《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

21-3.艶やかな少女

「ようやくお会いすることが出来たのじゃ。はじめまして。あらためて私はセパタ王国の公爵貴族のメデュと申すのじゃ」


 兵を後ろに下げたメデュは馬から降りると、ひとりでオレの前にやって来て、オレの前にかしずいたのである。 


 メデュの紫色の髪さきが、かしずくことによって地面に付着していた。メデュの髪は独特なうねりを帯びており、まるでヘビのように見える。


「オレは魔神アラストルだ。こっちが大司教のプロメテだ」


 オレに紹介されたプロメテも頭を下げた。


「捕えられていないとわかって、安心したのじゃ。捕えられたと聞いたので、あわてて兵を率いてきた。剣を向けた非礼をお詫びしたい」


「いや。助けようとしてくれたのなら、べつに責めようとは思わない。でも、ディーネの味方というのはホントウなのか?」


「ディーネ伯爵の味方でもあり、そして魔神さまの妻となる者じゃ」


「つ、妻だぁ?」


 あまりに場違いな言葉が飛び出してきたことによって、オレはスットンキョウな声を漏らしてしまった。


 なぜかプロメテも同時に顔を赤らめていた。


「あら、照れておられるのじゃ? 可愛らしい魔神さまなのじゃ」


 面をあげたメデュは艶やかに微笑んだ。


 その微笑みはとてもじゃないが、あどけない少女から発せられる笑みには見えないほどに濃艶だった。


「急にそんなこと言われてもな……」
 と、思わずオレは目をそらしてしまったほどだ。


「それでもまだ、ワラワのことが、信じられませぬか?」


「主神ティリリウスの血を引いた半神だと聞いている。《光神教》の者じゃないのか?」


 こうして見るかぎりは、ふつうの少女にしか見えない。


「そのところを話すとすこしヤヤコシクなるのじゃ。しかし、ワラワが魔神さまの味方であることは命をかけて偽りなきこと。どうか信用していただきたいのじゃ」


「なら良い方法がある」


 プロメテ――とオレは呼びかけた。
 プロメテはすでにタリスマンの準備をしてくれていた。ゲイルに渡したものと同じものだ。それをメデュにも渡した。


「おおっ。これは魔神さまのタリスマンなのじゃな」


「オレのことを信仰する気持ちがあるならば、それに火を灯すことが出来るはずだ。もしもオレの妻になるという、その言葉にウソでないならば、火を灯せるはずだ」


「なるほど。それは手っ取り早くて助かる。ワラワの気持ちを魔神さまにお見せすることが出来るというわけじゃな。それでは我が恋慕をしかと受け取ってくだされ」


「気を付けろよ。火は熱いぜ」


 ゲイルが手をヤケドしたことを思い出して、オレはそう忠告した。


「むろん。ワラワの思いは熱いものゆえな」


 メデュはタリスマンを空中に放り投げた。そして次の瞬間。タリスマンから爆発するような火があふれだした。その烈火はドラゴンをかたどって見せた。炎のドラゴンは空に舞い上がり、そして火の粉となって霧散した。


「こ、これは見事だな……」



 下手をすれば、気炎万丈を使ったときのオレより、火力が強いのではないだろうか?


 そんなはずないのだが、メデュの見せた火力は、オレにそう思わせるだけのものがあった。


「うふふ。魔神さまを驚かせることが出来て満足なのじゃ。これでワラワのことを信用してもらえるじゃろうか?」
 と、メデュはピンク色の舌をチロリと出して、その唇をしめらせていた。


「その思い、たしかに確認した。プロメテも異論はないな?」


 はい、たしかにこの者は信用に値するようです――とプロメテが言った。


「この激しいまでの魔神さまへの思いを見せるのは、すこし恥ずかしかったのじゃよ。これは私から魔神さまへの告白プロポーズなのじゃ」


「う、うむ」
 と、オレはうなって誤魔化すことにした。


 妻だとか告白プロポーズだとか、出会ったばかりの少女に言われても、戸惑うばかりである。


 大人の女性に言われるならまだしも、どう見てもプロメテと大差ない少女なのだ。それが余計にオレを戸惑わせる。


「馬車の歩みを妨げて申し訳ないのじゃ。魔神さまは捕えられているという態で、王都へと向かっているのじゃな」


「ああ」


「ならばその作戦にワラワも乗ることにしよう」


「乗る――とは?」


「ワラワは幸いにもセパタ王国から信用されておる。ワラワが付いていれば、魔神さまを捕えたという情報にも真実味が増すというものじゃ」


「協力してくれるなら助かる」


「それでは王都へと向かうとしよう」


 メデュはそう言うと、オレとプロメテの乗っていた馬車に乗りこんだ。


「その馬車に乗るのか?」


「むろん。同行させてくりゃれ。ダンナさま」
 と、メデュは甘えるような上目使いを送ってきた。


 不覚にもその表情にドキッとさせられてしまった。もしも人間だったら赤面していたかもしれない。顔のない姿で良かったと思える瞬間だった。


 オレとプロメテも馬車に戻った。
 メデュという少女をまじえて、馬車はふたたび王都へと向けて進みはじめた。

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