《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
18-2.私に何かあったときは……
(役に立ててるのかなぁ)
これはタルルがディーネの補佐官として、常々思っていることだ。武勇も知略も、べつに突出したものは持ち合わせていない。
なのにどうして――。
(オレが、伯爵さまの補佐官なんだろ?)
と、思う。
ディーネはタルルの胸裏など露知らず、
「ズズズ」
と、タルルの淹れてきたハーブティをすすっていた。
「あ、あの……」
「どうしましたか? タルルくん。寂しそうな顔をして?」
「え? そんな顔をしてましたか?」
と、タルルは自分の顔をナでてみた。
「冗談ですよ。考えてみれば、タルルくんは、いつもそんな顔をしていたような気がします」
「それって、オレのことバカにしてませんか?」
「いえいえ。バカになんてしてませんよ。タルルくんは、私にとっては大切な補佐官なんですからね」
「はぁ」
オレって補佐官として役立ててるんですか――と尋ねたかったのだが、遠慮や含羞もあって、口に出すことは出来なかった。
ディーネは執務室の席から立ち上がると、部屋の窓を開けた。
寒い空気が入り込んできた。机上で揺れていた魔神の火が激しく揺れた。
窓を開けたは良いが、ヤッパリ寒かったのか、またすぐに窓を閉めていた。
「しかし人材が不足しているんですよね。レイアさんや、エイブラハングさん。それにプロメテちゃんに、魔神さま。優秀な人材は多いですが、世界を相手に戦うには人手不足の感が否めません。諜報部隊を任せられるような人材が欲しい」
「レイアさんとか、適任じゃないですかね?」
もともと盗賊だと聞いている。
それが由来して、レイアは剣にしても部隊の統率にしても、一風変わっている。
小隊をまとめるチカラは、タルルが知っているどんな騎士よりも、優れたものを有しているように思う。
「オーバーワークですよ。レイアさんには、《紅蓮教》の騎士団をまとめてもらうつもりです」
《紅蓮教》に宗教騎士団を設立させようとディーネが画策しているのは、タルルも知っていた。
「諜報部隊ってけっこう特殊ですもんね」
「ほかに余っている人材は……」
ディーネはジッと、タルルにその青い目を向けてきた。
「も、もしかしてオレですか? オ、オレはムリですよ。頭も良くないですし、運動だってたいして出来ませんし」
「ですよね」
と、ディーネは納得してしまった。
そこはお世辞でも良いから否定して欲しかったな、とちょっとすねた思いを抱いた。
「あの男を、諜報隊長にしようかとも考えているんですがね」
と、ディーネは思案気に首をかしげながら言う。
「あの男?」
「ほら。先日の戦いで、捕縛したゲイル・ガーディスとかいう男ですよ。あの男の間諜の使い方には目を見張る者があります」
「えぇっ、信用できるんですか?」
ソマ帝国に仕えていた者である。
たしかに間諜の使い方は、優秀なんだろう。
ドワーフの里にある《製鉄工場》への侵入口を見つけ出した経歴もある。
が――。
《光神教》の修道士でもあったと聞いている。どう考えても、敵にしかならない男だ。
自分よりも、あんな男のほうが頼りになるのかと思うと、タルルはすこし悔しい思いがあった。
「あの男には独特な信念があるようでしてね。面白い男だとは思っているんですが、信用できるかどうかはわかりません。すこし見定めてみる必要があります」
「見定めるって言っても、どうやって見定めるんです?」
「タルルくん」
ディーネは机に両肘をついて、前かがみになった。
「なんです?」
「私に、もしものことがあったら、ゲイルを頼ってみてください。ゲイルが信用できるかどうかは、タルルくんが見極めてください」
ディーネの語調が、いつもよりも深刻なので、タルルは冷や汗をおぼえた。
「ディーネさんに、もしものことなんて、あるわけないでしょう」
「そうとも限りませんよ。私は敵が多いですからね」
「怖いこと言わないでくださいよ」
「とにかく、ゲイルを見定める役目は、タルルくんに任せてみようと思います。あの男は監獄棟の502番に入れられていますからね」
「あんな男を頼ることはないと思いますけど……」
「とりあえず現状は、ドワーフの里と都市シェークスをつなぐ行路が出来たことだけでも、良しとしましょうか」
「充分すごいことだと思います」
ドワーフの里から、多くの鉱山資源が送られてくる。その物資運搬のために、ディーネはひとつ行路を造り上げたのだ。
いまのところ潤滑に、その行路は機能しているようだった。
「ふぅ」
と、ディーネは深々とイスに腰掛けていた。
「あのー。あんまりムリしないでくださいね」
と、タルルはそう気遣った。
ここ数日、ディーネはずいぶんと働いている。
ドワーフの里とのヤリトリに関することもそうだし、修道院の増設の指揮も執っていた。
都市内にある各組合との交渉。さらには、セパタ王国貴族たちとも、何か交渉をヒンパンに行っているようだった。
(いつ寝てるんだろ?)
