《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

22-1.王都潜入

「あのー。私は縛られたフリとかしておいたほうが良いのでしょうか?」
 と、プロメテが言った。


 王都が近づいてきたのだ。


 心配はいらん、とメデュが応じた。 


「魔神を捕えたという情報はすでに王都に届いておる。ワラワはそれを聞いて、あわてて助けに行ったのじゃからな」


「ですが、城門棟を抜けるさいには、検閲とかされますよね?」


「ワラワがどうにかしてやる。ワラワはセパタ王国ではずいぶんと顔がきくでな」


 その言葉通り、城門棟を抜けるさいにはマッタク検閲されることはなかった。門兵は立っていたのだが、メデュが顔を見せると、門兵たちは頭を下げていたほどだ。


「まさかこうもアッサリと王都に入り込むことが出来るとはな」


 キャリッジの窓には、黒幕が垂らされている。オレの明かりを隠すためだ。


 ディーネの治めていた都市シェークスと違って、王都にはいまだ火はないのだ。どうしてもオレの存在は目立つ。


 だが、多少漏れていたとしても、メデュが付いてくれているのなら問題なさそうだ。


「ホめてくりゃれ、魔神さま」
 と、メデュがカンテラを覗きこんできた。


「助かったよ」
 と、オレは素直にそう言っておくことにした。


「くふふ。魔神さまにホめていただき光栄なのじゃ。が、しかし、まだ気を抜くことは出来ぬ。今回処刑が行われるのは城内じゃ」


「城で行われるのか」


「今回の処刑は気合いが入っておるでな。都合23人の貴族が処刑されることになっておる。そのなかにはディーネ伯爵も含まれておる」
 と、メデュは右手でピースをして、左手の指を3本立てていた。


「23人も? ディーネの他にも処刑がおこなわれるのか」


「ディーネ伯爵は、指輪やネックレスや宝石といった希少品を貴族たちにわたして、それだけの貴族にコネをつくり、味方に引き込んでおったんじゃ。他22人はディーネに味方をした貴族どもじゃ」


「そういうことだったのか……」


 ヴァルが作る装飾品を、ディーネは食糧と交換してくれていたのだ。何に使うのか気にはなっていたが、まさか貴族たちとの交渉に使っているとは、思いもしなかった。


「この王都では《光神教》を捨てて《紅蓮教》に鞍替えしようという意見も出ておった。ディーネはそういった者たちに、しきりに働きかけておった。過半数の貴族が《紅蓮教》賛成派に流れれば、セパタ王国においては、《光神教》を捨てることになっておったのじゃがな」


「政戦とでも言うのかな。そういうのは」


 うむ、とメデュはうなずいた。


「しかしソマ帝国が、その状況を見て危機感をいだいたらしい。どうやらソマ帝国にも、頭の切れるヤツがおるのじゃろうな。オハルという司教を寄越してきおった。そしてディーネ伯爵と、それを与する者を処刑するようにすすめてきたという運びじゃ」


「で、この状況ってわけか」


「うむ」


「メデュはよく無事だったな」


「ワラワは主神ティリリウスの血を引いているでな。ワラワはそれを嫌悪しておるが、周りはワラワを信用しきっておる」


 ワラワの腹も見抜けぬ愚か者どもじゃ――と、メデュはサディスティックに嘲笑して見せた。


「なるほど」


 でも、それだけじゃないだろう。
 たぶんメデュも政治的な立ち回りが上手いから、ヘイトをかわすことが出来たのだ。


 幼い見た目の底には、充分に成熟した精神を宿していそうだ。


「ディーネ伯爵は、伯爵でおさまるような器ではない。あれは王の風格を持つ女じゃ。世界を食らおうとする獅子よ。こんな辺鄙な田舎で虎視眈々とキバを研いでおった。魔神さまの出現によって、いよいよ隠していたキバを剥きだしたというカッコウじゃな」


「たしかにオレに真っ先に目をつけたのもディーネだったしな」


 オレを取りこんで、ドワーフの鉱山資源を狙い、さらにはその行路を造り上げた。


 製塩にもチカラを入れて、同時に貴族たちとの政戦も繰り広げていたとするなら、驚異的な胆力である。


「言っておくが、ワラワはディーネ伯爵に説得されて、魔神さまの味方をしておるわけではないからな。ワラワには、ワラワの考えがあるでな」
 と、メデュは拗ねるように口先をとがらせてそう言った。


「わかってる」


 メデュはタリスマンから、強烈な火を引き出したのだ。
 それだけ信仰心が強いという証になる。


 そして――。
 その信者の思いは、オレの能力ステータスを引き上げてくれる。


「さて、城に向かうとしよう」
 と、メデュが冷静な語調でそう言った。


「ディーネたちが、どこに囚われているかわかるか?」


「処刑日は明日じゃが、すでに処刑台にはり付けられておる。城に入れば、すぐに目につくはずじゃ」


「そうか」


 イエスのようにはり付けられているディーネの姿を想像した。痛ましい。どうか無事であってくれ。

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