《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
15-5.ゲイル・ガーディス
『見つけたぞ』
『そいつを逃がすなよ!』
敵の野営地にて取り残されたヴァルとレイア。
レイアのことは天幕の布でかぶせて隠してある。
ヴァルは1人、ソマ帝国兵に囲まれることになった。暗闇なので良くは見えないが、おそらくすでに20人近くの者たちがヴァルのことを取り囲んでいるらしかった。
(これはもう助からない)
そう覚悟した。
ならば、ブザマを見せぬように散るのみだ。
ヴァルは大きく息を吸い込んだ。冷たい空気が肺腑のなかに入り込んできた。そして言い放った。
「オレは英雄イ・ヴェンドの息子、ドワーフのイ・ヴァルという者だ。貴様らなど何人かかって来ようとも同じこと。順番に叩き斬ってやる!」
自分の声が恐怖に震えていないかが心配だった。けれど上手く言えたと思う。父ヴェンドのような野太い声でないことだけが不服だった。
「なんだ。ガキじゃねェか」
と、言ってくる者があった。
「ガキだと! オレはガキじゃない。ドワーフの戦士だ!」
と、声のしたほうに言い返した。
「そんな小さなカラダで戦士を名乗るとは、ずいぶんと酔狂なヤツがいたもんだな。それともドワーフってのは、生まれながらの戦闘狂なのかい」
帝国兵の群集を押しのけて、前に出てきた者がいた。その者は首から《輝光石》を吊り下げていた。
そして白い法衣をはおっていた。《輝光石》を吊り下げているため、顔が良く見えた。
ブロンドの髪を真ん中分けにした男だった。うっすらとアゴヒゲを生やしている。なにより特徴的なのは――。
(でかい)
のである。
ふつうの人間と比べても、ずいぶんと背が高い。ただでさえ背の小さなヴァルからは、首が痛くなるほど見上げる必要があった。
「よォ。オレは《光神教》の修道士にして、ソマ帝国の大隊長のゲイル・ガーディスという者だ」
「だ、大隊長……」
それはまた、ずいぶんと大物を引き当ててしまったものである。
「おうよ。この戦の総指揮を執らせてもらってる」
よろしくな――と、ゲイルは気さくにそう言うと、木の枝のようなものを取り出した。何をするのかと思いきや、その枝を口にくわえていた。
しゃぶり枝と呼ばれる者だ。カフェインが含まれており、嗜好品の一種だった。
「話をするつもりはない。セッカク大隊長が出てきれくれたんだ。オレは一騎打ちを申し込む」
ヴァルは本気でそう申しこんだ。
ここで戦の総指揮を執っているゲイルを討ち取ることが出来たならば、軍を引かせることも出来るかもしれない。
そう思ったのだ。
仮に勝てなくとも、一騎打ちによる討死なら、まだ立派な死にざまだ。
しかしヴァルがそう言うと、周囲から笑い声が沸き起こった。
「小っちゃいカラダで、よく吠える」
「バカにするな!」
レイアから小さいことを揶揄されてもマッタク腹立たなかったものが、今こうして笑われると、頭が熱くなるほどの怒気を覚えた。
あきらかにその揶揄からは、嘲弄の色があったからだ。あわや剣を抜いてしまうところだった。
が、この剣は切り札だ。そう簡単に見せびらかして良いものではない。グッとこらえた。
「まあ、そう急くなよ。オレは戦いってのは、あんまり好きじゃないんでね」
「バカにするな! ドワーフの里を攻めに来たくせに」
「だって、仕方ないでしょ。ドワーフたちは《ソマ帝国》の傘下に入らないって言うんだからさ」
「当たり前だ。オレたちドワーフは《光神教》なんか信じるつもりはない」
「信じるも何も、実在しちゃってるんだから、信じる他ないでしょ」
「実在したとしても、信用に値するかどうかは別の話だ」
「なるほど」
と、ゲイルは、しゃぶり枝を美味そうに吸っていた。
べつに話をするつもりなんてなかったのだけれど、なんだか話の乗せられてしまっていた。
が、逆に好都合だ。
いまは勝つことが目的ではない。とにかく今のヴァルに出来ることは、レイアが目を覚ますまでの時間を稼ぐことだ。
「戦が嫌いなら、どうして大隊長なんかやっている?」
何か時間を稼げるような質問はないだろうかと思って、ヴァルはそう問いかけた。
「嫌いでもさ、才能のあることって、あるだろ」
