《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

17-1.教会が大きくなりました

「うぅーん。おはようございます。魔神さま」


 ベッド。しばらく、もぞもぞと動いていたが、おもむろにプロメテは上体を起こした。


 両手を突き上げて伸びをしていた。


 白いネグリジェをまとった小さなカラダが、きゅぅと柔らかそうに伸びていた。


「おはよう」
 と、オレは、プロメテのその無防備な姿に、すこし淫靡な香りを感じて、目をそらした。


 修道院の寝室棟である。


 かつては教会の司祭室で寝起きしていた。いまやこの修道院には、礼拝堂のみならず、チャント寝泊りできる寝室棟が建設されている。


 寝室棟――と言うと、どうも質素な感があるが、名にそぐわず立派な建物だ。


 礼拝堂とは別棟の、立派な館になっている。白い壁面に、赤い屋根の建物だ。プロメテはそこの3階で寝泊りしていた。


 部屋のなかは、おおよそ20畳ほどの広さがあった。この世界には、畳というものがないから、場違いな例えかもしれない。ベッド20台分とでも言うべきか。まぁ、とにかく狭くはない。


 その一角には石台が置かれており、オレはそこでくつろいでいる。プロメテの眠るベッドがある、すぐとなりだ。


 プロメテは、寝癖で乱れた白銀の髪にクシを通してととのえていた。


「その長い髪は、なにかコダワリがあるのか?」 と、オレはそう尋ねた。


「長いのは、お嫌いなのです?」


「いや。そういうわけじゃないが、その白銀の髪は魔術師の証なんだろ。短くしたほうが、隠したりするのに便利じゃないか――と思って」


「この髪は、私の母の髪に似ているのです。それで私はあまり切りたくはないのです」


「思い入れがあるのか」


「はい。でも、魔神さまがお厭ならば、短くするのですよ?」


「いやいや。べつにそういう意味で尋ねたんじゃないよ。ただの興味本位だ」


「どうなのです?」


 プロメテは物欲しげに頭を左右に振ってみせた。白銀の髪が左右に揺れた。


「キレイだ、と思う」


 女性にたいして率直にホめる言葉をあたえるのは、すこし含羞があった。物欲しそうなプロメテに、上手くその言葉を引き出された形だった。


「えへへ」
 と、プロメテは目の下を赤くすると、照れ臭そうにうつむいていた。


「このベッド、とってもフカフカなのですよ。私にはモッタイナイぐらいなのです」
 と、気まずい空気を払拭するかのように、プロメテは話題を転じた。


「ディーネがガンバって、見繕ってくれたみたいだからな」


 ドワーフたちとの交流のみならず、ディーネは精力的に各種族の知恵をかき集めていた。カビにくい木材なんかをエルフから仕入れているようだ。


 プロメテが今、腰かけているベッドもまた、カビにくい木材を加工して作られたものだった。


「おおっ」
 と、プロメテが急に驚いたような声をあげた。


「どうした。ゴキブリでも出たか」


「いえ。見てください。どうでしょうか」
 と、プロメテはピョンとベッドから跳ね起きて、オレの前に立って見せた。


 いまだネグリジェ姿だし、髪も整え切れていない。プロメテのことを見分してみたのだが、どこに着目して欲しいのか良くわからない。


「どう――とは?」


「チョット背が伸びたとは思いませんか。いかがでしょう」


「う……うん? どうだろ」


 そう言われても、オレは基本的にはプロメテを見上げている。
 よくわからない。


「チョット伸びたと思うのですよ。昨日の夜、カラダがめきめきと大きくなる夢を見たのです」
 と、プロメテは自身の頭部を手でナでるような仕草をしていた。


「レイアか誰かと並んで、比べてみれば、良くわかるんじゃないか?」


「そうでありますね。あとで背比べをしてみるのです」


 パッと見てわからないのであれば、たいして伸びていないんじゃないだろうか。でもまぁ、ずっといっしょにいるオレには、わかりにくいことかもしれない。


「背が小さいこと、気にしてるのか?」


「べつに気にしてるというほどではないのですが、私も大きくなってもオカシクはないのですよ」


 たしかにプロメテぐらいの歳ほどならば、まだ伸びしろはあるんだろう。


「オレたちが会ってから、どれぐらいになるんだろうか?」


 えっと……と、プロメテは指折り数えながら応えてくれた。


「半年になるのですよ」


「半年……か……」


 もうそんなに経つのかという思いと、まだそれぐらいかという思いが、同時にあった。


 常に夜のように暗い世界ゆえに、時間の進みも曖昧になるのだった。むろん、今日も窓の外は暗くよどんでいる。


 半年も経っているのなら、プロメテがすこしぐらい大きくなっていても変な話ではない。


「半年しか経っていないのに、すでに2つの聖火台に火を灯すことが出来たのです」


「順調――と言うべきか」


「順調なのですよ。この調子でいくと、あと1年ほどもあれば残り3つも灯せるのです」


「うむ」
 と、オレはうなずいた。


 最初の2つを順調に灯せたからと言って、残り3つも同じペースで灯せるとは限らない。


 それに最初の1つの聖火台は、オレが召喚されたすぐ近くにあったことも幸いしていた。


 ドワーフたちの聖火台も、ドワーフたちが協力的だったので円滑にすすむことが出来たのだ。


 しかし、プロメテの言葉に水を差すようなことは言いたくなかったので、反論はしなかった。


「魔神さまの信者たちも、順調に集まっているのですよ」


 プロメテはコテのようなもので、オレのことをすくいあげた。そして、カンテラのなかにおさめた。


 カンテラを抱えると、窓辺に近づいた。


「こんな館が、できちゃうぐらいだしな」


 この寝室棟は《紅蓮教》の巨大化によって出来たものだ。《紅蓮教》に入信した修道士たちが寝泊りしているのだ。


「ここだけではないのです。館の裏手には、工房もできてるのですよ」


「ヴァルの工房か」


「はい」


 ドワーフの里から、レイアが引っ張ってきたドワーフだ。ヴァルもまた《紅蓮教》の修道士になっていた。


 手先が器用なことを活かして、陶芸やら彫金やらといった作業を、裏手にある工房でおこなっている。


 ヴァルひとりだけではない。修道士のなかにはヴァルに教えられて、作業を手伝っている者もいるようだった。


 出来上がったものは、ディーネが食糧などの物資と交換してくれていた。


「大きくなったのですよ。この教会も」


「そうだな」
 以前ディーネが言っていた。修道院にする――と。
 その形が出来上がりつつある。


 信者が増えるにつれて、オレの神としての能力ステータスも上がって行く。


《光神教》と戦うだけのチカラをつける必要がある。

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