《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
22-3.下中庭戦
タリスマンによってその忠誠を示したはずのゲイルが裏切った。何故か。そのことを沈思熟考しているよゆうはない。
王都――城の下中庭。
内郭と外郭の城壁によってはさまれた空間になっている。
なかには厩舎と思われる建物が多くあった。厩舎のほうからは多くの馬が、こちらを見つめていた。
ほかにも多くの建物がある。おそらく食糧庫や居住施設といったものだろう。
あともう一息なんだが……。
内郭の城壁のほうに目をやった。
内郭城壁の歩廊には多くの弩兵が並んでいる。こちらに向かって矢を向けているのだった。
ディーネを助けるためには、この内郭城壁を越える必要がある。しかし、気炎万丈のチカラを使ったとしても、強引に城壁を突っ切るのはむずかしい。
内壁の周囲には深い堀が備えられていた。堀には水が張られている。こんな雨続きの世界だから、堀には水ぐらい貯まるのだろう。その水掘りがオレにとっては厄介なのだ。
中庭に行くためには、城門棟を通って行くしかない。
「攻撃開始!」
オハルがそう言って手を振り上げた。
それを合図に《聖白騎士団》たちのタリスマンによる白い光球や、弓矢などが飛来してきた。
「プロメテ!」
「承知なのです!」
と、プロメテはカンテラのフタを開けると、その場にオレを残してすぐに離れて行った。
気炎万丈!
火力が爆発した。
オレたちに向かって飛来していた弓矢が灰塵と化した。光の球も焼き尽くされていった。凍てついた暗夜のなか、オレの発する火の粉が血しぶきのように広がった。
オレの炎に驚いたかして、厩舎の馬たちが激しくいななき、脱走をはじめていた。
「魔神さまーッ」
と、下からレイアが呼びかけてきた。
「どうした?」
「私が内部に忍び込んで、城門棟の跳ね橋を下げさせる。魔神さまはその下ろした跳ね橋から、中庭に向かってくれ」
「わかった。気を付けろよ」
「心配ねェよ。魔術師の嬢ちゃんに作ってもらったタリスマンが、私を守ってくれる」
レイアはそう言うと、姿をくらました。
どうやらプロメテは、レイアやエイブラハングの分のタリスマンも作ってくれていたようだ。そのタリスマンに魔法による加工をほどこしたのはプロメテだが、造形したのはドワーフのヴァルだ。
多くの仲間に支えられているのだと実感がこみ上げてきた。
「うわぁぁっ」
と、オレの足元では敵兵たちが逃げ惑っていた。
本領を発揮したオレの魁偉に怖れをなしたのだろう。さらには厩舎から逃げ出した馬が、下中庭の混乱に拍車をかけていた。
それでも規律を乱さぬ部隊がいた。白い法衣を着た連中――《聖白騎士団》だ。
「主神ティリリウスさまに忠誠を示せ。亡くなられたエクスカエルさまの弔合戦だ。あの魔神を滅却せよ!」
オハルがそう叫んでいた。
その言葉を受けて《聖白騎士団》が十字架のタリスマンを構えた。白い光の球が、大量にオレに飛来してくる。
「……ッ」
オレは自分の身を守るように、手を交差させてその光の球を受け止めた。オレのカラダに触れた光の球は燃え尽きていった。
「なるほど。さすがは3大神のエクスカエルさまを倒しただけはありますねぇ」
オハルがオレを見上げてそう言った。
「そこを退け。退かねば燃えるぞ」
「あなたは、まだ自分の置かれた状況がわかっていないようですね」
「なに?」
「神はその信者の思いと数によって、能力値が決まる」
「ああ」
「だからこそ、こうして王都に入り込んでくるまで、私はあなたの侵入を黙殺していたのですよ」
オハルのニヤケ面が不気味だった。
「どういう意味だ」
「都市シェークスでは、あなたの信者が多いのでしょう。だから、実力を発揮できたのかもしれない。しかしここはセパタ王国の王都。あなたの信者は数がすくない。ここではこちらのほうが有利だ」
オハルが笛を吹き鳴らした。オハルに続いて、後ろにいた《聖白騎士団》も笛を吹き鳴らした。甲高い音重なり合って吹き鳴らされることになった。
