《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
24-2.ディーネvsロードリ
「これはこれは、みなさん。お揃いで!」
両開きのトビラを蹴り開いてディーネはそう両手を広げた。
その演劇めいた大仰な仕草も相変わらずだった。
タルルはそんなディーネに付き従っていた。
宮廷会議室。
天井からは華美なシャンデリアがつるされている。《輝光石》をふんだんに使われたシャンデリアだ。
巨大なヘビが横たわっているような長机が置かれている。その机を囲むように、貴族たちが腰かけていた。
「き、貴様、どうしてここに!」
と、ロードリが弾かれたように立ち上がった。
「おや。外の出来事を見ていなかったんですか? 魔神さまが私のことを助けてくださいましてね」
「そ、それは見ていたが……」
「なら、私が来てもオカシクはないでしょう」
「ど、どういうつもりだ。魔神に助けられたからと言って、貴様の処刑が取り消しになったわけじゃないんだぞ」
そうでしょう、国王陛下――と、ロードリが上座に座る国王にたしいて言った。
「ああ、いや、まぁ」
と、国王陛下は曖昧に応じていた。
こんな寒いのに汗でもかいているのか、国王はさっきからしきりにハンカチを額に押し当てていた。
「べつに処刑の取り消しを嘆願に来たわけではありませんよ。ロードリ公爵」
「じゃあ、なにを……」
「この国を、いただきに参りました」
そう言うとディーネは深々と頭を下げた。
呆気にとられたのだろう。貴族たちはしばらく沈黙だった。それを間近で見ていた、タルルだって唖然としていたのだから、他のものたちにとってはそれ以上の驚きだろう。
沈黙を破ったのはロードリだった。
「バ、バカなことを言うんじゃない」
と、机をたたいた。
「バカかどうか確かめてみましょうか」
「なに?」
「今、この城の中庭には魔神さまがいらしております。魔神さまの凄まじさは、みなさんご覧になられたことでしょう。あの御方は私に味方をしてくれています。私を処刑から救ってくれたのが、なによりの証拠です」
「そ、それがどうした。あんな邪教の神など……」
「しかしその邪教の神に、《光神教》の天使は歯が立ちませんでした。あまつさえ3大神のエクスカエルが滅却されたことも、ご存知でしょう。あの御方の威光は、《光神教》など相手にならない」
「……っ」
と、ロードリが怯んでいた。
パンパン、とディーネは手を叩いた。
その音が会議室内に響く。
「今からでも遅くはありませんよ? 私に味方をする貴族の御方はおりませんか? 私の傘下につくというのならば、悪いようにはいたしませんよ。私の傘下に入るという者は挙手をください」
会議室にいる貴族の数はおおよそ30人。
そのうち3、4人が挙手をした。
「貴様ら、こんな野蛮な反逆者に与するつもりか。この女は国王陛下からのいただいた恩給地をもらって、それで都市を治めていたのだ。こんな恩知らずの、不義理者に味方をすると言うのか!」
と、ロードリが髪を振り乱して言い返していた。
「私に味方出来ないと言うのならば、魔神さまを敵に回すということ。魔神さまのおチカラで、ここを焼き尽くしてもらっても構わないのですよ」
「この野蛮人め。あの魔神を利用して、王国貴族たちを脅迫するつもりか」
「私のことを誘拐して、ムリヤリ処刑しようとする者に、野蛮などと言われたくはありませんね」
「貴様を処刑すると決めたのは、国王陛下だ。オレじゃない」
「あ、そう言えば、私の誘拐の実行犯であるチロ子爵ですがね。魔神さまに焼き尽くされてしまったようですよ」
ディーネの言葉によって、さらに5人の貴族が挙手をした。
ディーネと、ロードリの舌戦は、どう見てもディーネのほうが優勢であった。魔神のチカラが示されたことが、追い風となっているのだ。
「おのれ、この裏切り者たちが。国王陛下にたいする忠義というものはないのか! 公爵命令だ。その気の狂った女を捕えろ!」
ロードリの命令を受けて、会議室に待機していた護衛兵が、ディーネのことを捕えようと身動きする気配があった。
