《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

24-1.タルルとディーネ

 表情には疲労が浮き出ているディーネだが、その足取りはシッカリとしたものだった。タルルは遅れまいと必死にディーネに随行した。


(良かった)
 と、タルルは思わず涙ぐんでしまう。


 ディーネが無事であったことに、おおきな安堵をおぼえているのだ。これもすべて魔神によってもたらされた結果であることを、タルルは重々承知している。


「魔神さまのご慈悲といったところですかね。私はあの御方に2度も救われた」
 と、ディーネが歩速をゆるめることなく、そう言った。


 王都主館のなかである。
 主塔のすぐ隣にある建物だ。


 石造りの通路がつづいている。普段は厳重に警戒されているはずなのだが、魔神騒ぎのせいか騎士と出会うことはなかった。


 無人の通路だ。


 右手は窓がつづいており、チョウド魔神騒ぎのあった中庭を見下ろすことが出来た。魔神の存在はひときわ目立つ。暗闇のなかでも決してその姿を見逃すことはない。


「2度?」


「最初は災厄級のクロイから都市を護っていただきましたからね」


 そう言えば、そうだったな――とタルルは納得した。


 べつに忘れていたわけではない。あれはディーネ自身が救われた事件ではなかった。だけど、ディーネにとっては都市が護られたことは、自分自身が救われたことよりも大きな意味を持つのだろう。


「偉大な御方ですね。でもその魔神さまにいち早く目をつけた、伯爵さまも偉大だと思います」


「ありがとう。タルルくん。ですがタルルくんまで、私を助けに来ることはなかったでしょう」


「でも心配ですから」


 おそらく拷問を受けたのだろう。ディーネの指の爪が、何枚か剥がれているのが見て取れる。


 痛々しい。


 詳しく聞き出そうとは思わなかった。ディーネにとっても、思い出したくないような過去だろう。


「後悔することになるかもしれませんよ」
 と、ディーネはそう言った。


「え?」


「私は。君が思っているような聖人ではありませんからね。むしろ目的のためには、どんなことでもするような人間ですよ」


「承知していますよ。オレはべつに伯爵さまが聖人だから慕っているわけではないですよ」


 この人はたぶん、残虐な一面を持っている。
 そんなことはタルルは、とっくに解っている。


「そうでしたか。幻滅されたら、どうしようかとも思いましたが、やはりタルルくんを補佐官に置いておいて正解でしたね」


「そう言えば、尋ねたいことがあったんですけど」


「なんでしょう?」
 と、ディーネは石段を上がってゆく。


 タルルもそれにつづく。


「どうしてオレのことを補佐官に置いてくれているんです?」


 ディーネは今回、誘拐される前に――


『私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ』
 という言葉を残している。


 しかし、タルルにはわかっていないのだ。


 ふふふっ、とディーネは笑って口もとに手をやっていた。おそらく付けヒゲを引っ張ろうとしたのだろうが、今はその付けヒゲがない。タルルは持ってきた付けヒゲを、ディーネに渡した。


「これがその理由ですよ」
 と、ディーネはその付けヒゲを受け取って、そう言った。


「え? 付けヒゲがですか?」


 違いますよ、とディーネは頭をふった。


「タルルくんは、とても気が利く。心配りがスバラシイ。私が欲しいものを、口にする前に持って来てくれる。私のやろうとしていることに、すぐ勘付いてくれるでしょう」


「それだけですか?」


「それがとても重要なことなのです。今回も、私が思ったように動いてくれましたからね」


「はぁ」
 と、タルルは曖昧に応じた。


 実は君にはすごい能力があるんですよ――とか言われることを期待していたのだが、思っていたよりも大したことがなかったので、気が抜けてしまった。


 そんな気が抜けたところを狙うかのようにディーネは立ち止って、タルルの顔を覗きこんできた。


 ディーネの顔が近いことで、タルルはドギマギしてしまった。後ろに仰け反ったことで、石段を落っこちてしまいそうになったところを、ディーネが引き寄せてくれた。


 引き寄せられると今度は、ディーネのもとに抱きこまれるような形になった。女性の香と、その肉の感触に、タルルは目がくらんだ。


「どうしてタルルくんは、私の意図を汲んでくれるのか、私はチャント理解していますよ」
 と、ディーネは言った。


「え?」


「さあ、この先が、王都、宮廷会議室です。私たちの処刑のため、王族貴族たちが集合しています。御挨拶に行きましょう」
 と、ディーネはそう言って、ふたたび歩みをすすめた。


 ディーネの抱擁から解放されたことによって、ディーネの香りもその肉の感触も薄らいだ。


 もうすこし抱かれていたかったな、とタルルは名残惜しく思うのだった。

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