むろんただの笛ではない。この笛は――。
笛によって、天使たちがあふれるような勢いで召喚されていた。まるで天使の軍勢である。
白い翼を生やした天使の軍勢が、オレめがけて突っ込んできた。
「ふんっ」
と、オレは鼻息を荒げて、向かってくる天使たちを殴り落とした。
たしかにこの場所はオレにとっては敵地かもしれない。それでも、オレの大きさは、向かってくる天使たちよりも、何倍も大きく燃え上がっていた。
ひとくちに天使と言っても、いろいろといるのだろう。
こっちの世界に召喚されて、オレがはじめて戦った天使は、権天使級と呼ばれていた天使だった。
向かってくる天使はおおよそ、あの程度の大きさだった。
コブシを振るえば、数人の天使が火だるまになって落っこちて行く。下中庭に落ちる者もいれば、水掘へと水没している者もいた。
戦っているのは、オレだけではなかった。
プロメテとメデュは背中合わせになって、タリスマから炎を発して天使を焼き落としていた。
天使は人の身で勝てる相手ではないと聞いているが、タリスマンがあれば話は別のようだ。特にプロメテとメデュのふたりの信仰心はただならぬものがある。
「うぉらぁッ」
と、エイブラハングにいたっては、《聖白騎士団》に群れのなかに、槍を手にひとりで突っ込んでいる。
エイブラハングの強さは、まさに一騎当千である。そしてこちらの味方には、もうひとり一騎当千の者がいる。
「魔神さまーっ」
と、オレのすぐ後ろから呼びかけてくる声があった。
レイアである。
さっきまで弩兵の並んでいた歩廊に、レイアが立っていた。身を乗り出すようにして手を振っていた。
「無事か? 弩兵はどうした?」
「心配いらねェよ。あんな軟弱な連中。魔神さまのチカラを見たら、逃げ出してやがったぜ」
「そ、そうか」
とは言っても、他にも兵隊はいたはずだ。レイアがそこまで潜りこむのに、かなりの交戦があったことだろう。
「それより跳ね橋を下ろしたぜ。すぐにこっちに入って来てくれ」
「でかした!」
そんなヤリトリをしているあいだにも、レイアに斬りかかってきた騎士の姿があった。レイアは上手くそれを受け流していた。レイアに斬りかかっていた騎士は、歩廊から、水掘に落とされていた。
「エイブラハング!」
と、足元に呼び掛けた。
「なんでしょう。魔神さま」
「プロメテとメデュの身柄を頼む。どこか安全な場所に」
プロメテとメデュのふたりをこの危地に置いておくわけにはいかない。ましてや中庭にまで連れて行くのは危険すぎる。
そう思っての発言だったのだが、安全な場所なんて心当たりはない。
オレの心配をよそに、
「心配ないのじゃ。魔神さま」
と、メデュが返してきた。
「そうは言っても……」
「ワラワとて公爵じゃ。手勢を従えているでな」
「手勢?」
そう言えばメデュが従えていたはずの手勢が、馬車の周囲にはいなかった。
メデュは微笑んで、それェ、と声を荒らげた。
「ワラワに攻撃を仕掛けてくる無礼者をつまみだせ。突撃じゃ!」
おそらくメデュが兵を待機させていたのだろう。どこからともなく騎兵が現われて、オハルの率いる《聖白騎士団》に突撃していた。
《聖白騎士団》はタリスマンを持っているとは言っても、騎兵の突撃をくらって散り散りになっていた。
天使たちも討滅されていた。天使たちの残滓とでも言うべき白く光る粉雪のようなものが、オレの吹き出す火の粉にまじって散っていた。
「おのれッ」
と、オハルがひとり逃げて行く。
「この場はワラワの部隊が引き受ける。魔神さまたちは、はやく城の内郭中庭へ。ディーネ伯爵を助けてやるのじゃ」
「大丈夫か?」
「案ずるでない。ワラワもけっこうな私兵を持っておるでな」
「わかった」
その言葉を信じて、オレたちは内郭中庭へと急ぐことにした。
レイアが跳ね橋をおろしてくれているため、橋をわたることが出来た。
エイブラハングとプロメテのふたりは城門棟を抜けて、オレはその城門棟を乗り越えて行くことにした。
「ま、待ってください。オレも」
と、タルルがあわてて付いてきた。