と、タルルが心配になるぐらいだ。
仕事がないときはいつも、何かしらの本を読んでいるようだった。それだって睡眠時間を削っての読書である。
ディーネが忙しいからこそ、タルルは無能な自分が役立てているのか不安になるのだった。
「私のことを心配してくれているのですか?」
「そりゃ心配しますよ。ここ数日、ずっと寝てないんじゃないですか?」
「ここが踏ん張りどきなんですよ」
と、ディーネは、ハーブティをいっきに飲み干した。
「あ、おかわり淹れてきますよ」
「ふふっ。どうもありがとう。タルルくん。君はよく気が利きます」
と、ディーネは空いたコップを、タルルに差し出してきた。
一度、執務室から出て、タルルは御茶を入れ直した。
そしてもう一度、執務室に戻ろうとしたときだった。
ドン……ッ……!
執務室から何か大きな物音がした。
これはタルルがディーネの補佐官として、常々思っていることだ。武勇も知略も、べつに突出したものは持ち合わせていない。
なのにどうして――。
(オレが、伯爵さまの補佐官なんだろ?)
と、思う。
ディーネはタルルの胸裏など露知らず、
「ズズズ」
と、タルルの淹れてきたハーブティをすすっていた。
「あ、あの……」
「どうしましたか? タルルくん。寂しそうな顔をして?」
「え? そんな顔をしてましたか?」
と、タルルは自分の顔をナでてみた。
「冗談ですよ。考えてみれば、タルルくんは、いつもそんな顔をしていたような気がします」
「それって、オレのことバカにしてませんか?」
「いえいえ。バカになんてしてませんよ。タルルくんは、私にとっては大切な補佐官なんですからね」
「はぁ」
オレって補佐官として役立ててるんですか――と尋ねたかったのだが、遠慮や含羞もあって、口に出すことは出来なかった。
ディーネは執務室の席から立ち上がると、部屋の窓を開けた。
寒い空気が入り込んできた。机上で揺れていた魔神の火が激しく揺れた。
窓を開けたは良いが、ヤッパリ寒かったのか、またすぐに窓を閉めていた。
「しかし人材が不足しているんですよね。レイアさんや、エイブラハングさん。それにプロメテちゃんに、魔神さま。優秀な人材は多いですが、世界を相手に戦うには人手不足の感が否めません。諜報部隊を任せられるような人材が欲しい」
「レイアさんとか、適任じゃないですかね?」
もともと盗賊だと聞いている。
それが由来して、レイアは剣にしても部隊の統率にしても、一風変わっている。
小隊をまとめるチカラは、タルルが知っているどんな騎士よりも、優れたものを有しているように思う。
「オーバーワークですよ。レイアさんには、《紅蓮教》の騎士団をまとめてもらうつもりです」
《紅蓮教》に宗教騎士団を設立させようとディーネが画策しているのは、タルルも知っていた。
「諜報部隊ってけっこう特殊ですもんね」
「ほかに余っている人材は……」
ディーネはジッと、タルルにその青い目を向けてきた。
「も、もしかしてオレですか? オ、オレはムリですよ。頭も良くないですし、運動だってたいして出来ませんし」
「ですよね」
と、ディーネは納得してしまった。
そこはお世辞でも良いから否定して欲しかったな、とちょっとすねた思いを抱いた。
「あの男を、諜報隊長にしようかとも考えているんですがね」
と、ディーネは思案気に首をかしげながら言う。
「あの男?」
「ほら。先日の戦いで、捕縛したゲイル・ガーディスとかいう男ですよ。あの男の間諜の使い方には目を見張る者があります」
「えぇっ、信用できるんですか?」
ソマ帝国に仕えていた者である。
たしかに間諜の使い方は、優秀なんだろう。
ドワーフの里にある《製鉄工場》への侵入口を見つけ出した経歴もある。
が――。
《光神教》の修道士でもあったと聞いている。どう考えても、敵にしかならない男だ。
自分よりも、あんな男のほうが頼りになるのかと思うと、タルルはすこし悔しい思いがあった。
「あの男には独特な信念があるようでしてね。面白い男だとは思っているんですが、信用できるかどうかはわかりません。すこし見定めてみる必要があります」
