《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

15-1.奇襲と同行

(ヤッパリ鉄製の剣だったんだ) 


 執務室にて行われていた会議を、イ・ヴァルは小窓から盗み聞きしていた。


 執務室の表口はドワーフの兵と、ディーネの連れてきた兵士がいた。そのため裏道から、忍び寄ったのだった。


 レイアのことを探していたのだが、当のレイアは会議には参加していないようだった。


(それにしても、スゴイ)


 炎。
 生まれてはじめて見た。


 あれがレイアの信奉する魔神アラストル、ということだった。カンテラのなかの魔神に魅入られていた。


 そこに――。


「ジャリンコじゃないか。ンなところで、なにしてんだ」


 声をかけられた。
 まさか声をかけられるとは思っていなかった。


「ひぇっ」
 と、ビックリして、ヴァルは小さな悲鳴を漏らした。


 執務室のほうに聞こえては大変だと思って、あわてて口もとを手でふさいだ。


 ヴァルの後ろに立っていたのはレイアだった。


「どうした? もしかして魔神さまが珍しかったのか? あれが魔神アラストルさまだ。私のことを救ってくださった神だ」


「レイアさんのことを、救った?」


「私は暗闇症候群にかかってたからな。それを魔神さまに治していただいたんだ。それ以来、頭が上がらねェ」


「へぇ」


 突然のレイアの出現に動揺していて、ヴァルからは気の利いた言葉のひとつも出てこなかった。


「魔神さまに会いたかったら、直接会いに行けば良いじゃないか。魔神さまは寛大な御方だぜ」


「いえ。そういうわけじゃないんですけど……」


「だったら、ンなところで何してんだ?」


「べつに何かしてるってわけじゃないんですけど、オレにも何か出来ることがあるかもしれないと思って……」


「ケガしてんのに、何言ってんだよ。てめェは避難しとけよ。ジャリンコ」


「ヴァルです。ジャリンコじゃないです」


 べつにレイアから、ジャリンコ、呼ばれることは厭ではない。くすぐったような幸せを感じるほどだ。
 だけど、子供扱いされている感があって、ちょっと気恥ずかしくもあった。
 どうせなら名前で呼んで欲しかった。


「なんだよ、ジャリンコって呼ばれてること気にしてんのかよ」


 レイアはそう言うと、かがんでヴァルと目線の高さを合わせた。


 こうして近くで見るとレイアの顔立ちは整っている。荒んだ気配もあったけれど、それも含めて魅力的に見えた。


 レイアの顔が近いことに、ヴァルはおのれの心臓が高鳴っていた。この心臓の鼓動が、
(聞かれないか……)
 と、心配になるほどだった。


「レイアさんは、こんなところで何してたんですか?」


「人の気配があったから、見に来たんだよ。私はそういうのに敏感なんだ。会議の内容が敵に聞かれてたら大事だしな」


「はぁ」


「私はもう行くぜ。魔神さまに挨拶しておきたいしな」


「ま、待ってください」


 咄嗟にヴァルはレイアの着ていた法衣の袖をつかんでいた。無遠慮なことをしてしまったと思って、あわてて手を引っ込めた。


「ん? どうした? 足が痛むのか?」


「いえ。そうではなくて。レイアさんはこれからどうするんですか?」


「私は自分の隊を率いて、ソマ帝国の部隊に奇襲をかける。そして敵の首級を1つかふたつは持ち帰ってくるつもりだ」


「あ、危なくないですか?」


「そりゃ危ないだろ。他にそんなこと出来るヤツいねェから、私がやるんだよ。私なら死ぬことはないし」
 レイアは平然とした顔でそう言った。


 いったいその自信はどこから来るのか。レイアのように堂々とした物言いを、自分もしてみたいものだとヴァルは感じ入った。


「オレも連れて行ってもらえませんか?」


「バカ言ってんじゃねェよ。そんなケガしてるヤツを連れて行くわけにはいかねェよ」
 と、レイアはヴァルの包帯が巻かれている右足にデコピンをした。


「痛っ」


「ほらな」


 くくくっ、とレイアは愉快そうに笑った。


「大丈夫ですよ。ドワーフの傷薬は良くきくんです。じきに歩けるようになると思います」


「だからって、無茶して行くようなもんでもねェよ。だいたいてめェ、戦えんのかよ。剣とか使えるのか?」


「剣ぐらい、使えますよ」


「しかしなぁ……」
 と、レイアは困ったように、コメカミのあたりを人差し指でカいていた。


(ゴツイ男になって見せる。ドワーフの戦士に)


 そのためには、レイアについて行く必要があると、ヴァルは確信していた。


 ヴェンドに言っても避難しろと言われるだけだ。しかしレイアなら、自分を戦場に連れて行ってくれる気がしていた。


 敵に奇襲をかけに行くと言うのならば、なおさら都合が良い。


 それに。
(この人の戦う姿を、もう一度見たい)
 という気持ちもあるのだった。


「迷惑だとは思いますけど、オレも立派な戦士になりたいんです」


 ヴァルがそう言うと、
 ふぅん、とレイアが品定めするように見下ろしてきた。


 真っ赤な瞳をしていた。まるで宝石みたいな目だった。ヴァルは意を決してその目を見つめ返した。


「戦士になりたい――か。てめェも男の子ってわけだ」


「男の子って言うか、ヤッパリ戦士として活躍できてこそ一人前というか、角が小さいってバカにしてくる里の連中を見返したいって言うか」


 英雄の息子として、恥ずかしくない生き様を見せたいのだ――とはさすがにキザなセリフかと思って口には出来なかった。


「良いぜ。付いて来いよ。その覚悟がホンモノか見定めてやるよ。けど、守ってやれるかわかんねェぜ」


「はい!」
 と、ヴァルは意気揚々と返事をして、あわてて口もとをおさえた。


 会議はまだつづいているのだ。

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