裏切ったゲイルのことも気にはかかるが、とにかくディーネの安否が心配である。
王都――城の下中庭。
内郭と外郭の城壁によってはさまれた空間になっている。
なかには厩舎と思われる建物が多くあった。厩舎のほうからは多くの馬が、こちらを見つめていた。
ほかにも多くの建物がある。おそらく食糧庫や居住施設といったものだろう。
あともう一息なんだが……。
内郭の城壁のほうに目をやった。
内郭城壁の歩廊には多くの弩兵が並んでいる。こちらに向かって矢を向けているのだった。
ディーネを助けるためには、この内郭城壁を越える必要がある。しかし、気炎万丈のチカラを使ったとしても、強引に城壁を突っ切るのはむずかしい。
内壁の周囲には深い堀が備えられていた。堀には水が張られている。こんな雨続きの世界だから、堀には水ぐらい貯まるのだろう。その水掘りがオレにとっては厄介なのだ。
中庭に行くためには、城門棟を通って行くしかない。
「攻撃開始!」
オハルがそう言って手を振り上げた。
それを合図に《聖白騎士団》たちのタリスマンによる白い光球や、弓矢などが飛来してきた。
「プロメテ!」
「承知なのです!」
と、プロメテはカンテラのフタを開けると、その場にオレを残してすぐに離れて行った。
気炎万丈!
火力が爆発した。
オレたちに向かって飛来していた弓矢が灰塵と化した。光の球も焼き尽くされていった。凍てついた暗夜のなか、オレの発する火の粉が血しぶきのように広がった。
オレの炎に驚いたかして、厩舎の馬たちが激しくいななき、脱走をはじめていた。
「魔神さまーッ」
と、下からレイアが呼びかけてきた。
「どうした?」
「私が内部に忍び込んで、城門棟の跳ね橋を下げさせる。魔神さまはその下ろした跳ね橋から、中庭に向かってくれ」
「わかった。気を付けろよ」
「心配ねェよ。魔術師の嬢ちゃんに作ってもらったタリスマンが、私を守ってくれる」
レイアはそう言うと、姿をくらました。
どうやらプロメテは、レイアやエイブラハングの分のタリスマンも作ってくれていたようだ。そのタリスマンに魔法による加工をほどこしたのはプロメテだが、造形したのはドワーフのヴァルだ。
多くの仲間に支えられているのだと実感がこみ上げてきた。
「うわぁぁっ」
と、オレの足元では敵兵たちが逃げ惑っていた。
本領を発揮したオレの魁偉に怖れをなしたのだろう。さらには厩舎から逃げ出した馬が、下中庭の混乱に拍車をかけていた。
それでも規律を乱さぬ部隊がいた。白い法衣を着た連中――《聖白騎士団》だ。
「主神ティリリウスさまに忠誠を示せ。亡くなられたエクスカエルさまの弔合戦だ。あの魔神を滅却せよ!」
オハルがそう叫んでいた。
その言葉を受けて《聖白騎士団》が十字架のタリスマンを構えた。白い光の球が、大量にオレに飛来してくる。
「……ッ」
オレは自分の身を守るように、手を交差させてその光の球を受け止めた。オレのカラダに触れた光の球は燃え尽きていった。
「なるほど。さすがは3大神のエクスカエルさまを倒しただけはありますねぇ」
オハルがオレを見上げてそう言った。
「そこを退け。退かねば燃えるぞ」
「あなたは、まだ自分の置かれた状況がわかっていないようですね」
「なに?」
「神はその信者の思いと数によって、能力値が決まる」
「ああ」
「だからこそ、こうして王都に入り込んでくるまで、私はあなたの侵入を黙殺していたのですよ」
オハルのニヤケ面が不気味だった。
「どういう意味だ」
「都市シェークスでは、あなたの信者が多いのでしょう。だから、実力を発揮できたのかもしれない。しかしここはセパタ王国の王都。あなたの信者は数がすくない。ここではこちらのほうが有利だ」
オハルが笛を吹き鳴らした。オハルに続いて、後ろにいた《聖白騎士団》も笛を吹き鳴らした。甲高い音重なり合って吹き鳴らされることになった。
むろんただの笛ではない。この笛は――。
笛によって、天使たちがあふれるような勢いで召喚されていた。まるで天使の軍勢である。
白い翼を生やした天使の軍勢が、オレめがけて突っ込んできた。
