《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!
12-4.ドワーフの使者
「ディーネ伯爵はおられますか!」
と、騎士がひとりが教会のなかに跳びこんできた。
そのときにはオレはもう、礼拝堂の石台に腰かけていた。
腰かける、と言っても、薪のうえでトロトロと燃えているだけだ。
プロメテとレイア。
そしてディーネとタルル。
4人が、そんなオレを取り囲んで、両手を突き出していた。
魔神の御利益を預かっているとか、オレにたいして覇気を送り込んでいるとか、傍から見れば、そういった景色に見えるかもしれない。
が、4人は、ただただオレの発する温もりにあずかっているだけだ。
司祭室では製鉄の話をしていたディーネだが、今はもうそんな重要なヤリトリではなく、目玉焼きにはどんな調味料が合うのかという他愛もない会話に耽っていた。
そんな安穏とした空気を破るようにして、騎士が跳びこんできたのだった。
「なんだね。騒々しい。魔神さまの御前ですよ」 と、ディーネは眉根をひそめてそう言った。
「し、失礼します。それがその……ドワーフの里から、使者がまいりまして」
ウワサをすれば――だ。
「ドワーフから? どんな御用です?」
と、ディーネは立ち上がって問うた。
「ドワーフ族の、都市シェークスへの受け入れをお願いしたいとのことで、使いの者をお連れしておりますので、詳しくは本人から聞いていただくのが良いかと」
通してもよろしいでしょうか。
ああ、構わん。
そういうヤリトリを経て、ドワーフの使いを教会に招き入れることとなった。
「どうも」
と、入ってきたのは、小柄な男だった。
身長で言うならば、プロメテもかなり小さいほうだ。ディーネの腹のあたりまでしか身長がない。
この場合はディーネの背が高すぎるというのもあるが、それにしたってプロメテは小柄だ。
そんなプロメテよりも、さらに小柄な男だった。
子供というわけでもない。ヒゲが毛深く映えていて、肩幅がガッチリとしていた。なによりも特徴的だったのは、頭から角が生えていることだ。
「これがドワーフか」
と、オレは、新鮮な気持ちでドワーフを見つめたのだが、それはドワーフのほうも同じだったようだ。
「しゃべる火! こ、これはいったい……」
と、ドワーフはオレを見て、激しく動揺していた。
オレのことはディーネが紹介してくれて、ドワーフはその動揺をおさめていた。それでも気にはなるようで、訝るようにオレのことを見つめていた。
「立ち話もなんですから、そこの長椅子にでも腰かけてはいかがです」
と、ディーネは礼拝堂にある長椅子に、使者ドワーフのことを座らせていた。
「ああ、どうも」
と、使者ドワーフは疲れ切ったように腰かけていた。
「ドワーフ族の受け入れを要求しているそうですね。いったいどういう事情です?」
「ドワーフの里に、ソマ帝国が」
「攻めてきましたか?」
「はい」
使者のドワーフは神妙な表情でうなずいた。
「攻める理由はなんと?」
「《光神教》への信仰を誓わなければ攻撃する。神の意向による大義だとのことで。それからドワーフの持つ、《製鉄工場》を譲り渡すように――と」
その使者にとっても面白い内容ではないのだろう。
はぁ、と重苦しいため息を吐きだしていた。
《製鉄工場》。
ディーネとの会話のなかでも出てきた。ドワーフが保有する古代技術品だ。
ふたりのヤリトリに、オレも耳を澄ませた。
「ドワーフの族長は、それを拒否したわけですか?」
「はい。徹底抗戦を行うということで、非戦闘員をディーネ伯爵の都市で受け入れて、いただきたいのですが」
「良いでしょう」
と、ディーネは即決だった。
「よろしいのですか?」
と、使者のほうが驚いた表情をしている。
「非戦闘員の受け入れ。それに私の都市から援軍も出しましょう。ソマ帝国に蹂躙されるのは、ドワーフとしても望むところではないでしょう。どうせ戦うならば勝たなくてはなりません」
「援軍まで……。ありがたい」
と、さっきまでの重苦しい表情がウソかのように、使者ドワーフの表情は明るくなっていた。
「ドワーフたちには日頃から、鉱山資源のヤリトリでお世話になっていますからね。それに、ソマ帝国に挨拶をするには好機です」
「では、さっそく里の者に報せに戻ります。きっと族長もお喜びになられることでしょう」
と、使者ドワーフは弾かれたように、立ち上がった。
「おっと、その前に」
サッソク教会を出て行こうとするドワーフを、ディーネは引き止めた。
「なんでしょうか?」
「こちらとて、ソマ帝国を相手にするのです。無条件で援軍を出すわけにはいきません」
「ええ。ドワーフの里には《輝光石》が潤沢にありますので、それを送りましょう」
「いいえ。《輝光石》はもう必要ありません」
と、ディーネは得意気に、その付けヒゲをつまんでいた。
「必要ない?」
「こちらの都市を見たでしょう。我が都市シェークスには、《輝光石》などよりも、素晴らしい光源を手に入れたのですよ」
すでに都市シェークスには、オレの分け与えた火が浸透している。この教会に入ってくるまでに、その使者ドワーフも目にしているはずだ。
「ええ。火、がありましたね」
「さすがドワーフ。火のことはご存知でしたか」
「我らは、かつて鉄鋼鍛冶を得意としていた種族でしたから。火が灯っていることにも驚きましたが、そちらのしゃべる炎のほうが驚きなのですが」
と、ドワーフはオレのほうを見て言った。
「こちらは魔神アラストルさまですよ」
「魔神……」
「この御方が、我らが都市に炎を授けてくださった。よって《輝光石》はもう必要ありません」
ディーネがそう言うと、使者ドワーフは泣きだしそうな表情をしていた。ヒゲの奥に見える瞳は、子供のようにつぶらだった。
「しかし、我らドワーフ族が差し出せる物は、もう他にありませんが」
「私は、ドワーフ族の保有する古代技術品。《製鉄工場》が欲しいのですよ」
と、躊躇なく、ディーネはそう言った。
「うっ」
その《製鉄工場》と呼ばれる物は、よほど大事なものなのか、さすがに使者ドワーフは返答に詰まってしまったようだ。
「以前から、譲っていただくようにお願いしているのですがね。なかなか首を縦には振ってくれません」
「その件に関しては、私の一存では返答できません」
「そうでしょうとも。もちろん返答を急かすつもりはありませんよ」
「ですが、ソマ帝国との戦はもう近づいておりまして、援軍を出してくださるのならば、すぐにでも……」
「ええ。むろん、援軍は出します」
「良かった」
「さあ。すぐにドワーフの里に戻って、族長に知らせてやってください。《製鉄工場》の件もお忘れなきようお願いしますよ」
「承知しました」
使者ドワーフは、またすぐに教会を出て行った。
と、騎士がひとりが教会のなかに跳びこんできた。
そのときにはオレはもう、礼拝堂の石台に腰かけていた。
腰かける、と言っても、薪のうえでトロトロと燃えているだけだ。
プロメテとレイア。
そしてディーネとタルル。
4人が、そんなオレを取り囲んで、両手を突き出していた。
魔神の御利益を預かっているとか、オレにたいして覇気を送り込んでいるとか、傍から見れば、そういった景色に見えるかもしれない。
が、4人は、ただただオレの発する温もりにあずかっているだけだ。
司祭室では製鉄の話をしていたディーネだが、今はもうそんな重要なヤリトリではなく、目玉焼きにはどんな調味料が合うのかという他愛もない会話に耽っていた。
そんな安穏とした空気を破るようにして、騎士が跳びこんできたのだった。
「なんだね。騒々しい。魔神さまの御前ですよ」 と、ディーネは眉根をひそめてそう言った。
「し、失礼します。それがその……ドワーフの里から、使者がまいりまして」
ウワサをすれば――だ。
「ドワーフから? どんな御用です?」
と、ディーネは立ち上がって問うた。
「ドワーフ族の、都市シェークスへの受け入れをお願いしたいとのことで、使いの者をお連れしておりますので、詳しくは本人から聞いていただくのが良いかと」
通してもよろしいでしょうか。
ああ、構わん。
そういうヤリトリを経て、ドワーフの使いを教会に招き入れることとなった。
「どうも」
と、入ってきたのは、小柄な男だった。
身長で言うならば、プロメテもかなり小さいほうだ。ディーネの腹のあたりまでしか身長がない。
この場合はディーネの背が高すぎるというのもあるが、それにしたってプロメテは小柄だ。
そんなプロメテよりも、さらに小柄な男だった。
子供というわけでもない。ヒゲが毛深く映えていて、肩幅がガッチリとしていた。なによりも特徴的だったのは、頭から角が生えていることだ。
「これがドワーフか」
と、オレは、新鮮な気持ちでドワーフを見つめたのだが、それはドワーフのほうも同じだったようだ。
「しゃべる火! こ、これはいったい……」
と、ドワーフはオレを見て、激しく動揺していた。
オレのことはディーネが紹介してくれて、ドワーフはその動揺をおさめていた。それでも気にはなるようで、訝るようにオレのことを見つめていた。
「立ち話もなんですから、そこの長椅子にでも腰かけてはいかがです」
と、ディーネは礼拝堂にある長椅子に、使者ドワーフのことを座らせていた。
「ああ、どうも」
と、使者ドワーフは疲れ切ったように腰かけていた。
「ドワーフ族の受け入れを要求しているそうですね。いったいどういう事情です?」
「ドワーフの里に、ソマ帝国が」
「攻めてきましたか?」
「はい」
使者のドワーフは神妙な表情でうなずいた。
「攻める理由はなんと?」
「《光神教》への信仰を誓わなければ攻撃する。神の意向による大義だとのことで。それからドワーフの持つ、《製鉄工場》を譲り渡すように――と」
その使者にとっても面白い内容ではないのだろう。
はぁ、と重苦しいため息を吐きだしていた。
《製鉄工場》。
ディーネとの会話のなかでも出てきた。ドワーフが保有する古代技術品だ。
ふたりのヤリトリに、オレも耳を澄ませた。
「ドワーフの族長は、それを拒否したわけですか?」
「はい。徹底抗戦を行うということで、非戦闘員をディーネ伯爵の都市で受け入れて、いただきたいのですが」
「良いでしょう」
と、ディーネは即決だった。
「よろしいのですか?」
と、使者のほうが驚いた表情をしている。
「非戦闘員の受け入れ。それに私の都市から援軍も出しましょう。ソマ帝国に蹂躙されるのは、ドワーフとしても望むところではないでしょう。どうせ戦うならば勝たなくてはなりません」
「援軍まで……。ありがたい」
と、さっきまでの重苦しい表情がウソかのように、使者ドワーフの表情は明るくなっていた。
「ドワーフたちには日頃から、鉱山資源のヤリトリでお世話になっていますからね。それに、ソマ帝国に挨拶をするには好機です」
「では、さっそく里の者に報せに戻ります。きっと族長もお喜びになられることでしょう」
と、使者ドワーフは弾かれたように、立ち上がった。
「おっと、その前に」
サッソク教会を出て行こうとするドワーフを、ディーネは引き止めた。
「なんでしょうか?」
「こちらとて、ソマ帝国を相手にするのです。無条件で援軍を出すわけにはいきません」
「ええ。ドワーフの里には《輝光石》が潤沢にありますので、それを送りましょう」
「いいえ。《輝光石》はもう必要ありません」
と、ディーネは得意気に、その付けヒゲをつまんでいた。
「必要ない?」
「こちらの都市を見たでしょう。我が都市シェークスには、《輝光石》などよりも、素晴らしい光源を手に入れたのですよ」
すでに都市シェークスには、オレの分け与えた火が浸透している。この教会に入ってくるまでに、その使者ドワーフも目にしているはずだ。
「ええ。火、がありましたね」
「さすがドワーフ。火のことはご存知でしたか」
「我らは、かつて鉄鋼鍛冶を得意としていた種族でしたから。火が灯っていることにも驚きましたが、そちらのしゃべる炎のほうが驚きなのですが」
と、ドワーフはオレのほうを見て言った。
「こちらは魔神アラストルさまですよ」
「魔神……」
「この御方が、我らが都市に炎を授けてくださった。よって《輝光石》はもう必要ありません」
ディーネがそう言うと、使者ドワーフは泣きだしそうな表情をしていた。ヒゲの奥に見える瞳は、子供のようにつぶらだった。
「しかし、我らドワーフ族が差し出せる物は、もう他にありませんが」
「私は、ドワーフ族の保有する古代技術品。《製鉄工場》が欲しいのですよ」
と、躊躇なく、ディーネはそう言った。
「うっ」
その《製鉄工場》と呼ばれる物は、よほど大事なものなのか、さすがに使者ドワーフは返答に詰まってしまったようだ。
「以前から、譲っていただくようにお願いしているのですがね。なかなか首を縦には振ってくれません」
「その件に関しては、私の一存では返答できません」
「そうでしょうとも。もちろん返答を急かすつもりはありませんよ」
「ですが、ソマ帝国との戦はもう近づいておりまして、援軍を出してくださるのならば、すぐにでも……」
「ええ。むろん、援軍は出します」
「良かった」
「さあ。すぐにドワーフの里に戻って、族長に知らせてやってください。《製鉄工場》の件もお忘れなきようお願いしますよ」
「承知しました」
使者ドワーフは、またすぐに教会を出て行った。
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