《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

13-2.青年は恋を知らず……

 ボルトを作って欲しいと頼んできた友人の壁穴に向かったのだが、本人はいないとのことだった。


 家の者にどこへ行ったのかと尋ねると、《製鉄工場アイアン・ファクチュア》のほうに行ったと言う。


(戦うにしろ、逃げるにしろ、届けてからだな)


 もしかすると、この戦いの騒乱によって、渡せなくなってしまうかもしれないのだ。


製鉄工場アイアン・ファクチュア》は、ドワーフの里の外れにある。そこまで向かうことにした。


 ひたすら《輝光石》に囲まれた大空洞の中をすすんだ。


 道中――。


 石垣が築かれた場所がある。石垣の上には、聖火台が鎮座ましましている。かつては火が盛っていたというが、今は寝静まっている。ただの大きな器だ。


「おーっ。ヴァルじゃないか」


 石垣の上から声が落ちてきた。見上げる。デ・ヘラがいた。


 ヴァルと同い年なのだが、ヴァルよりもシッカリとした体躯をしている。そのうえ、ヴェンドほどではないが角が大きい。


 かぶっていた石製のノルマンヘルムから、角が飛び出している。


 ボルトを作ってくれるように頼まれていた相手だ。


「何してるの?」


「聖火台を見ていたんだよ。お前も上って来いよ」


「うん」


 言われたように、石垣にある石段を上って行くことにした。


「かつてはこの聖火台に火が灯っていたんだぜ」


 ヘラは聖火台の前でアグラをかいていた。
 ヴァルも、ヘラのとなりに座り込んだ。


「知ってるよ。だけど《火禁雨》が降るようになってからは、消えちゃったみたいだけど」


 ここは洞窟の中だ。
 雨に降られることはない。けれど、火がつかない。ただの雨ではないのだろう。いかなる炎も許さぬ神威の雨なのだ。


「主神ティリリウスをはじめとする神たちは、ドワーフの鍛冶能力を高く買ってた。だから神々のヤツらは、ドワーフの造り武器が防具を徴収していたんだ。オレたちドワーフは神の奴隷だった」


「歴史の授業はカンベンしてよ」


 そう言うなよ、とヘラは神妙な表情でつづけた。


「やがて天界から魔法を盗み出した魔術師が、ここに聖火台を作ってくれた。常に燃える火があれば、鉄鋼鍛冶に便利だろうと造り上げてくれたんだ。でも、それがいけなかったんだな。神の怒りを買った」


「魔術師のせいで、この世界は火が許されなくなった――って話でしょ。有名な話じゃないか」


「ドワーフの被害はもっと大きいだろう。火を奪われて、製鉄や鍛冶の技術を活かせなくなったんだから」


「うん」


「だからオレたちドワーフは、《光神教》なんかに降るわけにはいかないんだ。1000年前の御先祖さまは、神々に奴隷として使役されていたんだから」


「なんで今さら、そんな話を?」


 ふーっ、とヘラは呼気とともに、カラダのチカラを抜いていた。


「今だからこそだよ。これからソマ帝国が攻めてくるって言うじゃないか。戦意を上げておこうと思ってな」


「ヘラはヤッパリ戦士として戦うの?」


「もちろん、オレは《製鉄工場アイアン・ファクチュア》の護衛を任されてるんだ。小隊長としてな」


「小隊長!」
 と、ヴァルからはスットンキョウな声が漏れた。


 自分でも変な声が漏れたという自覚があったので、赤面をおぼえた。照れ臭さをごまかすように咳払いをかました。


「なんだよ。オレが小隊長じゃオカシイかよ」
 と、ヘラのほうも照れ臭そうに頬をカいていた。


「いや。すごいなーって思って。オレなんか、まだガキだから戦うなって言われてるぐらいなのにさ」


「そんな悲観することないだろ。お前は手先が器用なんだし、他に出来ることがイッパイあるだろ」
 と、ヘラは元気づけるつもりだったのか、ヴァルの背中を軽くたたいた。


「そんなことが出来ても、男らしくないよ。オレは――」


 父さんみたいな、ゴツイ男になりたかったんだ。
 と、胸裏で言葉をつづけた。


「そう言えば、頼んでいたボルトは出来上がったか」


「ああ。出来たよ」
 と、持ってきたボルトを渡した。


「へえ。よく出来てるじゃないか。さすがだな。お前に頼んで良かったよ。ゲ・ズィの爺さんより出来が良い」
 と、ヘラはそのボルトをつまみあげて、しげしげと見つめていた。


「それは言いすぎだって。オレの場合は、ただの手慰みなんだし」


 ゲ・ズィというのはずっと《輝光石》でアクセサリを作る職人の名だ。ドワーフたちのあいだでは有名な老爺だった。


「言いすぎなんかじゃないさ。お前はマジで手先が器用だよ」


 ホめてくれているつもりなのだろうが、戦士には向いていないと言われているようで、ヴァルはあまり良い気はしなかった。


「そのボルトをどうするの?」
 と、尋ねた。


「実はさ、オレ好きな人がいてさ。この戦で結果を出せたら、告白しようかな――って思ってて」
 と、照れ臭かったのかヘラは、かぶっていたノルマンヘルムの位置を調整していた。


「へー」


「なんだよ、その間の抜けた返事」


「好きな人とか、オレにはいまいち良くわかんないから」


「好きな人いないのかよ」


「まぁ……」


 どこの壁穴に住んでいる娘はどうだとか、あそこに住んでいる娘は可愛いとか、そんな他愛もない話をしばらく交わすことになった。


(そりゃ可愛い娘とかはいるけどさ)


 可愛いと思うのと、好きだと思うのとは、また別だろうとも思うのだった。


「じゃあ、オレはそろそろ行くよ」
 と、ヘラは立ち上がった。


「もう戦?」


「ソマ帝国はすでに、こっちに向かって進軍して来てるって、斥候から連絡があった。けど開戦まではまだもう少し時間があるはずだ」


「じゃあ、そんなに急ぐことないでしょ」


「《製鉄工場アイアン・ファクチュア》の護衛を任されてるんだ。下見でもしておこうかと思ってさ。あれはドワーフが先祖から受け継いだ遺産なんだ。間違っても傷つけるわけにはいかないだろ」


 じゃあな、お前は早く避難しとけよ――とヘラは、ヴァルにそう言うと、石段を下りはじめた。


 その言葉にヴァルはすこしムッとした。


 ヴァルの心境としては、
(まだ避難するなんて言ってないのにさ――)
 なのである。
 ヴァルには戦えないのだと決めつけられているように思えたのだ。


 その感情に任せて、ヴァルは言い返した。


「オレも連れて行ってよ」


「はぁ? どこに?」


「だから《製鉄工場アイアン・ファクチュア》の下見にだよ。小隊長なんだったら、オレのことを隊に入れてくれよ」


「バカ言ってんじゃないよ。オレにそんな権限ないよ。それにお前は戦えないだろ」


 ヘラは困ったような声音で言った。


「オレだって戦える」


 ドワーフの英雄と呼ばれたヴェンドの息子なのに、戦わずして避難することなど、屈辱的だった。


「ムリすんなって。お前にもしものことがあったら、ヴェンドさんに顔向けできねェよ」


「だったら下見だけでも」


 ヘラはすこし困っていたようだが、 
「まぁ――。下見ぐらいならな」
 と、うなずいてくれた。

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