《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
26-2.崇夜者
湖上にて、クロイはとぐろを巻いていた。
これが黒狩人組合で聞いた、「S級が逃げ帰ってきた」という災厄級のクロイだろう。出来ることならば遭遇したくなかった。
「たしかに大きいな」
と、オレはつぶやいた。
湖もずいぶんと大きかったが、その湖イッパイにとぐろを巻いている。
以前、都市シェークスを襲撃してきたクロイに比べて大きいかと問われると難しいところだった。
都市シェークスを襲ってきたクロイは山のような大きさだった。
比べてこっちは、細長いのだ。
クロイというのは、自在に姿を変えるようだから、形にあまり意味はないのかもしれない。
「魔神さま」
と、メデュが呼びかけてきた。
「なんだ」
「出来れば魔神さまの火を隠したままにしてもらいたい。もうアルテミスの森が近いでな。ソマ帝国の連中に火の光で勘付かれるやもしれん」
「努力しよう」
「エイブラハングが手伝ってくれれば、そう難しい敵ではないはずじゃがな」
と、メデュはエイブラハングに発破をかけるようなことを言った。
そのエイブラハングはと言うと、オレに担がれたまま、逆にオレの腕にしがみつくようにして、硬直してしまっている。
しかしそれでも、戦う心構えはしてきているはずで、《輝光石》を穂先に塗りこんだ槍をその手に持っている。
「来るぞ!」
オレはそう叫んで、メデュとエイブラハングのふたりを投げ捨てた。丁寧に下ろしてやりたかったのだが、そんな余裕はなかった。
速い。
湖でとぐろを巻いていたクロイは、俊敏にオレめがけて突進してきたのである。
かわす余裕はなかった。
オレは両手を広げて、クロイの突撃を受け止めることに決めた。
ガツン……ッ。
突進してくるクロイと衝突して、オレの全身が激しく揺れた。
受け止めきれないことはなかった。
「ふぬぬっ」
踏ん張る。
オレの火力が増してゆき、それが石炭と呼応として、さらなる火力を生んだ。全身から水蒸気が吹き上がる。
わずかにオレが押していた。
そう思った。
が――。
次の瞬間には、クロイがさらに強いチカラで押してきた。
「なに……ッ」
気圧されている。
ぬかるんだ地面に、すこしずつオレの脚が埋まってゆく。
まさかこのオレがクロイごときに押し負けているのか?
否。
いつものように火力を発揮することが出来ないのだ。超蒸気装甲の問題ではない。
オレ自身がチカラを発揮できないのだ。
やはり――。
その懸念はあった。
オレの火炎を業火と呼ぶほどに猛らせる、そのもっとも大きなチカラ。プロメテの想いが今は、失われているのだった。
『憎い……』
と、声が聞こえた。
「?」
その声が聞こえたことで、オレのチカラがゆるんでしまった。身をよじって、クロイの突撃をかわすことにした。
クロイは森のなかへと突っ込んで行く。巨木にブツかるかとも思ったが、スルスルと巨木に巻きついていた。
「魔神さま。御無事ですか?」
と、エイブラハングが駆け寄ってきた。
「ああ。オレは大丈夫だが、今……何かしゃべったぞ。あのクロイ」
「しゃべった?」
「憎い、と。そう聞こえた」
「するともかすると、《崇夜者》かもしれません」
「人がクロイになってしまった――ってことか」
「ふつうは理性を失いクロイになってしまうものですが、言葉をしゃべるだけの意識は残っているのかも」
「なら、治せるということか」
「魔神さまのチカラならばあるいは」
「《崇夜者》ってことなら、治してやりたいところだが、ああも激しく動かれては治す余裕もないな」
森のなかを物凄い速さで駆けまわっている。かと言って、逃げる様子はない。こちらの隙をうかがっているようだ。森の闇のせいで、その姿をとらえきれない。
「ならば私が、あのクロイの動きを止めてみましょう。その隙に魔神さまが、治してやってください」
エイブラハングはそう言うと、腰を低く落として、槍を構えた。
「いけるのか?」
「怖いですが、今こそこの恐怖を克服するときだと存じます。《崇夜者》ならば救ってやりたい。それに魔神さまに幻滅されるほうが、私はもっと怖い」
「来るぞ」
クロイがふたたび、こちらに向かって突進してくる。
今度は全身で突っ込んでくることはなかった。
その全身から四方八方へと、影が細長く伸びたのである。まるでムカデのように無数の手足を生やしたのだった。
その生やした手足でつかみかかってきた。
「オレが壁になる!」
その無数の手を、オレが受け切った。1本2本3本。オレの四肢にからみついて、引きちぎろうとしてくる。
踏ん張ってそれを堪えた。
「オレを踏み台にして飛んでゆけ」
「無礼をお許しください」
オレの肩に足をかけて、エイブラハングが闇空へ跳びあがった。
さすがの跳躍力と言うべきか。エイブラハングは空高く跳びあがっていた。背中に翼でも生えているかのようだ。
しかしさらに、クロイは手を生やした。
夜空に跳びあがったエイブラハングに、つかみかからんとしていた。
「くそっ」
空中にいるエイブラハングは無防備だ。
オレも自分のもとにつかみかかってくる、手の処理で動けなかった。
瞬間。
白く光るナイフのようなものが飛来してきた。それがエイブラハングを襲おうとしていたクロイの手に突き刺さった。
メデュの発した魔法であった。ホントウに魔法を使えたのだ。驚きである。
「突っ込め。タワケが!」
と、メデュがそう言った。
「御意」
エイブラハングは、クロイ本体の頭上へと降り立った。
そしてその頭部に《輝光石》を穂先に塗りこんだ槍を突き刺したのである。
「ヴァァァァ――ッ」
