《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

14-1.ドワーフの里へ

「魔神さま。御加減はいかがですか? お腹すいたりしていないのです?」


 馬車キャリッジ


 ディーネとプロメテはイスに腰掛けていた。
 そしてオレは、鳥籠みたいなカンテラに入れられて、プロメテの隣に腰かけていた。


 オレの護衛として、エイブラハングは御者台のほうに付いてくれていた。



 ガタゴトガタゴト……と、馬車が揺れる。



 カンテラが揺れて座席から落ちないように、取っ手のところをプロメテが、つかんでくれている。


「ああ。大丈夫だ」


「わざわざ御足労をかけて申し訳ないのです」


「プロメテが謝ることはないだろう。べつにオレは足を動かしてるわけでもないしな」


 オレはただ運ばれているだけだ。


「それはそうですが、魔神さまに、何かあっては大変ですから。調子が悪いときは、すぐに言ってくださいね」


「調子が悪いときは言うけれど、プロメテだって調子が悪いときはチャント言うようにするんだぞ」


「私でありますか?」
 と、プロメテは呆けたような顔をした。


「足にケガをしていたときも、ずっと強がってただろ」


「も、申し訳ないのです」
 と、プロメテは顔を赤らめていた。


 すぐに謝るのも、プロメテの癖だ。その善し悪しはさておき、すこし悲しい性だなとは思う。


「それより、この服。どうです?」
 と、プロメテは話をそらすようにそう尋ねてきた。


「似合ってるよ。白い法衣も良かったけど、前の法衣はだいぶ汚れてしまっていたしな」


 ディーネが新調してくれた、緋色の法衣だ。
《紅蓮教》の修道着にするのだと言っていた。


「温かくて、心地良いのです」
 と、プロメテは袖のところに、頬ずりしていた。


 気に入っていただき幸いですよ、と同乗していたディーネも満足気にうなずいていた。
 そのディーネもすこし作りは違うが、緋色のコタルディを着ている。


 コンコン


 馬車の窓が叩かれる。
 叩いたのは馬車と併走していた騎兵だった。


 ディーネがその小窓を開けた。その騎兵が、ディーネに何か小言で伝えていた。


 レイアは、斥候として先行してくれている。もともと盗賊として活動していたころの統率力と俊敏さから、レイアはみずから斥候の役を買って出たのだった。


 レイアは自分の手の者を使わせて、ちくいちこっちに情報を伝えてくれている。その騎兵も、レイアから使わされてきたものだった。


 わかりました、とディーネはその小窓を閉めた。


「レイアからか?」


 ええ、とディーネは付けヒゲを整えていた。


「レイアはすでにドワーフの里に入ることに成功したようです。ドワーフの里には、すでに《聖白騎士団》が入り込んでいて、その小隊とブツかった――ということでした」


《聖白騎士団》


 それは、《光神教》の保有する軍隊だと聞いている。ソマ帝国の持っている軍勢とは別で、すべて修道者からなる宗教騎士団だということだ。


「レイアは無事なのか?」


「無事なようです。あの者はそう易々とやられることはないですよ」


「レイアには、オレも何度も助けられてるからな」


 盗賊として城に潜入する。白兵戦も器用にこなす。もともと盗賊だったころの部下たちを率いる指揮能力。さらにはこうして斥候もこなす。


 あれほど優れた人間が、盗賊に身をやつしていたというのは、不憫を感じる。あるいは盗賊に身をやつしていたからこそ、身に着けた処世術なのかもしれない。


「魔神さまから頼りにされていると知れば、レイアは感涙しますよ」


「レイアがいなかったら、いまごろオレもプロメテも、ディーネのもとまでたどり着けてなかったと思う」


「たしかの彼女の能力は優秀です。時と場合によれば、騎士長にもなっていたことでしょう。私も魔神さまから、評価していただけるよう奮起して見せますよ」


「オレは充分、ディーネを評価してるつもりだがな」


 レイアが武の者とするならば、ディーネは知の者と言ったところか。


