そんなことはないのですよ――と、プロメテは頭をふって続けた。
「そのことをメデュさんにも相談してみたのです」
「ふむ」
メデュは男を揶揄するような癖があるため、何か変なことを吹きこんだんじゃないかと心配になる。
「メデュさんは、《光神教》の主神であるティリリウスと、人間とのあいだに出来た子供なのです。神と人とのあいだにも、子供をつくることは出来るのだと言っておられたのですよ」
「いや、まぁ、理屈としてはそうなのかもしれんが……このカラダではなぁ」
オレは火だ。
人に触れられるカラダではない。
「何がダメなのです? 私では魔神さまと子供を作れないのです? 愛が足りないということでしょうか?」
と、プロメテは問い詰めるように顔を近づけてきた。オレの光を受けて、プロメテの顔が赤らんでいた。
「いや……その……なんて言うか……。そう言うことは、メデュやアルテミスに尋ねるのが良いんじゃないかな?」
非常に説明しにくい内容である。
どこまで言って良いのかもわからない。プロメテが、どこまで知ってるのかもわからない。
まさか、マッタクの無知というわけではないと思うが、照れる気配がないところを見ると、あまり良くわかっていないのかもしれない。
そもそも子供を作るなんて、プロメテにはまだ早すぎる気がする。
このオルフェスにおいての妊娠の適齢期がわからないので、早いと思うのはあくまでオレの判断基準だ。
「お2人に尋ねてみたのですが、そういう大切なことは、自分が子供をもうけたいと思ってる相手の人に尋ねなくちゃならない――とそう言われたのです。それで……」
「オレに相談しに来たってわけか」
「はい」
メデュもアルテミスも、説明にあぐねてオレに押し付けたに違いない。
どこまで説明すれば良いのか、悩みどころである。
「まぁ、とりあえず中に入ろう。プロメテは病み上がりだし、あんまり雨に降られるのも良くはないだろう」
とりあえずオレはその場を逃れるために、そう言ってヘルムを閉ざした。
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