「嫌いでも才能のあること……」
と、その言葉をヴァルはつぶやいた。
それはヴァルにとっては、小物細工だった。彫刻や、石を削ること。嫌いというほどではない。作ってくれと頼られるのは嬉しい。石や鉱物が削れてゆく感覚は心地良い。
しかし。
(どうしてこんな女々しいこと)
と、その特技を恥ずかしく思うことはあった。
「オレはさ。戦が嫌いなんだよ。人の血が流れたりすることが嫌いなわけ。だけど、才能があるんだから仕方ないでしょ」
時間を稼ごうと思って問いかけたのだが、思いのほかヴァルはゲイルの言葉に引き込まれていた。
「才能があったら、それで良いのかよ」
「良いんじゃないかね。自分の一生のうちでさ。自分の才能に気が付ける人間なんて、そんなにいないだろうからさ」
「……」
ゲイルの言葉は、ヴァルの胸裏に強く刻まれることになった。
「オレはこの才能で、ドワーフの里を落としちゃうよ」
ゲイルは得意気に、みずからのコメカミを人差し指でたたいてそう言った。
「ずいぶんな自信じゃないか」
「ここに攻めてくることも見通してたのさ。だから、《聖白騎士団》を張らせていたってわけ」
しゃぶり枝から味がしなくなったのか、ゲイルは、ぷっ、と吐き捨てていた。
「読まれてた……?」
「戦ってのはさ、兵士と兵士のブツかりあいでもあり、指揮官の知略と知略のブツかり合いなわけよ。この戦。ドワーフたちの指揮をとってるのは、あの女だ。セパタ王国領のディーネ」
そう言うと、ゲイルはヴァルから顔を背けるようにした。遠くのほうを見ていた。ゲイルの見ている先は、ドワーフとソマ帝国軍本隊との戦場だ。戦場の向こうにいるであろうディーネのことを見ているつもりなのかもしれない。
ゲイルはつづけた。
「青ヒゲ伯爵の異名を持つ女。直接会ったことはないけど、こうして戦っていれば、わかるよ。油断ならねェ。まるでオレの喉笛に噛みついてくるような、凄みを感じる」
ゲイルはそう言うと、その太い首をペチペチとたたいていた。
「だ、だから何だって言うんだ」
雨が、冷たい。
カラダを動かさないと、手足がかじかんでしまう。
話をしながら、いつでも剣を抜けるようにヴァルは手をグーパーと開閉させて、指先を温めることにした。
隙があれば――。
フイウチでも良いから、ゲイルというこの男に斬りかかってやるつもりだった。けれどその身長差のせいか、常に気圧されている感じが抜けないのだった。どう斬りかかっても、防がれてしまう未来しか見えない。
「ディーネという女が、この戦場をどう動かすのか。どこを狙い、どこを突いてくるのか。それを読めりゃ、戦ってのはおのずと勝てるもんさ」
「残念だったね」
「ん?」
「《製鉄工場》に兵を送り込んできたのは、あんただろ。でもディーネさんは、それを見透かしてたよ」
と、ヴァルは言い返してやった。
見透かしていたから、ディーネはレイアのことを送りだしてくれたのだ。そして間一髪のことで、ヴァルは命を救われた。
「たしかにね。ディーネって女も半端じゃない。でもオレは負けるつもりはねェよ。テーブルゲームだって、負けたことはねェよ。なんなら今から、遊んでやろうかい?」
「バカにするな。男なら、剣で勝負しろ」
カンベンしてくれよ、とゲイルは肩をすくめた。
「男ならとか、そういうの苦手なんだよなぁ。ドワーフってのは、そういうの気にする種族なわけ?」
ゲイルは疲れたような目を、ヴァルに向けてきた。
(なんだよ、こいつ)
と、ヴァルは苛立った。
男なら、ゴツイ男になりたいと思うものじゃないか。しかしゲイルからは、そういう闘気を感じることが出来なかった。
大きなカラダをしているくせに情けのないヤツだと感じた。根本的に相いれない相手なのだと思った。
まぁ良いけどさ――と、ゲイルはつづけた。
「一騎打ちだっけ? 悪いけど、そういうの苦手なんだわ。オレはそろそろ前線指揮に移るからさ」
この場は任せたよ、とそう言い残すと、ゲイルは馬に乗った。
「ひ、卑怯なッ。逃げるつもりか!」
「逃げるなんて、人聞きの悪い。ここの後始末は中隊長に任せて、これからもっと大事な戦場に行くだけさ。青ヒゲの伯爵に遅れをとるわけにはいかないんでね」
と、ゲイルは立ち去った。
そしてヴァルは大量の帝国兵に囲まれることになったのだ。
