《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
17-2.プロメテの日課
「よいしょ、うんしょ」
と、プロメテはネグリジェを脱ぎ捨てた。
白くて儚げなカラダがあらわになった。
首は細く、乳房や尻の肉付きも悪い。
そしてカラダのところどころには、古傷があった。迫害されていた当時に負って、いまだ消えぬものも多くあるようだ。
その傷が、プロメテが生きてきた道の険しさを物語っているようだった。
でも。
キレイになった。
そう思う。
肉付きは悪くても、出会ったときのように病的というわけでもない。手足には女として萌芽する丸みを、たしかに感じさせられた。
大司教さまと呼ばれるようになって、チャントした食事をとっているおかげだろう。
「背が大きくなった気がする」
と、プロメテは言っていたが、そのカラダが健全なほうへと進んでいる証拠だろう。
すこし安心した。
「魔神さま? どうしたのです。そんなに見つめて」
「あ、いやッ。悪い。決して卑らしいつもりで見ていたわけじゃないんだ。ただ、少しは健康的になって良かったと思ってな」
「魔神さまのおかげなのです。私は魔神さまのおかげで、自分の生きる場所を見つけることが出来たのですよ」
「いいや。それはプロメテ自身が勝ち取った場所だよ」
「謙遜しなくても良いのですよ。私なんて……」
と、プロメテからすこし自虐的な雰囲気を感じ取った。
「どうした?」
と、尋ねたのだが、
「なんでもないのですよ」
いなされてしまった。
よいしょ、とプロメテは緋色の法衣に首を通した。
「お待たせしました。準備ができたのですよ。それでは魔神さま。鐘楼に火を灯しに行くのです。今日もお願いするのでありますよ」
「ああ」
部屋を出る。
廊下がつづいている。
建物はおもに石造りでできている。
館内には修道士たちも寝泊りしている。もちろん出会うこともあって、修道士たちはプロメテのことを見ると「おはようございます。大司教さま」と会釈をした。プロメテは「おはようございます」とペコリと頭を下げて応じる。
プロメテは館を出ると、真っ先に鐘楼へと向かった。
鐘楼というと、ふつうは鐘を鳴らす設備だ。
が、ここの鐘楼はすこし違っている。
聖火台のような大きな器が設置されていた。そこに火を灯すのだ。
「7時になったのです」
プロメテは懐中時計で時間を確認すると、オレの炎を鐘楼の台に燃えうつした。
そうすることによって、7時の報せとともに、都市を照らす光となる。さすがに都市の全域にまで、オレの炎は行き渡らないが、こうして明かりがあることによって、安心する人もいる。クロイ避けにもなる。
こうして毎朝、鐘楼に火を灯すことがプロメテの日課になっている。
オレの炎は、オレから離れてもおおよそ6時間は燃える。この鐘楼の炎も昼過ぎぐらいまで燃えることになる。
そしてプロメテが次に向かうのは、礼拝堂だ。
礼拝堂。
すでに多くの修道士たちが、長椅子に腰かけて待っている。座りきれない者たちは、立っている。
みんな緋色の法衣をまとっているものだから、礼拝堂が火の海になったかのようにも見える。
その修道士のなかにはレイアもいる。ヴァルもいる。エイブラハングもいる。その他大勢がいる。
その他大勢と言っても、ただの人間ではない。エルフがいれば蜥蜴族もいる。頭からネコ耳を生やしている獣人族と呼ばれる者もいた。
プロメテがオレをカンテラから出して、礼拝堂の上座にある石台に設置する。
「魔神さまに感謝と祈祷を」
と、プロメテが言った。
プロメテは、指と指をからませて、オレにたいして祈りをささげる。それにならって、修道士たちも、祈祷をはじめる。
粛然とした時間だった。
修道士たちの息使い、雨の降る音がひびく。
まさか……こんなことになるとはな……と、オレは修道士たちを見回した。
こうなることを予期していなかったわけではない。いずれは信仰の対象になるだろうとは思っていた。が、これが現実のこととは思えないのだ。
100人以上の者たちがいる。みんなが一様に、オレにたいして祈りをささげているのだ。
各々が何を思っているのか、その胸裏までは見透かせない。もしかすると私利私欲にまみれているかもしれないし、素直にオレへの感謝を想ってくれているのかもしれない。
なににせよ。
この修道士たちの気持ちに――。
応えなくてはならない。
プレッシャーだった。
胃が、痛くなる。
胃なんてない。
あくまで感覚だ。
オレは前世の記憶が薄い。地球で生きてきたことや、知識は有しているのだが、何をしていたのかとかは覚えていない。
本来はもしかすると、神として立つだけの器ではなかったのかもしれない。名もない1人の人間でしかなかったのかもしれない。
しかしそれでも――。
オレはプロメテとともに、歩みはじめたのだ。臆するわけにはいかない。
それにこのプレッシャーはきっとオレだけのものではない。プロメテも抱えているはずだ。
「それでは魔神さま。御恵みを」
「うむ」
修道士たちは小皿を持って、オレの前に並ぶ。
オレはその小皿に、みずからの炎を分け与えて行く。
炎を分け与えられた者たちは、心底うれしそうな顔をする。愛おしく炎を見つめる者もいれば、なかには涙を流す者もいる。火というものが、それだけ貴重なのだろう。