が――。
さらに声が割り込む。
「くふふっ。面白いことになっておるではないか」
と、手勢を連れて宮廷会議室に入ってくる者がいる。メデュだ。
「メデュ公爵! なんとか言ってくれ。そのディーネ伯爵は、国王陛下から受けた恩も忘れて、この国を奪い取ろうとしているのだ」
「残念じゃな。ロードリ公爵。ワラワもディーネ伯爵の味方じゃ」
「ご、御冗談を。主神ティリリウスさまの血を引く、あなたが邪教を広めようとしている者の味方をすると?」
「邪教じゃと?」
「ええ。そうですよ。魔神アラストルは、邪教の神です。そしてそれをディーネ伯爵は、この国に広めようと企てている。あんな者を受け入れるわけにはいきません」
「残念じゃな。ワラワは親よりダンナを大事にするタイプのようじゃ」
「は?」
「ワラワは魔神アラストルさまと、婚約しておるでな。いずれワラワはあの御方の妻になる。ダンナを愚弄するならば、ワラワは許さぬぞ」
「な、なにをフザケタことを……」
しかしメデュがディーネの味方についたことによって、風向きがいっきに変わった。10人近い貴族たちが挙手をしたのだ。
ディーネは、パンと手を叩いた。
「もう手を下ろしていただいてけっこうですよ。そういうわけです。ロードリ公爵。いや。ロードリ。処刑から逃れた王国貴族を含めて、これで私に与する貴族が過半数を超えました」
「……ッ」
「そう言えばロードリ公爵は、ずいぶんと魔神さまに迷惑をかけていたようですね。うちの大司教さまのことも、ずいぶんと乱暴に扱ったとか」
「そ、それがなんだって言うんだ」
「まぁ、楽しみにしておいてください」
ディーネはそう言うと、国王のもとにツカツカと歩み寄った。
そして剣を抜いた。あまりに躊躇のない動作だったからか、誰も何も口をはさまなかった。そしてディーネはその剣で国王の心臓をひと突きにした。
「うっ」
と、国王はうめくと、イスから崩れ落ちた。その空席となった王座には、ディーネがくつろぐように腰かけた。
「き、貴様!」
と、ロードリが声をあげた。
「おっと、私に刃向う者には、魔神さまの怒りを食らうことになりますよ。今日この瞬間をもって、私がこの国の王です」
「こんなやり口で国を奪っておいて、国家が長続きすると思うなよ。この不忠義者め」
「御忠告、しかと覚えておきますよ」
ロードリはイスを蹴り飛ばすと、会議室から出て行った。ロードリに続く貴族たちも5人ほどいたが、その他ほとんどの貴族はその場に残っていた。
その一連の出来事を、タルルは呆然と見つめていた。床にはまだ国王の死体が横たわっていた。いったい何が起きたのかわからない。そういった顔をしていた。
(たぶん……)
すべて下準備は整えているのだ。各貴族の根回しも済んでいることだろう。そして魔神アラストルの偉大さを、この場で披露してその効果を最大限に利用した。
すべては計算のうちに違いない。
ディーネは王座から立ち上がると、メデュに耳打ちをした。そのヤリトリを近くにいたタルルも聞いてしまうことになった。
「後始末をお願いします。国王陛下の血縁者を、女子供すべて皆殺しにしてください。禍根を残してしまってはメンドウです」
「わかっておる。わかっておるが、ディーネよ」
「なんです?」
「魔神さまをないがしろにするようなことをすれば、ワラワとして承知せんぞ。魔神さまの好意を利用して、貴族どもを脅迫するなんて話は聞いておらんかったぞ」
「わかっています。魔神さまにはあとで謝るつもりです。私はただの人間。分は弁えているつもりです。すべては魔神さまの信徒を増やすためです」
「ならば良い」
と、メデュはその場から立ち去った。
タルルはあらためてディーネを見つめた。
(この人は……)
怖い人だ。
でもだからと言って、タルルの忠誠が揺らぐことはない。
「タルルくん」
と、ディーネはタルルのことを見下ろして言う。
「は、はい」
緊張していたせいか、思わず声が上ずってしまった。
「前に言ったでしょう」
「え?」
「私はいずれ、王になる――と」
そう言うとディーネは満足そうに、付けヒゲをつまんでいた。
両開きのトビラを蹴り開いてディーネはそう両手を広げた。
その演劇めいた大仰な仕草も相変わらずだった。
タルルはそんなディーネに付き従っていた。
宮廷会議室。
天井からは華美なシャンデリアがつるされている。《輝光石》をふんだんに使われたシャンデリアだ。
巨大なヘビが横たわっているような長机が置かれている。その机を囲むように、貴族たちが腰かけていた。
「き、貴様、どうしてここに!」
と、ロードリが弾かれたように立ち上がった。
「おや。外の出来事を見ていなかったんですか? 魔神さまが私のことを助けてくださいましてね」
「そ、それは見ていたが……」
「なら、私が来てもオカシクはないでしょう」
「ど、どういうつもりだ。魔神に助けられたからと言って、貴様の処刑が取り消しになったわけじゃないんだぞ」
そうでしょう、国王陛下――と、ロードリが上座に座る国王にたしいて言った。
「ああ、いや、まぁ」
と、国王陛下は曖昧に応じていた。
こんな寒いのに汗でもかいているのか、国王はさっきからしきりにハンカチを額に押し当てていた。
「べつに処刑の取り消しを嘆願に来たわけではありませんよ。ロードリ公爵」
「じゃあ、なにを……」
「この国を、いただきに参りました」
そう言うとディーネは深々と頭を下げた。
呆気にとられたのだろう。貴族たちはしばらく沈黙だった。それを間近で見ていた、タルルだって唖然としていたのだから、他のものたちにとってはそれ以上の驚きだろう。
沈黙を破ったのはロードリだった。
「バ、バカなことを言うんじゃない」
と、机をたたいた。
「バカかどうか確かめてみましょうか」
「なに?」
「今、この城の中庭には魔神さまがいらしております。魔神さまの凄まじさは、みなさんご覧になられたことでしょう。あの御方は私に味方をしてくれています。私を処刑から救ってくれたのが、なによりの証拠です」
「そ、それがどうした。あんな邪教の神など……」
「しかしその邪教の神に、《光神教》の天使は歯が立ちませんでした。あまつさえ3大神のエクスカエルが滅却されたことも、ご存知でしょう。あの御方の威光は、《光神教》など相手にならない」
「……っ」
と、ロードリが怯んでいた。
パンパン、とディーネは手を叩いた。
その音が会議室内に響く。
「今からでも遅くはありませんよ? 私に味方をする貴族の御方はおりませんか? 私の傘下につくというのならば、悪いようにはいたしませんよ。私の傘下に入るという者は挙手をください」
会議室にいる貴族の数はおおよそ30人。
そのうち3、4人が挙手をした。
「貴様ら、こんな野蛮な反逆者に与するつもりか。この女は国王陛下からのいただいた恩給地をもらって、それで都市を治めていたのだ。こんな恩知らずの、不義理者に味方をすると言うのか!」
と、ロードリが髪を振り乱して言い返していた。
「私に味方出来ないと言うのならば、魔神さまを敵に回すということ。魔神さまのおチカラで、ここを焼き尽くしてもらっても構わないのですよ」
「この野蛮人め。あの魔神を利用して、王国貴族たちを脅迫するつもりか」
「私のことを誘拐して、ムリヤリ処刑しようとする者に、野蛮などと言われたくはありませんね」
「貴様を処刑すると決めたのは、国王陛下だ。オレじゃない」
「あ、そう言えば、私の誘拐の実行犯であるチロ子爵ですがね。魔神さまに焼き尽くされてしまったようですよ」
ディーネの言葉によって、さらに5人の貴族が挙手をした。
ディーネと、ロードリの舌戦は、どう見てもディーネのほうが優勢であった。魔神のチカラが示されたことが、追い風となっているのだ。
「おのれ、この裏切り者たちが。国王陛下にたいする忠義というものはないのか! 公爵命令だ。その気の狂った女を捕えろ!」
ロードリの命令を受けて、会議室に待機していた護衛兵が、ディーネのことを捕えようと身動きする気配があった。
が――。
さらに声が割り込む。
「くふふっ。面白いことになっておるではないか」