「見定めるって言っても、どうやって見定めるんです?」
「タルルくん」
ディーネは机に両肘をついて、前かがみになった。
「なんです?」
「私に、もしものことがあったら、ゲイルを頼ってみてください。ゲイルが信用できるかどうかは、タルルくんが見極めてください」
ディーネの語調が、いつもよりも深刻なので、タルルは冷や汗をおぼえた。
「ディーネさんに、もしものことなんて、あるわけないでしょう」
「そうとも限りませんよ。私は敵が多いですからね」
「怖いこと言わないでくださいよ」
「とにかく、ゲイルを見定める役目は、タルルくんに任せてみようと思います。あの男は監獄棟の502番に入れられていますからね」
「あんな男を頼ることはないと思いますけど……」
「とりあえず現状は、ドワーフの里と都市シェークスをつなぐ行路が出来たことだけでも、良しとしましょうか」
「充分すごいことだと思います」
ドワーフの里から、多くの鉱山資源が送られてくる。その物資運搬のために、ディーネはひとつ行路を造り上げたのだ。
いまのところ潤滑に、その行路は機能しているようだった。
「ふぅ」
と、ディーネは深々とイスに腰掛けていた。
「あのー。あんまりムリしないでくださいね」
と、タルルはそう気遣った。
ここ数日、ディーネはずいぶんと働いている。
ドワーフの里とのヤリトリに関することもそうだし、修道院の増設の指揮も執っていた。
都市内にある各組合との交渉。さらには、セパタ王国貴族たちとも、何か交渉をヒンパンに行っているようだった。
(いつ寝てるんだろ?)
と、タルルが心配になるぐらいだ。
仕事がないときはいつも、何かしらの本を読んでいるようだった。それだって睡眠時間を削っての読書である。
ディーネが忙しいからこそ、タルルは無能な自分が役立てているのか不安になるのだった。
「私のことを心配してくれているのですか?」
「そりゃ心配しますよ。ここ数日、ずっと寝てないんじゃないですか?」
「ここが踏ん張りどきなんですよ」
と、ディーネは、ハーブティをいっきに飲み干した。
「あ、おかわり淹れてきますよ」
「ふふっ。どうもありがとう。タルルくん。君はよく気が利きます」
と、ディーネは空いたコップを、タルルに差し出してきた。
一度、執務室から出て、タルルは御茶を入れ直した。
そしてもう一度、執務室に戻ろうとしたときだった。
ドン……ッ……!
執務室から何か大きな物音がした。
「《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
3万
-
4.9万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
164
-
253
-
-
1,301
-
8,782
-
-
2,534
-
6,825
-
-
614
-
221
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
614
-
1,144
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
86
-
288
-
-
450
-
727
-
-
14
-
8
-
-
23
-
3
-
-
62
-
89
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
42
-
14
-
-
89
-
139
-
-
3,548
-
5,228
-
-
218
-
165
-
-
408
-
439
-
-
1,391
-
1,159
-
-
104
-
158
-
-
62
-
89
-
-
42
-
52
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
1,658
-
2,771
-
-
183
-
157
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント