《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
18-3.チロ子爵
ドン……ッ……!
執務室のほうから大きな物音が聞こえてきた。本でも落としたのだろうか、とタルルはあまり深刻には考えなかった。
執務室のトビラ。
わずかに開いていた。
(あれ?)
部屋を出るときに閉め忘れたのだろうか、と首をかしげた。
「伯爵さまー」
と、そのトビラを開けて、タルルは中に入ろうとした。
「タルルくん。逃げなさい!」
と、言うディーネの切迫した声が返ってきた。
ディーネのほかに、黒服を着た男が3人いた。
ふたりの男がディーネのことを、机に押さえつけており、ひとりは傍観しているというカッコウだった。
(敵!)
運んできたハーブティを床に落とした。ハーブティが床にコボれた。鉄鋼樹脂性のコップは、石造りの床を、カランコロンと転がって行った。
タルルは腰に佩していた剣を抜いた。
「タルルくん。よしなさい。この人たちは、ロードリ公爵の命令で来たようです」
と、ディーネがいさめるようなことを言ってきた。
「ど、どういうことです?」
「どうやら国王陛下の命令で、私を捕えに来たようです。私はどうやら処刑されるようですね」
ディーネはまるで他人事のように笑いながらそう言った。
「しょ、処刑……」
「都市シェークスは私に代わって、こちらのチロ子爵が引き継ぐそうです。タルルくんはこちらのチロ子爵の言うことを、よく聞くように」
チロ子爵。
そう呼ばれた人物のほうに、タルルは目をやった。赤茶けた髪に、赤茶けた大きな目、それに鷲鼻の男だった。
「な、なに言ってるんですか! オレは……」
国に仕えるつもりなど、毛頭ない。
ディーネに仕えているのだ。
タルルのその気持ちなんて、ディーネは理解しているはずだ。
「タルルくん!」
と、これまで聞いたことのない尖った声を、ディーネは発した。
ディーネの青々とした目が、何かを訴えるようにタルルに向けられていた。闇のなかで、その目が輝いている。
「な、なんですか。伯爵さま」
「私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ」
「え?」
ベラベラとうるさい――と、チロ子爵はそう言うと、剣の柄頭でディーネの後頭部を強く叩いた。
ディーネは、昏倒してしまったようだ。
昏倒するまぎわディーネの唇が動いていた。「頼みましたよ」そう言っているように見えた。
「あ……」
ディーネが傷つけられたことによって、血がカッと頭にのぼった。
思わず斬りかかってしまうところだったが、タルルはそれをこらえた。
タルルが戦うことを、ディーネは望んではいなかったようだ。
「おい、そこのガキ」
と、チロ子爵がそう言ってきた。
「あ、はい」
「いつまで剣を抜いている」
「すみません」
と、タルルは怒気をかみ殺して、剣をおさめた。
「安心しろ。国王陛下はなにも都市を壊そうって考えではない。このディーネ伯爵を捕えることが出来れば、それで良いのだ」
「はい」
「今日からこの都市シェークスは、このオレ、チロ子爵がおさめることになった。すぐに都市にいる騎士全員に、そう伝えておけ」
「承知しました」
と、タルルはうなずいた。
「もしディーネに肩入れするようならば、その者も処刑対象になる。そのことも伝えておけ」
「はっ」
(考えろ、オレ)
と、タルルは自分に言い聞かせた。
この場で戦うことを、ディーネは望んではいなかった。
その理由はわからなくもない。
タルルはたいして剣が上手くない。ディーネを取り返そうと戦っても、犬死していたことは間違いない。
ディーネはそれを見越して、剣をおさめるように言ったのだろう。
が――。
『私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ』
その言葉の真意が、タルルにはわからなかった。
気絶しているディーネが連れて行かれるのを、タルルは黙って見ていることしか出来なかった。
固めたコブシに、爪が食い込む。
執務室のほうから大きな物音が聞こえてきた。本でも落としたのだろうか、とタルルはあまり深刻には考えなかった。
執務室のトビラ。
わずかに開いていた。
(あれ?)
部屋を出るときに閉め忘れたのだろうか、と首をかしげた。
「伯爵さまー」
と、そのトビラを開けて、タルルは中に入ろうとした。
「タルルくん。逃げなさい!」
と、言うディーネの切迫した声が返ってきた。
ディーネのほかに、黒服を着た男が3人いた。
ふたりの男がディーネのことを、机に押さえつけており、ひとりは傍観しているというカッコウだった。
(敵!)
運んできたハーブティを床に落とした。ハーブティが床にコボれた。鉄鋼樹脂性のコップは、石造りの床を、カランコロンと転がって行った。
タルルは腰に佩していた剣を抜いた。
「タルルくん。よしなさい。この人たちは、ロードリ公爵の命令で来たようです」
と、ディーネがいさめるようなことを言ってきた。
「ど、どういうことです?」
「どうやら国王陛下の命令で、私を捕えに来たようです。私はどうやら処刑されるようですね」
ディーネはまるで他人事のように笑いながらそう言った。
「しょ、処刑……」
「都市シェークスは私に代わって、こちらのチロ子爵が引き継ぐそうです。タルルくんはこちらのチロ子爵の言うことを、よく聞くように」
チロ子爵。
そう呼ばれた人物のほうに、タルルは目をやった。赤茶けた髪に、赤茶けた大きな目、それに鷲鼻の男だった。
「な、なに言ってるんですか! オレは……」
国に仕えるつもりなど、毛頭ない。
ディーネに仕えているのだ。
タルルのその気持ちなんて、ディーネは理解しているはずだ。
「タルルくん!」
と、これまで聞いたことのない尖った声を、ディーネは発した。
ディーネの青々とした目が、何かを訴えるようにタルルに向けられていた。闇のなかで、その目が輝いている。
「な、なんですか。伯爵さま」
「私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ」
「え?」
ベラベラとうるさい――と、チロ子爵はそう言うと、剣の柄頭でディーネの後頭部を強く叩いた。
ディーネは、昏倒してしまったようだ。
昏倒するまぎわディーネの唇が動いていた。「頼みましたよ」そう言っているように見えた。
「あ……」
ディーネが傷つけられたことによって、血がカッと頭にのぼった。
思わず斬りかかってしまうところだったが、タルルはそれをこらえた。
タルルが戦うことを、ディーネは望んではいなかったようだ。
「おい、そこのガキ」
と、チロ子爵がそう言ってきた。
「あ、はい」
「いつまで剣を抜いている」
「すみません」
と、タルルは怒気をかみ殺して、剣をおさめた。
「安心しろ。国王陛下はなにも都市を壊そうって考えではない。このディーネ伯爵を捕えることが出来れば、それで良いのだ」
「はい」
「今日からこの都市シェークスは、このオレ、チロ子爵がおさめることになった。すぐに都市にいる騎士全員に、そう伝えておけ」
「承知しました」
と、タルルはうなずいた。
「もしディーネに肩入れするようならば、その者も処刑対象になる。そのことも伝えておけ」
「はっ」
(考えろ、オレ)
と、タルルは自分に言い聞かせた。
この場で戦うことを、ディーネは望んではいなかった。
その理由はわからなくもない。
タルルはたいして剣が上手くない。ディーネを取り返そうと戦っても、犬死していたことは間違いない。
ディーネはそれを見越して、剣をおさめるように言ったのだろう。
が――。
『私がどうして、君を補佐官として置いていたのか。君ならよくわかっているはずですよ』
その言葉の真意が、タルルにはわからなかった。
気絶しているディーネが連れて行かれるのを、タルルは黙って見ていることしか出来なかった。
固めたコブシに、爪が食い込む。
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