《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

23-2.王都制圧

「魔神さま!」
 と、水を浴びせられているオレのもとに、プロメテが駆け寄ってきた。


 まるで滝のなかにいるかのようだった。


「動くなと言われただろう。プロメテ」


「ですが、このままでは魔神さまが……」


「ディーネを人質に取られているんだ。仕方ない」


「ですが……」


「落とし穴に落とされたときにすこし話題になったが、もしもオレが死んだら、また魔神を召喚すれば良い」


「でもそれはきっと、今の魔神さまではないのですよ。それにそう何度も召喚できるとは限らないのです」


「しかし他に方法はない。プロメテを守ってやれないのは残念だが、ディーネも大事なオレの信徒だ」


「こうなればディーネさんのことは、見捨てるしかないのですよ」


 プロメテの口から出たとは思えない過激な発言だった。


「しかしそれは……」


「たとえ幻滅されても、私はあえて言うのですよ。私には魔神さましかいないのです。魔神さまが本気を出せば、この程度の相手、蹴散らすことが出来るはずなのです。ここで終わってはダメなのですよ」


 置いてかないで欲しいのです――と、プロメテはオレを抱きこむようにした。


 気が付いたら、オレのカラダはもう人間の握りコブシぐらいの大きさしか残されていなかった。滝のように降り注ぐ水から、プロメテはオレのことを守ろうとしていた。


「……」


 苦渋の決断だった。
 ここでオレが抵抗を見せたら、オハルは間違いなくディーネを殺すことだろう。


 しかし、ここでオレが大人しく殺されたからと言って、ディーネが助かる見込みもないのだ。


 ならば。
 ディーネを見捨てでも、オレはここでチカラを使うべきなのかもしれない。


 そうすればせめてプロメテや、他の命を守ることは出来る。


「プロメテ」


「なんでしょう?」


「そこを退いてくれ。風邪を引くぞ」


「退くわけにはいかないのです。私が退いたら魔神さまが濡れてしまうのですよ」


「もう良いんだ。ディーネは見捨てる。ここで気炎万丈のチカラを使う」


「……はい」


「タルルには恨まれそうだ」


 すべてを悟ったように、プロメテはオレから離れた。


 気炎万丈のチカラを使おうと意を決した。


 しかしその瞬間。
 オレに浴びせ続けられていた水がやんだのである。


 何が起こった?


 文字通り風前の灯火ほどの大きさしか残っていなかった。間一髪というところで放水が止まった。滝のように降り続いていた水が止んだことによって、オレの視界が晴れた。


 あれは――
 と、オレは正面に目をやった。


 ディーネにナイフを突きつけていたはずのオハル。
 そのオハルの首が、胴から離れていた。どうやらオハルの死によって、オレへの放水が止まったようである。


 しかしいったい誰が、オハルを殺したのか。


 オハルの髪をつかんで、その生首を引っさげている男の姿があった。


「間諜って言うのはよォ。情報を集めるのだけが仕事じゃねェんだよ」


 オハルの生首を引っさげている大男――。
 しゃぶり枝を口にくわえている。


「ゲイル!」


「裏切るようなマネをしてすみませんねェ。まぁ、オハルを殺るチャンスがあったんて、仕留めておきましたよ」


 ゲイルは、もともとソマ帝国側の人間であり、《光神教》の修道士でもある。今回の騒動でオハルの側に寝返ったかと思っていた。


 が――。
「作戦だったのか」


「実に間諜らしいやり方だったでしょう。フイウチや人質は、オレの専売特許なんでね。仲間だと思わせて、背後から一撃ですよ」


 ゲイルはそう言うと、オハルの生首を投げ捨てていた。


 なるほど。
 タリスマンで一度はオレにたいして忠誠心を示しているのだ。そんなすぐに裏切るなんて妙だとは思っていた。


 ゲイルにはゲイルの作戦があったのだ。


 かつてドワーフの里で戦ったときにはゲイルは、ドワーフの非戦闘員を狙って攻撃をしてきたことがある。


 そして今回、オレを捕えたという態で、王都に潜入するという作戦を立てたのもゲイルだ。


 こういった狡猾なやり口に長けているのかもしれない。正直、盗賊のレイアよりも姑息だ。姑息だが、間違いなく頼りになる人物だった。


「助かった。これで気兼ねなく本気を出すことが出来るというわけだ」


「ええ。見せてくださいよ。魔神さま。オレはあなたが世界の標に足る存在にならないと判断すれば、すぐに寝返るんでね」


 冗談とも本気ともつかないことを、ゲイルは言った。


 ふん、とオレは鼻で笑った。


「ならばその目に焼き付けておくが良い。世界の闇を焦がす大火、魔神アラストルの劫火を」


 気炎万丈。
 もう一度、オレはチカラの限りをふりしぼって火力を強めた。


 プロメテが祈ってくれるならば、オレは何度だって息を吹き返す。


『マズイ』
『魔神を仕留めろ』
『放水を再開せよ』
 と、《聖白騎士団》たちはふたたび、タリスマンによる放水をはじめようとしていた。が、今度は大人しくやられる理由もない。



 歩廊アリュールに並んでいた《聖白騎士団》に炎のコブシを振るった。城壁上にいた連中は次から次へと炎上して、自ら水掘へと身を投げ出していた。


「おらおらッ。《聖白騎士団》ってのは、そんなものかァ」
 と、レイアも片っ端から《聖白騎士団》のことを水掘のほうへと突き落としていた。


 こうしてセパタ王国王都は《紅蓮教》によって、制圧されることになったのである。

「《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く