《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

23-1.中庭戦

 内郭中庭――。


 日本の城で言うならば天守閣。西洋風に言うならば主塔キープが夜空に向かってそびえ立っていた。


 その足元にて、23の十字架が立てられていた。十字架には人が張りつけられているのが見て取れる。


 ディーネに与していた貴族が22人いたと聞いているから、そのなかにディーネがいるとするなら数は合う。


 十字架のひとつ。ディーネの姿を見つけた。


 オレはホッと胸をナでおろした。


 ようやっとディーネのもとにたどり着いたという一呼吸と、ディーネがまだ無事そうだという安心のふたつの安堵だった。


 ディーネは意識を失っているらしい。だが、張りつけと言っても、べつに手首に釘を打ち込まれていることもなさそうだ。


 まだ処刑が行われていないということは、おそらくは命も無事のはずだ。


 が、ふたたび気が引き締めることになった。


 ディーネは多くの兵隊に囲まれていた。王都の兵隊だ。


 それにディーネの首にはナイフが突きつけられていた。
 ナイフを突きつけているのはオハルだ。


「そ、それ以上、近づかないでください。この女の命はありませんよ」


「卑怯な」


「卑怯? 邪教の神がよくそんなことを言えますね」


 ディーネを人質にとったことで、すこし余裕を取り戻したのか、オハルの口調から動揺が薄れていた。


 ただ、それは自然に落ち着いたというよりかは、オハルが強引に冷静さを取り戻そうとしているようにも見えた。


「そこに捕えられている者たちを解放してもらいたい。そうすれば、お前たちの命までは奪わないことを約束する」


「それは出来ません」


「なに?」


「この女の腹の中は、獣を食らわんとする獅子が眠っている。事実、この女はセパタ王国の貴族たちを誑かして、《紅蓮教》に取り込もうとしていた」


 いや、それだけじゃない――とオハルは続けた。


「この女は、《紅蓮教》を大きくした後に、《光神教》を破壊しようという腹積もりに違いありません」


「……」


 たしかにディーネがいったいどこに向かおうとしているのかは、オレですら見えないところがある。


 世界征服でも企んでいるのかもしれない。


 しかしディーネが何を企んでいようと、オレにとったは恩人だ。
 助けないわけにはいかない。


「生かして帰すわけにはいかない。ここで私が《紅蓮教》の勢いを止める必要があるんですよ」


 オハルは眉間にグッとシワを寄せてそう言った。そうすると、オハルの眉間にある十字のヤケド跡が歪んだ。


 このゲス野郎が――と、レイアがクロスボウを構えていた。


「動くな! もしすこしでも動いてみろ、処刑実行の前にナイフが彼女の首をえぐることになりますよ」


 ディーネの首が浅く切られた。その首から血が滴り落ちているさまが、オレのところからもハッキリと見て取ることが出来た。


 レイアさんッ、とタルルが咎める声を発した。


 ディーネの補佐官であるタルルは、誰よりもディーネの身柄が心配なのだろう。レイアは仕方がないと言うように、その場にクロスボウを投げ捨てていた。


「《聖白騎士団》! あの邪教の神に放水を開始せよッ」


 歩廊アリュールに配備されていた《聖白騎士団》がタリスマンから、水を放出させた。その水がオレめがけて打ちつけられることになった。


「……ッ」


 水は冷たかったが、それ以上に、オレのカラダからチカラを奪う効果があった。


 天使が使う魔力を奪う剣に斬られたときと、感覚が似ている。


 タリスマンから発せられている水ゆえ、なにか特別なチカラが秘められているのかもしれない。


 血をしぶく代わりに、オレはカラダから水蒸気を吹き上げることになった。気炎万丈のチカラを保っていられなくなった。


 オレのカラダが小さく縮んでいくにつれて、あたりが暗闇につつまれてゆくことになった。


 水蒸気によって、白くけぶった暗闇となった。まるで霧につつまれているかのようだ。


「よし。その調子だ。このまま魔神を消し去ってしまいなさい!」
 と、オハルが言った。


 抵抗したいのだが、いかんせんディーネを人質に取られている以上は、下手に動くことは出来ない。

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