《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
13-1.ドワーフの青年
ガリ……ガリ……ガリ……。
イ・ヴァルは鉄鋼樹脂製の彫刻刀で、《輝光石》を彫っていた。
刃が、石を削って行く。
削られた《輝光石》の残滓は、星屑のようなキラメキを放って地面に散って行く。
ヴァルは《輝光石》からアクセサリなどの小物を作りだすのが好きだった。
今作っているのは、ボルト、と呼ばれるものだ。
渦巻く棒状のもので、ドワーフたちのあいだでは、縁結びの品として知られている。
プレゼントした者とされた者を、結びつけると言われている。むろんただの縁起物だから、効果があるというわけではない。まぁ、気休めである。
そのボルトを、友人から作って欲しいと頼まれたのだ。
この彫石作業が好きだったので、ヴァルは喜んで引き受けたのだった。
(こんなものかな)
彫りだしたボルトに、「ふーっ」と息を吹きかけて、まとわりついている石屑を吹き飛ばした。
散ってゆく石屑が、キラめいた。
もう少し手を加えたいのだが、あまり手を加えすぎると逆に形が崩れてしまう。ほどほどで止めておくのがコツなのだ。
「おい、何をしてんねん」
と、声をかけられた。
ヴァルの父親である、イ・ヴェンドだった。
ほかのドワーフたちと同じく小柄なのに、ドワーフ族のなかでも突出して大きな角を生やしている。
角の大きさこそ、ドワーフの誇りであり自慢。
ヴェンドはドワーフ族の英雄と呼ばれるほどの男であった。
「なんでもないよ」
と、彫っていたボルトを、あわててポケットにしまいこんで隠した。
「なにも隠すことあらへんやろ。また彫石をやってたんやな」
「作って欲しいって頼まれたから……べつに好きでやってるわけじゃないよ」
ヴァルは赤面をおぼえた。
小者をつくりだすのが好きだ。
ヴァルはそんな自分が嫌いだった。
(女々しい)
そう感じてしまうのだ。
男なら――。
(父のようなゴツイ男になりたい)
のである。
ドワーフの英雄と呼ばれるヴェンドは、長大な角を生やしている。こうして壁穴のなかにいても、その角が天井に触れるほどである。
しかしヴァルはというと、角がマッタク生えていない。
(どうして父のような角を授からなかったのか……)
角のない自分にヴァルは劣等感を抱いていた。
「どれ、何を作ってたんや。見せてみぃ」
「いいって、別に。たいしたもんじゃないから」
そうか、とヴェンドはたいして興味もなさそうにうなずいて続けた。うなずくとその長大な角が、ぶんっと揺れた。
「彫石は構わへんけど、さっさとしたくをしぃや」
と、ヴェンドは怒ったように言う。
他人が聞くと怒っているように聞こえるのだろうが、べつに怒っているわけではないことは、息子であるヴァルがイチバン良く知っている。
「戦の準備?」
「違うわ。逃げる準備じゃ。非戦闘員のドワーフどもは、都市シェークスで匿ってもらえることになっとる」
「都市シェークスって、たしかディーネさんところの?」
せや、とヴェンドはうなずく。
「あの領主は以前から、うちらドワーフと個人的な同盟関係を結んできた。油断ならへん人やけど、味方になると頼りになる。あの女領主が引き受けてくれると言うのならば、まず間違いはない」
ドワーフの英雄と呼ばれる父が、そこまで言わせしめるディーネというのは、いったいいかほどの者なのか、ヴァルは気になった。
「逃げるの?」
「ワシらは戦う。ワシは前線指揮を頼まれてるからな。ドワーフ族の誇りにかけて、ソマ帝国なんかの好きにはさせへん。ワシらドワーフはどうしても《光神教》には馴染めんからな」
「じゃあオレも……」
アホかッ、とヴェンドが怒鳴った。
ヴァルは身をすくめた。
しわがれた声に、野太い音。
他者を委縮させるのに充分な迫力がある。
「お前はまだガキやろが。なにを一人前なことを言うとんねん。さっさと逃げる準備をせんかい」
「オレはもう子供じゃないよ。オレと同い年の連中だって、もう戦士になってるんだから」
「お前はカラダが小さいんや。戦士には向いてへん」
と、ヴェンドは呆れたように頭を振った。
その長大な角がブンブンと左右に振られているのを見ると、自分が矮小なものに思えてしまう。
ヴァルは無意識に、角の生えていない自分の頭に手をやっていた。
「そんなことないって。角がなくても戦えるってことを証明してやるんだ」
「あかん言うてるやろ。さっさと逃げるしたくをするんやで。ワシはもう戦の準備をするからな」
そう言い残すと、ヴェンドは壁穴から出て行った。
「オレかて戦えるっちゅうねん」
と、わざと父の口調をマネして、ヴァルはつぶやいた。
ヴァルも壁穴から出た。
ドワーフの里である。大きな大空洞になっている。そのなかには《輝光石》が大量に光っていた。大空洞のほぼ全域が、アサギ色にかがやいているほどだ。
そんな大空洞のなかに、おのおの壁穴を掘って、ドワーフたちは生活しているのだった。
(逃げる準備をしろって言われたけど……)
