《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

15-7.……青年は恋を知る

「ふーっ。どうにか逃げれたな」


 敵の馬を奪って、レイアは敵の野営地から脱出していた。
 ヴァルはその後ろに乗っていた。
 追っ手が来る様子はなく、レイアは馬を止めた。


 ようやくヴァルも息をつくことが出来た。


「すごいですね。レイアさん。あれだけの敵をたった1人で」


「鍛え方が違うんだよ」


 そういう問題で済まないように思う。


「あの――。すみませんでした」


「何にたいしての謝罪だ?」


「オレが後ろに乗ってたせいで、敵の攻撃を避けられなかったんでしょう。オレのせいで……」


「ンなことはねェ。どっちみち、やられたさ。まさか《聖白騎士団》が構えてるとは思わなかった。あれはタリスマンのチカラだな」


「ええ」


「信仰をチカラにするってヤツか。私も正直、あんまり詳しくねェんだよな。ジャリンコは何か知ってるか?」
 と、前に座っているレイアは振り返ってそう尋ねてきた。


 下にいる馬は水滴を払うつもりだったのか身震いしていた。その振動がヴァルの全身にもつたわってきた。


「オレもそんなに詳しくはないです。《聖白騎士団》が使う特殊な武器としか」


「だよな。ッたく、厄介な連中がいたもんだ。私の奇襲を読まれてたとはねぇ。お相手さんにも頭の巡るヤツがいるのかね」


 ゲイル・ガーディス。
 たしかそう名乗っていた。
 あの男が、こちらの手を先読みして、手を打っていたのだ。
 ソマ帝国の智将と言ったところか。


「まぁでも今回は、ジャリンコに助けられたな」 と、レイアは言った。


「チカラになれたのなら良かったです」


 レイアにホめられたことで、ヴァルは腹の底がえぐられるような喜悦をおぼえた。


「隊を立て直して、撤退するしかねェな。追っ手が来る前にトンズラするとするか」


「でも、ほかのみんなは、どこかに行っちゃいましたよ」


 この暗闇だ。
 レイアが率いてきた部隊は、散り散りになってしまっている。合流するのは難しい。


「大丈夫」


 レイアはそう言うと、指笛を吹いた。その音は闇のなかを響きわたった。しばらくすると、指笛が返ってきた。


「今のは?」


「私はもともと《紅蓮党》って盗賊をやってたんだ。率いて来てるのは、もともと仲間だった連中だ。散り散りになったときのために、合流する方法はいくらでも考えてあるさ」


「そう……だったんですか」


《紅蓮党》のウワサは、ヴァルはすこしだけ耳にしたことがあった。けっこう有名な盗賊団だ。


 盗賊だからと言っても幻滅することはなかった。むしろ合点のいく思いだった。レイアの剣術が独特なのも、そういう由来なのだろう。


「足の調子はどうだい?」


「傷口が開いちゃったみたいですけど、でもたぶん大丈夫だと思います」


「そうか。ならシッカリつかまってろよ」


 レイアはそう言うと、指笛の聞こえたほうへと馬を走らせた。


 レイアは定期的に指笛を吹いていた。その音にも何か合図があるのか。1度吹くときもあれば、2度3度と吹くこともあった。


 そのたびに闇の向こうからも音が返ってきていた。音のするほうへと走っていると、レイアの率いていた兵隊たちを合流することができた。


「そう言えば、ジャリンコ」


「はい?」


「こいつを落としてたが、これはてめェのか?」


 レイアは振り向いて、何かを差し出してきた。

 レイアの手に乗っているのは、アサギ色に輝くボルトだった。それはヴァルがヘラのために彫っていたものだ。


 ヘラがケガをしたときに落としていたので、ヴァルが拾ったのだ。どうやらヴァルもそれを落としてしまっていたらしかった。


「あ、……はい、いちおうオレのです」


「ヴァルが作ったのか?」


「ええ。まぁ」


 それが自分の作ったものだと打ち明けるのは、すこし照れ臭さがあった。
 こんな男らしくない特技があることが、恥ずかしかったのだ。


「すげェじゃねェか。手先が器用なんだな。これは《輝光石》で作ってあるんだろ?」


 レイアは本気で感心しているようだった。ヴァルの彫った《輝光石》に魅入られているようだった。


 自分の作ったものを、レイアに見つめられると、それもまた照れ臭い。


「ええ。そういうの彫るのが得意で」


「戦士になりたいとか言ってたけど、充分誇れるようなことがあるんじゃねェか」


「でも、オレはそれを誇りとは思えないですし」


「誰かにバカにされたりするのかよ?」


「そういうことも、まぁ……」


 角がないくせに。カラダが小さいくせに。そう言われていたから、見返してやりたかったのだ。


「てめェも、青ヒゲの伯爵と同じ感じか」


「ディーネ伯爵のことですか?」


「あの女ァ、戦士になりたかったらしい。もし男に生まれてたら傭兵にでもなっていたと言っていた。まぁ、あれはただの戦闘狂だから、てめェとはすこし違うかもしれねェがな」