「ふんっ」
と、オレは鼻息を荒げて、向かってくる天使たちを殴り落とした。
たしかにこの場所はオレにとっては敵地かもしれない。それでも、オレの大きさは、向かってくる天使たちよりも、何倍も大きく燃え上がっていた。
ひとくちに天使と言っても、いろいろといるのだろう。
こっちの世界に召喚されて、オレがはじめて戦った天使は、権天使級と呼ばれていた天使だった。
向かってくる天使はおおよそ、あの程度の大きさだった。
コブシを振るえば、数人の天使が火だるまになって落っこちて行く。下中庭に落ちる者もいれば、水掘へと水没している者もいた。
戦っているのは、オレだけではなかった。
プロメテとメデュは背中合わせになって、タリスマから炎を発して天使を焼き落としていた。
天使は人の身で勝てる相手ではないと聞いているが、タリスマンがあれば話は別のようだ。特にプロメテとメデュのふたりの信仰心はただならぬものがある。
「うぉらぁッ」
と、エイブラハングにいたっては、《聖白騎士団》に群れのなかに、槍を手にひとりで突っ込んでいる。
エイブラハングの強さは、まさに一騎当千である。そしてこちらの味方には、もうひとり一騎当千の者がいる。
「魔神さまーっ」
と、オレのすぐ後ろから呼びかけてくる声があった。
レイアである。
さっきまで弩兵の並んでいた歩廊に、レイアが立っていた。身を乗り出すようにして手を振っていた。
「無事か? 弩兵はどうした?」
「心配いらねェよ。あんな軟弱な連中。魔神さまのチカラを見たら、逃げ出してやがったぜ」
「そ、そうか」
とは言っても、他にも兵隊はいたはずだ。レイアがそこまで潜りこむのに、かなりの交戦があったことだろう。
「それより跳ね橋を下ろしたぜ。すぐにこっちに入って来てくれ」
「でかした!」
そんなヤリトリをしているあいだにも、レイアに斬りかかってきた騎士の姿があった。レイアは上手くそれを受け流していた。レイアに斬りかかっていた騎士は、歩廊から、水掘に落とされていた。
「エイブラハング!」
と、足元に呼び掛けた。
「なんでしょう。魔神さま」
「プロメテとメデュの身柄を頼む。どこか安全な場所に」
プロメテとメデュのふたりをこの危地に置いておくわけにはいかない。ましてや中庭にまで連れて行くのは危険すぎる。
そう思っての発言だったのだが、安全な場所なんて心当たりはない。
オレの心配をよそに、
「心配ないのじゃ。魔神さま」
と、メデュが返してきた。
「そうは言っても……」
「ワラワとて公爵じゃ。手勢を従えているでな」
「手勢?」
そう言えばメデュが従えていたはずの手勢が、馬車の周囲にはいなかった。
メデュは微笑んで、それェ、と声を荒らげた。
「ワラワに攻撃を仕掛けてくる無礼者をつまみだせ。突撃じゃ!」
おそらくメデュが兵を待機させていたのだろう。どこからともなく騎兵が現われて、オハルの率いる《聖白騎士団》に突撃していた。
《聖白騎士団》はタリスマンを持っているとは言っても、騎兵の突撃をくらって散り散りになっていた。
天使たちも討滅されていた。天使たちの残滓とでも言うべき白く光る粉雪のようなものが、オレの吹き出す火の粉にまじって散っていた。
「おのれッ」
と、オハルがひとり逃げて行く。
「この場はワラワの部隊が引き受ける。魔神さまたちは、はやく城の内郭中庭へ。ディーネ伯爵を助けてやるのじゃ」
「大丈夫か?」
「案ずるでない。ワラワもけっこうな私兵を持っておるでな」
「わかった」
その言葉を信じて、オレたちは内郭中庭へと急ぐことにした。
レイアが跳ね橋をおろしてくれているため、橋をわたることが出来た。
エイブラハングとプロメテのふたりは城門棟を抜けて、オレはその城門棟を乗り越えて行くことにした。
「ま、待ってください。オレも」
と、タルルがあわてて付いてきた。
裏切ったゲイルのことも気にはかかるが、とにかくディーネの安否が心配である。
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