『そいつを逃がすなよ!』
敵の野営地にて取り残されたヴァルとレイア。
レイアのことは天幕の布でかぶせて隠してある。
ヴァルは1人、ソマ帝国兵に囲まれることになった。暗闇なので良くは見えないが、おそらくすでに20人近くの者たちがヴァルのことを取り囲んでいるらしかった。
(これはもう助からない)
そう覚悟した。
ならば、ブザマを見せぬように散るのみだ。
ヴァルは大きく息を吸い込んだ。冷たい空気が肺腑のなかに入り込んできた。そして言い放った。
「オレは英雄イ・ヴェンドの息子、ドワーフのイ・ヴァルという者だ。貴様らなど何人かかって来ようとも同じこと。順番に叩き斬ってやる!」
自分の声が恐怖に震えていないかが心配だった。けれど上手く言えたと思う。父ヴェンドのような野太い声でないことだけが不服だった。
「なんだ。ガキじゃねェか」
と、言ってくる者があった。
「ガキだと! オレはガキじゃない。ドワーフの戦士だ!」
と、声のしたほうに言い返した。
「そんな小さなカラダで戦士を名乗るとは、ずいぶんと酔狂なヤツがいたもんだな。それともドワーフってのは、生まれながらの戦闘狂なのかい」
帝国兵の群集を押しのけて、前に出てきた者がいた。その者は首から《輝光石》を吊り下げていた。
そして白い法衣をはおっていた。《輝光石》を吊り下げているため、顔が良く見えた。
ブロンドの髪を真ん中分けにした男だった。うっすらとアゴヒゲを生やしている。なにより特徴的なのは――。
(でかい)
のである。
ふつうの人間と比べても、ずいぶんと背が高い。ただでさえ背の小さなヴァルからは、首が痛くなるほど見上げる必要があった。
「よォ。オレは《光神教》の修道士にして、ソマ帝国の大隊長のゲイル・ガーディスという者だ」
「だ、大隊長……」
それはまた、ずいぶんと大物を引き当ててしまったものである。
「おうよ。この戦の総指揮を執らせてもらってる」
よろしくな――と、ゲイルは気さくにそう言うと、木の枝のようなものを取り出した。何をするのかと思いきや、その枝を口にくわえていた。
しゃぶり枝と呼ばれる者だ。カフェインが含まれており、嗜好品の一種だった。
「話をするつもりはない。セッカク大隊長が出てきれくれたんだ。オレは一騎打ちを申し込む」
ヴァルは本気でそう申しこんだ。
ここで戦の総指揮を執っているゲイルを討ち取ることが出来たならば、軍を引かせることも出来るかもしれない。
そう思ったのだ。
仮に勝てなくとも、一騎打ちによる討死なら、まだ立派な死にざまだ。
しかしヴァルがそう言うと、周囲から笑い声が沸き起こった。
「小っちゃいカラダで、よく吠える」
「バカにするな!」
レイアから小さいことを揶揄されてもマッタク腹立たなかったものが、今こうして笑われると、頭が熱くなるほどの怒気を覚えた。
あきらかにその揶揄からは、嘲弄の色があったからだ。あわや剣を抜いてしまうところだった。
が、この剣は切り札だ。そう簡単に見せびらかして良いものではない。グッとこらえた。
「まあ、そう急くなよ。オレは戦いってのは、あんまり好きじゃないんでね」
「バカにするな! ドワーフの里を攻めに来たくせに」
「だって、仕方ないでしょ。ドワーフたちは《ソマ帝国》の傘下に入らないって言うんだからさ」
「当たり前だ。オレたちドワーフは《光神教》なんか信じるつもりはない」
「信じるも何も、実在しちゃってるんだから、信じる他ないでしょ」
「実在したとしても、信用に値するかどうかは別の話だ」
「なるほど」
と、ゲイルは、しゃぶり枝を美味そうに吸っていた。
べつに話をするつもりなんてなかったのだけれど、なんだか話の乗せられてしまっていた。
が、逆に好都合だ。
いまは勝つことが目的ではない。とにかく今のヴァルに出来ることは、レイアが目を覚ますまでの時間を稼ぐことだ。
「戦が嫌いなら、どうして大隊長なんかやっている?」
何か時間を稼げるような質問はないだろうかと思って、ヴァルはそう問いかけた。
「嫌いでもさ、才能のあることって、あるだろ」
「嫌いでも才能のあること……」
と、その言葉をヴァルはつぶやいた。