 ディーネ本人は前線で戦いたいようだが、ディーネは後方でこそ才を発揮すると見ている。


 ドワーフたちと個人的な同盟関係を築き、《輝光石》を手に入れていたのも、ディーネの手腕によるものだ。


 戦が好きと言っていたが、戦よりも政治の場所でこそその才を発揮するのではないだろうか。


「それは有りがたい。……おっと、そろそろ見てきましたよ」


「あれが?」


「ええ。あれがドワーフの里の入口です」


《輝光石》の巨岩があった。その巨岩の一部がくりぬかれており、そこが里への入口だということだった。


 岩が口を開けて、獲物を待ち構えているようにも見えて不気味だった。


「すごい大きさの《輝光石》だな」


「ドワーフたちは古くから鉱山の民でした。森の資源はエルフの民、大地の資源はドワーフの民。昔からそう言われてきたぐらいです。ソマ帝国の狙いのなかには、この鉱山資源もあるでしょうね」


「ムリヤリ奪い取ってやろうってわけか」


「ドワーフたちは、特に《光神教》とは相性が悪いんですよ。神々の奴隷として使役されていた時代がありましたから」


「オレは大丈夫だろうか?」


 言ってしまえば、オレの存在もこの世界の人からしてみれば、神さま、になるのだ。


「魔神さまは平気ですよ。天界の神ではなく、あなたは魔術師の召喚した神なのですから。ドワーフが恨んでいるのは、天界の神々です」


「なら良いが」


「さあ。行きましょうか」
 と、ディーネは馬車をおりた。


「お持ちするのですよ」
 と、オレのことはプロメテが抱えてくれた。


 馬車から降りるさいに、オレたちが濡れないように、騎士のひとりが傘をさしだしてくれた。それは普段プロメテが使っているような、葉っぱの傘ではなくて、ちゃんと傘の形となったものだった。


「おろ、おろろ」
 と、プロメテの足取りはおぼつかなかった。どうも地面が酷くぬかるんでいるようだった。


「転んではいけませんよ」
 と、そんなプロメテのことを、ディーネが抱き寄せていた。


 ディーネとプロメテが並んでいると、まるで親子のようにも見えた。ふたりとも緋色の服を着ているから、そう見えたのかもしれない


 ドワーフの里の入口――。


 小柄な男がいた。
 頭から角を生やしているので、それがドワーフだとすぐにわかった。
 それにしてもヒゲが長い。


 背が低いのに、アゴヒゲが長いので、地面を引きずっていた。アゴヒゲの先が泥で汚れている。


「お待ちしておりました。ドワーフ族の族長のニ・ズハズです」


「お久しぶりですね。族長」
 と、ディーネは、ズハズと名乗った男の手を握りしめていた。


「使者から話は聞いております、伯爵どの。援軍を出してくださったそうで、それにそちらは……」


 ズハズは、オレのほうを見つめてきた。


「こちらが魔神アラストルさまです」


「おぉ。これはまごうことなき炎じゃ……」
 と、ズハズはヒゲの奥にあるその瞳を、大きく見開いていた。


「すでに聞き及んでいるかとも思いますが、魔神さまのおチカラによって、都市シェークスではすでに暗闇症候群の者はおりません。クロイの発生もおさえられ、さらには災厄級のクロイから都市を護ってくださいました」


 たしかにオレの活躍によるものだが、そうやって言われると、面映ゆい。


「オルフェス最後の魔術師が魔神召喚を成し遂げたというウワサは、真であったか」


「こちらが、その魔術師ちゃんですよ」
 と、ディーネがプロメテのことを紹介した。


「世間では魔術師にたいして批判的かもしれませんが、我らドワーフは歓迎いたしますよ。こんなところで立ち話もなんじゃから、中にご案内します」
 と、ズハズは会釈をした。


 会釈をすると、長く伸びたヒゲがさらに泥で汚れてしまっていたが、本人は頓着していないようだった。


 ズハズはその《輝光石》の巨岩のなかへと入って行く。
 オレたちもそれに続いた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品