そして修道士たちは、礼拝堂から散って行く。
と、プロメテはネグリジェを脱ぎ捨てた。
白くて儚げなカラダがあらわになった。
首は細く、乳房や尻の肉付きも悪い。
そしてカラダのところどころには、古傷があった。迫害されていた当時に負って、いまだ消えぬものも多くあるようだ。
その傷が、プロメテが生きてきた道の険しさを物語っているようだった。
でも。
キレイになった。
そう思う。
肉付きは悪くても、出会ったときのように病的というわけでもない。手足には女として萌芽する丸みを、たしかに感じさせられた。
大司教さまと呼ばれるようになって、チャントした食事をとっているおかげだろう。
「背が大きくなった気がする」
と、プロメテは言っていたが、そのカラダが健全なほうへと進んでいる証拠だろう。
すこし安心した。
「魔神さま? どうしたのです。そんなに見つめて」
「あ、いやッ。悪い。決して卑らしいつもりで見ていたわけじゃないんだ。ただ、少しは健康的になって良かったと思ってな」
「魔神さまのおかげなのです。私は魔神さまのおかげで、自分の生きる場所を見つけることが出来たのですよ」
「いいや。それはプロメテ自身が勝ち取った場所だよ」
「謙遜しなくても良いのですよ。私なんて……」
と、プロメテからすこし自虐的な雰囲気を感じ取った。
「どうした?」
と、尋ねたのだが、
「なんでもないのですよ」
いなされてしまった。
よいしょ、とプロメテは緋色の法衣に首を通した。
「お待たせしました。準備ができたのですよ。それでは魔神さま。鐘楼に火を灯しに行くのです。今日もお願いするのでありますよ」
「ああ」
部屋を出る。
廊下がつづいている。
建物はおもに石造りでできている。
館内には修道士たちも寝泊りしている。もちろん出会うこともあって、修道士たちはプロメテのことを見ると「おはようございます。大司教さま」と会釈をした。プロメテは「おはようございます」とペコリと頭を下げて応じる。
プロメテは館を出ると、真っ先に鐘楼へと向かった。
鐘楼というと、ふつうは鐘を鳴らす設備だ。
が、ここの鐘楼はすこし違っている。
聖火台のような大きな器が設置されていた。そこに火を灯すのだ。
「7時になったのです」
プロメテは懐中時計で時間を確認すると、オレの炎を鐘楼の台に燃えうつした。
そうすることによって、7時の報せとともに、都市を照らす光となる。さすがに都市の全域にまで、オレの炎は行き渡らないが、こうして明かりがあることによって、安心する人もいる。クロイ避けにもなる。
こうして毎朝、鐘楼に火を灯すことがプロメテの日課になっている。
オレの炎は、オレから離れてもおおよそ6時間は燃える。この鐘楼の炎も昼過ぎぐらいまで燃えることになる。
そしてプロメテが次に向かうのは、礼拝堂だ。
礼拝堂。
すでに多くの修道士たちが、長椅子に腰かけて待っている。座りきれない者たちは、立っている。
みんな緋色の法衣をまとっているものだから、礼拝堂が火の海になったかのようにも見える。
その修道士のなかにはレイアもいる。ヴァルもいる。エイブラハングもいる。その他大勢がいる。
その他大勢と言っても、ただの人間ではない。エルフがいれば蜥蜴族もいる。頭からネコ耳を生やしている獣人族と呼ばれる者もいた。
プロメテがオレをカンテラから出して、礼拝堂の上座にある石台に設置する。
「魔神さまに感謝と祈祷を」
と、プロメテが言った。
プロメテは、指と指をからませて、オレにたいして祈りをささげる。それにならって、修道士たちも、祈祷をはじめる。
粛然とした時間だった。
修道士たちの息使い、雨の降る音がひびく。
まさか……こんなことになるとはな……と、オレは修道士たちを見回した。
こうなることを予期していなかったわけではない。いずれは信仰の対象になるだろうとは思っていた。が、これが現実のこととは思えないのだ。
100人以上の者たちがいる。みんなが一様に、オレにたいして祈りをささげているのだ。
各々が何を思っているのか、その胸裏までは見透かせない。もしかすると私利私欲にまみれているかもしれないし、素直にオレへの感謝を想ってくれているのかもしれない。
なににせよ。
この修道士たちの気持ちに――。
応えなくてはならない。
プレッシャーだった。
胃が、痛くなる。
胃なんてない。
あくまで感覚だ。
オレは前世の記憶が薄い。地球で生きてきたことや、知識は有しているのだが、何をしていたのかとかは覚えていない。
本来はもしかすると、神として立つだけの器ではなかったのかもしれない。名もない1人の人間でしかなかったのかもしれない。
しかしそれでも――。
オレはプロメテとともに、歩みはじめたのだ。臆するわけにはいかない。
それにこのプレッシャーはきっとオレだけのものではない。プロメテも抱えているはずだ。
「それでは魔神さま。御恵みを」
「うむ」
修道士たちは小皿を持って、オレの前に並ぶ。
オレはその小皿に、みずからの炎を分け与えて行く。
炎を分け与えられた者たちは、心底うれしそうな顔をする。愛おしく炎を見つめる者もいれば、なかには涙を流す者もいる。火というものが、それだけ貴重なのだろう。
そして修道士たちは、礼拝堂から散って行く。
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