それはヴァルにとっては、小物細工だった。彫刻や、石を削ること。嫌いというほどではない。作ってくれと頼られるのは嬉しい。石や鉱物が削れてゆく感覚は心地良い。
しかし。
(どうしてこんな女々しいこと)
と、その特技を恥ずかしく思うことはあった。
「オレはさ。戦が嫌いなんだよ。人の血が流れたりすることが嫌いなわけ。だけど、才能があるんだから仕方ないでしょ」
時間を稼ごうと思って問いかけたのだが、思いのほかヴァルはゲイルの言葉に引き込まれていた。
「才能があったら、それで良いのかよ」
「良いんじゃないかね。自分の一生のうちでさ。自分の才能に気が付ける人間なんて、そんなにいないだろうからさ」
「……」
ゲイルの言葉は、ヴァルの胸裏に強く刻まれることになった。
「オレはこの才能で、ドワーフの里を落としちゃうよ」
ゲイルは得意気に、みずからのコメカミを人差し指でたたいてそう言った。
「ずいぶんな自信じゃないか」
「ここに攻めてくることも見通してたのさ。だから、《聖白騎士団》を張らせていたってわけ」
しゃぶり枝から味がしなくなったのか、ゲイルは、ぷっ、と吐き捨てていた。
「読まれてた……?」
「戦ってのはさ、兵士と兵士のブツかりあいでもあり、指揮官の知略と知略のブツかり合いなわけよ。この戦。ドワーフたちの指揮をとってるのは、あの女だ。セパタ王国領のディーネ」
そう言うと、ゲイルはヴァルから顔を背けるようにした。遠くのほうを見ていた。ゲイルの見ている先は、ドワーフとソマ帝国軍本隊との戦場だ。戦場の向こうにいるであろうディーネのことを見ているつもりなのかもしれない。
ゲイルはつづけた。
「青ヒゲ伯爵の異名を持つ女。直接会ったことはないけど、こうして戦っていれば、わかるよ。油断ならねェ。まるでオレの喉笛に噛みついてくるような、凄みを感じる」
ゲイルはそう言うと、その太い首をペチペチとたたいていた。
「だ、だから何だって言うんだ」
雨が、冷たい。
カラダを動かさないと、手足がかじかんでしまう。
話をしながら、いつでも剣を抜けるようにヴァルは手をグーパーと開閉させて、指先を温めることにした。
隙があれば――。
フイウチでも良いから、ゲイルというこの男に斬りかかってやるつもりだった。けれどその身長差のせいか、常に気圧されている感じが抜けないのだった。どう斬りかかっても、防がれてしまう未来しか見えない。
「ディーネという女が、この戦場をどう動かすのか。どこを狙い、どこを突いてくるのか。それを読めりゃ、戦ってのはおのずと勝てるもんさ」
「残念だったね」
「ん?」
「《製鉄工場》に兵を送り込んできたのは、あんただろ。でもディーネさんは、それを見透かしてたよ」
と、ヴァルは言い返してやった。
見透かしていたから、ディーネはレイアのことを送りだしてくれたのだ。そして間一髪のことで、ヴァルは命を救われた。
「たしかにね。ディーネって女も半端じゃない。でもオレは負けるつもりはねェよ。テーブルゲームだって、負けたことはねェよ。なんなら今から、遊んでやろうかい?」
「バカにするな。男なら、剣で勝負しろ」
カンベンしてくれよ、とゲイルは肩をすくめた。
「男ならとか、そういうの苦手なんだよなぁ。ドワーフってのは、そういうの気にする種族なわけ?」
ゲイルは疲れたような目を、ヴァルに向けてきた。
(なんだよ、こいつ)
と、ヴァルは苛立った。
男なら、ゴツイ男になりたいと思うものじゃないか。しかしゲイルからは、そういう闘気を感じることが出来なかった。
大きなカラダをしているくせに情けのないヤツだと感じた。根本的に相いれない相手なのだと思った。
まぁ良いけどさ――と、ゲイルはつづけた。
「一騎打ちだっけ? 悪いけど、そういうの苦手なんだわ。オレはそろそろ前線指揮に移るからさ」
この場は任せたよ、とそう言い残すと、ゲイルは馬に乗った。
「ひ、卑怯なッ。逃げるつもりか!」
「逃げるなんて、人聞きの悪い。ここの後始末は中隊長に任せて、これからもっと大事な戦場に行くだけさ。青ヒゲの伯爵に遅れをとるわけにはいかないんでね」
と、ゲイルは立ち去った。
そしてヴァルは大量の帝国兵に囲まれることになったのだ。
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