《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

13-1.ドワーフの青年

 ガリ……ガリ……ガリ……。

 イ・ヴァルは鉄鋼樹脂製の彫刻刀で、《輝光石》を彫っていた。


 刃が、石を削って行く。


 削られた《輝光石》の残滓は、星屑のようなキラメキを放って地面に散って行く。


 ヴァルは《輝光石》からアクセサリなどの小物を作りだすのが好きだった。


 今作っているのは、ボルト、と呼ばれるものだ。


 渦巻く棒状のもので、ドワーフたちのあいだでは、縁結びの品として知られている。


 プレゼントした者とされた者を、結びつけると言われている。むろんただの縁起物だから、効果があるというわけではない。まぁ、気休めである。


 そのボルトを、友人から作って欲しいと頼まれたのだ。


 この彫石作業が好きだったので、ヴァルは喜んで引き受けたのだった。


(こんなものかな)


 彫りだしたボルトに、「ふーっ」と息を吹きかけて、まとわりついている石屑を吹き飛ばした。


 散ってゆく石屑が、キラめいた。
 もう少し手を加えたいのだが、あまり手を加えすぎると逆に形が崩れてしまう。ほどほどで止めておくのがコツなのだ。


「おい、何をしてんねん」
 と、声をかけられた。


 ヴァルの父親である、イ・ヴェンドだった。


 ほかのドワーフたちと同じく小柄なのに、ドワーフ族のなかでも突出して大きな角を生やしている。
 角の大きさこそ、ドワーフの誇りであり自慢。
 ヴェンドはドワーフ族の英雄と呼ばれるほどの男であった。


「なんでもないよ」
 と、彫っていたボルトを、あわててポケットにしまいこんで隠した。


「なにも隠すことあらへんやろ。また彫石をやってたんやな」


「作って欲しいって頼まれたから……べつに好きでやってるわけじゃないよ」


 ヴァルは赤面をおぼえた。
 小者をつくりだすのが好きだ。
 ヴァルはそんな自分が嫌いだった。


(女々しい)


 そう感じてしまうのだ。
 男なら――。


(父のようなゴツイ男になりたい)
 のである。


 ドワーフの英雄と呼ばれるヴェンドは、長大な角を生やしている。こうして壁穴のなかにいても、その角が天井に触れるほどである。 


 しかしヴァルはというと、角がマッタク生えていない。


(どうして父のような角を授からなかったのか……)


 角のない自分にヴァルは劣等感コンプレックスを抱いていた。


「どれ、何を作ってたんや。見せてみぃ」


「いいって、別に。たいしたもんじゃないから」


 そうか、とヴェンドはたいして興味もなさそうにうなずいて続けた。うなずくとその長大な角が、ぶんっと揺れた。


「彫石は構わへんけど、さっさとしたくをしぃや」
 と、ヴェンドは怒ったように言う。


 他人が聞くと怒っているように聞こえるのだろうが、べつに怒っているわけではないことは、息子であるヴァルがイチバン良く知っている。


「戦の準備?」


「違うわ。逃げる準備じゃ。非戦闘員のドワーフどもは、都市シェークスで匿ってもらえることになっとる」


「都市シェークスって、たしかディーネさんところの?」


 せや、とヴェンドはうなずく。


「あの領主は以前から、うちらドワーフと個人的な同盟関係を結んできた。油断ならへん人やけど、味方になると頼りになる。あの女領主が引き受けてくれると言うのならば、まず間違いはない」


 ドワーフの英雄と呼ばれる父が、そこまで言わせしめるディーネというのは、いったいいかほどの者なのか、ヴァルは気になった。


「逃げるの?」


「ワシらは戦う。ワシは前線指揮を頼まれてるからな。ドワーフ族の誇りにかけて、ソマ帝国なんかの好きにはさせへん。ワシらドワーフはどうしても《光神教》には馴染めんからな」


「じゃあオレも……」


 アホかッ、とヴェンドが怒鳴った。


 ヴァルは身をすくめた。
 しわがれた声に、野太い音。
 他者を委縮させるのに充分な迫力がある。


「お前はまだガキやろが。なにを一人前なことを言うとんねん。さっさと逃げる準備をせんかい」


「オレはもう子供じゃないよ。オレと同い年の連中だって、もう戦士になってるんだから」


「お前はカラダが小さいんや。戦士には向いてへん」
 と、ヴェンドは呆れたように頭を振った。


 その長大な角がブンブンと左右に振られているのを見ると、自分が矮小なものに思えてしまう。


 ヴァルは無意識に、角の生えていない自分の頭に手をやっていた。


「そんなことないって。角がなくても戦えるってことを証明してやるんだ」


「あかん言うてるやろ。さっさと逃げるしたくをするんやで。ワシはもう戦の準備をするからな」


 そう言い残すと、ヴェンドは壁穴から出て行った。


「オレかて戦えるっちゅうねん」
 と、わざと父の口調をマネして、ヴァルはつぶやいた。


 ヴァルも壁穴から出た。


 ドワーフの里である。大きな大空洞になっている。そのなかには《輝光石》が大量に光っていた。大空洞のほぼ全域が、アサギ色にかがやいているほどだ。


 そんな大空洞のなかに、おのおの壁穴を掘って、ドワーフたちは生活しているのだった。


(逃げる準備をしろって言われたけど……)


 とりあえず、頼まれていたボルトが出来上がったので、それを渡しに行くことにしようと決めた。

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