《完結》転生したら、火、だった件。迫害された魔術師ちゃんが、魔神さまと崇めてきます。神なら信者を作っちゃおうぜ!

執筆用bot E-021番 

12-3.剣

「こちらが私の補佐官のタルルくんです」


「どうも。タルル・クラムです」
 と、その少年は頭を下げた。


 クリーム色の髪をしており、人当りの良さそうな雰囲気をもっていた。


 あどけない雰囲気が抜けない。補佐官と言うからには、もう青年なのだろうけれど、どう見ても子供にしか見えない。


「剣術も馬術も人並で、べつに優れた点はありませんし、かと言って頭が良いわけでもないですし、洞察力もありません。美的センスに優れているわけでもありませんが、細やかな気配りは、そこそこ出来る青年です」
 と、ディーネはホめているというよりも、貶しているような紹介をした。


「そ、そりゃないですよ、伯爵さまぁ」
 と、タルルは困ったような声をあげていた。


 そんなタルルの態度を、ディーネは面白がっているようだ。こんな領主の補佐をさせられている、この少年には苦労が多いことだろう。


「タルルくん。例の物を、魔神さまにお見せしなさい」


「あ、はい。承知しました」
 と、タルルは抱えていた剣を、石造りの床に置いた。オレに差し出すようなカッコウだ。


「剣――だよな?」


「ただの剣ではありませんよ。タルルくん。鞘から抜いて」


 はい、とタルルは剣を抜いて見せた。


 その剣の刀身は、鉄鋼樹脂特有のあの薄い緑色に染まってはいなかった。プロメテの髪のような白銀の刀身であった。


 その刀身には、オレのカラダが投影されていた。


「これは、鉄か?」


「ええ。魔神さまの火をお借りして、ようやっと出来上がりました。焙焼作業と精錬の作業。それに鍛冶が行えるようになったので、私の調べ上げた知識をもとに、どうにか造り上げてみました」


「すごいな」
 と、オレは素直に感心した。


 長らく火のなかったこの世界で、精錬を実践できるだけの知識を、ディーネが持っていることに驚きだ。


 以前にも、見事な手際で猪から血抜きをしていたことがあったことが思い出された。


「鍛冶に関しては知識だけでは、どうにもならなりません。この剣もまだまだ至らないですが、様にはなっているでしょう」


「鍛冶職人なんて、この世界にはいなさそうだな」


「ええ。鍛冶の技術に優れている者なんて、そんなにはいないでしょうね。ドワーフならば、あるいは――と考えていますが」
 と、床に置かれた剣を見据えてディーネはそう言った。


「ドワーフは鍛冶ができるのか?」


「もうずっと昔の話になりますがね。ドワーフは、人には及ばぬ独自の技術を持っていたんですよ。火がなくなってから、ドワーフたちの鍛冶技術も廃れていまいましたが、ドワーフたちに頼めば、あるいは、魔神さまのおチカラをもっと生かせるかもしれない。そう考えております」


 と、ディーネは口の端についていた、目玉焼きの食べかすをナめとっていた。


「ドワーフか」


 そう言えば、プロメテの持っている懐中時計もドワーフ製だと言っていたから、独特な技術を持っていることは間違いなさそうだ。


「のみならず、ドワーフは、古代技術品アーティファクトのひとつを所持している。以前より譲ってくれと交渉を行っているのですが、ドワーフたちもなかなか首を縦には振ってくれません」


古代技術品アーティファクトというのは、つまりあれか? 今の時代では造り上げられない過去の技術ということか」


 どこで耳にしたかは覚えていないが、地球にいたころにも聞いたことのある単語だったので、そう理解できないことではなかった。


 それです、とディーネはうなずいてつづける。


「ドワーフは持っているんですよ。《製鉄工場アイアン・ファクチュア》と呼ばれる古代技術品アーティファクトを。それと魔神さまのチカラがあれば、あるいは鉱石や金属の大量生産が可能になると踏んでいるのですが」


 話に付いて行けなくなったのか、レイアはアクビをしていた。


「だが、このあたりには鉱山資源がすくないんだろ」


「それはドワーフとの交渉で、どうにか――って感じですね。以前から私は独自に、ドワーフと同盟関係を築いていましてね」


 大量の食材と引き換えに、ドワーフたちから《輝光石》を仕入れたことがあるんです――とタルルが教えてくれた。


 それで、この都市シェークスには、《輝光石》が潤沢にあるらしかった。馬の面甲やヤジリにまで《輝光石》を利用できたのは、そういうわけだったのだ。


「なるほど。しかし、わざわざ鉄製の剣をつくる必要があったのか? このオルフェスにはすでに、鉄鋼樹脂製の剣が出回っているじゃないか」 

「よくぞ尋ねてくださいました。なぜ鉄製の剣が重宝されるのか、それは今、ご覧にいれますよ」


 床に置かれていた剣を、ディーネは手にとった。


 この器を使わせていただきますよ、とディーネは目玉焼きを入れていた器を宙に放り投げる。


 そして剣を振るった。


 一閃を受けた器は、真っ二つに裂けていた。カランコロン、と床に転がって乾いた音をたてていた。


「見事な剣技だな」


 ぱちぱちぱち、とプロメテも小さく拍手を送っていた。


「いえ。私などまだまだですよ。私はホントウに剣というものが下手でしてね」


 ディーネはオオゲサに肩をすくめて見せた。  ディーネの挙動は何から何まで大仰なのだ。だからわざとらしく――と言うか、演劇めいて見えるのだろう。


「そうは見えなかったがな」


「伸びしろがないんですよ。剣術に関しては、ここが頭打ちです」 
 と、ディーネは剣を鞘にしまって机上に置いていた。


「そういうもんか」
 でも、頭打ちだとわかるぐらいには、努力したってことなんだろう。


「それよりも、これが鉄製の剣が必要な理由です。鉄鋼樹脂などとは比べものにならない強度を誇る。頑丈で鋭い。従来の鉄鋼樹脂性の武具を装備した軍と、鉄製の武具を装備した軍が衝突すれば、勝敗は明らかでしょう。根底が違えば、個人の剣術などたいした差にはなりません」


「達人は棒でも強いと言うがな」


「戦略を覆すほどの戦術などあってはなりません」


「そうだな」


 ですから――と、眠り燈台の灯影にキラリと、ディーネの青い目が輝いた。


「たとえ世界を敵に回そうとも、魔神さまのおチカラがあれば、征することが出来るのですよ。このオルフェスという盤上のゲームのカギはいま、ここにある」


 ディーネはいつになく、凄みのある笑みを浮かべて剣を見つめていた。


 最初からディーネはそこまで見通していたのだろう。だから、オレをこんなにも厚遇で迎え入れてくれたのだ。


 以前にロードリ公爵のことを小者と言っていたが、たしかにディーネに比べると小者かもしれない。


 この伯爵の碧眼は、オルフェスの暗い世界をどこまで見通しているのだろうか。それを思うと、すこし怖くなるほどだ。

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