《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

14-2.ディーネの交渉

 ドワーフの里というのは、《輝光石》の大洞窟になっていた。


 おかげで洞窟のなかは、アサギ色の光が帯びられていた。ドワーフたちはそんな大洞窟のなか、壁穴を掘って暮らしているらしかった。


 里の奥まったところには勾配があった。その勾配を上がって行くと、石造りの建物があった。そこが族長たちの執務室とのことだった。


 執務室。


 石造りの部屋のなかには、奥に長く伸びた石造りの長テーブルが置かれていた。30人は腰かけれるであろう長さだった。


 入って右側。
 ディーネとその補佐官であるタルル。そしてプロメテとエイブラハングが通された。エイブラハングはべつに何かするわけではないのだが、護衛として付いてくれている。


 そして左側。
 5人のドワーフが腰かけた。族長のズハズにつづいて、副族長、軍務執政官に内務執政官。そして、戦士長という並びになっていた。


 あいだに挟まるようにして、オレはテーブルの上に置かれることになった。


 ドワーフたちは興味津々といった様子でオレのことを見ていた。オレのほうも、ドワーフたちを見つめた。


 ドワーフと一口に言っても、みんな角の大きさが違っていた。特に戦士長のヴェンドというドワーフの角は、他と比べてもずいぶんと大きい。まるでクワガタムシみたいだ。
 しかしまぁ、オレの抱いていたドワーフのイメージ像と、そんなにかけ離れてはいない。


「温かいですね」
 と、族長のズハズがそう切り出した。


「ええ。これが魔神さまのおチカラですよ」
 と、ディーネが応じた。


 どうやらオレのことを言ってるらしかった。話し合いがはじまっても、オレは机上に置かれていた。
 ディーネたちのほうを見れば良いのか、ドワーフたちのほうを見れば良いのかわからなかった。


 オレが落ちつかないことを見抜いたのか、プロメテは自分の膝の上に、オレの入っているカンテラを抱き寄せてくれた。


「ハッキリ言って状況は絶望的です」
 と、ズハズはその長いヒゲをナでつけながら言った。


「情勢はいかに?」


「ソマ帝国の本体がおおよそ3000。それに《聖白騎士団》が500人。あわせて3500人が攻めて来ているようですな」


「ふむ」
 と、ディーネも付けヒゲを、つまんでいた。


「対してドワーフの数は600人。そのなかでも前線に出て戦える者は300人にも及びません」


「私は1000人の兵士を連れてきましたよ」


「それでも1300人。2倍以上の相手ですなぁ」


 はぁ、とズハズはため息を吐き落とした。


 その話を聞いて、3500人か、とオレは考えていた。


 地球の戦史と比べて考えるなら、3500という数は、そんなに規模が大きいとは思えない。
 ソマは大国だと聞いていたから、意外な数字でもあった。もっと大勢で押しかけてきているかと思っていたのだ。


 相手が少数のドワーフだと思って、甘く見ているということだろうか。ディーネの援軍がなければ、ドワーフ軍は300人。それにたいして、3500人を連れて来ていると考えれば、そんなものか。


「それでもソマ帝国の降伏勧告は受けなかった。戦うおつもりなのでしょう」
 と、ディーネが確認をした。


 むろん、と応えたのはヴェンドだった。


「我らの同胞たちは、すでにソマ帝国に虐げられている。異教徒狩りと称して多くの仲間が殺されているのだ。降伏などしたところで、無事で済むとは思えん。なにより、たとえ勝てずとも、戦わずして降るなどありえん。ドワーフの誇りにかけてな」
 と、ヴェンドはその大きなコブシをテーブルに叩きつけた。


「勝てずとも――ですか。戦うからには、勝たなくては」


 ディーネはそう言うと、口もとをおさえて、ふふっ、といつもの笑いを見せていた。


「勝算が?」
 と、ズハズが尋ねた。


 顔は虚ろだったが、その髭面の奥にある目は死んではなかった。


「さっそくですが、今回のソマ帝国との戦いにおいて、提供したいものがありましてね」


「なんでしょう? 援軍まで送っていただいたうえに、これ以上何かしていただけると?」


 タルルくん、とディーネが言う。
 はい、とタルルは腰にさしていた剣を机上に置いた。


「剣――ですかな?」


「ただの剣ではありません」


 ディーネがタルルに目配せをした。


 タルルはその剣の鞘を抜き取った。


 ドワーフたちの驚きは尋常ではなかった。ズハズの目は見開かれ、ほかのドワーフたちは弾かれたように立ち上がっていた。ヴェンドは上体を乗り出して、その剣に跳びかからん勢いだった。


「こ、これは……まさか伯爵どの……」


 ええ――とディーネは得意気にうなずいた。


「ズハズ族長あなたがた、ドワーフなら理解わかるでしょう。これは鉄の剣ですよ。残念ながら作りは甘いですがね」


「いったいどうやって……まさか、魔神さまのおチカラで?」


「私の知識と魔神さまのおチカラで、どうにか作り上げてみました。これがあれば、相手が帝国主義インペリアリズムの怪物とうたわれるソマ帝国が相手でも戦える。私はそう見込んでいます」


「うむ。たしかに……いや、しかし、まさか鉄製の剣を作り上げるとはな。驚かされましたな」


「さすがに量産はできませんでしたが、この刀剣を20本用意してあります。それはドワーフの戦士たちに使っていただきたい」


「しかし、どうしてそこまで、してくださるのか」


「むろん、私も見返りを求めています。あなたがたの技術と製鉄工場アイアン・ファクチュアを譲っていただきたい」


 いえ、もっと率直に言いましょう――と、ディーネは息を吸いこんでつづけた。


「ドワーフたちには、私の軍門に下っていただきたい」


「むっ」
 と、ズハズは怯んだようだった。


「もはや他に、ドワーフの生き残る術はないのではありませんか? 私の傘下に入るのならば、この戦、勝たせて見せますよ」
 と、ディーネは堂々たる風情でそう言う。


 何か確信があるのか。
 あるいはハッタリか……。
 どちらにせよディーネは、こういった交渉事にも慣れている様子だった。


 オレなんて燃え盛っているだけで、能力としてはディーネの足元にも及ばないんじゃないか、と不安になってくる。


「ご安心ください。私はソマ帝国のような、帝国主義者でもなければ、排他主義者でも、セクト主義者でもありません」


「すこし考える時間が欲しい――と、言いたいところですが、考えている時間はない。良いでしょう。我らドワーフは、伯爵どのの傘下にくだる。ただしこの戦に勝てたらの話になりますな」


「勝てますよ。我らには、神がついているのですから」


 ディーネはそう言うと、オレに微笑みかけてきた。その後もこまごまとしたヤリトリを交わしていた。


「ひぇっ」
 と、どこかで子供の悲鳴みたいな声が聞こえたような気がした。
 洞窟内を風が吹き抜ける音だったのかもしれない。

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