とりあえず、頼まれていたボルトが出来上がったので、それを渡しに行くことにしようと決めた。
イ・ヴァルは鉄鋼樹脂製の彫刻刀で、《輝光石》を彫っていた。
刃が、石を削って行く。
削られた《輝光石》の残滓は、星屑のようなキラメキを放って地面に散って行く。
ヴァルは《輝光石》からアクセサリなどの小物を作りだすのが好きだった。
今作っているのは、ボルト、と呼ばれるものだ。
渦巻く棒状のもので、ドワーフたちのあいだでは、縁結びの品として知られている。
プレゼントした者とされた者を、結びつけると言われている。むろんただの縁起物だから、効果があるというわけではない。まぁ、気休めである。
そのボルトを、友人から作って欲しいと頼まれたのだ。
この彫石作業が好きだったので、ヴァルは喜んで引き受けたのだった。
(こんなものかな)
彫りだしたボルトに、「ふーっ」と息を吹きかけて、まとわりついている石屑を吹き飛ばした。
散ってゆく石屑が、キラめいた。
もう少し手を加えたいのだが、あまり手を加えすぎると逆に形が崩れてしまう。ほどほどで止めておくのがコツなのだ。
「おい、何をしてんねん」
と、声をかけられた。
ヴァルの父親である、イ・ヴェンドだった。
ほかのドワーフたちと同じく小柄なのに、ドワーフ族のなかでも突出して大きな角を生やしている。
角の大きさこそ、ドワーフの誇りであり自慢。
ヴェンドはドワーフ族の英雄と呼ばれるほどの男であった。
「なんでもないよ」
と、彫っていたボルトを、あわててポケットにしまいこんで隠した。
「なにも隠すことあらへんやろ。また彫石をやってたんやな」
「作って欲しいって頼まれたから……べつに好きでやってるわけじゃないよ」
ヴァルは赤面をおぼえた。
小者をつくりだすのが好きだ。
ヴァルはそんな自分が嫌いだった。
(女々しい)
そう感じてしまうのだ。
男なら――。
(父のようなゴツイ男になりたい)
のである。
ドワーフの英雄と呼ばれるヴェンドは、長大な角を生やしている。こうして壁穴のなかにいても、その角が天井に触れるほどである。
しかしヴァルはというと、角がマッタク生えていない。
(どうして父のような角を授からなかったのか……)
角のない自分にヴァルは劣等感を抱いていた。
「どれ、何を作ってたんや。見せてみぃ」
「いいって、別に。たいしたもんじゃないから」
そうか、とヴェンドはたいして興味もなさそうにうなずいて続けた。うなずくとその長大な角が、ぶんっと揺れた。
「彫石は構わへんけど、さっさとしたくをしぃや」
と、ヴェンドは怒ったように言う。
他人が聞くと怒っているように聞こえるのだろうが、べつに怒っているわけではないことは、息子であるヴァルがイチバン良く知っている。
「戦の準備?」
「違うわ。逃げる準備じゃ。非戦闘員のドワーフどもは、都市シェークスで匿ってもらえることになっとる」
「都市シェークスって、たしかディーネさんところの?」
せや、とヴェンドはうなずく。
「あの領主は以前から、うちらドワーフと個人的な同盟関係を結んできた。油断ならへん人やけど、味方になると頼りになる。あの女領主が引き受けてくれると言うのならば、まず間違いはない」
ドワーフの英雄と呼ばれる父が、そこまで言わせしめるディーネというのは、いったいいかほどの者なのか、ヴァルは気になった。
「逃げるの?」
「ワシらは戦う。ワシは前線指揮を頼まれてるからな。ドワーフ族の誇りにかけて、ソマ帝国なんかの好きにはさせへん。ワシらドワーフはどうしても《光神教》には馴染めんからな」
「じゃあオレも……」
アホかッ、とヴェンドが怒鳴った。
ヴァルは身をすくめた。
しわがれた声に、野太い音。
他者を委縮させるのに充分な迫力がある。
「お前はまだガキやろが。なにを一人前なことを言うとんねん。さっさと逃げる準備をせんかい」
「オレはもう子供じゃないよ。オレと同い年の連中だって、もう戦士になってるんだから」
「お前はカラダが小さいんや。戦士には向いてへん」
と、ヴェンドは呆れたように頭を振った。
その長大な角がブンブンと左右に振られているのを見ると、自分が矮小なものに思えてしまう。
ヴァルは無意識に、角の生えていない自分の頭に手をやっていた。
「そんなことないって。角がなくても戦えるってことを証明してやるんだ」
「あかん言うてるやろ。さっさと逃げるしたくをするんやで。ワシはもう戦の準備をするからな」
そう言い残すと、ヴェンドは壁穴から出て行った。
「オレかて戦えるっちゅうねん」
と、わざと父の口調をマネして、ヴァルはつぶやいた。
ヴァルも壁穴から出た。
ドワーフの里である。大きな大空洞になっている。そのなかには《輝光石》が大量に光っていた。大空洞のほぼ全域が、アサギ色にかがやいているほどだ。
そんな大空洞のなかに、おのおの壁穴を掘って、ドワーフたちは生活しているのだった。
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