《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

18-3.チロ子爵

 ドン……ッ……!


 執務室のほうから大きな物音が聞こえてきた。本でも落としたのだろうか、とタルルはあまり深刻には考えなかった。


 執務室のトビラ。
 わずかに開いていた。


(あれ?)


 部屋を出るときに閉め忘れたのだろうか、と首をかしげた。


「伯爵さまー」
 と、そのトビラを開けて、タルルは中に入ろうとした。


「タルルくん。逃げなさい!」
 と、言うディーネの切迫した声が返ってきた。


 ディーネのほかに、黒服を着た男が3人いた。


 ふたりの男がディーネのことを、机に押さえつけており、ひとりは傍観しているというカッコウだった。


(敵!)


 運んできたハーブティを床に落とした。ハーブティが床にコボれた。鉄鋼樹脂性のコップは、石造りの床を、カランコロンと転がって行った。


 タルルは腰に佩していた剣を抜いた。


「タルルくん。よしなさい。この人たちは、ロードリ公爵の命令で来たようです」
 と、ディーネがいさめるようなことを言ってきた。


「ど、どういうことです?」


「どうやら国王陛下の命令で、私を捕えに来たようです。私はどうやら処刑されるようですね」


 ディーネはまるで他人事のように笑いながらそう言った。


「しょ、処刑……」


「都市シェークスは私に代わって、こちらのチロ子爵が引き継ぐそうです。タルルくんはこちらのチロ子爵の言うことを、よく聞くように」


 チロ子爵。
 そう呼ばれた人物のほうに、タルルは目をやった。赤茶けた髪に、赤茶けた大きな目、それに鷲鼻の男だった。


「な、なに言ってるんですか! オレは……」


 国に仕えるつもりなど、毛頭ない。
 ディーネに仕えているのだ。
 タルルのその気持ちなんて、ディーネは理解しているはずだ。


「タルルくん!」
 と、これまで聞いたことのない尖った声を、ディーネは発した。


 ディーネの青々とした目が、何かを訴えるようにタルルに向けられていた。闇のなかで、その目が輝いている。


「な、なんですか。伯爵さま」


「私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ」


「え?」


 ベラベラとうるさい――と、チロ子爵はそう言うと、剣の柄頭でディーネの後頭部を強く叩いた。
 ディーネは、昏倒してしまったようだ。


 昏倒するまぎわディーネの唇が動いていた。「頼みましたよ」そう言っているように見えた。


「あ……」
 ディーネが傷つけられたことによって、血がカッと頭にのぼった。
 思わず斬りかかってしまうところだったが、タルルはそれをこらえた。


 タルルが戦うことを、ディーネは望んではいなかったようだ。


「おい、そこのガキ」
 と、チロ子爵がそう言ってきた。


「あ、はい」


「いつまで剣を抜いている」


「すみません」
 と、タルルは怒気をかみ殺して、剣をおさめた。


「安心しろ。国王陛下はなにも都市を壊そうって考えではない。このディーネ伯爵を捕えることが出来れば、それで良いのだ」


「はい」


「今日からこの都市シェークスは、このオレ、チロ子爵がおさめることになった。すぐに都市にいる騎士全員に、そう伝えておけ」


「承知しました」
 と、タルルはうなずいた。


「もしディーネに肩入れするようならば、その者も処刑対象になる。そのことも伝えておけ」


「はっ」


(考えろ、オレ)
 と、タルルは自分に言い聞かせた。


 この場で戦うことを、ディーネは望んではいなかった。
 その理由はわからなくもない。


 タルルはたいして剣が上手くない。ディーネを取り返そうと戦っても、犬死していたことは間違いない。


 ディーネはそれを見越して、剣をおさめるように言ったのだろう。


 が――。
『私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ』


 その言葉の真意が、タルルにはわからなかった。


 気絶しているディーネが連れて行かれるのを、タルルは黙って見ていることしか出来なかった。


 固めたコブシに、爪が食い込む。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品