と、手勢を連れて宮廷会議室に入ってくる者がいる。メデュだ。
「メデュ公爵! なんとか言ってくれ。そのディーネ伯爵は、国王陛下から受けた恩も忘れて、この国を奪い取ろうとしているのだ」
「残念じゃな。ロードリ公爵。ワラワもディーネ伯爵の味方じゃ」
「ご、御冗談を。主神ティリリウスさまの血を引く、あなたが邪教を広めようとしている者の味方をすると?」
「邪教じゃと?」
「ええ。そうですよ。魔神アラストルは、邪教の神です。そしてそれをディーネ伯爵は、この国に広めようと企てている。あんな者を受け入れるわけにはいきません」
「残念じゃな。ワラワは親よりダンナを大事にするタイプのようじゃ」
「は?」
「ワラワは魔神アラストルさまと、婚約しておるでな。いずれワラワはあの御方の妻になる。ダンナを愚弄するならば、ワラワは許さぬぞ」
「な、なにをフザケタことを……」
しかしメデュがディーネの味方についたことによって、風向きがいっきに変わった。10人近い貴族たちが挙手をしたのだ。
ディーネは、パンと手を叩いた。
「もう手を下ろしていただいてけっこうですよ。そういうわけです。ロードリ公爵。いや。ロードリ。処刑から逃れた王国貴族を含めて、これで私に与する貴族が過半数を超えました」
「……ッ」
「そう言えばロードリ公爵は、ずいぶんと魔神さまに迷惑をかけていたようですね。うちの大司教さまのことも、ずいぶんと乱暴に扱ったとか」
「そ、それがなんだって言うんだ」
「まぁ、楽しみにしておいてください」
ディーネはそう言うと、国王のもとにツカツカと歩み寄った。
そして剣を抜いた。あまりに躊躇のない動作だったからか、誰も何も口をはさまなかった。そしてディーネはその剣で国王の心臓をひと突きにした。
「うっ」
と、国王はうめくと、イスから崩れ落ちた。その空席となった王座には、ディーネがくつろぐように腰かけた。
「き、貴様!」
と、ロードリが声をあげた。
「おっと、私に刃向う者には、魔神さまの怒りを食らうことになりますよ。今日この瞬間をもって、私がこの国の王です」
「こんなやり口で国を奪っておいて、国家が長続きすると思うなよ。この不忠義者め」
「御忠告、しかと覚えておきますよ」
ロードリはイスを蹴り飛ばすと、会議室から出て行った。ロードリに続く貴族たちも5人ほどいたが、その他ほとんどの貴族はその場に残っていた。
その一連の出来事を、タルルは呆然と見つめていた。床にはまだ国王の死体が横たわっていた。いったい何が起きたのかわからない。そういった顔をしていた。
(たぶん……)
すべて下準備は整えているのだ。各貴族の根回しも済んでいることだろう。そして魔神アラストルの偉大さを、この場で披露してその効果を最大限に利用した。
すべては計算のうちに違いない。
ディーネは王座から立ち上がると、メデュに耳打ちをした。そのヤリトリを近くにいたタルルも聞いてしまうことになった。
「後始末をお願いします。国王陛下の血縁者を、女子供すべて皆殺しにしてください。禍根を残してしまってはメンドウです」
「わかっておる。わかっておるが、ディーネよ」
「なんです?」
「魔神さまをないがしろにするようなことをすれば、ワラワとして承知せんぞ。魔神さまの好意を利用して、貴族どもを脅迫するなんて話は聞いておらんかったぞ」
「わかっています。魔神さまにはあとで謝るつもりです。私はただの人間。分は弁えているつもりです。すべては魔神さまの信徒を増やすためです」
「ならば良い」
と、メデュはその場から立ち去った。
タルルはあらためてディーネを見つめた。
(この人は……)
怖い人だ。
でもだからと言って、タルルの忠誠が揺らぐことはない。
「タルルくん」
と、ディーネはタルルのことを見下ろして言う。
「は、はい」
緊張していたせいか、思わず声が上ずってしまった。
「前に言ったでしょう」
「え?」
「私はいずれ、王になる――と」
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