「へぇ」


 ディーネのことは、会議を盗み聞きしたときにチラッと見ている。
 あの穏やかそうな女性が戦闘狂とはとても思えなかった。


「自分のやりたいことと、自分の才能があること。これはまた別のことだからな。その2つが合致することなんて、そうそうありしゃねェぜ」


「ですがオレは――」


 戦士としての才能がないことは、わかっているのだ。
 剣の腕も悪いし、カラダも小さい。


「てめェは戦士だ。私はそれを認めるよ。助けられたしな。だけど、てめェは前線戦士には向いちゃねェ」


「たしかにオレは剣の腕前とか、レイアさんほどじゃないですけど……」


 そうじゃねェ――とレイアは頭を振った。


「てめェは早死にするタイプだ。勇敢すぎる」


「戦士なら、果敢に死ぬことが出来るのは本望です」


「私は国に仕える騎士じゃねェからな。もともと盗賊だ。だからそういう覚悟がねェ。生きて、生きて、生きのびてこそナンボだろって思うよ」


 レイアは、ふん、と鼻で笑ってつづけた。


「私の親父はずいぶんと早死にしちまってな。おかげで娘の私が苦労することになった。笑っちまうだろ。どこの女とのあいだに生まれたのかもわからねェ娘を放って、自分だけ先に死んじまうなんてよ」


「えっと……」


 笑えない。


「てめェは前線の戦士じゃなくて、後方支援の戦士になるべきだな」


「弩兵とか弓兵ってことですか?」


「いいや。鍛冶や彫金だ」


「鍛冶……」


「青ヒゲの伯爵は、製鉄技術を蘇らせようとしてる。そうなれば優れた鍛冶師や彫金師が必要になる。手先の器用なヤツがな。どうだ? ドワーフの里から出て、私のもとで鍛冶やらねェか?」


「レイアさんのところで?」


「てめェの手は、きっとそういう方面で無双することになるぜ」
 と、レイアは馬に乗ったまま、体重を軽く後ろにあずけてきた。レイアの重みをヴァルは受け止めることになった。


「考えておきます」


 悪い話ではない。
 そう思った。


 戦士として引き抜かれたのではない。後方支援の戦士、とレイアは言ったが、ヴァルのことを気遣ってそう言ったのだろう。それはわかっている。


 だけど、この人は、ヴァルの器用さを認めて、それを買ってくれているのだ。決してそこに揶揄や嘲弄はない。
 むしろレイアはヴァルのことを、漢、として認めてくれている。


 この人のためなら……
(それも良い)


「こいつは、返しておくよ。戦が終ったら、私にも同じ物を作ってくれよ」


 レイアはそう言うと、ボルトをヴァルに返してきたのだった。


「え、いや、これは……あの……」


 縁結びの品なのだ。これをプレゼントした者と、プレゼントされた者は、結ばれると呼ばれている。
 ドワーフの言い伝えだ。


 むろん、レイアはその意味を知らずに言ったのだろう。だが、言われたヴァルは、まるで告白でもされたような緊張をおぼえたのだった。


「おっと、ぐずぐずしてられねェ」
 と、レイアが言う。


 シンベリン行路の左右に立ちそびえる山間から、《輝光石》のキラメキがいくつも光って見えた。帝国兵の携帯しているものだろう。追っ手が出て来たということだ。


「さて――と。ヴァル」


「はい?」


「私はシンガリをつとめる。てめェは、他のヤツの馬に乗せてもらうんだ」


 さっきはヴァルのせいで、レイアは落馬することになってしまったのだ。拒否はできなかった。


 大人しく馬から降りることにした。


「ヤッパリ足手まといですか?」


「そうじゃねェ。てめェみたいな貴重な人材を、傷つけるわけにはいかねェだろ。私はその手が欲しいんだよ」


 レイアはそう言うと、馬上からヴァルの手を握りしめてきたのだった。


 瞬間。
 迷っていたヴァルの心は決まった。
 この手を、レイアのために使おう――と。


「全軍退却!」
 と、レイアは大音声で闇に向かって吠えた。


 ヴァルは別の者の馬に乗せてもらうことになった。

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