《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

25-2.魔法の病

「難しい病気です」
 と、医者はそう言った。


 倒れたプロメテを、寝室棟にあるプロメテの私室に運び込んだ。運び込んだと言っても、オレが運んだわけじゃない。運んだのはレイアだ。


 プロメテをベッドに寝かして、医者に診てもらうことにした。


 修道士のなかには医者がいるのだ。常日頃から修道士たちの病気やケガは、その医者が診てくれることになっている。


「難しいというのは、具体的にどういう意味だ?」
 と、オレは尋ねた。


 オレが入ったカンテラは今、エイブラハングが持ってくれている。
 プロメテに抱えてもらうことが多いため、エイブラハングに抱えてもらうと、視界が普段よりも高いものになる。


「ふつうの人間の病ではありませんな」


 クマみたいに大柄で、毛深い医者だった。眉が太いわりには、目が点のように小さかった。その目を何度も瞬かせていた。


「プロメテは人間だろう」


「いえいえ。大司教さまは、いちおうオルフェス最後の魔術師です。その身に魔力を宿された御方ですから」


「魔法に関する病ということか?」


 すこし疲れたのだろうと甘く見ていたのだが、思いのほか深刻そうなので、虚を突かれた気持ちだった。


「そのようですな。私も魔法に関してはあまり知識を持っていないので、詳しくはわからんのですが、どうやら体内の魔力を酷く消耗しておられるようです。ふつうの人間とはまた違った弱り方をしておられる」


 思い返してみれば、ここ最近たしかにプロメテの負担は大きかったかもしれない。


 毎朝、鐘楼の火を灯すことだって欠かすことはなかった。チロ子爵に水没させられたこともあったし、なにより、プロメテはタリスマンを作るために、魔力を費やしていたようだった。


 オレが魔神であることに、プレッシャーを覚えるように、プロメテも何か精神的な重圧をおぼえていた可能性もある。


 迂闊だった。と、オレは悔いた。


 ずっと一緒にいるから、プロメテの異変には敏感なつもりだった。
 今回は気づくことが出来なかった。


 プロメテはムリをしていたのだろうか?
 わからない。


 プロメテは自分の苦痛を、あまり口に出すタイプではない。辛くてもムリして笑っている癖がある。


「治らないのか? オレのチカラでどうにかならないだろうか?」


「暗闇症候群とはわけが違いますからね。さきほども言いましたが、私とて、魔法に関することはあまり詳しくないので」


「まさか命にかかわるということはないだろうな? このまま起きないということも?」


「申し訳ありません。それも私にはわかりません。無力な私をお許しください」
 と、医者は深々と頭をさげた。


 ただ焦ってしまっただけなのだが、オレのその態度が、医者を怖れさせてしまったらしかった。


「問い詰めるような言い方をして悪かったな。つい気が急いてしまった。プロメテを診てくれてありがとう」


「いえ。こちらこそ、大司教さまに何もしてあげられなくて残念です。魔力を回復できるような手段があると良いのですが」
 医者はそう言い残すと、一礼して部屋を出て行った。


 部屋にはレイアとエイブラハングとオレの3人。そして寝たきりにプロメテが残されることになった。


「おいおい。どうすんだよ。医者でもわかんねェなんてよ」
 と、レイアが言う。


「仕方あるまい。魔術師に関することは、我々にはわからないのだ」
 と、エイブラハングが返す。


「仕方ねェ――って、この薄情者が。それでプロメテの嬢ちゃんが死んじまったらどうすンだよ」 と、レイアがエイブラハングの胸ぐらをつかんだ。


「見捨てるというわけじゃない。でも、助ける方法がわからないんだから、仕方ないだろう」
 と、エイブラハングも、レイアの胸ぐらをつかみ返していた。


「静かに。プロメテの身に障るかもしれん」
 と、オレが注意すると、ふたりとも悄然として「すまねェ」「申し訳ありません」と、返してきた。


 しかし困った。
 あらためてプロメテの寝顔を見つめた。穏やかそうに眠っていて、苦しそうな様子ではなかった。
 それだけが救いだ。


「診察ミスということはないでしょうか? 実はただ眠っているだけだとか?」


「だと良いが、いま思えば変な倒れ方だったからな」


「解決方法につながるかは、わかりませんが、ひとつ提案があります」
 と、エイブラハングが言った。


「薬でもあるのか?」


「いえ。薬はありませんが、この都市シェークスにも、黒狩人組合の支部があります」


「あるにはあるが、それがどうした?」


「そこに行ってみれば、もしかすると何か情報をつかむことが出来るかもしれません。黒狩人組合には、いろんな情報が入って来ますから」


「そうか。ならオレも行ってみよう」


「魔神さまもですか?」


 このまま、ジッとしていることなんて、オレには出来そうになかった。


 プロメテの異変に気付けなかった失態の代わりに、何か自分にもできることが欲しかった。


「チョウド、あれを試してみる良い機会でもあるしな」


 ドワーフたちが運んできてくれた、超蒸気装甲ビッグ・ボーイ。あれをまとえば、人の形を得ることが出来る。

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