《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

18-2.私に何かあったときは……

(役に立ててるのかなぁ)


 これはタルルがディーネの補佐官として、常々思っていることだ。武勇も知略も、べつに突出したものは持ち合わせていない。


 なのにどうして――。
(オレが、伯爵さまの補佐官なんだろ?)
 と、思う。


 ディーネはタルルの胸裏など露知らず、
「ズズズ」
 と、タルルの淹れてきたハーブティをすすっていた。


「あ、あの……」


「どうしましたか? タルルくん。寂しそうな顔をして?」


「え? そんな顔をしてましたか?」
 と、タルルは自分の顔をナでてみた。


「冗談ですよ。考えてみれば、タルルくんは、いつもそんな顔をしていたような気がします」


「それって、オレのことバカにしてませんか?」


「いえいえ。バカになんてしてませんよ。タルルくんは、私にとっては大切な補佐官なんですからね」


「はぁ」


 オレって補佐官として役立ててるんですか――と尋ねたかったのだが、遠慮や含羞もあって、口に出すことは出来なかった。


 ディーネは執務室の席から立ち上がると、部屋の窓を開けた。


 寒い空気が入り込んできた。机上で揺れていた魔神の火が激しく揺れた。


 窓を開けたは良いが、ヤッパリ寒かったのか、またすぐに窓を閉めていた。


「しかし人材が不足しているんですよね。レイアさんや、エイブラハングさん。それにプロメテちゃんに、魔神さま。優秀な人材は多いですが、世界を相手に戦うには人手不足の感が否めません。諜報部隊を任せられるような人材が欲しい」


「レイアさんとか、適任じゃないですかね?」


 もともと盗賊だと聞いている。
 それが由来して、レイアは剣にしても部隊の統率にしても、一風変わっている。


 小隊をまとめるチカラは、タルルが知っているどんな騎士よりも、優れたものを有しているように思う。


「オーバーワークですよ。レイアさんには、《紅蓮教》の騎士団をまとめてもらうつもりです」


《紅蓮教》に宗教騎士団を設立させようとディーネが画策しているのは、タルルも知っていた。


「諜報部隊ってけっこう特殊ですもんね」


「ほかに余っている人材は……」


 ディーネはジッと、タルルにその青い目を向けてきた。


「も、もしかしてオレですか? オ、オレはムリですよ。頭も良くないですし、運動だってたいして出来ませんし」


「ですよね」
 と、ディーネは納得してしまった。


 そこはお世辞でも良いから否定して欲しかったな、とちょっとすねた思いを抱いた。


「あの男を、諜報隊長にしようかとも考えているんですがね」
 と、ディーネは思案気に首をかしげながら言う。


「あの男?」


「ほら。先日の戦いで、捕縛したゲイル・ガーディスとかいう男ですよ。あの男の間諜の使い方には目を見張る者があります」


「えぇっ、信用できるんですか?」


 ソマ帝国に仕えていた者である。
 たしかに間諜の使い方は、優秀なんだろう。


 ドワーフの里にある《製鉄工場アイアン・ファクチュア》への侵入口を見つけ出した経歴もある。


 が――。


《光神教》の修道士でもあったと聞いている。どう考えても、敵にしかならない男だ。


 自分よりも、あんな男のほうが頼りになるのかと思うと、タルルはすこし悔しい思いがあった。


「あの男には独特な信念があるようでしてね。面白い男だとは思っているんですが、信用できるかどうかはわかりません。すこし見定めてみる必要があります」


「見定めるって言っても、どうやって見定めるんです?」


「タルルくん」
 ディーネは机に両肘をついて、前かがみになった。


「なんです?」


「私に、もしものことがあったら、ゲイルを頼ってみてください。ゲイルが信用できるかどうかは、タルルくんが見極めてください」


 ディーネの語調が、いつもよりも深刻なので、タルルは冷や汗をおぼえた。


「ディーネさんに、もしものことなんて、あるわけないでしょう」


「そうとも限りませんよ。私は敵が多いですからね」


「怖いこと言わないでくださいよ」


「とにかく、ゲイルを見定める役目は、タルルくんに任せてみようと思います。あの男は監獄棟の502番に入れられていますからね」


「あんな男を頼ることはないと思いますけど……」


「とりあえず現状は、ドワーフの里と都市シェークスをつなぐ行路が出来たことだけでも、良しとしましょうか」


「充分すごいことだと思います」


 ドワーフの里から、多くの鉱山資源が送られてくる。その物資運搬のために、ディーネはひとつ行路を造り上げたのだ。
 いまのところ潤滑に、その行路は機能しているようだった。


「ふぅ」
 と、ディーネは深々とイスに腰掛けていた。


「あのー。あんまりムリしないでくださいね」
 と、タルルはそう気遣った。


 ここ数日、ディーネはずいぶんと働いている。


 ドワーフの里とのヤリトリに関することもそうだし、修道院の増設の指揮も執っていた。


 都市内にある各組合との交渉。さらには、セパタ王国貴族たちとも、何か交渉をヒンパンに行っているようだった。


(いつ寝てるんだろ?)
 と、タルルが心配になるぐらいだ。


 仕事がないときはいつも、何かしらの本を読んでいるようだった。それだって睡眠時間を削っての読書である。


 ディーネが忙しいからこそ、タルルは無能な自分が役立てているのか不安になるのだった。


「私のことを心配してくれているのですか?」


「そりゃ心配しますよ。ここ数日、ずっと寝てないんじゃないですか?」


「ここが踏ん張りどきなんですよ」
 と、ディーネは、ハーブティをいっきに飲み干した。


「あ、おかわり淹れてきますよ」


「ふふっ。どうもありがとう。タルルくん。君はよく気が利きます」
 と、ディーネは空いたコップを、タルルに差し出してきた。


 一度、執務室から出て、タルルは御茶を入れ直した。
 そしてもう一度、執務室に戻ろうとしたときだった。

 ドン……ッ……!

 執務室から何か大きな物音がした。

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