と、けたたましい声をあげて、クロイが怯んだ。
これが黒狩人組合で聞いた、「S級が逃げ帰ってきた」という災厄級のクロイだろう。出来ることならば遭遇したくなかった。
「たしかに大きいな」
と、オレはつぶやいた。
湖もずいぶんと大きかったが、その湖イッパイにとぐろを巻いている。
以前、都市シェークスを襲撃してきたクロイに比べて大きいかと問われると難しいところだった。
都市シェークスを襲ってきたクロイは山のような大きさだった。
比べてこっちは、細長いのだ。
クロイというのは、自在に姿を変えるようだから、形にあまり意味はないのかもしれない。
「魔神さま」
と、メデュが呼びかけてきた。
「なんだ」
「出来れば魔神さまの火を隠したままにしてもらいたい。もうアルテミスの森が近いでな。ソマ帝国の連中に火の光で勘付かれるやもしれん」
「努力しよう」
「エイブラハングが手伝ってくれれば、そう難しい敵ではないはずじゃがな」
と、メデュはエイブラハングに発破をかけるようなことを言った。
そのエイブラハングはと言うと、オレに担がれたまま、逆にオレの腕にしがみつくようにして、硬直してしまっている。
しかしそれでも、戦う心構えはしてきているはずで、《輝光石》を穂先に塗りこんだ槍をその手に持っている。
「来るぞ!」
オレはそう叫んで、メデュとエイブラハングのふたりを投げ捨てた。丁寧に下ろしてやりたかったのだが、そんな余裕はなかった。
速い。
湖でとぐろを巻いていたクロイは、俊敏にオレめがけて突進してきたのである。
かわす余裕はなかった。
オレは両手を広げて、クロイの突撃を受け止めることに決めた。
ガツン……ッ。
突進してくるクロイと衝突して、オレの全身が激しく揺れた。
受け止めきれないことはなかった。
「ふぬぬっ」
踏ん張る。
オレの火力が増してゆき、それが石炭と呼応として、さらなる火力を生んだ。全身から水蒸気が吹き上がる。
わずかにオレが押していた。
そう思った。
が――。
次の瞬間には、クロイがさらに強いチカラで押してきた。
「なに……ッ」
気圧されている。
ぬかるんだ地面に、すこしずつオレの脚が埋まってゆく。
まさかこのオレがクロイごときに押し負けているのか?
否。
いつものように火力を発揮することが出来ないのだ。超蒸気装甲の問題ではない。
オレ自身がチカラを発揮できないのだ。
やはり――。
その懸念はあった。
オレの火炎を業火と呼ぶほどに猛らせる、そのもっとも大きなチカラ。プロメテの想いが今は、失われているのだった。
『憎い……』
と、声が聞こえた。
「?」
その声が聞こえたことで、オレのチカラがゆるんでしまった。身をよじって、クロイの突撃をかわすことにした。
クロイは森のなかへと突っ込んで行く。巨木にブツかるかとも思ったが、スルスルと巨木に巻きついていた。
「魔神さま。御無事ですか?」
と、エイブラハングが駆け寄ってきた。
「ああ。オレは大丈夫だが、今……何かしゃべったぞ。あのクロイ」
「しゃべった?」
「憎い、と。そう聞こえた」
「するともかすると、《崇夜者》かもしれません」
「人がクロイになってしまった――ってことか」
「ふつうは理性を失いクロイになってしまうものですが、言葉をしゃべるだけの意識は残っているのかも」
「なら、治せるということか」
「魔神さまのチカラならばあるいは」
「《崇夜者》ってことなら、治してやりたいところだが、ああも激しく動かれては治す余裕もないな」
森のなかを物凄い速さで駆けまわっている。かと言って、逃げる様子はない。こちらの隙をうかがっているようだ。森の闇のせいで、その姿をとらえきれない。
「ならば私が、あのクロイの動きを止めてみましょう。その隙に魔神さまが、治してやってください」
エイブラハングはそう言うと、腰を低く落として、槍を構えた。
「いけるのか?」
「怖いですが、今こそこの恐怖を克服するときだと存じます。《崇夜者》ならば救ってやりたい。それに魔神さまに幻滅されるほうが、私はもっと怖い」
「来るぞ」
クロイがふたたび、こちらに向かって突進してくる。
今度は全身で突っ込んでくることはなかった。
その全身から四方八方へと、影が細長く伸びたのである。まるでムカデのように無数の手足を生やしたのだった。
その生やした手足でつかみかかってきた。
「オレが壁になる!」
その無数の手を、オレが受け切った。1本2本3本。オレの四肢にからみついて、引きちぎろうとしてくる。
踏ん張ってそれを堪えた。
「オレを踏み台にして飛んでゆけ」
「無礼をお許しください」
オレの肩に足をかけて、エイブラハングが闇空へ跳びあがった。
さすがの跳躍力と言うべきか。エイブラハングは空高く跳びあがっていた。背中に翼でも生えているかのようだ。
しかしさらに、クロイは手を生やした。
夜空に跳びあがったエイブラハングに、つかみかからんとしていた。
「くそっ」
空中にいるエイブラハングは無防備だ。
オレも自分のもとにつかみかかってくる、手の処理で動けなかった。
瞬間。
白く光るナイフのようなものが飛来してきた。それがエイブラハングを襲おうとしていたクロイの手に突き刺さった。
メデュの発した魔法であった。ホントウに魔法を使えたのだ。驚きである。
「突っ込め。タワケが!」
と、メデュがそう言った。
「御意」
エイブラハングは、クロイ本体の頭上へと降り立った。
そしてその頭部に《輝光石》を穂先に塗りこんだ槍を突き刺したのである。
「ヴァァァァ――ッ」
と、けたたましい声をあげて、クロイが怯んだ。
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